◆認知症とはどんな病気ですか? |
この病気は脳の老化と関係している病気です。周囲を確認する能力や刺激への反応性が低下する病気です。学習する能力や記憶する能力がだんだん低下します。アルツハイマー病のように、正常な加齢変化とは異なる脳の組織構造と脳内化学物質の変化によって生じる病気です。認知能力の低下によって行動変化が認められるようになると、だんだん飼い主さんを認識できなくなります。
|
|
◆認知症にはどんな犬が罹りやすいですか |
多くが日本犬(約80%)ですが、とりわけ柴犬が多く約30%を占めています。諸外国では、日本犬、なかでも柴犬はあまりいないためか、罹りやすい犬猫のことはあまり取り沙汰されていません。
我が国では小型犬が多いので、例えばヨークシャテリア、シーズー、トイプードルに若干多く認められるようです。猫においては罹りやすい猫種はあまりないようです。
|
|
◆認知症は何歳から発病しますか? |
大型犬は早いと6-7歳から、一般的には10歳ぐらいからなので、比較的早くから症状が現れる傾向があるといえます。小型犬は早いと12歳ぐらいからで一般的には15-16歳前後で起こるようです。猫はだいたい11-14歳頃から最初の症状が出始めて15歳以上約半数でより判る症状となる場合が多いようです。猫は発症が犬より少し遅い傾向があるようですが、まれに高齢前に発症することもあります。
注意すべきは柴犬系で理想的には7-8歳の頃から認知症に対する食餌療法を始めることをお勧めします。他の犬種の場合は10歳頃から食餌療法を考えるのもよいと思います。
この病気を予防する「オメガ3の脂肪酸」を特化した食餌は、高齢に多い関節炎等にも作用しますので、認知症だけでなく他の病気の予防や発症を遅らせる効果も期待できるからです。
|
|
◆犬の認知症の主な症状7つ |
最初に目立つ症状として、トイレがうまくできなることです。
●過去に覚えていた記憶(トイレの行動、行い、躾)を忘れる。
●不適切な発声(例えば、夜、大声で鳴く)。
●飼い主に対する認識やその関係性に対する喪失。
●睡眠時間や覚醒の時間が変化し、普段寝ない時間に寝たり起きたりする。
●慢性的で、進行性の異常行動がみられる。
●見当識障害(入口出口を間違える、よく知った道でも迷うようになる等)。
●視覚、聴覚の低下(刺激に反応しにくい、叉は過敏に反応するようになる)。
※参考文献、内野富弥先生の犬の痴呆症判断基準100をご参照ください。
|
|
◆猫の認知症の主な症状7つ |
●見当識障害(コーナーの隅から出て来ない、食餌をしたのを忘れる等)。
●過去に覚えていた記憶(行動、行い、躾)を忘れる。
●睡眠時間や覚醒の時間が変化し、普段寝ない時間に寝たり起きたりする。
●行動の変化(目的なく徘徊をする、または行動が減少する等)
●今までしていたグルーミングをあまりしなくなる。
●不適切な発声(例えば、大声で夜に鳴く)。
●異常に食欲が増したりする。
|
|
◆認知症の診断について |
この病気の診断は、問題行動の把握とその他の似た病気の除外診断になります。問題行動の把握のために、飼い主の方には、愛犬愛猫の問題行動を携帯電話等で動画撮影して、是非、お見せいただくようお願いします。100の言葉より実際の動画の方が症状の把握が出来ます。(「撮影動画持参のすすめ!」参照)
まずは詳細な病歴に関する聞き取りを行います。次に身体検査、特にこの病気は神経病と間違いやすいので、神経病があるかないかを判定する神経検査(視覚、聴覚を含む)を行います。その他血液検査、尿検査、X線検査等も行います。特異的な診断法は存在しません。
犬において認知症に似た症状を示す病気には、甲状腺機能低下症、その他の代謝性の疾患、脳腫瘍、脳炎、水頭症、腎臓病、各種の整形外科疾患、高血圧関連等があります。
但しCT、MRI検査では、脳皮質の減少と脳萎縮による側脳室の拡大所見が認められることがあります。特にこれらの検査は脳腫瘍との鑑別に有効です。より積極的に診断するためには、CTでの無麻酔検査(16列以上のCTで特殊な保定具が必要)が可能な動物病院での診察をお勧めします。
猫のこの病気は、犬ほどまだ解明されていない点や症状が似た病気が犬以上に多く存在することから診断が難しくなります。その代表的な病気に猫の骨関節炎があります。特に病気がまだ軽い場合にはより難しくなります。また治療においても同じ薬でどちらの病気に対しても効果が出るのでより判りにくくなります。
その他の似た症状の猫の病気には、全身性の高血圧、甲状腺機能亢進症、慢性腎疾患、糖尿病、尿路感染症、消化器疾患、肝臓疾患、神経疾患、脳腫瘍、感染症、視覚、聴覚疾患、疼痛疾患等があります。
|
|
◆認知症は予防出来ますか? |
まだはっきりとした方法がわからないのが現状です。
認知症と診断されなくてもその疑いがある場合の予防のために応用できると思われる事柄は「認知症と診断されたら」に記しましたので、お読みください。また、認知症の予防や治療のみに限った事柄ではありませんが、すべての犬猫の飼育法の根底にある「人と動物の良い関係」すなわち「人と動物の絆を深める」ということが認知症の予防・治療にも繋がると考えます。
|
|
◆認知症と診断されたら |
まずは現在の認知症の状態を把握することが重要です。どの程度の認知症のレベルにあるかということです。また同時に本来のその犬猫の性格の問題や、今現実に起こっている問題を把握します。
< 対応例 >
視覚や聴覚の問題が強く表れている場合は、急に触ったりすると、刺激に対する反応が過敏になることもあるので、驚いて噛み付いたりすることもあります。まずは気づく程度の大きさで声をかけるなり、手を叩くなりの合図をして、予め相手が触られるのを分かるように仕向けます。
・治療を中断すると、殆どがまた再発します。
・何かのストレスにさらされると容態が悪化することがあります。
・「体や精神を刺激する」「安全な運動」「飼い主との遊び」が進行を遅くすることがあります。
人間の認知症の介護の専門家であるフランス人イヴジネスト(ユマニチュードHumanitudeの開発者)は認知症の患者に接する時に大切なのは「見つめる」「話しかける」「触れる」「寝たきりにしない」の4つのポイントを挙げていますが、これらは十分に犬猫の医療にも応用が可能だと思われます。
このような行動学の分野は、人間の医学と動物の医学の応用が盛んな分野であり、ある病気は人間の治療を動物の治療に、またある病気は動物の治療が人間の治療の参考(分離不安等)にされているようです。
認知症と診断されたら、又は診断されなくても疑いがある場合や予防のためにも応用できると思われる方法には以下のようなものがあります。
要約すると、動物がいろいろと「頭を働かせる」ようにしむけるということです。
●コミュニケーションの時間を増やすと、人間と犬猫お互いに脳が活性化されます。
●定期的な適度の運動、日光浴、シャンプーも心がけること。
●優しく話しながら、マッサージをする(運動療法の代わりにもなる)。
●眼を見て、話しかけ、名前を呼びながら、優しく頭から腰まで触れる。
●勤めて躾を心がける。座れ、待て、伏せ、来い、付け(後へ)を覚えさせる。
●栄養管理に心掛ける。良質のフードを適正量与え、大食させない、おやつは少量。
●肥満を防止する。毎週の体重管理、運動と食餌量を考える。
●特に高齢であれば甲状腺機能の検査を受ける(犬は低下、猫は亢進)。
●飼育の環境を考える(安全な場所、危険物の除去、トイレの位置)。
●清潔な環境での飼育(ゴミ、ダニ等の除去、清浄機の使用)。
●排便を管理(回数は犬2.5回、猫1-2回、量、形、臭い)して清潔に保つ。
●排尿を管理(回数は犬猫2-3回)姿勢、動作、動き等を観察する。
●よい刺激となるので、可能であれば他の元気な犬猫と遊ばせる。
●何か新しいことを覚えさせる、安全な玩具を与え考えさせる。
●時々、散歩コースを変えてみる、色々な帰り道を覚えさせる。
●家の中では、遊びに色々な変化を加えてみる。
●以前言われた「ペットにペットを」。共にコミニケーションを取らせ脳を刺激させ合う。
●睡眠を管理する(安全でくつろぎやすい場所)姿勢、動作、動き等を観察する。
●元気で明るく犬猫に接することも必要。すぐに感じ取るため。
●フードに脂肪酸が不足している場合には不定期でも投与することをお勧めします。
●定期的な年齢を考慮した健康診断を受けるように心掛ける。 |
|
◆認知症の治療について |
医薬品(セレギリン、ドネペジル、抑肝散、ベンゾジアゼピン等)であれ、各種の抗酸化作用を特別に強化した食餌、各種のサプリメント(アンチノール、メイベットDC、アクティベート、オメガ3脂肪酸、ピラセタム、銀杏、SAMe、メラトニン、ホスファチジルセリン、フェルガードD、ホモトキシコロジー、ホメオパシー等)であれ、これらは酸化ストレスと炎症を軽減、またはミトコンドリアの神経機能を改善するなど、脳の血流増加等、様々なメカニズムによって、この病気の進行を遅らせることが可能です。
これらの治療薬は認知障害の程度、および臨床徴候の改善の程度によって種類が決まってきます。その前に、まずは食餌療法から始め、いくつかの方法を組み合わせて治療していきますが、症状がより進めば食餌やサプリメントのみでは少しの改善しか認められなくなります。次に食餌とサプリメントと医薬品を組み合わせれば最大の効果が望めることになりますが、それでも重度の例であれば一定の改善は認められても発症前の状態に戻すことは難しいようです。
医薬品では、セレギリン(モノアミン酸化酵素B-MAOB-阻害薬)は不安の強い場合に使用、不安よりも認知障害が強い場合は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のフルオキセチン(米国名 Prozac )の使用を考慮する傾向にあります。「不安が時々である」ような軽度の場合は、ベンゾジアゼピンを臨機応変に使用し、毎日セレギリンを使用したりすることもあります。
重要なことは早期にこの病気を見つけ出し、早めに予防策を取ることです。初期であれば、各種のサプリメントに、抗酸化作用を特別に強化したシニアプラス(以前は療法食のB/Dとして販売)のような食餌を与えます。それらに少量(1-2ml)の良質なココナツオイルを加えて与えるのみでも、ある程度の治療と予防的な効果が期待できます。
治療が開始されたら、2週間後と1ヶ月後に再検査し、その後は最低でも6ヶ月毎の検査が必要となります。治療の最終目的は、飼い主さんと愛犬愛猫の生活の質及び、飼い主さんと愛犬愛猫の関わり方の最適化を探り、その状態を維持することです。
|
|
◆認知症の予後について |
この病気は慢性で進行性の病気です。症状はだんだん悪化していく傾向にあります。食餌や薬剤はその進行を抑える働きをしますが、完治という領域まではとても無理のようです。ですから早期発見、早期治療が重要となります。
|
|
◆認知症の診断、治療にあたって動物病院を選ぶ際の基準はありますか? |
この病気はどこの動物病院でも同じように、診断や治療ができるわけではありません。比較的最近に判明した病気なので、まだこの病気に関心がない、診断や治療方法を知らない動物病院が多く存在します。関心がなければ、情報も収集できず、診断をしたことがなければ、治療薬も準備していないと思われるからです。
飼い主の方が、愛犬が最近トイレがうまくできなくなったとの理由で、動物病院に相談に行き、「うちの犬は認知症ではないですか?」と尋ねたのにもかかわらず、鑑別診断が判らず「犬は歳をとれば、大なり小なりそのようになる、これは老化のサインです」と言われて、我慢を強いられたという話が多少なりとも存在しています。老化の症状と軽い病気の症状は、時として判断がむずかしい時があります。
このような病気で動物病院にかかるには、ちょっとしたコツがあります。
病院に行く前に、例えば「12歳の柴犬ですけど、少し行動がおかしいようで、認知症かもしれないと思うのですが、そちらの病院で、認知症の病気は受け入れられますか?」とまずは電話で尋ねるのです。もし病院側が知らない場合は予めその病気に対して調べることができるので、少しは対応が違うかもしれません。そうでないと精神安定剤を処方されるぐらいでは生活の質はなかなか保てません。
この病気の症状の進んだ犬は、夜鳴きすることがあり、深夜に近所迷惑になるので困った飼い主さんが愛犬を夜間の動物病院に担ぎ込むことがあります。症状が進んでくると朝まで待てない状況に見舞われることもあると思いますので、対応してくれる夜間診療の動物病院を探しておくことをお勧めします。できれば一度は昼間にその夜間病院の診察を受けておくと夜間もよりスムーズに診察が受けられると思います。
犬猫が10歳も過ぎ、特別な病気を持っていなかったら、どのような食餌を与えたらよいか掛かりつけの病院に尋ねてみてください。そこで肥満なら高齢用のダイエット食、関節炎があれば痛みと炎症に作用する食餌、認知症の兆候があれば抗酸化作用を特別に強化した食餌をとるようにとの説明をしてくれる動物病院ならよいでしょう。
地域によってはむずかしいかもしれませんが、できればこの病気に理解があり、無麻酔でCTが取れる動物病院が最も理想的と思われます。
|
|
References:
-
Neilson JC, Hart BL, Ruehl WW: Cited in Hart BL, Hart LA: Selecting, raising and caring for dogs to avoid problem aggression. JAVMA, 210(8):1129-1134; 1997.
-
Ruehl WW, Hart BL: Canine Cognitive Dysfunction. In Psychopharmacology of Animal Behavior Disorders (Dodman NH, Schuster L, eds.). Boston: Blackwell Scientific, 1998; pp. 283-304.
-
Proprietary market research, 1998. Pet owner sample size: 255. Data on file, Zoetis.
-
JC Neilson, BL Hart, KD :Prevalence of behavioral changes associated with age-related cognitive impairment in dogs, 2001 - Am Vet Med Ass.
-
Gary M Landsberg, Cognitive Dysfunction in Cats: A Syndrome we Used to Dismiss as 'Old Age' Journal of Feline Medicine and Surgery November 1, 2010 12: 837-848
-
Karen L., Overall Clinical features and outcome in dogs and cats with obsessive-compulsive disorder: 126 cases (1989?2000),JAVMA
-
G Landsberg, Therapeutic agents for the treatment of cognitive dysfunction syndrome in senior dogs, Progress in Neuro-Psychopharmacology, 2005,Elsevier.
-
Danielle Gunn-Moore, Geriatric Cats and Cognitive Dysfunction Syndrome World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings, 2008
|