喫煙による人間に対する受動喫煙、その原因である副流煙(SHS―second-hand smoke)の研究は多くありますが、家庭動物に対する研究はあまりありませんでした。しかし、最近はこの重要性が認識されてきたようで大分増えてきました。
近年、欧米の多くの小動物専門の呼吸器、腫瘍、専門内科、伝染病、皮膚病、エキゾチック・ペット等の専門医から、家庭動物に対する副流煙の危険性について多くの警告がなされています。
人間においては、2010年9月28日、厚生労働省の研究班が受動喫煙が原因の肺がんや心筋梗塞で年間約6800人が死亡しているとの推計値を発表しました。喫煙による死者は年間約13万人と推計されていますが、これらの推定より家庭動物においては少なくても5〜6倍以上の甚大な被害をもたらしていると推察されます。
家庭動物における副流煙の影響は、より直接的であると考えられています。その理由は多くの家庭動物は人間の行動位置より、下方の位置で行動するからです。 喫煙による煙の有害物質の粒子は重いので、最終的にはほとんどが下降します。 もう理由はお分かりですね、有害物質の集積地である床に近い位置で家庭動物は暮らしているからです。
この意味では赤ちゃん、小さい子供さんも同様です。特にカーペットや布団に付着した有害物質は問題です。赤ちゃんや家庭動物は多くの時間をカーペットや布団の上で過ごします。赤ちゃんの玩具やおしゃぶりにも煙による有害物質の付着が考えられます。
間接喫煙に関する事柄で、人間と家庭動物との差異をあげるならば、ビタミンCの摂取方法でしょう。
例えば人間は喫煙によって、タバコを1本吸う毎にビタミンCが約70mg 破壊される(成人のビタミンC必要量は1日100mg)と推定され体外より補充の必要があるのに対し、犬猫では体内でビタミンCが合成されるので体外からのビタミンCの補充の必要はないのです。
最近、英文の活字でTHS―third-hand smokeという見慣れない単語を目にします。日本語訳は不明ですが、SHS―second-hand smokeを副流煙と訳すなら、「THSは副残煙(ふくざんえん)」という訳を私は提唱したいと思います。本当は副留煙としたかったのですが、これでは読み方が副流煙(ふくりゅうえん)と同じになってしまい紛らわしいので断念しました。「残」の漢字を使用する理由は、煙が流れずに残留するからです。 残留煙と言う表現も 使用されているようですが、あえて主を尊重して、三番目?にも副と言う字を使用しました。
この意味はタバコによる煙の成分が回りの衣服、部屋であれば壁、カーテン、カーペットに付着して、その残留がまた直接的、間接的に被害をもたらすということです。
小さい家庭動物である、小型犬や猫は、大型犬よりその影響を受けます。大型犬でも犬種によって影響の差異が認められます。例えば米国の疫学雑誌(American Journal of Epidemiology) では、喫煙家と同居している犬は、肺癌になる確立が、60%以上増加すると発表しています。
また同誌で2001年に発表された記事では、パグやボストン・テリア等の短頭種の犬は喫煙の影響で、肺癌を2倍発症するであろうという結論に達しています。(肺癌は肺に到達する前に鼻腔を通ってフィルターにかけられるので、煙によるわずかな発癌物質が疑われています)
また、グレーハウンド、コリー、シェパード等の鼻の長い犬は、鼻腔の癌にかかる可能性が2倍になるとの事です。これは発癌物質に露出する組織が大きいためと推定されています。
喫煙に関係する腫瘍は、鼻腔、口腔、肺等が関係していると考えられています。 特に猫においては、毛を舐める(グルーミング)ので、被毛や皮膚に付着している有害物質が、口腔内に付着することにより口腔癌の発症要因となるとも考えられています。
また、犬猫に発生するリンパ腫においては、除草剤と並んで喫煙が、その原因の一つに考えられています。猫のリンパ腫は喫煙家と5年以上同居していると2〜3倍発症しやすくなるとの推定もあります。
加えて、タフツ大学の研究では副流煙に5年間以上さらされていた猫は、FeLV(猫白血病)になる確立が2倍になると発表しています。
ペットに対する喫煙の影響は、総合的に考えて心臓循環器系、呼吸器系、 皮膚系(定期的に行うシャンプーが有効であると考えられています)やアレルギー反応の発生頻度の増加、眼の炎症、猫の喘息等いろいろな病気の一つの原因となっていると考えられています。
更に問題となるは、喫煙が喫煙の影響により発症したと思われる病気への治療の有効性を妨げる可能性があるということです。例えば咳をしている家庭動物を治療している場合、喫煙の影響で治療効果が十分な成果をあげられないことが考えられます。
十数年前に日本に来た米国の放射線の専門医である、Dr.Sam Silvermanは 日本の犬猫の肺は、米国の犬猫の肺より概して、同じ年齢でも肺の炎症 (肺が汚い)が進んでいる。これは煙草の煙が関係しているのではないか? と提起していました。
飼鳥(特に小さい小鳥)は副流煙に対して、たいへん敏感です。代表的な例としては炭鉱へのカナリアの持込があります。メタンと一酸化炭素の発生発見のため利用されてきました。これは鳥の特殊な呼吸器のシステム(ガス交換)に注目したもので、カナリアは特別に毒性物質に敏感であるというのは昔から知られていたのです。ですから、もし鳥の飼い主がヘビー・スモーカーであり、同居する部屋の壁紙、塗装面、カーテン等がニコチンで黄色に変色していれば、この汚染物質が鳥の呼吸器はおろか、羽毛、嘴(羽をついばむ)脚と足についても変化をもたらしている可能性があります。他には、亀も特別に敏感であるようです。
副流煙の話ではありませんが、ペットがタバコを食べることもありますので注意が必要です。タバコの置き場所には十分注意してほしいものです。これはもちろん人間の赤ちゃんに対してはより重要です。必ず高い場所の引き出し等に保存します。
ゆえに家庭動物に対しての受動喫煙、副流煙の対策としては、人間と同じように分煙することが最も有効と思われます。すなわち家庭動物といっしょの場所では喫煙しないことです。
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