研修先の動物病院の選び方
 

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研修先の動物病院の選び方

 

晴れて社会の一員として獣医師となる皆様に、お伝えしたいことがいっぱいあります。これから話す内容は、現在研修中の獣医師の方にも参考になると思います。

 

 これからあなたが獣医師として活躍できるか否かは、「あなた自身の率直さと、受け入れ先の能力(研修制度の有無)」にかかっています。過去に臨床の経験があるかないかを心配する方もいますが、実はこれはほとんど関係ありません。どのように診断し、治療していくのか、正しいプロセスを研修先が教えてくれるからです。それよりも、飼い主さんといかに話し合えるか、飼い主さんと共に考え話し合い、様々なことを決める能力を研修先で身につけることのほうが重要です。あなたが研修医になりましたら、どうぞ話し合い中心のコミュニケーション能力を高めてください。よき指導者の先輩から話を聞いたり、積極的に講習会に出席したり、本(特に英文の学術書)を読んだり、インターネットを通じて文献を調べたりし、自己の能力を高めることに努力してください。

 では、どのように研修先を選べばよいのでしょうか。研修先の動物病院の選択において最も重要なことは、その動物病院の「コミュニケーションの能力」とどれだけの「質の高い医療」が提供できるかです。

「コミュニケーションの能力」とは、患者さんに対する説明の態度(医療の質の向上と共に診療態度の向上があるか?)と職員間のコミュニケーションが上手くいっているか、みんな仲が良いか(患者さんは病院に入り10分で解ります)、笑顔(笑顔は指導者に言われて作るのもではありません。指導者は、相手が笑顔を作りたくなるように言葉をかける)が多いか、で判断します。

また「質の高い医療」とは、正しい診断プロセスで診療を行っているか、症状のみで治療していないか、何%ぐらい診断名で飼主に説明できるか(例えば慢性腎不全、心不全は診断名ではありません)合併症の有無は?高齢と病気の症状の区別ができるか?等です。

 その動物病院は学術を学ぶに価値がある動物病院なのかを、自身の過去の生き方を通じて判断する必要があります。選ぶ前には必ず、実習をして自身のスタイルに合うかも判断します。
いつも診断(軽い病態はOK)をせずに治療のみ、同じ治療(ビタミン、ステロイド、抗生物質等、嘔吐あれば吐き気止め、下痢があれば下痢止めと機械的な治療をしていないか?)をし、安い料金で数だけこなしていないか?医療には立ち合い人が必要です。単に給与が高い(平均より少し高いのが理想的、資格のある職業人としての、一人前の扱いの基本は待遇です。自分の所は勉強が出来るので給与は低い等の考えは昔の考えです)から、単に大きくて設備が良さそうだから等の理由だけでは、貴方が本当にその施設で実際に獣医学を学べるのかは疑問でしょう。

 

 もう少し具体的に研修先病院の選択ポイントを説明します。

 まず、自身の将来の展望を考慮して「動物病院のタイプ」を判断します。「動物病院のタイプ」を簡単に判断する方法は「患者さんが“予防”と“病気”どちらでの来院が多い動物病院か」です。

前者は、ワクチン接種、歯磨き指導、歯石除去等の各種の予防処置を中心にした人と動物の共通の伝染病を防ぐ予防医学の「標準医療の動物病院」です。
後者は、より専門的に病気を診断する「診断、治療に重きをおいた動物病院」です。後者には、更に高度医療を対象とする、各分野別例えば外科(内臓、整形等)内科(心臓、神経、腫瘍、専門内科等)また皮膚科、眼科、口腔外科等の「専門医療の動物病院」もあります。これは他の動物病院で治らなかった病気の治療を中心に行う動物病院です。

これはどちらが良いかの問題ではありません。自身の希望のスタイルで選ぶものです。これらの中間タイプもありますが、1-3日間の実習をすれば、どのタイプの動物病院かは判定がつきます

一般的な通常勤務の形態を望むのなら、通常(標準医療)の動物病院を選びます。これらの病院の患者さんは約半数以上が予防処置のために来院します。このタイプで注意すべきは歯車の一つとして診療が流れ作業になっていないか?です。通常は専門医療の動物病院よりは時間通りに規則的に業務が終了する傾向にあります。

専門的な動物病院は、勤務時間が長く、残業が多くなりがちですが、これとても契約によって残業なしを選べば規則的に働けます。もちろんきちっと残業手当が支払われているかもチェックすべきです。最近はどこも問題はないようです。

通常は臨床を始めて1-2年以内に一つないし二つの専門領域を選び、それを中心にして学んでいくという方法です。 「一般医療」と「専門医療」の違いは私の病院のホームページを参照してください。

 ・三鷹獣医科グループでの一般医療について
 ・三鷹獣医科グループでの専門医療について

 「一般医療」と「専門医療」の違いを簡単に言えば、一般医療の動物病院では、病気の動物の来院時に病名を診断(約80%以上)せずに、症状を中心に治療(対症療法、支持療法)を進めます。それでもその約80-90%以上の病気の症状はそれなりに通常問題なく抑えられますが、合併症の有無、併発疾患(症状はまだだが潜んでいる病気)、予後の判定、老化(加齢、高齢)と病気の違いの判定等は難しくなります。

 これに対して専門医療は、例えば、慢性腎不全に対しての病名(腎盂腎炎、水腎症、糸球体腎炎等)を明らか(約80%以上)にし、その原因療法にて治療していきます。 上記した腎不全に対しても、IRIS (International Renal Interest Society--国際獣医腎臓病研究グループ)の分類を参考に治療することや、心臓病は米国獣医内科学会のガイドラインにそった治療を中心に進めて行くなど、いずれも科学的な根拠に基づいた方法がとられます。

自身の判断で長期間の咳にたいして「この犬の咳は心臓が原因だから、心不全での薬を処方する」などのレベルの診断では時に誤りになります。だいたい心臓病の犬の咳は半年も1年も続きません。これは殆どが他の病気、呼吸器系(気管、気管支、肺等)の病気です。

 一方で、最近は「脱専門化医療」が特に注目されています。これは「専門外専門医」を育てること、「総合医」を育てることで、プライマリケアができる獣医師を育てることです。しかしこれを指導できるのは、卓越した知識と経験をもつ獣医師のみです

あなたを直接指導するのは、その現場にいる獣医師ですが、その獣医師がどこで何を学んだのか?共通の正しいと思われるプロセスで学んだ獣医師に指導されなければ、後になっての修正はたいへん苦労します。

 動物の病気の治癒率は、獣医師の診断と治療の能力及び、施設、人員の充実度で違ってきます。実際に使用できる標準以上の施設、備品の構成、必要な物が必要なだけあるかということです。また人員の充実度は、後述3で述べる「働く職員の構成」を参考にしてください。また働く職員で常に気をつけることは、継続教育についてです。最近のより進んだ獣医学を学ぶには、すぐれた教育制度が重要です。これらは後ほど述べます。

 まずは、選ぼうとする動物病院のホームページを調べてください。その際は飼い主の立場で見てください。ただ単に自己の広告のみのホームページになっていないでしょうか、その病院の代表は、顔写真を記載して、飼主に語りかけているでしょうか?実際に飼い主にとって、本当の意味で飼主に役に立つホームページでしょうか?

・コミュニケーションを重視した(に基づく)医療(Communication Based Medicine)
  ・エチケットを重視した医療(. Etiquette Based Medicine)
 ・証拠に基づく医療(Evidence Based Medicine)
・絆中心の医療(Bond Center Practice)
を心掛けている動物病院を選ぶことが重要です。書いてある内容で、大体その動物病院のポリシーが分かり、どのような動物病院かが判るでしょう。ただ単に学問が出来そうだから、と言う理由だけで病院を選ばないでください。

  ここで少し将来の小動物臨床の未来予測のお話をしましょう。これから始まる2020-2025年問題をご存知でしょうか?2020年になると、小動物臨床は「冬の時代を迎え始める」というものです。2017年は動物病院に通院する7歳以上の犬は52%、猫は46%です。2020-2025年の頃には高齢動物が10-15歳となり多くなります。犬の飼育頭数も7年連続して減少、ここ10年間で 半減(犬の登録頭数も10年間で48.3%減少)しています。猫は横ばいです。唯一エキゾチック・ペットは増加傾向にあります。

このことから言えることは、動物病院であまり特徴がなく、良質なコミュニケーションと良質な獣医療を提供できない動物病院は衰退するか?より規模がより小さくなるか?より地方に移転するか?と言うことになるだろうと予測されているのです。研修先を決める際に、この2020-2025年問題を念頭におくのもひとつかもしれません。
     
   現在でも小動物臨床には実に多くの求人がありますが、自身の将来を考えた研修先を選ぶために、是非以下の12項目を参考にしていただきたいと思います。

   もし病院が決まり働きだしたら、自身の持つ力を最大限発揮して、健康に留意し、不摂生を改善して、勉強に勤しむことをお勧めします。そして常に心掛けることは、良質なコミュニケーションと、指導医の元に正しい診断、治療が行われているのか?常に自問自答することです。間違っていると思えば 、遠慮なく意見を述べ情報を共有する必要があります。そのためには成書を紐解き、講習会に参加して学問を探求しなければなりません。今日本の動物病院で要求されている事柄は、標準医療の底上げです。また苦労して築き上げきた院長に対しては、共に働く同志としての連帯感を持つことが必要です。

  しかしより時代にマッチした考えを、それとなく自然に受け入れられる形で、よりよい動物病院にするための意見として指導医やその代表に意見を言うことも忘れてはなりません。日本では伝統的?に同業に対しては愛情を持って苦言を呈する職員が少ない雰囲気があります。そんなときには貴方の出番です。今の時代は競争より、競合の時代です。時代に合った貴方の意見が、その動物病院にとって重要となることがあるはずです。

 

 

1)動物病院は、必ず実習を体験してから選ぶ。

   実習先の病院のホームページで事前調査してから実習に望み、現場でその通りか確認します。雰囲気を始め、様々な場面に立ち会って、どのようなポリシーで 動物病院が運営されているか自身の目でみて考えて判断してください。

   実習の際には、診断、治療のプロセスに注目します。注意すべきは、どのように診察しているか、病歴の聴取と身体検査はどうか?診断に科学的根拠はあるか? 診断、治療方針は誰が、どのようにして決めているのか?検討が加えられているか?毎回同じようなABCの治療で処置していないか、例えば腎疾患等を疑う症例で採尿される場合、自然排尿のみで検査していないか?正確な膀胱穿刺にて尿検査(沈査等の尿分析のため)がされているか?超音波検査で左右の副腎を確認できているかです。(研修プログラムを参照)何よりもより正しい診断を心掛けているかです。入院動物の半数以上は、病名(心不全、腎不全は病名ではありません)が判定されているかです。

  例えば犬猫の嘔吐する原因には200もあり、診断には根拠が重要です。30-40年前ならいざしらず、元気、食欲のない犬猫に対して病名に困ると、「ストレスだ」とか「風邪」(犬猫に風邪という病名はありません、猫の場合は、鼻風邪と説明する場合は問題ないでしょう)でしょう、などと飼い主さんに説明する病院は避けたほうが無難でしょう。

  それから、「もう高齢だからできるだけそのままに」とか、「麻酔が危ない」「手術はこの歳では無理にしないほうが良い(これはある意味では正しい判断です、その獣医師は安全な麻酔、管理ができないからという理由において)」というスタンスの病院も、これから獣医学を学ぶ動物病院としては今一歩です。加えて、患者さんが何かオートマティックに流れ作業で、数だけこなされてないかにも注目します。数多く診察すれば、その分報酬が得られる方式、理由なしに毎年、各種のワクチン等を勧め「はい、元気ですね、ワクチン終わりました、また来年ですね」方式の動物病院は、学問を学ぶには不十分でしょう。その病院はあなたの獣医師免許のみを必要としているのかもしれません。

   ここで何よりも重要なのは誰があなたを指導するかです。指導してくれる獣医師の知識の深さが、動物病院を選ぶ、根拠となりえます。たまたま自分より5-6年先に働き始めていた獣医師というパターンでは、よい教育体制とは言えないかも知れません。

  職員全員が入院動物を観察する訓練をされているかどうかも評価します。ただ単に設備の良さや建物の外見の良さより、病院を動かしているスタッフの質が重要です。質の高い獣医療を提供するスタッフがいる病院のみが設備を有効に活かすことができるのです。

  また、患者さんの立場で診療がなされているかにも注意します。患者さんの求める説明に対してどのように対応しているか、何か病院のやり方のようなものがあってそれを押し付けていないか、診療後に患者さんに電話するなどその後のフォローをしているか等、評価基準は様々ありますが、自身の過去の人生経験を総動員して、じっくりと観察して判断されたし。できれば研修期間は3日間設けることが理想的です。

 

2)院長(代表者)の人柄、人物像を評価し動物病院を選ぶ。

 面接前に必ずその動物病院のホームページを調べ、院長、代表者等の言わんとしていること、理念(philosophy)、方針(policy)、信条 (credo)、任務(mission)、価値(values)、展望(vision)に注目しておきます。その院長の履歴も参考にして、あなたが面接を受ける際には、勇気を持って、どのような経験と心掛けで開業したのかを尋ねると良いと思います。

自身の動物病院の自慢話しばかりする所は避けた方が良いでしょう。飼い主さんとのトラブルが多いことが予測されます。もしあなた自身に発言の機会があまり与えられなかった場合には、その動物病院は、人を指導する能力が欠けているかもしれません。

  また指導者の根底には、人に対する暖かさ、優しさが必要ですので、それが感じ取れれば良いでしょう。まずはじっくり院長なり、その代表者(特に代表者が獣医師でない場合はその経営理念を聴くことが重要です)の話を聴きます。そしてその話が実際に行われている通りかを、話しの過程や実習で判断します。

次にあなたに十分に発言の機会が与えられたかどうかです。ここでの総合的な判断は、人に対して優しさを感じるか、学問に対する情熱、人間としてのリーダーシップを感じるか、誠実であるか、嘘偽りはないかです。

  面接はある意味では、あなたがされているだけではなく、あなた自身が動物病院を面接しているのです。面接される機会を通じて、逆に面接者が動物病院を選ぶことができます。まず「始めと終わりは挨拶から始まり挨拶に終わったか」「手順よく質問はされたか」「2人前後で対応されたか」に注目してください。また「あなたの受け答えが記録用紙に記載されたか」も確認しましょう。

面接の際注意すべき、重要な質問は大きく3点です。

  一つめは、院長の経歴。ホームページ等で記載されていない場合はどこで何を学んだかを尋ねます。30-40年前ならいざ知らず、特に都市部で最近10年以内に開業した獣医師の修行期間が5-6年前後では、良質な指導は難しいかもしれません。これは分院制度のある動物病院にて、学ぶ際には重要です。何処の誰から指導をうけるのかが最重要項目です。現在は動物病院の開業までの期間は平均7−8年です。これは時代と共に長くなっています。米国では12-15年が平均です。

   次に2つめ、労働環境の問題です。労働環境についての説明をお聞かせください」と尋ねてもよいのですが、確認したいポイントは以下の点です。実際に有給休暇は皆が取っているのか、将来的な昇給の制度はどのようなものか、社会保険(雇用するならあって当たり前)は何時から加入可能か、働くにあたっての雇用契約書はどのようなものか、就業規則(実際に掲示しているか確かめる)はあるか、もしあなたが女性なら、働く女性に対しての配慮(例えば産休等)はあるのか、また年に1-2回の健康診断も実際に行われているか。

また重要な事項である給与についても訊いておきましょう。初めの給与からの昇給の基準や、過去実績での勤務3年、5年、10年後の給与の水準がどうかといった問題です。1日8時間、週40時間の基本として自身がどれだけ獣医学を学んだかによりますが、勤務10年で給与が最低50万円以上が普通でしょうが、同じ10年でも40万程度の獣医師もいます。

  そして三つめは、本来の目的である教育の制度がどのようになっているかです。一番の問題は選ぶ動物病院に何冊学術書や学術ビデオ(手術等)があるかです。最低でも本棚5-6個分がいっぱいの学術書が必要です。例えば獣医学の成書(雑誌ではない)が50冊未満と言う、信じられない事実もあるようです。最低でも学術書は各々の病院に100冊は必要で、普通は200〜300冊は必要です。毎月最低でも10万円以上の学術書の購入費がない動物病院には勤めるべきではないでしょう。また国内外の講習会、研修会の参加について、援助、補助の制度はあるのか等です。どんな環境で学べるかを訊き出します。

できうれば米国のVIN(Veterinary Information Network)に加入している動物病院を選びましょう。これは世界最大の獣医学のデータベースでここに質問するとほぼすべての臨床上の疑問は解決する。これは英語ですが、小動物の臨床の多くの情報が記載してあります。診断、治療でわからないことは、VINに聞けば、立ちどころに答えが得られます。

米国ではVINに加入していない動物病院には、危険なので新人獣医師はまず働きに行きません。理由は医療訴訟です。複雑な症例は、紹介するか、どうしても自身が働く動物病院で診断、治療する場合、2-3回はVINの専門医に聞いて行えば、裁判になってもまずは負けないからです。でなければ自身が訴えられます。

同時に努める動物病院にはPractice Manager(病院の事務局長)の存在が重要です。あらゆる出来事の処置には、どうしても事務局の事務員が必要です。例えば、患者さんとのトラブルも、普通は事務局員が解決してくれます。でなければ、あなた自身がすべての解決をせねばならない状況に追い込まれることにもなりかねません。

   一流の指導者の役目は、自分のコピーを作ることではありません。教え子が師匠より優れた人物になることを「出藍の誉れ」と言います。もとは「青は藍より出でて藍より青し」という古代中国の儒学者、荀子の言葉に由来します。青色は藍の葉を染料とするけれども、藍で染めた布は藍よりも鮮やかな青色になることからきています。「働く獣医師には自分よりも、もっと鮮やかな色で輝くように働いてほしいと願っている」院長を選びましょう。

   また、できうれば、評価したいのは、その院長又は代表者が「パワー・リスナー」であるかです。これは人の話を本当に聞いてくれる人の事です。あなたが話したメッセージを理解してくれるかです。話の要点をまとめて、同じメッセージを、送り返してくれるかで分ります。その要約を聞く事で、彼らが理解してくれている、という事が分かるのです。

  最後に評価したいのは、その動物病院は、何を原動力としているか?です。任務(mission)、展望(vision)、価値(values)、理念(philosophy)、方針(policy)を原動力としている病院か?の判断です。基本的に、動物病院には2つのタイプがあると理解してください。任務と金銭です。 少数派となるでしょうが両方を兼ね備えているタイプの病院もあるでしょう。しかしそのバランスが微妙に影響します。任務を原動力のみにすると、「貢献」が主となり、お金が回らなくなることが多いからです。一方、お金を原動力とすると、貢献が疎かになります。あなたの眼で判断してください。

 

3)働く職員の構成、人数、言葉づかい、態度、チームワーク能力などの雰囲気を見極める。

  そこで働く職員が何を考えて働いているかを考えます。一言で言えば「楽しくなければ職場ではない」のです。どんなシステムで運営されているか、責任者は誰か、担当する事務職員(事務局長)的な人の人物像もそれとなく調べましょう。それらしき担当者がいなければ、何かトラブルが起こった場合には全て自身で飼い主と対峙しなければならなくなります。

  また職員の構成、人数も確認します。良質な獣医療を保つには、適正な職員数が必要です。適正な職員数は毎日の外来数と入院動物を合計した数と、フルタイム(1日8時間、週40時間)の職員数を割った数で判定できます。理想的には2-3で、標準的な獣医療でも5以下までです。8を越えると無理があり、10を超えるとかなり問題となるでしょう。8-10以上は適切な獣医療が行われていない可能性がきわめて高いと思われます。

例えば外来数が25件で入院動物が10頭の場合、合計35で、良質な獣医療の職員数は11-18人が理想的です。標準的な獣医療でも7-8人は必要です。4−5人であればきわめて問題となるでしょう。この数字はあくまでも実際に現場で働くフルタイムの職員数で、総職員数ではありません。

  最後に感じ取るのはチームワークです、動物病院は飛行機のコックピットの如く、そこに働く職員が共に協力しながら作業する必要があります。例え知らない病気の動物が来ても他のDr.が知っていれば、診断、治療ができます。共に補完し合って医療を行う必要があります。特に一般医療では、手術するか?しないか?の決定も院長一人の決定でなく、それぞれの獣医師が文献を調べるなどして年齢や個体差、合併症を考慮し、更に様々な論議をして決定するのが望ましいと思います。

 

4)何と言っても、学術が一定の水準以上の動物病院を選ぶ。

 動物病院の最後の決め手は何と言っても「質の良い医療を提供できるか」、すなわちよく勉強している動物病院かどうかで決めましょう。そのためには、勉強ができる体制でなければなりません。繰り返しますが、例えば学術本(日本語、英語)が300冊以上(理想的には500冊以上)、5年以内発行の各分野本が5冊以上、学術月刊誌を最低でも 5冊以上購読 (通常は5冊、理想的には10冊以上購読)があるか、できれば手術等の動画のDVDが100以上観閲できれば申し分ないでしょう。

最低でも、これらの図書費が各動物病院で、いくらまで認められているかが重要です。最低でも各病院で10万円以上が適当な金額です。病気の動物を一頭でも多く救いたいという思いの強さは学術書の数と正比例すると思います。

   それと同時に、どのような教育の制度があるかです。年間最低でも4回から7回の学術支援(経費は病院持ち)での講習会の出席(無料講習会を除く)は必要と思われます。また3年以上の勤務で、海外の講習会(例えば外科手術の実習等)への派遣等です。質の高い獣医療を提供する動物病院は必ずと言っていいほど教育の重要性を認知していて、質の高い教育制度を持っています。特に新人の獣医師を指導する獣医師は人間性(これは難しい問題であるが)のみならず、できうれば卓越した獣医学の基本をマスターした獣医師(良質の環境下での最低7年以上の経験者)であるべきです。

   どんなに設備(ハード)が良くても、それを動かす内容すなわち学術(ソフト)が良くなければ動物病院は動きません。またどんなに学術(ソフト)が良くても、設備(ハード)が良くないと動物病院は動きません。病気を診断、治療するには、その獣医師の能力、設備、スタッフの数の3本の柱が必要です。

毎日の症例(カルテ)の検討会はあるか、自由に使用できるコンピューターが数台あるか、
これも重要です。自身の動物病院の症例は参加する獣医師みなが知るべきです。そのためには、みなで討論して、正しい診断か?合併症あるか?予後は?その他の治療法の選択肢を探るべきです。

   実習時に手術に立ち会う機会があると思いますので、外科関係の注意点も挙げておきます。まずは基本中の基本、専用の手術室があるかどうかです。もちろんX線検査室とは別にあるのが普通です。

そして麻酔される動物がどの程度麻酔前の検査がされているのか、麻酔の直前に聴診したか、麻酔の係り(麻酔記録帳の記載をしているか)はいるか、麻酔のモニターは、最低3種類以上の異なる方法でなされているか(理想的には5種類以上、心電図、酸素飽和濃度、血圧、呼吸中の炭酸ガス濃度、体温等)、縫合糸はどのようなものが使用されているか、袖の長い滅菌された手術着を着用したか、手術室に入室する全員に帽子とマスクの着用は義務づけられているか等です。実習の際にこれらが、行われているかチェックしてください。

例えば貴方が特に外科関係を目指して動物病院を選ぶなら、どのようにして指導してもらえるか尋ねる必要があります。ただ単に「まずは手術の助手から始めて、覚えればよい」だけでは不足かもしれません。まして獣医師が10人以上いれば、いつ自分の番が来るのか、果たして来るのか不安になります。

少なくても縫合の基本を覚えた後のことですが、まずは3種類以上の成書で勉強し、その手術の手順や注意点また、起こりうる合併症等を覚え、その後その手術の動画を見て学習します。次に、動物病院の冷凍庫に保存してある、遺体にて実習した後、初めは上級の指導者の立ち合いの元に、猫の卵巣子宮摘出術から始めるという手段があります。また新人で手術経験を積みたい人は、地域猫のボランティ活動(例えば、どうぶつ基金)を利用して行えば、新人獣医師でも、1年目から卵巣子宮摘出術や去勢を行うことができます。当院でも利用しています。

  その動物病院が学ぶに値するか、簡単に判る方法があります。

  それは医療記録をみることです。すなわちカルテです。研修の際にはじっくり観察してください。病歴の聴取、身体検査、異常点、患者に告知した重要点、また各種の写真、超音波、心電図等 X線検査の読影の記載、病変の推移のカラー写真等があるかで判定できます。カルテはただ単に治療した薬剤の記録のみでは不十分です。薬剤名、容量、投与ルートのみならず、薬剤によっては投与した時間(インスリン等)、投与した部位(ワクチン等)、使用した針の大きさ(凝固障害等)等が必要な場合もあります。動物病院の実力はその医療記録をみれば、一目瞭然です。なぜなら医者と言う職業ほど、その実力の差がある職業は他にないからです。

 

5)できるだけ社会保険に加入している動物病院を選ぶ。

    動物病院は日本標準産業分類」によると動物病院は医療業の分類ではなく、技術サービス業の分類になりますので、以前から動物病院は社会保険に加入義務があるのかが、問われていましたが、2015年の1月29日の日本年金機構の疑義照会回答(厚生年金保険 適用)の 案件、獣医師の個人事業所にかかる新規適用についての答えは、「厚生年金保険法及び健康保険法の適用事業所は、厚生年金保険法第 6 条第 1 項及び健康保険法第 3 条第 3 項によりその事業が定められていますが、「健康保険法の解釈と運用」等によれば、獣医師の事業所は、厚生年金保険法、健康保険法の強制適用の判断をするにあたっては、各法に規定されている(疾病の治療、助産その他医療の事業)に含まれると解されているため、強制適用事業所として取り扱うことになります」との回答があり、個人事業所でも、動物病院は強制適用事業所と明確に判定されました。(http://www.nenkin.go.jp/info/gigishokai.html)の主な疑義照会回答(厚生年金保険 適用)(PDF 762KB)のP2の整理番号4を参照のこと。

  ゆえに、社会保険(「医療保険」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」)の加入義務は5人以上の従業員いる動物病院は、強制適用の対象となり加入義務があります。もちろん会社(法人)組織の動物病院、すべての法人組織の会社は、加入義務があります。できれば5人以下でも加入してほしいものです。関係法令を遵守して適正に法定福利費を負担する動物病院は現在では約20-30%と言われますが、もちろん就職先は、その中から選ぶのが基本中の基本です。特に生涯において動物病院に勤めようと思ったら必須の事柄でしょう。

   この社会保険は、社会に対する登竜門で未加入では社会的な責任は果たせないと思われます。特に長期に働く獣医師やVTにとって将来の年金や不慮の病気や各種事故に対しての補償等が大いに違います。社会保険加入の多くの動物病院はその支払いに多大な犠牲を強いられます。社会保険に加入しているがゆえに倒産の危険もあるかもしれませんが、働いてくれた職員の老後の笑顔を期待して、社会的な責任の義務を果たす必要はあると思います。何よりも勤務中の予期せぬ病気、偶発的な事故に対して個人の国民保険より保障等が手厚いのです。特に分院を持つまでの財産基盤があるのに、社会保険未加入というのは、かなり問題かと思われます。

http://www.nenkin.go.jp/info/gigishokai.html)の主な疑義照会回答(厚生年金保険 適用)(PDF 762KB)のP2の整理番号4を参照のこと。

 

 

6)完全週休2日制、有給休暇をきちんと消化できる動物病院を選ぶ。

   現在でも始めの1年は修行時代ゆえに、週1回のみのお休み(その分他の勤務日の労働時間が1日分程、短ければ良いが)の動物病院もあるようです。30-40年前ならともかく、今の時代は、働き方改革が叫ばれている社会情勢と合致しません。勉強は勉強、休息は休息です。人間は休息をしないと良いアイデアも出ませんし、なによりも仕事の効率が落ちます。それに有給休暇がきちんと消化できる動物病院であるのかも確かめましょう。

   もし面接の際に労働条件のことを説明されなければ、それとなく「一応の労働環境(給与、休暇等)についての説明をお聞かせください」と言って尋ねましょう。年に1-2回の健康診断も行われているかも確認しましょう。面接時に聞きそびれたら、実習時にそれとなくVTさんに「みな有給休暇取っていますか?健康診断受けていますか?」などと訊いてみるのもよいでしょう。習い事、 見習い、修行時代に関係なく、誰もが働く者の権利として半年たてば有給休暇が発生します。動物病院も例外ではありません。

 

7)就業規則のある動物病院を選ぶ。

   すべての働く環境の条件は、就業規則に記載されているはずです。これがなければ 「働くルールが不明の職場」と解釈されます。規定では10人以上の職場では、就業規則が必要ですが10人いなくても職場のルールがわからなければ働き難い状況も起こりえます。就業規則はだれもが見られる場所に明示するのが規則ですので、研修の際には、病院の何処に就業規則があるか確認しましょう。

  それ以上に重要なのはその内容です。就業規則は病院の職員の秩序を維持し、業務の円滑な運営を期すため、職員の就業に関する服務規律、労働条件その他の就業に関する事項を定めたものですので、その内容に沿ったものでなければなりません。職員になろうとする人には、その就業規則がすべてです。ここはじっくり自身の目で確かめる必要があると思います。
また就業規則がいつ改定されているのかも重要です。5-6年も改定されていないようでしたら、今の時代に合わない内容があるかもしれないからです。

 

8)獣医師会関係に所属している動物病院を選ぶ。

  医学の世界において、一人では良い医療はできません。仲間のバックアップが必要となります。臨床をすべて知るDr.は存在しません。みなの助けが必要となります。所謂「一匹狼」的な存在では良い獣医療は難しいでしょう。動物病院は内のチームワームと外のチームワークが必要となります。

   通常、開業獣医師であれば、関連した法人格の持つ組織(都道府県の獣医師会、日本動物病院協会等)に加入するのは当然の成り行きでしょう。動物病院は社会に対して繋がりがあり、共に協調して事を進める連帯の精神が必要と思われるからで す。同時に社会に対して貢献しやすい環境となるからです。また最近は関係する団体も様々あります。獣医業界以外での法人格のある社会奉仕団体にも関係し社会活動をする動物病院かどうかという点も、選択の良い基準になると思います。


9)できればこれからは、エキゾチック・ペットも診察する動物病院を選ぶ。
 小動物臨床を志すなら、ぜひとも知っておきたいのが、このエキゾチック・ペットの臨床です。現在ではすべての動物病院がエキゾチック・ペットの臨床をしているわけではないので、それだけ学ぶ価値があると思います。一般臨床を目指すなら特にそうです。

  これからの臨床は多様性を求められる傾向にあります。研修先の動物病院がエキゾチック・ペットの臨床をしていないと、次の研修先、又は特に開業志向のある場合にはそれなりに不利になります。理由は、現在飼育頭数が増加しているのはエキゾチック・ペットのみだからです。実際、多くの開業したての動物病院では犬猫はまったく来ずに来るのはエキゾチック・ ペットばかりというのが現状です。「獣医学の原点は救急医療と野生動物にあり」と言われ、それに近いエキゾチック・ペットの臨床には価値があります。これらのエキゾチックの医療はなるべく獣医師となったら早期に学ぶのがコツです。

   このエキゾチック・ペットは犬猫とは違う独自の生態があり、これらが犬猫の臨床にも応用できる場合があるからです。但しこれからは、ただ単にエキゾチック・ペットを学ぶ程度では、多くのトラブルが予想され不十分と思われます。ただ単に自己流の経験にものを言わせるのではなく、それなりの証拠に基づいた学問体系で学ぶ必要があります。多くの学術書を参考とし、インターネットを駆使して米国を中心とした各種エキゾチック・ペット関連の学術団体の最新情報を学ぶ必要があると思われます。

 

10)飼い主が納得する「説明と同意」を目指している動物病院を選ぶ。

  その選ぶ動物病院がどれだけ飼い主が納得できるインホームド・コンセント(説明と同意)を目指しているかを調べます。簡単に判るのは、飼い主の気持ちと同化しているかです。まず、診療は挨拶に始まり、挨拶に終わるか、行ったこと説明したことがカルテに記載してあるか、検査結果はすべて飼い主に渡して説明したか血液検査の結果はもとより、X線検査、心電図の写し、超音波検査の写真等できるだけすべて行った検査は飼い主に知らせ説明し、書類として飼い主に渡すのが原則です。これらの検査の結果の記録は動物病院のみならず、飼い主のものだからです。これらが飼い主に優しい動物病院の現れです。

   また入院する場合は、どのくらい費用が掛かるのかの相談、何時退院できるか、入院中の動物の管理体制、特に夜間の動物は誰が監視するのか、等も正直に説明する、また、不幸にして死亡した場合の連絡はいつ行うか等も説明する動物病院が望ましいでしょう。動物病院は、自身の動物病院の不利な点にもあえて、言及する必要があります。

 

11)自身の将来像を描ける動物病院を選ぶ。

    将来において、自身がどうなりたいのか?自身の将来像を考えて動物病院を選ぶことも大切でしょう。将来は開業志向なのか、勤務医でありたいのか、ということも含まれます。
人間の医療もそうですが、どこの動物病院も勤務獣医師数は足らず、動物病院数は過剰状態という現状があります。そんな中で自身の置かれた立場を冷静に判断できる動物病院が望ましいと思います。特に学ぶ動物病院の医療レベルが一定以上でないと、自身が開業した場合に、こんなはずではなかったと後悔することになる可能性があります。

  要するに、その院長の動物病院界に於ける社会的な立場が重要になります。その世界を知るには、その世界に近づく必要があります。例は違いますが、社会の格言で「その業界や社会を知りたければその業界を代表する人物に会うこと」と言われます。より分かり易く言えば、もし貴方が「金持ち」になりたかったら、金持ちに近づく、知り合いになることから始めることです。そうでないと、それらに関係する情報は入手できないからです。動物病院も同じで、それなりに有名?名を成した、動物病院を選ぶと、その後の人生が違ってくるかもしれません。ただこれはすべてでなく、ひとつの有効な手段であろう、と言うことです。

 

12)最後に迷ったら、自身の本能で「居心地がよさそうか」で選ぶ。

過去の自身の生きてきた経験を持ってしても選ぶ病院に迷ったら、最後は自身の本能で「居心地の良さそうな動物病院かどうか」で選びましょう。これがストレスを少なくするコツです。少なくても3つ以上の動物病院から、実習を通じて決断する必要があります。労働条件にもよりますが、すべての条件は平均値より少し上の基準で選ぶのが懸命です。

  最低限の条件は、その研修先の動物病院が、あなたの目線で、全国の動物病院の平均以上かどうかです。特に俗に言われる「指導者なき動物病院」は避けるのが懸命です。あなたの将来の獣医師像は「あなたを指導する獣医師」によって大半は決まってしまう傾向にあるからです。動物病院はその指導する院長(獣医師)の器量以上の動物病院にはなりません。

   あなたはあくまでも獣医学を学び、人生を学び、社会人となるわけですから、自身が学んできた経験を生かして、先輩、知人のアドバイスを生かして勇気を持って進むことをお勧めします。そこには苦労と同時に喜びも見出すことができると思います。

    
    “Where there is a will , there is a way“ 「志ある所に道あり」
    “Be the best you can be“  「あなたがなれる最高のものになりなさい」
    “Make result through people“ 「人を通して結果だす」

    
    追記:以上の記載は主に当院でなされていることを中心に記載しました。

 

 

 三鷹獣医科グループ
1.26.2020改定Y
文責: 小宮山典寛


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研修先の動物病院の選び方PDF