From2021.2.15

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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr.小宮山の伴侶動物へのやさしい(優しい)獣医学
2021.2.1(8.28小改変)

犬猫の誤飲・誤食における催吐処置について

<参考>催吐処置同意書見本(PDF)



近年誤飲・誤食における催吐処置の必要性が重要になりつつあるようです。なぜなら飼主は何かを間違って食べたら、まず吐かせられないのか?と考える傾向にあるからです。これはインターネットの影響でしょう。よって動物病院はあらゆる努力をして、これに応えられるように努めることが求められていると思います。

事実私たちの動物病院では、44年前から24時間緊急診療(365日年中無休)で診察していますが、開業当時はおろか、20-30年前では、殆どこのような症例はありませんでした。

この誤飲・誤食の症例は15-20年前からの傾向で、特に6-7年前から増加し、昨年からはコロナ禍の影響で急増しています。どうもStay Homeと関連があるように思います。猫こそStay Homeが原則ですが、どうもStay Home、Stay Safeが動物関連では結びついていないように思います。伴侶動物の安心・安全のためにより多くの啓蒙が必要だと思います。

また5-10年前は誤食に起因する事故例は殆どが犬でしたが、最近の3-4年前からはネコノミクスによってか、猫が増加傾向にあります。救急医療の現場においてはよく遭遇する例となっています。

私達の動物病院では、誤嚥・誤食症例は、犬は週に6-7例(年間約300例)、猫は週に3-4例(年間約200例)を経験しています。この誤嚥・誤食症例の約80-90%は夜間の症例です。これは特に夜間診察の動物病院ではそのようです。多い場合は1日に3例もあります。 夜間診療をしていない一般的な動物病院では月に1-2回程度の症例だと思います。

20数年前頃から、犬猫が家族の一員となり、チョコレート、ネギ、タマネギ、等の毒性が知られて来ました。これは明らかにインターネットのおかげだと思います。当時の記憶を思い起こすと、私が犬の雑誌にタマネギ中毒の記事を書いた所、偶然、同じ雑誌の広告のページに、犬の滋養強壮ために、タマネギ入りのサプリメントを!の記載があり、問い合わせがあり少し困ったことになった記憶があります。

10年程前の犬の誤嚥・誤食は、チョコレート中毒、タマネギ中毒(ガーリックも含む)が30-40%でしたが、今日では人間用医薬品(アセトアミノフェンーバファリンやゾルビデム酒石酸塩)や小さい玩具、手袋、柔らかい小物、紐、楊枝、タバコ、殺虫剤、竹串、鶏の骨、肥料、グレイプ・レーズン、キシリトール入りのガム(キシリトール中毒、低血糖に注意)、残飯、また小型の生き物(ナメクジ等)等もあります。最近はマスクもあります。

米国のペット中毒ヘルプライン(Pet Poison Helpline)の発表による犬の中毒ベスト10は?
1) チョコレート
2) ネズミ/マウス(ハツカネズミ等)用の駆除薬
3) 抗炎症薬 4) キシリトール中毒(砂糖なしのガム等)
5) グレイプ/レーズン
6) 抗炎症薬
7) アセトアミノフェン
8) ビタミンDの過剰
9) 刺激性の薬剤(ADD/ADHD、注意欠損多動性障害)
10) 肥料

起こりやすい犬種は、プードル、ダックスフンド、ミニチュアピンシャー、キャバリア、ボストン・テリア、フレンチブルドッグ、ケアンテリア等で比較的に小型犬から中型犬が大多数です。特徴的なのは、テリア種、コリーノーズ種(鼻の長い犬)、短頭種に多いことです。これは犬種の性格にも関係しているようです。

猫においては、チョコレート中毒、タマネギ中毒(ガーリックも含む)以外にも、柔らかいオモチヤ、紐状異物、又は短い紐、ティーバッグ、ユリ科の植物、エッセンシャル・オイル、洗剤等の家庭用洗剤、犬用のノミ、ダニのスポットオンの誤使用等があります。

米国のペット中毒ヘルプライン(Pet Poison Helpline)の発表による猫の中毒ベスト10は?
1) ユリ(ユリ属の種類)
2) ノミ/ダニの滴下薬(犬用)
3) 家庭用洗剤 4) 抗うっ薬
5) エッセンシャル・オイル
6) 抗炎症薬 7) ネズミ/マウス(ハツカネズミ等)用の駆除薬
8) 刺激性の薬剤(ADD/ADHD、注意欠損多動性障害)
9) タマネギ、カーリック
10) ビタミンDの過剰

現在の所、犬猫用の催吐剤としての薬剤は我国にはありません。よってまずはこのことを飼主に説明する必要があります。やむを得ず、投与法や用量を変更することにより嘔吐作用が生じる薬剤を、工夫して使用することを説明します。

できれば書類で説明し、同意書を作成して同意(署名)を得ることが望ましいことかもしれません。参考まで私たちが使用している同意書を記載します。しかしこの同意書を使用する例は、比較的まれで、高齢、幼若、衰弱の状態において、嘔吐をさせた方が、そのままにするよりは獣医学上、有意義であると判定された場合のみ使用します。

あくまでも飼い主と相談の上の、同意の上に行う場合の同意書です。要するに、吐かせる行為に危険性がありうる場合に、再確認の意味で同意して頂くための文章です。

<参考>催吐処置同意書見本(PDF)

催吐剤を使用する前に、考えていかねばならない各種の問題があります。最も重要なことは、意識のある犬猫のみに使用(嚥下反射がある)できることがあげられます。理想的な催吐剤としては、安全に使用できる、嘔吐する確実が高い、投与法が易しい、比較的に安価で、作用時間が早い等であるが、これには、その動物の体重、いつ食事をしたか、投与量、年齢、基礎疾患の有無、過去の手術歴等の問題も考慮する必要があります。

嘔吐を解剖学的に考えると、食道は消化管で唯一、横紋筋(意識して動かすことのできる筋肉)と平滑筋(自分の意志ではコントロールできない筋肉)からなる器官で、犬猫は人間よりも横紋筋の割合が多いので、意識的に吐き出すことができると考えられています。

また犬猫では、食道を構成する筋組織に違いがあり、犬と反劒動物は食道の全域が横紋筋であるのに対し、猫、人間、馬は胃に近い側の1/3から半分程度が 平滑筋で、残りは横紋筋です。

まず知るべきことは、もし催吐がうまくいった場合にでも、通常胃の40~70%の内容物が吐き出るとされ、100%排出されることはありません。そして、その吐き出た内容物の臭いを調べ、消化しているか、その色は、泡は、と調べ、飲み込んだとする物質を発見できれば、ラッキーです。

しかし、重要なことは、吐いたからといって、他に何もする必要がないと決めつけてはいけないということです。何を摂取したかによりますが、吐いた後にさらに何か行うことがないかを検討する必要があるかもしれません。例えば吐いた後に、輸液、胃粘膜保護剤、活性炭、解毒剤、緩下剤、利尿剤等が必要であるかどうかです。

これら犬猫に嘔吐させることは時に重要で、例えば最近ではこのコロナの状況で、マスクを食べた例も見受けられます。胃内にマスクがある場合に、通常の方法で嘔吐が出来ずに、麻酔後に内視鏡で取り出したとの例(開腹手術は胃内にない場合のみに行う)もあるようです。ただ、うまく吐かせればそれで済む話ですから、動物病院は絶えず最新の考え、知識を導入する必要がありそうです。対応ができない場合は、より慣れた動物病院へ紹介することが必要だと思われます。

私の動物病院での過去の症例では、誤飲・誤食の症例で犬の場合、約90-95%以上は吐かせて対応できました。猫でも50-60%が対処(もし吐根シロップが入手できれば80-85%)できます。いろいろ工夫することが必要ですが、吐かすことのできる一般的な確率は、犬70-85%、猫50-60%と思われます。 

●誤飲・誤食してから吐かすのに有効なのは何時間まで?
理想的には1時間以内ですが、2-3時間以内なら適応時間内。4-5時間以内なら誤飲・誤食の種類や胃の内容物にもよりますが、行う意義が在り得ることもあるので、その可能性を飼主に告げて決めると良いでしょう。事実チョコレートやタマネギ等の場合は、5-6時間後でも汚物にかなりの臭いを感じた経験があります。異物の場合はもしX線検査や超音波検査等で胃内にあることが確認できれば、いつでも行えます。

●最後に食事したのはいつか?胃内の食渣の量は?
胃の一番吐きやすい状態は、胃が空の時です。まずはこれを確認しますが、不確かな場合が多いでしょう。特に胃が空の場合には、催吐処置の後に、水分を与えるとより吐きやすい環境となります。

通常犬猫は胃からの排出時間は2-3時間です。満腹時は吐きにくい状態にあります。ゆえにもし、種々行っても吐かない場合は、胃の内容がどうなっているのか、確かめるためにX線検査を行うのも一方です。胃に食事の内容物が一杯であれば、吐かないのも納得できます。犬猫の胃の2/3は骨格筋(骨格筋は組織学的には横紋筋で、内臓筋が平滑筋)で構成されているので、本来はよく吐く、吐きやすい状態でありますが吐かない状況下では吐きません。

●何か吐きやすい状態にするには何を行えばよいですか?
催吐剤の種類や動物の性格によっても多少違いますが、一般的には犬の場合は、催吐の処置後に軽く運動させることです。犬は早歩き(Brisk walking)、猫は回転椅子(Chair spin)で30-60秒回す。また空腹時には催吐処置後にすこし何かを食べさせると吐く刺激になることがあります。普段から食欲のある犬(大食い、chow hounds)には、数切のパンを注意しながら食べさせると吐く刺激となる場合があると言われています。通常これらのことは初回の処置で嘔吐しなかった場合に行われることがあります。

●吐くための、精神的な要因はどの程度関係しますか?
このことはあまり強調されていない面があるようですが、大いに関係していると考えられています。これは上記の、何か吐きやすい状態にするには何を行えばよいかと、重複する部分でもありますが、催吐剤の処置後の対応となります。特に一部の猫の場合にあてはまります。

問題は飼主の目の前で吐かせ、その様子を見せたい場合、特に猫ではこれが障害になる場合があります。飼主の顔を見た猫において、吐く前のあくびがピタッと止まり、吐かなくなった経験があります。ゆえに特に猫では、吐いている動作は撮影した動画を見せる方がよいでしょう。もしどうしても強い希望で、飼主の目の前で吐かせる場合には、処置後飼主には、できるだけ無関心を装ってもらい、決して名前を読んだり、一緒に遊んだりしないようにしてもらいます。しかしトラネキサム酸の静注の場合は例外で、この場合は、飼主の前でも問題なく、吐いてくれます。これは急激に嘔吐作用が起こるためと思われます。

犬猫共に吐く前には、よくあくびをしますが、何か別に関心事ができると、あくびも止まり、嘔吐も止まります。また体を動かす(酔わせる?)こととリラックスさせることです。特に猫は催吐剤の処置後に、柔らかい絨毯のような心地よい場所の上に置くと吐きやすくなると言われています。

●誤飲・誤食をしやすい年齢はありますか?
どんな年齢でも起こりますが、特に1-3歳までの若い犬猫に多い傾向があります。これは犬猫には、学習期間があるのではないかと考えられています。まだ若い時はいろいろな異物を食べて、お腹が痛くなり、だんだんと経験を積んで学習し、異物を食べなくなると言うことです。また10歳以上の高齢になると、若い時ほどではないが、異物を食べることも報告されています。これはおそらく、認知障害と関係していると考えられています。

●X線検査のバリウム検査の適応は?
誤飲・誤食が不確かで、通常のX線検査にて、判明不明の場合、原因が食道にある場合や、特に猫でひも状異物を疑いアコーディオンサインが不鮮明の場合、またひも状異物以外で、不完全閉塞像等を疑う時に行います。

またバリウム検査は時に治療にもなりうるとこを常に心がけることが重要である。対象物がバリウムと共に流れ出ることが多いからである。ゆえにそのタイミングや体位にも配慮が必要である。 

●X線検査はどんな時に必要か?
紐状異物(猫では必ず口腔内検査を行うこと。多くが舌の下にある後臼歯に糸が引っ掛かっている状態(又は胃の幽門部)、特に猫では顎の真ん中が開いているので、中指を押し当てて、舌を上げて後臼歯が見えるのが特徴です。)この紐状異物の特徴は、紐がアンカー これは船の錨(いかり)のことで、紐が何処かに引っ掛かっているため、長い細い紐が腸管(蠕動運動にて動いている)を傷つけたり(紐で腸管をゴシゴシ傷つける)、アコーディオン(X線検査にてこの現象をアコーディオン・サインと呼ぶ)のように、腸が重なり合って、ちぢれる現象が起こる。比較的に短い紐では、アンカーの現象は起こらないようです。

また触診等で閉塞を疑える時、金属等のX線検査不透過性の異物で、飲んだか不明な場合等にはX線検査の適応になります。閉塞像では特に超音波検査にて腸管蠕動不全症の有無を調べます。ほとんどは不完全閉塞像を認めます。時に飲んだ異物が入手できれば、動物の横に置いて、どの様にX線に写るか調べることも可能です。

注意すべき点としては、X線検査で確認できない異物です。これには、例えば、自身の髪毛 、布きれ、紐、紙、壁紙、ティッシュペーパー、ウェットティッシュ、ビニール、ラップ、スポンジ、セロハン、細いプラスチック、楊枝、羽毛、小さいおもちゃ、輪ゴム、タバコ、靴下、タオル、木片(竹串)、観葉植物等いろいろな柔らかいものがあります。これらは食事の陰影の濃度と同じで、確認できないでしょう。

通常まずは胃内に食塊があるか調べます。犬猫では2-3時間のうちには胃で消化され、胃内には食塊があまり無いはずです。もし胃内に食塊が大量にあれば、胃腸のうっ滞が疑われ、いつ食事したのか、1日何回の食事か?その内容は?等を必ず尋ねる必要があります。また同時に、分かればいつ水分をどの位飲んだか?尋ねること、また食糞症もあるか、尋ねるべきです。

また不幸して催吐剤で吐かなかった場合にはX線検査にて、食道、胃、小腸、大腸の状態を中心に調べます。まれに食道に病変がある場合もあり、特に嘔吐ではなく、逆流(吐出)が疑われる場合には特にそうです。特に逆流(吐出し)の原因は食道に、嘔吐の原因は胃にあるからです。

またこのX線検査は、飼主が何か異物を飲み込んだとの訴えた場合に、確認することは、その異物を確実に飲んだことを実際に見たのか?と言うことです。例えば吐かしてもその異物が出なかった場合には、X線検査にて、その異物が何処にあるか?判る場合には確認できるからです。良くある事例は、実際には飲み込んでいなかった。無くなったのでてっきり飲み込んだと勘違いしたという事例によく遭遇するからです。

異物を飲み込んだと言う場合には、もしあれば、その飲み込んだ異物を実際に持参してもらうことです。ない場合は、どんな異物か?大きさ、形状、重さ等を良く聞くことが重要です。金属みたいに見えるが、実際はプラスチックだった場合もあります。そして持参された異物は、X線検査の際には、その横に置いて、X線検査でどの様に写るかを確かめます。

●X線検査のバリウム検査の適応は?
誤飲・誤食が不確かで、通常のX線検査にて、判明不明の場合、原因が食道にある場合や、特に猫でひも状異物を疑いアコーディオンサインが不鮮明の場合、またひも状異物以外で、不完全閉塞像等を疑う時に行います。

一般的に言うと、ひも状の異物の摂取でも、線状の異物であれば通常は催吐剤を使用しませんが、最近の摂取で、線状の異物が十二指腸にないことを確認した場合や、X線検査でアコーディオンサインが見られない、比較的短い太めのひも状の異物の場合のみ、催吐剤の使用が推奨されます。

またバリウム検査は時に治療にもなりうるとこを常に心がけることが重要です。対象物がバリウムと共に流れ出ることが多いからです。ゆえにそのタイミングや体位にも配慮が必要です。ある米国の獣医師はバリウム検査の項目に、バリウム治療と記載すると聞いたことがあります。

バリウム検査時の注意点は、出来るだけ、非イオン性造影剤である、総称名:イオヘキソール; 一般名:イオヘキソール240を使用することです。特に咳をする猫で使用します。 食道に穴があり、食道気管癭、食道気管支癭、食道肺癭等の場合があるからで、通常の硫酸バリウム(消化管用造影剤)を使用すると、気管等に入り、気管支造影となり得る可能性があるからです。

●食道に異物が詰ることは、どの様にして分かりますか?
異物が食道に詰ることがあります。食道に詰る場所は通常は3カ所あり、胸腔入口、心臓底部、横隔膜裂孔部です。食道内の異物は、組織の浮腫や筋肉の痙攣により、食道内での水分の分布が少なくなり、異物の移動が困難になりさらに蠕動運動を刺激し、食道壁の圧迫壊死が起こります。

食道閉塞は食道穿孔、気胸、肺中隔、膿胸、縦隔膿瘍、食道瘻形成、誤嚥性肺炎、胸膜炎などの原因となります。鈍い異物は2〜3日で虚血や穿孔を引き起こします。鋭利なものは食道壁が裂けていればすぐに穿孔を起こします。その場合は、発熱、抑うつ、呼吸困難等が起こります。

食道異物の臨床症状や身体検査の所見としては、唾液分泌過多、嘔吐、誇張された嚥下運動、嚥下困難、食欲不振、逆流、嘔吐、咽頭痛等で、時に脱水症状や体重減少を認めます。二次的な誤嚥性肺炎がある場合は、呼吸困難、咳、頻呼吸等が起こります。胸部の聴診では、クラックル(水泡音のことで、ブツブツ、プツプツ、バチバチ等の破裂性、断続性の音)が聴取されることもあります。

食道閉塞は異物によるものが最も多い。狭窄には一次性(例:持続性血管輪異常)と二次性(例:炎症、外傷)があります。食道腫瘤(犬猫共に0.5%以下、腔内外の腫瘍、後咽頭膿瘍等)や狭窄は部分的または完全な閉塞の原因となります。猫では扁平上皮癌が最も多い。犬は、Spirocerca lupi(オオカミセンビチユウ、血色食道虫)の感染に伴う肉芽腫の悪性化の報告があります。

診断は胸部X線撮影から始めます。所見としては、食道閉塞の頭側での食道の拡張、食道内での食物の滞留、食道内または食道外の軟部組織の密度増加、二次性誤嚥性肺炎による肺胞性パターンがあれば疑います。食道異物の59例を対象とした研究では、X線で63%が診断可能でした。

造影剤によるX線撮影では、充填不良、不規則な粘膜面、食道内腔の狭小化、造影剤の滞留、および閉塞部よりも頭側の食道の拡張などが認められます。食道穿孔が疑われる場合には、バリウムよりもイオヘキソールの造影剤が推奨されます。

場合によっては透視下での食道造影が必要となることもあります。内視鏡検査を行うことで、閉塞部を直接観察し、二次的な粘膜の変化を評価することができます。これらの変化には、充血、びらん、潰瘍化などがあります。また、内視鏡検査は異物の回収や食道の腫瘤がある場合の生検にも用いられます。

食道内の異物としては、骨、釣り針、生皮の噛み合わせ、針、おもちゃ、棒等で食道閉塞となった59頭の犬の59%の症例は骨でした。3222頭の別の研究では、81%の症例に骨性物質が関与していました。また食道異物が発生した犬は49.5%の異物が食道遠位部に留まっていました。

麻酔にての内視鏡検査にて、食道異物は通常、内視鏡で除去できます。一部の異物は経口的に摘出できるが、食道遠位部の異物はそのまま摘出するか、できなければ、胃に押し込んでから摘出する必要があります。内視鏡的に異物を胃内に移動させることで、内視鏡器具の操作スペースが広くなり、除去が容易になります。また、異物除去後には胸部X線にて、気管支拡張の有無を確認する必要があります1)。

内視鏡的に異物を除去できない場合、胃の中に異物が移動できるならば、胃切開を行うことができます。内視鏡や胃切開で異物を除去できない場合は、食道切開が必要となることもあります。

二次性食道炎の場合は、細胞保護剤(スクラルファートなど)や抗分泌剤(オメプラゾール、ファモチジン、ラニチジンなど)の投与が必要となります。食道粘膜の著しい損傷や誤嚥性肺炎がある場合は、抗生物質を投与します。 重度の食道損傷がある場合は、胃チューブが必要となります。

●腹部の超音波検査の適応は?
病歴の聴取と身体検査(特に腹部の触診)及びX線検査と共に行う場合が多く、超音波検査は特に閉塞を疑う場合には有効となります。最近は特に救急時にはAFAST(腹部)、TFAST(胸部)と呼ばれる、比較的誰もができる、手軽な方法が行われています。

●催吐剤を使用してはいけない誤飲・誤食例は?
意識が消失している動物はもちろんですが、すでに何度も吐いている、呼吸困難、強酸性(パイプ洗浄剤)、強アルカリ性(漂白剤)の製剤、化粧品、農薬類、灯油やガソリン、一部の洗剤、突起物のあるもの、文具類、塗料、麻薬、覚醒剤など、重度な嚥下の低下、痙攣・発作、中枢神経の障害、昏睡、喉頭麻痺、石油系炭化水素(ガソリンや灯油)、ボタン電池(食道に停滞で障害)眼底内圧の上昇の例には注意が必要です。

また何度も強調しますが、嚥下等に障害がある、意識のない場合には適応できません。嘔吐物が肺に入り肺炎を起こす可能性があります。吐させては行けない場合には、時に活性炭を使用する場合もあります。

●併用すると吐きにくくなる薬剤は?
メトクロプラミド(プリンペラン)やマロピタン(セレニア)等の制吐剤以外にも、鎮静・鎮痛剤、抗不安剤、精神安定剤の特に2種類以上を使用している場合です。代表例では酒石酸ブトルファノールのみでも多少ですが、吐きにくくなることもあります。

また強心剤や、カルシウム拮抗剤、β-遮断剤、コカインも注意が必要です。制吐剤は、吐かせる目的で、異物が完全に出た後に使用する場合もあります。また強心剤や、カルシウム拮抗剤、β-遮断剤、コカインも注意が必要となります。制吐剤は、吐かせる目的で、異物が完全に出た後に使用する場合もあります。

●催吐剤使用後の注意点は?
特に嘔吐後に制吐剤を使用しない場合は、その後の嘔吐の可能性を告げる、例えば帰宅時の車の中(動揺のため)や自宅にでもそうあるが、吐いても良い環境に置く。特にこれば数時間後の嘔吐も起こりうるトコンシロップの場合はそうです。また催吐後(出来れば催吐剤前に?)は、輸液をすると、その後の合併症がかなり防ぐことができると考えられているので、行うべきだと思います。胃の刺激緩和のために、特に神経質な動物には粘膜保護剤を使用した方が安全だと思います。

●上手く吐いた後は、どの様に飼主に説明するか?
吐いたものを、必ず飼主に見せて、説明します。その際にできれば、飼主に写真を撮ることを勧めた方が良いでしょう。動物病院では後々の為に、吐いた物質は必ず写真で記録します。また目的の物質は吐いた時は、その処分をどうするかも飼主に聞きます。

●家庭で吐かすことは出来るか?
まず行えることは誤飲・誤食の直後であれば、口の中を良く水で洗うことを勧める。次にスポイト等で、水を飲ませることです。その後は、出来る場合は、犬の場合(噛む犬は不可能)は、口の中に指やボールペンを喉の奥まで入れて、刺激すると、まれに吐きやすい状態にある場合は吐く場合もあります。猫にも可能ですが、より難しいです。

夜間、動物病院が探せない場合には、本当に吐かせる必要がある場合のみ、犬のみですが、3%過酸化水素水を体重1kg当たり小さじ1杯を投与し、大さじ3杯を超えないようにします。消化管に直接刺激を与えるため、通常、投与後10~15分以内に嘔吐が起こります。最初の試みで成功しなかった場合は、1回だけ投与を繰り返すことができます。

使用はやむを得ず行う場合であり、朝になったら、必ず動物病院を受診してください。但し猫ではこれらのことは危険ですので行えません。猫ではこれらのことは禁忌となります。重度の出血性胃炎を起こす危険性があります。

一般的に言って、家庭で吐かすことはかなり難しいことです。大昔?ですが、欧米では医療に心得がある家庭では、ipecac syrup(吐根シロップ)が常備薬として備えられていたようです。何か日本の富山の薬売り「置き薬商法」みたいですね。これを人間のみならず犬猫にも使用したようです。しかしながらこれは現在、我国では入手できません。

●胃洗浄の適応は?
最近の傾向としては、動物が昏睡状態にある場合に、時に適用となるが、予後は難しい症例が大多数となります。その理由はすでに毒物が吸収されていると考えられます。行う場合は、飼主とよく相談して行うことが重要です。

●内視鏡による摘出手術の適応は?
吐きだせない異物が胃内にある場合は、適応になる場合もあります。例えば人間の赤ちゃん、乾電池を飲み込んだ場合は、内視鏡で摘出するとのことです。お腹と胃を切開して、取り出すことは有り得ないからです。実際の犬猫の症例では、例え腹腔切開をしても、幽門やその周辺の小腸にある異物を手技で、胃に移動させ、内視鏡で取り出す等の可能性も考えることができます

●開腹手術による適応は?
猫の紐状異物等が適応になりますが、この手術時の注意点は、何処で紐が引っ掛かっている(アンカー)かを調べることです。普通は舌の下にある後臼歯の周辺か、幽門部の下部です。舌下の紐を手術前に切らないことです。切ると腸内に線上に漏れ出る(細い紐で蠕動運動でゴシゴシ)可能性があるからです。開腹して、腸管を完全に保護してから、舌下の紐を切ります。要するに何処かに引っかかっているから、紐が腸の蠕動によって、腸がねじれる(アコーディオンサイン)わけです。もしアンカーの事を知らないと腸を何カ所も切ることになります。

また手術後に行う、静脈にての点滴療法の際には、異物を飲み込んだ犬は稀に点滴のチューブをかみ切って誤飲する可能性もあるので、エリザベス・カラー等で予防する必要があります。

残存した異物はいつ完全に詰るのか?(閉塞するのか)予想はつきません。まれに過去に異物を飲んだ犬猫が後で急に、重度な嘔吐、下痢等の症状が認められ、突然として症状を表す場合があります。ゆえに病歴の聴取が重要となります。植物の種(カキや桃等)は以外と溶けない場合が多いようです。

本来は異物等の場合には、うまく行けば催吐剤の処置で終わるけれども、吐かなければ外科手術と考えるのが普通でしょう。これは考え方の問題で、本来この異物は、外科手術で摘出するものです。うまく行きラッキーならば、吐きだし、外科手術しなくてもすむ場合もあり得ると話しておく方が自然な場合もあります。

また犬が大量の骨を飲み込んで、X線検査にて胃内に大量の骨片が存在する時です。こんな場合に手術で取り出したとの話もありますが、基本的に骨片は胃内の胃酸ですべて消化します。嘔吐して苦しんでいる症例以外は手術する必要がありません。これなども知らなければなかなか上手く対応できないかもしれません。

過去には胃内の骨片の症例で、胃薬?としてH2ブロッカー(ガスター等)が与えられている症例がありましたが、これなどは、胃内の胃酸を減少して、骨が消化しないようにする、逆の治療法ですので、注意が必要です。

●催吐剤を使用しても吐かなかった場合は?
状況によりますが、X線検査で状況を確かめます。時には入院しての対処が必要かもしれません。食欲、元気等の容体の観察が重要です。輸液等の対象療法が中心ですが、活性炭の使用も適応になる場合もあります。またチョコレート中毒やネギ、タマネギ類の各の毒性に対しての対応もできます。また強肝剤、胃粘液保護剤も適応になる場合があるでしょう。もちろん状況によって血液検査も必要となります。

よく胃内の異物を確認(X線検査及び造影にて)し、催吐を試みて、実際に吐いたが 異物は吐かなかったので、やむを得ず内視鏡にて取り出したとの報告を受けますが、これらは異物の内容によります。概して、軽いもの、柔らかいもの、表面積がないもの等の、異物は吐きにくい、吐かない傾向にあります。例えば、比較的に短い紐、軽いプラスチック片、ビニール袋、楊枝等ですが、しかしタバコのように軽くても厚みがある場合は、吐くことが多いようです。

しかしながら過去の私の経験で、このような症例でも約半数は、吐かせることが出来る場合があります。対応する手段としては、胃内が空なら、少量の缶詰を与えること。水をチューブで(鼻又は胃内)与えること、より強力な催吐作用のある、例えば、アポモルヒネ等を使用すること。またトラネキサムの静注場合は、量を少量のみ増加させることと同時に水分を静注(2-3mL/kg程度)すること等を行うことで対応します。

●血液検査が必要な状況はどんな時ですか?
容体が安定していない場合等、CBCにて全体の評価(各臓器の働きの関係)と各臓器の評価(例えば、肝臓、腎臓、膵臓等)を調べます。貧血の有無も解ります。また特定の毒物例えば、犬のキシリトール(甘味料)中毒の場合です。これらの中毒には、低血糖を始めとする、肝毒性が予測されるので容体によって随時調べる必要があるでしょう。治療はブドウ糖の投与です。猫もキシリトールは危険です。

人用のケーキ、お菓子(犬用でも安心できない?)、シュガーレスのガム、歯磨き粉に含まれているものがあります。10kg当たり1gで重篤な低血糖が起こることがあります。また10kg当たり5gで重度な肝臓障害が起こることもあります。

犬はキシリトール摂取後に、強いインスリン分泌促進作用がみられ、そのインスリンの作用によって、逆に血糖値が急激に減少し、低血糖症状となります。この作用は人間では 起こりません。ゆえに人に安全で犬には危険な食品の代表例です。

人間で使用されている、甘味料の主なものにアスパルテームやスクラロースがありますが、これらは犬猫にはまだ毒性は認められていないようです。しかしエキゾチック・ペットには注意が必要との意見もあります。

あまり症例はないでしょうが、猫で注意が必要なのは、人間用のサプリメントで、アルファリポ酸(αリポ酸)です。人間では糖尿病や肥満対策として使用されているようです。これはわずか体重1kg当たり13gで、猫で毒性が現れます。これはチオクト酸とも呼ばれるビタミン様物質です。犬では猫の5倍で中毒症状が現れると言われています。

●誤飲・誤食の予防のための飼い主へのアドバイスは?
留守番中はできるだけゲージに入れること。これにはトレーニングが必要となります。 いわゆる、クレイトトレーニングです。散歩中は、拾い食いしないように、リードを短くして、必要に応じて口輪を装着します。

特に成長期にガツガツ食べる場合は、頻回投与を心がける。お腹が空いている時に誤飲・誤食が起こりやすい。常に水分を与えること。猫の食餌回数は本来は5-6回なので、少量頻回を心掛けること。この少量頻回が犬より猫の誤飲・誤食が少ない原因の一つとも考えられます。誤飲・誤食の症例の多い年齢は1-3歳です。特にこの期間は注意が必要です。

飼主が知るべき知識として、覚えていて良いことは、特に犬猫の幼児や高齢に於いて、柔らかい、軽い、厚みある、嵩がある食べ物、パンやナンを細かくしているが、連続して食べさせると、簡単に食道に詰まり、呼吸困難となり倒れ、意識喪失となり死亡することがあります。これはまれに起こります。これは動物病院でも起こり得る話です。 そんな場合の救急処置は?比較的簡単です。喉の奥まで指や先が丸いペンを入れるだけで、数秒で元通りの犬猫になります。要するにつまった食事を取り出すのではなく、胃の中に押し込むわけです。これを知らないと隣に動物病院があっても間に合いません。  

●催吐剤の作用機序は?何処に作用しますか?
催吐剤を使用して、嘔吐を誘発する方法には、2つの方法があります。胃に直接刺激を与えて、吐かす局所的な方法と、脳内の延髄、第四の脳室底にあるCTZの嘔吐中枢を刺激して、吐かす方法です。 犬の場合、CTZ(chemoreceptor trigger zone)はドーパミン受容体によって媒介されています。猫は対照的に、彼らのCTZは主にαアドレナリン受容体によって媒介されるので、αアドレナリン作動薬を使用します。これが猫にはアポモルヒネが効かない?効きにくい?理由です。

誤飲・誤食を排除するには?催吐剤の使用が原則

化学受容体のトリガーゾーン
↑       ↑
αアドレナリン作動薬    ドーパミン受容体
猫        犬


局所 VS 中枢、の刺激にて嘔吐を起こさせる。
・局所―一般的に直接、胃の粘膜に刺激する
・中枢― 猫はαアドレナリン作動薬、犬はドーパミン受容体。

犬は、アポカイン®皮下注30mg、CLEVOR(ロピニロール)、トラネキサム酸、キシラジン、吐根シロップ、等を使用することができます。猫へのアポモルフィンの使用は推奨されません。モルヒネ躁が猫では懸念されます。猫にアポモルヒネを使用しないより具体的な理由は、アポモルヒネがドーパミン受容体に作用して嘔吐を誘発するからです。犬の嘔吐中枢はドーパミン受容体で制御されていますが、猫の嘔吐中枢はα受容体で制御されています。そのため、猫はアポモルフィンを投与しても通常は嘔吐せず、多くの猫は興奮状態になるだけです。

 

 <犬の場合>
犬の催吐のための適応外使用の、私のお勧めの方法

(犬の場合は以下の方法を採用すれば、犬の催吐に関しては、ほぼ解決したと考えています)


1) 5kg以下の犬には、直接5mlポンプでトラネキサム酸の50mg/kgの急速静注です。 但しこの場合は8歳以下の犬に限定した方が安全です。8歳以上の場合は、30mg/kgの静注をお勧めします。トラネキサム酸の使用しやすい使用法とは、動物用のトラネキサム酸(バイヤル故に使用し易い)、5%(バソラミン注)1ml中に50mg含有を使用します。1kgにつき1ml(50mg/kgで使用すれば)と考えれば覚えやすいでしょう。人間用のトラネキサム酸(1000mg/10mL、250mg/5mL)は、アンプルなので、バイヤルより使用しにくいと思います。

このトラネキサム酸の使用には考えられている上限があります。それは総量750mgとの報告があるようですが、この用量ではいろいろな不合理の問題が起こっているようです。例えば、50mg/kgで使用した場合は、15kgまでとなりますが私はとてもお勧めしません。

過去の私の使用経験や見聞きした経験では、少し危険性はありますが、使用するとしても使用できる総量は最大でも500mgまでだと思います。ゆえに50mg/kg用量だと10kgまでです。しかしこの容量でもごくまれに副作用反応(DIC等)が認められているようですのでお勧めはできません。

しかしより安全には、350mgなら、すなわち7kg程度なら50mg/kg用量で問題となった報告はないようです。この量なら比較的に安全に使用できると思いますが、 やはりその犬の栄養状態(例えばBCSが5/9前後)と高齢、特に短頭種は避けた方が無難だと思います。

ゆえに私の場合の使用量は、50mg/kg用量にて、5mlまで、即ち5kgまでの犬で、 8歳以下の犬と言うことです。トラネキサム酸(バソラミン注)を用いると言うことです。この容量で使用すれば、高齢、幼若、血液凝固関連の病気、衰弱ぎみ以外の犬で、過去1000例以上使用し問題が起きたことありません。

このトラネキサム酸(バソラミン注)の使用に関しては、原則的に使用する際には留置カテーテルを設置するが、私の場合の、5kg以下の犬の場合は、5ml用の注射器にて26G×1/2、SB(静脈用)の針(3-4kg以下)、又は23G×11/2 SB(静脈用)の針(5-7kg)注入して(4-5秒にて)います。RB(皮下、筋肉用)は使用しにくいことがあるので、SB(静脈用)の針を使用します。

留置しない欠点は、その後、同量の生食等の輸液を入れることができないことと、その後何か異変(散瞳、低血圧、痙攣、発作等)が起こった場合に対処しにくいことですが、 5kgまでの使用なら留置しなくても不合理は経験していません。しかし少しでも不安な要因がある場合には、留置が必要です。それゆえにトラネキサム酸の使用の前又は後には、必ず輸液をします。

ゆえに5kg以上の犬の場合はアポカイン(アポモルヒネ塩酸塩)®皮下注30mgを使用します。また若齢犬(2-3ヶ月)の場合は、トラネキサム酸の静注量を30mg/kg(但し通常この用量だと嘔吐した場合でも1-2回のみ?)とした方が安全に使用できます。しかしこの量だと吐かない場合もあります。

問題がありそうな犬と疑われた場合に、飼主の同意を得て行う場合は、トラネキサム酸の50mg/kgの静脈注射・・留置カテーテルを設置し、まずは生食等をトラネキサム酸と 同量程入れて留置が確実かを確かめ、その後トラネキサムを急速に静注する(約1mlを1秒位)、その後同等の生食等を注入する。総量最大500mg以上は使用しないこと。死亡例が報告(静脈血栓栓塞症となりDICが起こる)されています。留置カテーテルはそのまま、嘔吐後に何か副作用等あれば、そのまま対応できます。

お勧めはしませんが、10kg~15kgの犬で、どうしても薬剤の関係で、トラネキサム酸を使用する場合は、 22Gの留置カテーテルにて、急速(約1mlを1秒位)に約25mg/kg(約半量)をその後1ml/kgの 生食を急速(約1mlを1秒位)に入れます。これで運が良ければ吐く(1-2回のみ)こともあります。要するに容量の問題と言うより、どれだけ一定量の、トラネキサム酸が体内に急速に入るかの問題と考えてください。


2) 5kg~15kgまでの犬には、ロードーズの0.3ml用の注射器にて、アポカイン(アポモルヒネ塩酸塩)の0.004ml/kgの筋注です。もしどうしても15kg~25kgの犬でアポカインを使用する場合は、0.003ml/kgを使用しています。


3) アポカインの使用法は文献的には、0.02〜0.04 mg/kgを静注又は筋注、高容量の 文献では0.08-0.1mg/kg、筋注、皮下注等いろいろです。静注は確実に静脈に入れ ば、吐くようです。筋注は容量が少量のため、筋肉に入っているか不確かな面がありますが、例え筋膜に入っても時間かかりますが吐くようです。微量なので、注 射器はロードーズの0.3ml用を用います。

アポカイン®皮下注30mg, 3ml(すなわち1ml=10mg)5kg以上の犬、0.04mg/kgを筋注、20kg(15kgからでも?)からは、0.003mlにて、もし30kgでも使用する場合は、0.002mlの容量がより安全と思いますがこの場合は静注で対応します。

例えば
5kgの犬0.004ml×5=0.02ml 筋注又は静注
10kgの犬で0.004ml×10=0.04ml 筋注又は静注
15kgの犬で0.004ml×15=0.06ml 筋注又は静注
20kgの犬で0.003ml×20=0.06ml 筋注又は静注 

あまり頻度は高くはないですが、嘔吐後等に元気ない等(特に15kg以上の犬)、必要があればナロキソン0.02mg/kg 静注(0.01~0.04mg/kg静注)で覚醒させます、20kg以上の犬には必要かもしれません。もしこれらの量で吐かない場合は、同量を1時間以上の経過をおき静注をすることも可能でしょう。

15kg~100kgの犬には、私はCLEVOR(ロピニロール、我国には現在ありません、 外国のVeterinary Supplyから入手可能です)を使用します。

点眼して嘔吐させる薬剤催吐薬CLEVOR(ロピニロール)
米国にて目に点眼して嘔吐させる薬剤催吐薬として CLEVOR(ロピニロール) が発売されました。

CLEVOR(ロピニロール)30mg/ml 0.3ml 5本入り

犬の点眼催吐薬として CLEVOR(ロピニロール) が発売されました。この薬剤は、ドーパミン作動薬である、ロピニロールが主成分です。犬の体重に応じて1~8滴を目に滴下できます。その際には安全のため獣医師は手袋と保護用眼鏡を着用してください。

 体重/kg

  滴下数

 滴下方法

  1.8-5kg

  1

 1滴を左右どちらか

  5.1-10kg

  2

 1滴を左右共に

  10.1kg-20kg

  3

 2滴を左右どちらか

 もう1滴を左右どちらか

  20.1kg-35kg

  4

 2滴づつを左右に

  35.1-60kg

  6

 2滴づつを左右に

 2分後に1滴を左右に

  60.1-100kg

  8

 2滴づつを左右に

 2分後に2滴を左右に

心臓や肝臓に障害のある犬、4.5ヶ月未満または1.8kg未満の犬では評価されていません。ドパミン拮抗薬、神経弛緩薬、その他制吐作用のある医薬品は、ロピニロールの効果を低下させる可能性があります。猫や人間には使用しないでください。

もちろん咽頭(嚥下)反射がない状態、呼吸困難等状態の悪い犬、嘔吐をさせてはいけいない異物等には使用できません。獣医師のみが使用してください。

一般的な副作用(10頭に1頭以上の割合で発生する可能性があります)は、短期間の軽度の眼球充血、眼球からの分泌物、第三眼瞼の突出、眼瞼痙攣(筋肉の収縮によるまぶたの閉鎖)、短期間の軽度のエネルギー不足、心拍数の増加、震え、無気力、心拍数の増加、血圧の低下などの副作用が考えられますが、いずれも投与後6時間以内に消失するとFDAは述べています。

132頭の健康な犬を対象としたテストにては、約半数以上は5~10分以内に嘔吐しています。そして約95%の犬が30分以内に嘔吐しました。20分後に13%の犬が嘔吐しなかったため、2回目の投与を行いました。3頭のみ2回目の投与にもかかわらず、まったく嘔吐しませんでした。嘔吐回数の平均は4回の嘔吐です。これは最長1~2時間は続きます。

ゆえに20分(約86%の犬は嘔吐します)経っても嘔吐しない場合は、再度滴下することが推奨されているようです。もちろん30分待つこともできます。また一部の犬で、容量依存性にてその後の食欲低下が認められる場合があります。

本製品を取り扱う場合には、事故を防ぐために手袋や保護メガネを着用してください。尻尾をひねってスポイトを開けてください。
犬の頭を少し直立させて安定させる。- 目に触れないようにスポイトを直立させて持ちます。- 指を犬の額に当てて、スポイトと目の間の距離を保ちます。

CLEVORは1回きりの使い捨てのスポイトです。光に弱いため、目に所定の数を滴下します。
犬が嘔吐しない場合は、1回目の投与から20分後に2回目の投与を行うことができます。この2回目の投与は、1回目の投与と同じ滴数です。開封後30分経ったら、手袋をはめたまま、スポイト、アルミパウチ、カートンを廃棄してください。

 

犬のトラネキサム酸の使用法
動物用のトラネキサム酸(バソラミン注)1ml中に50mg含有、が使用しやすい。1kgにつき1ml(50mg/kgで使用すれば)と覚えやすいからですが、上限量を知り使用することが重要です。

このトラネキサム酸の考えられている上限には総量750mgとの記載があるようですが、この用量でも問題が起こっているようです。例えば、50mg/kgで使用した場合は、15kgまでとなりますが私はお勧めしません。

比較的に安全に使用できる総量は最大500mgまでだと思います。ゆえに50mg/kg用量だと10kgまでです。要するにこのトラネキサム酸は大型犬には使用しないほうが無難と言うことです。しかしこの容量でも副作用反応(DIC等)が認められているようです。350mgなら、すなわち7kgなら50mg/kg用量では問題となった報告はありません。

ゆえに私の場合の使用量は、50mg/kg用量にて、6mlまで、即ち6-7kgまでの犬で、 トラネキサム酸(バソラミン注)を用いると言うことです。高齢、幼若、血液凝固関連の病気、衰弱ぎみ以外の犬で、過去1000例以上使用し問題が起きたことありません。

このトラネキサム酸(バソラミン注)の使用に関しては、原則的に使用する際には留置カテーテルを設置するが、私の場合は、5―7kg以下の犬の場合は、5ml用の注射器にて26G×1/2、SB(静脈用)の針(3-4kg以下)、又は23G×11/2 SB(静脈用)の針(5-7kg)注入して(4-5秒にて)います。RB(皮下、筋肉用)は使用しにくいことがあるので、SB(静脈用)の針を使用します。

留置しない欠点は、その後、同量の生食等の輸液を入れることができないことと、その後何か異変(散瞳、低血圧、痙攣、発作等)が起こった場合に対処しにくいことですが、 上記の容量で使用する場合は、不合理は経験していません。しかし少しでも不安な要因がある場合には、留置が必要です。

ゆえに7kg以上の犬の場合はアポカイン®皮下注30mgを使用します。また若齢犬(2-3ヶ月)の場合は、トラネキサム酸の静注量を30mg/kg(但し通常この用量だと1回しか嘔吐しない?)とした方が安全に使用できます。

50mg/kgの静脈注射・・5kg以下の犬、直接5mlポンプで急速注入
問題がありそうな犬と疑われた場合に、飼主の同意を得て行う場合は、トラネキサム酸の50mg/kgの静脈注射・・留置カテーテルを設置し、まずは生食等をトラネキサム酸と 同量程入れて留置が確実かを確かめ、その後トラネキサムを急速に静注する(約1mlを1秒位)、その後同等の生食等を注入する。総量最大500mg以上は使用しないこと。死亡例が報告(静脈血栓栓塞症となりDICが起こる)されています。留置カテーテルはそのまま、嘔吐後に何か副作用等あれば、そのまま対応できます。

もし10kg以上の犬で、どうしても薬剤の関係で、トラネキサム酸を使用する場合は、 22Gの留置カテーテルにて、より急速に約1.5mlを1秒位で入れて、その後10mlの 生食を急速(約1mlを1秒位)に入れます。これは20-30kgの犬でも同じです。これで吐く(1-2回のみ)こともあります。要するに容量の問題と言うより、どれだけ早く、トラネキサム酸が体内に入るかの問題と考えてください。

※参考までに(入手できれば)
犬の吐根シロップの使用法

犬においてはこのトコンは、容量依存的に催吐作用を起こすことが知られています。この薬剤にも上限があり、考えられている総量で15mlと考えられていますが、これは人間の投与量から推定されたようですので、参考程度かもしれません。  

この吐根シロップの一番の問題点は現在入手が出来ない、難しいことです。インターネットの個人輸入代行でも、過去は入手可能でしたが、現在はできないようです。しかしながら動物病院専用の海外のVeterinary Supplyに問い合わせると、いつもではありませんが、入手できる場合があるようです。しかしながら類似品で使用に耐えるか不明ですので注意が必要でしょう。現在でもホメオパシー治療薬としてのトコンはありますが、これらの犬猫への使用報告は全くないようです。

私の動物病院では、誤食の症例で、過去にはこの吐根シロップで、犬の場合は約90-95%以上の割合で吐かせて対処できました。猫でも80-85%が対処できました。これにはいろいろと工夫することが必要ですが、究極には、吐根シロップが使用できるか否かによります。もし吐根シロップが使用できないと、その確率は犬猫で約70-80%になると思います。

 

<猫の場合>
猫の催吐のための適応外使用の、私のお勧めの方法


(猫の場合は以下の方法を採用したとしても、いまだ猫の催吐に関する限り解決したとは考えていません、現在も模索中です)

本来猫を吐かすのはかなりむずかしいことを飼主に告げ、理解を得ることがまず重要です。いろいろ行っても吐く可能性は、50-60%程度とあらかじめ告げることが必要です。状況の良い時(食塊が少量しかない、胃が拡張していない等)でも最大でも70%と告げています。 猫の催吐剤として適応外使用できるのは、ヒドロモルフォン(75%)、デクスメデトミジン(58%-81%)、メデトミチン(20%)、キシラジン(44%-70%)、トラネキサム酸(30-40%?)、セファゾリン(10%?)吐根シロップ(90%?)等いろいろですが各々が利点と欠点があり、使いこなすのはそれなりに難しい問題があり、経験も必要でしょう。カッコ内の数字は、過去に発表された吐く確率です。?のマークは私の経験値です。以下私が提唱する方法を使用すると実際には80%程度か、それ以上の確率になると思います。

●ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg/1mL)容量は0.05ml/kg(0.1mg/kg)を皮下注射
●デクスドミトール0.1(1mL/0.1mg)日本全薬、皮下注射、0.07ml/kg(容量は7μg /kg)
●メデトミチン(ドミトール、1mL中1.0mg)の筋肉注射、0.04-0.08ml/kg(40-80μg/kg)
●キシラジン(セデラック2%注射液)日本全薬、0.025~0.05mL/kg(0.5~1mg/kg)
●トラネキサム酸(バソラミン 50mg/mL)、1.3mL/kg(50~75mg/kg)にて静脈注射。
●セファゾリン(セフェム系抗生物質製剤)、10-30 mg/kgを静脈注射。 ●吐根シロップ・・・別途に記載します。

猫の催吐、私のお勧めの方法、1)又は2)を薬剤の有無によって選ぶ。

現在実際に使用できる薬剤は、上記の内のヒドロモルフォン、デクスメデトミジン、メデトミチン、キシラジン、トラネキサム酸の5種類です。問題はどれを最初に使用するかになります。ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg)とトラネキサム酸(バソラミン)を除いて、強い鎮静作用があるので、最初には使用しにくいものです。しかしトラネキサム酸はあまり吐く確率が高くないので、まずは鎮静作用のないヒドロモルフォン(単独ではあまり吐かないため)を併用して使用することから始めます。

現在の私のお勧めは以下の、1)又は2)を入手可能な薬剤の状況によって選ぶ。

1)ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg/1mL)とドルミカム(ミダゾラム)の併用
ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg)の容量は0.05mL/kg(0.1mg/kg)とドルミカム(ミダゾラム)0.3mg/kgを併用します。部位を変えて皮下注射を行う。これらの薬剤は投与後、約5分程度で嘔吐作用が始まります。このナルベインは、オピオイド鎮痛薬(麻薬)で、本来の適応は、中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛剤としての使用です。この製剤には20㎎注もあるが、容量の問題で2mgを使用します。

ナルベインを使用した、12頭の健康猫の投与では9頭が嘔吐し、75%が嘔吐した(AVIM Forum, June 8–9, 2017 National Harbor, MD.)との報告があるが、私たちの経験では、このナルベインにての単独の使用では4頭中1頭しか吐かない経験があります。

それ故に、ドルミカム(ミダゾラム)0.3mg/kg(0.2-0.5 mg/kg)の皮下注射との併用にて吐く確率が増すとの報告(Proper Use of Emetics in Dogs and Cats |ASPC Apro)があります。またこの併用療法は、特に高齢の猫や心血管疾患を患っている猫には良い選択となるようです。キシラジンやデクスメデトマジンよりも心血管系への負担が少ないだけでなく、必要に応じてどちらも拮抗剤があるのも良い点です。

しかしながら現在はこのドルミカム(ミダゾラム)は人間のコロナ感染症(COVID-19)のため、需要が大幅に増えており、出荷調整がされております。プロポフォール(動物用は入手可能)と同様に現在は殆ど入手できません。

しかしヒドロモルフォンの使用にあたっては重度な呼吸器疾患例えば肺炎、重度な腎臓や肝臓の疾患、気管支喘息、炎症性腸疾患(IBD)や痙攣発作で治療中の場合の場合は、投与を中止するか、程度により慎重投与です。

あまり使用することはないと思いますが、ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg)の拮抗薬としては、呼吸抑制には、麻薬拮抗剤(ナロキソン、0.02 - 0.1 mg/kg 筋肉注射又は静脈注射)を使用します。またミダゾラム(ドルミカム)の拮抗薬としてはフルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤)を使用します。0.01–0.02 mg/kg 、の静脈注射(Plumb, 2005)です。

このナルベインとミダゾラムの組み合わせが、推奨のNo1ですが、現在はドルミカム(ミダゾラム)が入手できませんので、在庫のある動物病院のみ使用できます。

2)ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg)とトラネキサム酸(バソラミン)の併用
まずはトラネキサム酸(バソラミン 50mg/mL)、容量は1kgにつき1.3mL(50~75mg/kgで使用、比較的急速(1秒に1mL程度)に静脈注射を終えたら、ヒドロモルフォン(ナルベイン注2mg/1mL)容量は0.05ml/kg(0.1mg/kg)を皮下注射する。嘔吐する場合は約5分程度で嘔吐します。

3) デクスドミトール0.1(1mL/0.1mg)日本全薬、注射液、0.07ml/kg(容量は7μg /kg)
デクスメデトミジンすなわち、デクスドミトール0.1を0.07ml/kg(容量は7μg /kg)の筋肉投与を行います。容量は7-8 ug/kgの筋注で、この薬剤は約5分後に効果を表します。

鎮静が唯一の副作用であるので、必要に応じてα2拮抗薬である、アンチセダン(アチパメゾール)(1ml中、5.0mg)を投与量の4倍量(5倍量も可能)すなわち、0.28 ml/kg(0.07ml/kg×4)を筋肉注射使用します。

鎮静薬としてデクスメデトミジン(DEX)は選択性の高いα2アドレナリン受容体作動薬です。呼吸抑制の少ない鎮静薬であり、脳内のα2受容体に作用してノルアドレナリン放出を抑制し、効果を発現します。鎮静作用とともに鎮痛作用も有しています。

DEXの大きな利点は、なんと言っても呼吸抑制作用が少ないことです。しかし、副作用として交感神経抑制作用があるため、低血圧や徐脈には注意が必要です。デクスドミトール0.1の本来の使用目的は、軽度から中程度の鎮痛・鎮痛を目的に、その猫の使用量は、0.25~0.40mL/kg(0.25~0.40μg/kg)です。

キシラジンを投与された25頭のうち11頭(44%)、デクスメデトミジンを投与された16頭のうち13頭に嘔吐が誘発された。デクスメデトミジンはキシラジンよりも嘔吐を引き起こしやすかった(J Am Vet Med Assoc 2015;247:1415–1418)との報告もあります。

上記で吐かない場合は、以下の3つから選びますが、どれも使用する量によって違ってくるのでなかなか難しいところです。以前、私は殆どの場合メデトミチンを使用していましたが、現在では、比較的若くて体力のありそうな猫には、キシラジンの高単位を使用しています。より吐く場合が多いようです。

以降の4)、5)は現在ではあまりお勧めする方法ではありませんが、以前、猫の催吐はこの方法で行われていた経過があります。これらのキシラジン、メデトミチンの催吐剤としての使用は、いまだ容量の問題で模索中のように感じます。上記の薬剤の使用が、主流になりつつあるので、現在では使用頻度はかなり限られているようにも思えますが、参考までに記載致します。

4)キシラジン(セデラック2%注射液)日本全薬
この製剤は、1mL中にキシラジン20mgを含有します。催吐剤としてのキシラジンの容量は、若く元気な猫には0.05mL/kg(1mg/kg)の皮下注射をお勧めします。5歳以上の猫には従来の一般的な催吐の推奨量である0.025mL/kg(0.5mg/kg)の容量で筋肉注射をします。

キシラジンの投与後は必ず拮抗剤となりうる、アンチセダン(アチパメゾール) (1ml中、5.0mg)を筋肉注射します。その容量はまずは、0.03mL/kg(150μg/kg)を筋肉注射して様子を見ます。反応が悪ければ0.05mL/kg(250μg/kg)追加します。この量を4-5回は投与できます。

またヨヒンビン注射液が入手できる場合は、まずは0.3mg/kgの筋肉内投与にて様子をみるが殆どが覚醒します。もし覚醒が不足であれば、もう一度、0.2 mg/kgを追加の筋肉注射を行う。

一般的な犬猫におけるセデラック2%注射液の使用法は0.05~0.15mL/kg(キシラジンとして1.0mg~3.0mg/kg)を筋肉内又は皮下に注射します。追加投与する際でもキシラジンとしての総量0.15mL/kg (3.0mg/kg)を超えない様にし、注射部位を変えること。全身麻酔の前処置や全身麻酔薬と併用する場合には、全身麻酔薬の量は規定の1/2~1/3に減量することができます。

しかし催吐剤を目的としての猫のキシラジンの使用量の報告としては、0.02-0.025mL(0.4-0.5mg/kg)の筋肉注射又は静脈注射(ゆっくり)、0.025-0.05mL/kg (0.5-1mg/kg) の筋肉注射、0.022mL(0.44mg/kg)筋肉注射又は静脈注射(ゆっくり)、0.025-0.033ml/kg(0.5-0.66mg/kg)の筋肉注射等いろいろです。またこのキシラジンは妊娠の猫は禁忌、また高齢、糖尿病、肝臓病には注意を要し、3ヶ月以下の猫には使用しないのが無難です。

5) メデトミチン(ドミトール、1mL中1.0mg)0.04ml/kg、筋肉注射を行う
メデトミチン(ドミトール、1mL中1.0mg)0.04ml/kg(40μg/dl/kg) 猫の場合は鎮静が強いので、殆ど必ず拮抗剤を使用する。拮抗剤としては、アンチセダン(1ml中、5.0mg)を通常はメデトミチンの半量、0.02ml/kg( 0.02-0.04ml/kg)を筋注すると普通は5分で覚醒します。

またヨヒンビン注射液が入手できる場合は0.1~0.11mg/kg を静脈内注射, 0.25-0.5mg/kg を皮下、筋注で使用できます。

アンチセダン(アチパメゾール)(1ml中、5.0mg)の投与量に関しては、要指示書にはメデトミチンの投与量の4-5倍量を推奨しています。すなわち、0.16~0.2ml/kgの容量の筋肉注射である。またアチパメゾールは、急速に静脈内に注射すると、低血圧や頻脈が起こる可能性があるため、この拮抗薬には筋肉内投与が望ましい。

猫における、吐根シロップの使用法
猫の吐根シロップの使用には多少のコツはあります。味は甘いが後に苦味があるので、犬のように口から飲ますわけに行かないからです。特に無理してそのまま投与すると舌が麻痺することがあるようです。まずは4-6フレンチサイズの栄養チューブを使用します。鼻に一滴局所麻酔(ベノキシール)を滴下し、予め胃までの長さをチューブで計り、何処まで入れるか予測をして、鼻に入れ、吸引したりして確かめ、まずは吐根シロップと同量の水の半量を入れて再度食道や胃(胃の手前が理想的)にあるか確かめます。問題なく食道や胃に入っていることを確かめて、その後に吐根シロップを3.3ml/kgを経鼻チューブで入れます。その後残りの水の半量を入れます。すなわち吐根シロップと同量の水を入れるわけです。あまり多い水の投与は、誤嚥物質を腸に押しやるおそれがあると考えられている。すると10―15分で 1回目の嘔吐が始まります。通常3回は吐きますが、吐く量は、2回目は半量とだんだん少なくなります。まれに吐くのに時間がかかる(5-10時間後)こともあります。

吐根シロップ、催吐剤イペカック(トコン)Ipecacuanha
トコン(吐根)は南アメリカの先住民の間で古くから催吐剤としてやアメーバ赤痢の治療に使用されていた薬草です。種小名の「ipecacuanha」は、トゥピ族の「吐き気を催す草」を意味する現地名をポルトガル語化したものです。

諸外国では誤飲時の応急処置用としてトコンシロップが家庭に常備されておりましたが、日本ではツムラから2002年11月26日に発売されるも、その約9年後の2012年1月11日に販売中止になっています。米国では古くから使用されていましたが、最後まで販売を続けていたHumco社とPaddock Laboratories社の2社が原材料の不足と生産コスト上昇のため2010年に販売中止となっています。

適正使用この製剤は指示された通りにのみ服用することが重要です。意識のない犬猫には与えないでください。また製品は、牛乳、乳製品、炭酸飲料等と一緒に使用しません。

 

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日本動物病院福祉協会(JAHA)の獣医内科認定医 
特定非営利活動法人 小動物疾患研究所 理事長
三鷹獣医科グループ 院長 小宮山典寛 
2021.2.1
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