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●食塩中毒
大量の塩分は犬猫に危険です。いつもあげるおやつに塩分があるか調べる必要があるでしょう。 自家製食では塩気に気をつけてください。また、嘔吐をさせるために塩を与えた場合、また海水浴にて泳がせた犬が大量の海水を飲んだ場合(ゴールデン・レトリバーが多い)、また粘土の玩具には塩分が含まれているものもあるので、注意が必要です。いわゆる高ナトリウム血症(通常は脱水が原因で起こりますが、塩分過多の場合は脱水がない)が起こることがあります。ナトリウムが170mg/dl 以上の場合は治療がたいへんむずかしいものです。急にナトリウムを下げられないからです。いわゆる塩気による味付けですが、犬猫の場合は、食べ物の嗜好を左右しません。犬猫の嗜好性は主には蛋白質及び脂肪の含有量で決まります。塩分は人間の約1/3ですみます。汗を掻かない犬猫は塩分をあまり必要としません。多すぎると心臓や腎臓の障害の原因となります。治療法は、余分な塩分の投与を中止します。心臓や腎臓の定期的な健診を行います。
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●食べ物による中毒
元来、人間が食べて中毒を起こすようなものは、犬が食べても中毒を起こすと考えてよいでしょう。しかし、問題なのは人間が食べても中毒を起こさないけれども、犬が食べると中毒を起こすものです。最も有名なものはタマネギ、また、サケ、川魚を焼かないで食べた場合も、中毒を起こすことが知られています。
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●タマネギ中毒
これはタマネギ、ネギ、ニンニクなどを一定量以上摂取することによって起こります。また、あらかじめ素因をもっている動物は少量でも中毒を起こします。実際によくみられるのは、ハンバーガーに入っているタマネギを食べたケースで、すき焼きや天ぷらを食べて中毒を起こすことも多いようです。このタマネギ中毒の場合、煮ても焼いても毒性は変わらず、それらの汁でも中毒を起こすので注意が必要です。タマネギ中毒を医学的に説明すると、タマネギを食べることによって犬が溶血性貧血(赤血球が壊される貧血)を起こし、さまざまな状態が引き起こされるのです。だいたい犬の体重1キロ当たり15〜20グラムのタマネギで中毒を起こすとされていますが、症状が出ない犬や、これ以下の少量でも症状を出す犬もいます。 |
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●チョコレート中毒
チョコレートも大量に摂取すると犬は中毒を起こします。容量依存性(食べた量で生死がきまる)です。まずは食べた量を調べてください。そして次には、食べたチョコレートの箱をよく見て、どんな種類のチョコレートかを調べてください。例えばミルク、ビター、ホワイトです。重要なテオブロミンとカフェイン成分量の記載は殆どのチョコレートで記載はありません。色の濃いチョコレート(ビターチョコレート)ほど毒性が強い(危険)のです。テオブロミンとカフェインの量が20mg/kg 以上食べると症状が出ることが多いので、注意すべきです。
1.何時頃食べたか?
2.どの位食べたか?
3.チョコレートの種類と成分を調べる
4.どのようにして食べたのか?チョコレートのみ?銀紙もいっしよ?
5.食べたチョコレートの箱を動物病院へ持参
治療の中心は、吐かせることです。もし食べて2時間以内でしたら、吐かせます。多くはこれで救命できます。まだ胃の中にチョコレートがあると思われるからです。しかし経験的に4〜5時間後でも有効なことがあります。6時間移行では、よほど大量でないと吐かせても殆どチョコレートは出ません。ゆえにできればチョコレートを食べた犬は2時間以内に動物病院へ行ければ吐かせて出すことができるので良いのです。吐いたものがチョコレートなのかは匂いや色でわかります。匂いを感じない時は、吐いたものをお箸のようなもので、かき回してください。するとわかります。プーンとチョコレートのような臭いがします。時にはチョコレー トについていた銀紙も出てくることがあります。また、カカオやコーヒー、紅茶、コーラなどにもこれらが含まれています。特に色が濃くて、糖分や乳製品分が少なく苦味の多いチョコレートはテオブロミンが多く危険です。それに対しミルクチョコレートやホワイトチョコレートは糖分や乳製品分の量が多く、その分テオブロミン量は少ないものです。テオブロミンとカフェインの致死量(LD50)は100〜200mg/kgと幅広いのですが、大体20mg/kgで症状が出るようです。
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テオブロミン
mg/oz(=28g) |
カフェイン
mg/oz(=28g) |
ココア豆 |
600 |
(−) |
コーヒー豆 |
(−) |
600 |
インスタントココア |
130-136 |
15-20 |
ミルクチョコレート |
44-58 |
6 |
ホワイトチョコレート |
0.25 |
0.85 |
セミスィートダーク
(チョコレートチップ) |
138-238 |
22 |
ベイカーズチョコレート |
393 |
35-47 |
Animal Toxicology and Poisonings. Mosby 2004 p130-131 |
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●タバコ(ニコチン)の中毒
タバコを食べることによって、タバコ中毒(ニコチン中毒)の症状が出ることがあります。特に子犬に注意が必要です。犬猫を含むペットのニコチンの中毒量は1〜2mg/kgです。致死量としては、8mg/kgです。 目安としては、タバコ1本で0.5〜2mgのニコチンが含有されているとすると、大体20kgの犬で11本、10kgの犬で5〜6本、5kgの犬で2〜3本食べると中毒となり危険と考えます。1kgに付き、タバコ0.5本で(2kgで1本)中毒量となると考えれば良いでしょう。参考までにタバコの灰を食べた場合のニコチンの含有量は約25%といわれています。 摂取したニコチンの量が中毒量である場合には、できるだけ早く動物病院に連れて行く必要があります。特に水で溶けたニコチンの吸収は早く、たいへん危険です。水に溶けていないニコチンを摂取した場合は、4時間以上経過してなにも起こらなければ通常は大丈夫です。16時間後には殆どその中毒作用はなくなるといわれています。 犬のニコチン中毒の症状には、興奮、流延(よだれ)、嘔吐、下痢、痙攣、神経症状、瞳孔縮小、呼吸困難等があります。ニコチンは胃に刺激をもたらすので、吐いてくれると、うまいこと自身で治療することになります。獣医師が行う治療は、どれだけニコチンを摂取したかによって違ってきます。 通常はまずは犬を鎮静させてから、胃からニコチンを排出させることを考えます。すでに数回吐いていれば、排出されたことになりますが、吐いていなければ吐かせます。この処置が有効な時間はニコチンを摂取して1時間から2時間以内です。痙攣があれば抗痙攣剤で治療します。治療で注意すべきことは制酸剤、胃中和剤を使用しないことです。胃酸は胃においてニコチンの吸収を阻害してくれるので、減らしてはなりません。吸着剤(活性炭も可能)の投与も有効です。 もちろん輸液を始めとする、対症療法(支持療法)がショックの治療や予防となります。 |
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●ブドウ・レーズン類の中毒
これは最近に判明したことですが、大量に食べた場合には、腎臓の障害が起こり最悪死亡することが判りました。但し現在の所詳しい原因は特定されていません。5kgの犬が100g程を摂取すると起こることが確認されています。症状は食べた後の2〜3時間以内に嘔吐や下痢などの消化器症状が現れ、その3〜5日後には腎不全となります。またこの事実はあまり知られていないので、注意が必要です。治療法は、すぐであれば口を洗います。1時間以内であれば、吐かせることが有効です。特定の治療法はまだ不明のようで、輸液等、中毒の一般的な治療を行います。
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●化学薬品による中毒
まず、殺虫剤による中毒で、よく見られるのがノミとりまたはノミ除けの首輪によるものです。通常の使用ではノミとり首輪による中毒は起こらないのですが、薬品に多量にふれる状況で使用すると、中毒症状が現れることがまれにあります。安全に使うには、ノミとり首輪を入れ物から出し、使用する前に24時間放置しておくとよいでしょう。また、愛犬の首の太さに合わせてバンドを切り、けっして二重に巻いたりしないことも大切です。さらに、なるべく雨とか水分にバンドが当たらないようにしてください。最近のノミとり首輪は水分などにも強く、毒性を発揮しにくいものもありますが、やはり注意する方がよいでしょう。また、ノミとり首輪を動物同士がなめあうと危険なこともあります。複数の犬がいる場合は、ノミとり首輪の上に通常の首輪をして固定し、危険を避けるようにします。できれば、ノミとり首輪に使用されている薬品の主成分を覚えておいてください。その主成分を含む薬品をほかにも使えば、それだけ中毒を起こしやすくなります。最近はこのような首輪はあまり使用されなくなりました。他により安全な製剤があるからです。また最近、殺虫剤としてホウ酸(90%以上の高濃度)が、ゴキブリ、アリ、ハエの駆除に用いられていますが、これを食べることによって中毒が起こることが あります。主な症状としては胃腸系の障害が見られ、緑青色の吐物や下痢が多いようです。しかし、傷のない皮膚からは吸収されないと言われています。
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●殺鼠剤による中毒
主にネズミの駆除に使われる薬品です。よく使用される殺鼠剤の主成分はワルファリン、タリウム、メタアルデヒド(ナメクジ駆除剤)などです。そのなかでも、ワルファリンが最もよく使用されているようです。ワルファ リンは犬の場合、だいたい5〜50g/kg(体重1kg当たり5〜50g)以上摂取されると中毒が起こります。また、1日に1〜5gのワルファリンが 5〜15日間継続的に摂取されると、中毒症状を起こします。中毒の主な症状はさまざまな部位の出血で、鼻血、吐血、血便、血尿などが見られ、貧血を起こし、衰弱状態になります。そしてほとんどの場合、脳あるいは胸の出血を伴って動物が死んで発見されることが多いようです。ワルファリンが動物の体内にはいると、血液の凝固機能が妨げられます。通常はネズミが少量ずつ何回も食べると、血液の凝固が抑えられ、眼底出血を起こして死にます。そのため、ネズミは明るいところに出てきて死亡するのが特徴です。犬が直接この薬物を食べる場合もありますが、以前はこれらの薬物を食べたネズミを食べて中毒を起こすこともありました。治療には、ビタミンKなどの止血剤 を中心に投与します。しかし、この中毒症状は急性の経過をたどるので、程度によっては助けることが難しくなります。メタアルデヒドは、カタツムリとかナメクジなどの殺虫剤としてよく用いられています。園芸店にて液体、散剤、顆粒の状態で販売され、植物に直接散布して使用します。この薬剤によって死んだナメクジやカタツムリが葉の裏についていることがあり、それに気がつかずに葉を食べたり、薬剤をかけられたナメクジやカタツムリが死ぬ直前に犬の食べ物に入り込み、それを犬が食べることによって中毒が起こります。症状としては、ヨダレを流したり、興奮状態になります。1〜2時間すると、運動失調を起こし立ち上がることができなくなり、意識を失い、呼吸困難に陥ります。そして最終的には、酸素が不足して死亡するケースが多いようです。 |
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●除草剤による中毒
除草剤は農薬の一種で、フェニール系、尿素系、トリアジン系などがあります。除草剤は概して皮膚を通してよく吸収されます。また、足の裏についた農薬をなめることによって、中毒を起こすことも少なくないようです。 ですから、除草剤が付着した疑いのある場合は、足を中心によく洗うことが大切です。症状としては運動失調、ケイレン発作が起こります。そして腎不全が起こり、3日以上経過すると呼吸器系が障害を受けて呼吸困難となり、肺に水が溜まったり、出血が起こります。ダイコートも同じようにケイレン発作があり、胃腸炎と腎不全の症状が現れ、最終的には水分の喪失と電解質の障害により、死亡することが多いようです。トリアジン系は、多くの穀物やトウモロコシに使われる除草剤です。
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●重金属による中毒
問題となる重金属には、鉛、水銀、ヒ素、リンなどがあります。これらのうちヒ素やリンなどは、殺鼠剤、殺虫剤、除草剤にも含まれています。現在ではこれらの製造はだんだん少なくなってきていますが、まだある程度は使われています。重金属中毒で最も有名なのは鉛中毒でしょう。現在のペンキは大丈夫ですが、古いペンキで塗ったものや、ハンダ、バッテリー、リノリウムなどは鉛中毒の原因となります。また、我が国では少ないのですが、狩猟用の散弾銃の弾も、動物の体内に入ると鉛中毒を引き起こします。鉛中毒の症状は消化器系と神経系に現れます。嘔吐、下痢が主なサインで、最終的には神経系、すなわちケイレン発作を起こします。特にこれらの中毒は成長過程の犬、つまり仔犬に多く見られます。よく問題になるのですが、この鉛中毒とジステンパーの症状が似ているので、これらの鑑別が非常に重要となります。通常は、慎重な血液検査とレントゲン検査を行なうことにより、鑑別は可能と言われています。鉛中毒もできるだけ早く治療する必要があります。 |
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●ヒキガエルによる中毒
犬がヒキガエルを遊んでくわえているところを見たら、すぐにカエルを引き離し、犬の口のなかを水で十分に洗うことが重要です。そしてすぐ動物病院へ連れていかなければ、ひどい場合は2〜3時間以内で死亡することがあります。ヒキガエルの毒素は心臓に異常を引き起こします。ヒキガエルの耳下腺(耳の鼓膜の盛り上がっているところ)からは、強力な毒素が分泌されます。この部分を犬がなめたりくわえたりすると、毒素が口の粘膜から吸収されます。これはかなり多い例で、よく動物病院へ連れてこられますが、ひどい場合は死亡します。
蛇による咬傷も場所によっては見られるので、すこし説明しましょう。無毒の蛇と有毒の蛇がいますが、咬まれた痕によって判定が可能です。もし2本の咬み痕があればそれは、有毒の蛇と考えてください。咬まれた後がU字型で多数の歯の形をしていれば、無毒の蛇なので、反応はほとんどないと考えてよいでしょう。 有毒の場合は咬まれた場所に激しい疼痛がただちに起こり、動物はさわられると非常に痛がります。そして、出血したり、浮腫が起こって、周辺が急速に盛り上がってきます。嘔吐したり、鼻から出血したりし、最後にはケイレン、昏睡し、死亡することが多いものです。処置としては毛を刈って、傷を注意深く洗い、包帯を施します。動物が咬まれてから4時間以内に治療されなかった場合には、ほとんど死亡すると言われています。応急処置としては、咬まれた場所の心臓に近い方に止血帯をし、毒が心臓に行かないようにします。止血帯は治療が行なわれるまでそのままにしておきます。そして、動物をおとなしくさせて、あまり動き回らないようにさせ、速やかに動物病院に移動して治療してもらうことが重要です。 |
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●人間用の健康食品
人間用の健康食品においても、犬猫には危険なものもあります。大量のビタミン剤もそうですが、食品と同じ扱いの人間用のサプリメント、α-リポ酸(チオクト酸と呼ばれる脂肪酸の一種)を含む製剤において、猫の中毒が発生し日本及び米国等で、注意を促す警告がでています。人間では一日量の目安は、100〜200mg/日量と思われますが、特に猫においては毒性が強くその1/3から1/10量でも毒性を表すことがあります。これらの製剤には、コエンザイムQ10、ビタミンE(原料にゼラチンを含む)、ヒアルロン酸、ぶどう種子(ポリフェノールを含むもの)等のサプリメントにα-リポ酸(チオクト酸)は含まれます。この種の中毒には猫(この味好む)を始めとして、犬、フェレット、マウスやラットも注意が必要です。犬や猫の症状は、主には胃腸障害として現れます、すなわち食欲不振、流延(よだれ)、嘔吐、元気消失ですが、重篤となると、運動失調そして意識がなくなり、痙攣発作も起こることがあります。この中毒には、根本的な治療法はなく、輸液(点滴療法が望ましい)や肝臓の保護剤等の対症療法が治療の主ですが、多くの場合、問題はいかに低血糖症をコントロールするかによります。できうればCRI(持続定量点滴)という特殊な点滴療法にて糖分を補充します。血圧の上昇や低下があれば薬剤等で治療します。もし摂取後1時間以内であれば、吐かせる(催吐剤)も有効です。犬猫に低血糖が認められた場合は、従来は、糖尿病の治療薬(インスリン製剤等)、インスリノーマ(島腺腫と呼ばれる、膵臓の腫瘍)、アジソン病(副腎皮質機能低下症)の3つをますは考慮していましたが、これからは、キシリトール製剤の投与、α-リポ酸(チオクト酸)とかシナモンの投与も考慮する必要があると、 多くの専門家は提唱しています。米国の動物病院では、これらの製剤には、α-リポ酸(alpha-lipoic acid ―ALA―) 及びシナモン (cinnamon )等があり、これらの抗酸化剤に注意するようにと提唱されていて、ALA中毒、シナモン中毒として飼い主や獣医師に啓蒙されつつありますが、多くの飼い主や獣医師はまだこの病気に気づいていません。カルシュウムは一昔前までは、大型犬にはカルシュウムが必要と言うことで、大きな犬には盲目的にカルシュウム剤を与えていた場合もあったようですが、現代の獣医学はこれを完全に否定しています。プレミアム・フードにはカルシュウムが十分含まれていています。過去には、余分なカルシュウム を投与されたために、骨の代謝が異常となり、股関節形成不全を始めとする、多くの骨の病気に苦しむ犬が報告されました。治療法は、カルシュウムの投与を中止することから始めます。獣医師が本当にカルシュウムが必要と判断した時(血清のカルシュウム濃度の測定が必要)にのみ、カルシュウムを与えます。 |