あなたの愛犬は音に対して、どのような反応をしますか?
音に対する反応に異常さを感じなければよいのですが、とても敏感な場合があります。音に対して恐怖を感じる場合があるのです。そのような場合の反応として「人に寄り添う、逃げる、震える、落ち着きがない、無意識に排尿する、よだれを垂らす、暗い所に隠れる、より重度の場合には嘔吐や下痢する」などの、恐怖行動が認められることがあります。より困るのは、恐怖が引き金となって「攻撃行動」を誘発することです。
犬の音に対する恐怖行動の原因はなんでしょうか?
ある程度は持って生まれた遺伝的な恐怖行動もあるでしょう。ですが、多くは過去の体験から学習されたものです。飼い主が留守をしていて、ひとりでいる時に「突然の雷鳴」「突然の花火の音」等、予期せず不快な刺激を体験してしまった結果なのです。
恐怖を感じる音にもいろいろあります。
「雷鳴、花火、掃除機、洗濯器、工事の騒音、バイクの騒音、玩具からの音」等があげられるでしょう。
生まれて1〜3ヶ月頃の体験が大きく影響すると言われおり、この頃に音に対しての接触の機会が少ないと音を怖がります。子供の時に経験したことのないような見慣れないもの、耳慣れない音に対して恐怖を覚えるようです。その後、その恐怖心は飼い主の誤った対応(そのまま叱る)などにより強化される場合があります。
この犬の音(雷、花火等)に対する恐怖症については、犬の問題行動の一つと考えられています。分離不安症、攻撃行動等と同じ問題です。
問題の克服には、犬の生活環境や飼い主の方の対応法、犬の性格によっても違ってきますが、手間と時間がかかる場合があります。一般的には飼い主の方の「しつけ」が大きく作用します。短期間の改善には「基本的な服従訓練“来い”“座れ”“待て”の3つと、少し難しい“伏せ”“伏せて待て”の5つ」が必要となります。
犬の音(雷、花火等)に対する恐怖症について、飼い主の方に注意していただきたい点があります。音で怖がっている愛犬が飼い主に寄って来ることがありますが、心を鬼にして無視する態度が必要です。この時に、撫でたり、話しかけたり、見つめたりしてはいけません。一見可哀想に感じますが、逆なのです。優しい言葉をかけたり撫でたりして犬の心を落ち着かせたいと思うでしょうが、これをすると犬は「怖がれば、優しくしてくれる」と解釈して、より怖がりが強くなります。これではいつになっても治りません。
愛犬の音に対する恐怖症の症状を飼い主の方が認識したら、まずは専門性のある動物病院に行き内科的な疾患があるか調べることから始めましょう。その理由は、内科的な病気に罹っていて似たような症状が出ている可能性もあるからです。また、行動上の問題であり薬物療法を行う場合、治療が長期に渡ることがあるので、各臓器の関係をあらかじめ調べておくことが望ましいからです。
内科的な病気が関係していなければ、行動上の問題として対処します。行動上の問題はすべての動物病院で対処できるとは限りませんので、各々の動物病院でどの程度までできるか尋ねるとよいでしょう。
犬の音に対する恐怖症のごく簡単な対処方法としての私のお勧めは、その音の聞こえる時に「犬に耳栓をする」ことです。一般には脱脂綿を耳に詰めます。但し耳に外耳炎等の病気がない場合のみに適応となります。後で必ず取ることを忘れないでくださいね。 この簡単な方法は、画期的効果は望めませんが、音が聞こえづらくなる分だけ恐怖を抑えられます。このことからも分かるように、犬が高齢なると耳がだんだんと遠くなるので恐怖症も少し軽減するようです。
また急場しのぎの一時的な方法となりますが、例えば「花火大会」等のように日時が分かっている場合には、その前に動物病院に行き即効性のある「精神安定剤」を処方してもらう方法もあります。特に「基本的な服従訓練」ができていない犬に対しては、少しでも怖がらないようにするためやむを得ない方法と思われます。あくまでも一時的なやむを得ない場合の方法だということをお忘れなく。
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◇約38年前、ロサンゼルスの動物病院でのエピソード。
私が動物病院で研修を始めた頃のことです。
ある日、看護士さんが沢山の薬を処方しているのを見ました。何をしているのか尋ねると「明日は、この地域の花火大会が開催されるのですが、犬は花火の音を嫌がるでしょう。だから、多くの人が精神安定剤を取りに来るので準備しているんですよ」と言い「日本も花火は盛んだから、同じでしょう?」と反対に尋ねられました。
「そのような話は聞いたことがないです」と答えると、看護師さんが不思議そうな顔をしていたのが印象的でした。
日本では「花火大会には浴衣」ですが、米国では「花火大会には犬用精神安定剤」といったところでしょうか。
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まずは、犬の音に対する恐怖症について認識したら、
●より専門性のある動物病院に行って内科的な疾患があるか調べましょう。
内科的な病気がなければ、行動上の問題として対処します。
●行動上の問題と分かったら、動物病院でどの程度まで対応できるか尋ねましょう。
また、最近では様々な所で「しつけ教室」が行われているので、それらを利用することもよい方法です。
もし飼い主の方が自身で積極的に治療しようとするのであれば、以下の方法をお勧めしますが、本来これらは、プロの指導の元に行うのが望ましいことです。
◇少しづつ段階的に音に対して訓練していく方法---。
小さな音から聞かせ始めてだんだん音に慣れさせていきます。
例えば、雷の音を録音して、初めはわずかに聞こえる程度の音で聞かせ、怖がらなければ褒めてあげます。少しづつ音を大きくして徐々に慣れさせます。根気よく毎日訓練します。日常に聞こえる程度の音に慣れたら合格です。
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