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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

三鷹獣医科グループ「武蔵野動物・レーザー治療センター」

武蔵野動物・外科センター

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●小型犬で後肢をときどき跛行(引きずる)する。
●ときどき後肢を曲げたまま、歩行する
●走りだす時に、後肢を飛び歩くことがある。
●より重度であれば、蟹のような歩き方をする。

1.好発種は?

その原因は殆どの場合先天的で、犬の場合はしばしば両側性(20~25%)に起っています。まれに外傷性でも起りますが、その場合通常は、片側性で起ります。その殆どが内方(側)の脱臼です。雌に1.5倍多いものです。大型犬より小型犬で多く認められます。特に好発種は下記の表の通り認められ、様々な程度(ごく軽度から重度)の歩行異常の原因となります。

【 好 発 種 】

小型犬

ミニチュア・プードル、ヨークシャテリア、 トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、 パピヨン、ペキニーズ 等

大型犬

ラブラドール・レトリバー、チャウチャウ、ロトワイラー、
バーニーズ・マウンテン・ドック、ブルドッグ、
フラットコーテッド・レトリーバー、シベリアン・ハスキー
秋田犬、シャーペイ 等

アビシニアン、バーミーズ 等

特に猫は蹠行姿勢/跛行(せきこう)が認められる場合があります。これはしばしば、猫の糖尿病の症状として間違われます。しかし、猫のアキレス腱の断裂の際も同じ症状となります。犬の場合はしばしば両側性(20~25%)に起っています。まれに外傷性でも起りますが、その場合通常は、片側性で起ります。その殆どが内方(側)の脱臼です。

犬の膝蓋骨脱臼
膝蓋骨「1」が正常の位置 膝蓋骨「5」がずれている
uxating patella - Wikipedia, the free encyclopediaより転載

ここで記載しているのは、断りがない限り内側の脱臼についての記載です。まれに猫でも認められます。これら膝蓋骨脱臼の多くは先天的なもので、発育の途中に起る、骨盤や後肢の形態異常(病的状態)です。膝蓋骨脱臼の外科手術は、多くは骨関節炎と十字靭帯断裂の起こる機会を減少させ、肢の機能の回復と改善、歩行を快適にする目的で行います。

従来は大型犬、超大型犬の膝蓋骨脱臼は外方(側)の膝蓋骨脱臼であるといわれてきましたが、最近の米国の発表は大型犬でも内方が75~80%との報告もあります。特にラブラドール・レトリバー、秋田犬、シベリアン・ハスキーはより多く内方といわれています。我国でもこの大型犬の内方は米国のように増加しているようですが、まだ外方のほうが多いと思います。

外側の脱臼の特徴は、脱臼があっても症状が現れにくい傾向があります。ゆえに症状がすぐにでやすい内方が目立つのかもしれません。また膝蓋骨脱臼は小型犬では症状が現れにくく、大型犬では症状が現れやすいともいえます。

 

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2.要因

膝蓋骨脱臼が起こる要因は、先天的な発育の異常すなわち、解剖的な変形です。まずは骨の異常、筋肉の異常、そして疑われているのがホルモン(成長ホルモン?)の異常です。
また外傷でも起こる場合があります。
その他として、骨折が原因の癒合不全、股関節形成不全、医原性例えば不適切な筋膜の縫合の場合です。


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3.検査と診断、治療法

犬の膝蓋骨脱臼

犬の膝蓋骨脱臼

身体検査では、体重を考慮しながら、筋の萎縮、関節の捻髪音、関節の可動域をよく調べます。そして膝蓋骨の触診(横臥位で脛骨粗面から上にたどる)によってグレード分けを行います。
脱臼を確かめるには、脚を左右に回転しながら膝蓋骨を軽く押します。また高齢犬の大型犬や外傷性の大型犬の膝蓋骨脱臼においては、約15-20%にて同時に前十字靭帯断裂を伴うので注意が必要です。
膝蓋骨脱臼の確認は、動物を横に寝かせ、右手で膝蓋骨を軽く保持しながら、足先を外側(外側脱臼)、内側(内側脱臼)に曲げて脱臼するかで確認します。

犬の膝蓋骨脱臼

膝蓋骨の脱臼の症状によるグレード分け

GⅠ……

膝蓋骨は中央に存在(IN)、指で押すと脱臼するが、自然に中央に整復される(IN)。要するに「ゆるい膝蓋骨」ということである。ときどきの跛行(脚を引きずる)することがある。しかしこれは猫では正常と思われる。通常症状がなければ手術はしない。
   ……IN(内)-IN(内)の関係

GⅡ……

膝蓋骨は中央に存在(IN)、指で押すと脱臼するが、自然に中央に整復されない(OUT)。脱臼の整復は可能である。通常はときどきに跛行するが、痛みはない、脚を曲げた時には、普通に脱臼するが、脚を伸ばした時には通常は整復する(脚を伸ばした時に脱臼することもある)、膝蓋骨は殆ど中央すなわち滑車溝(ミゾ)にあるが、約半分ぐらいは跛行する(脚を引きずるか跳びはねるように歩く)
   ……IN(内)-OUT(外)の関係

GⅢ……

膝蓋骨は殆ど常に脱臼(OUT)している。しかし整復は可能(IN)。膝蓋骨は常に脱臼していて、そのままでは、整復ができない、重度な跛行障害を認める、脚を引きずる又はしゃがんだ姿勢で歩く。すぐにまた再脱臼する。
   ……OUT(外)―IN(内)の関係

GⅣ……

膝蓋骨は殆ど常に脱臼(OUT)している。整復できない(OUT)。高齢の犬の急な悪化は十字靭帯断裂を疑う。重度に骨が変形している。カニのように歩く(脚を伸ばすことができない)のが特徴である。子犬は内反膝(0脚)となる。
    ……OUT(外)― OUT(外)の関係

犬の膝蓋骨脱臼

犬の膝蓋骨脱臼 犬の膝蓋骨脱臼

▲正常な膝、内反膝(0脚)でも外反膝(X脚 Cow Hocked)でもない。

▲我国で最も多い小型犬の膝蓋骨の内側脱臼。内側脱臼のための結果として内反膝(0脚) genu varum(ジヌーベイロ)の位置となる。 弓のように外に曲がる。(Bandy legs がに股)

(Luxating patella Wikipedia,
the Free encyclopediaより転載)

犬の膝蓋骨脱臼

犬の膝蓋骨脱臼

よくある例では、6ヶ月前後の頃に飛び跳ねる様な歩様、カニのような歩き方、片方の足に時々体重をかけない、といった訴えで来院します。時にこの異常は一時的に治まることもあります。膝蓋骨内方脱臼は、急な跛行として来院することもありますが、慢性的になると、前十字靭帯断裂、大腿骨骨頭壊死、脊椎疾患、成長の異常等の鑑別も必要となります。

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4.外科手術について

身体検査において膝蓋骨脱臼が認められることがありますが、まったく無症状の場合もよくあります。通常これらには、獣医師はすぐに手術を勧めません。あまり跳んだり跳ねたりせず、なんとなく激しい運動を嫌がる犬が多いものです。もちろん跛行を始めたら手術が必要となります。

軽い程度(特にGⅠ)の膝蓋骨脱臼を認め症状がまったくない場合に、手術を勧める例外があるか、論議されています。
例えば以下の2つの場合です。

●若令犬で膝蓋骨の位置が前後左右にずれている場合(そのままにすると、筋の拘縮が起るので、5~6ヶ月頃に手術を受けるのが理想的?)
●特に運動を好む中型以上の犬(膝蓋骨によって、滑車が削られて変形する、すると外科手術の効果が限定される)。

しかしながら、これらの問題は未だ論争中のようです。

グレード分けのG1やG2では、小型犬や猫では術者の慣れにもよりますが、左右同時に手術をすることも可能であることが多いです。ですが、すべてではありません。すべてのグレードを平均すると、膝蓋骨脱臼の全体の治癒率は90~94%と発表されていますが、グレードⅣの場合は、2-3回の手術が必要となる場合も考えられます。

グレードによってどんな手術が必要か、あるていどは判定できますが、これはあくまでも目安であり、グレードで手術の方法は判定はできません。各々の症例によって違ってきます。以下はクレードによる手術方法の大まかな目安です。

GⅠ……

脛骨粗面転位術?

GⅡ……

滑車形成術、脛骨粗面転位術

GⅢ……

滑車形成術、脛骨粗面転位術、内側の解離、 外側支帯の縫縮術

GⅣ……

滑車形成術、脛骨粗面転位術、内側の解離、外側支帯の縫縮術、大腿骨(DFO)又脛骨骨切り術(PTO)、膝蓋骨吊り縫合

Four in oneと言うのは、4つで1つ、と言う意味で、上記の4つの手術を組み合わせて同時に行い、1つの術式にする、という意味です。しかしこれも、いつもすべて行うというものではありません。

犬の膝蓋骨脱臼
▲滑車溝が浅いGⅣのマルチーズ      ▲滑車の溝を彫る形成術

犬の膝蓋骨脱臼

何れにしても膝蓋骨脱臼の手術を行う時には、各々その関係する解剖を知ることから始めると良いでしょう。特に重要なのは、縫工筋と大腿四頭筋群です。大腿四頭筋とは大腿の前面にある大きな筋肉で、大腿骨の周囲にある筋肉です。これは大腿骨の周囲に存在する筋肉の総称です。大腿四頭筋には大腿直筋、外側広筋、内側広筋、中間広筋が含まれます。これに対して、ハムストリングスとは大腿の後の筋肉のことで、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋をいいます。これらのハムストリングスは大腿四頭筋とは主働筋・拮抗筋の関係にあります。

滑車形成術……
(Trochleoplasty)

滑車溝を深くして膝蓋骨が外れにくくする術式で、いろいろな方法がある。膝蓋骨は少なくても半分は溝に入らなければならないが、それ以上は膝蓋靭帯があるので、いくら溝を深くしても無駄である。あくまでもこれは膝蓋骨が滑車溝の上にないと機能しないことを自覚する。膝蓋骨が外れていればいくら溝を深くしても機能しない。この手術には主に以下の4つの手術がある。どこで脱臼するかも重要である。

滑車溝形成術……
(Trochlear sulcoplasty)

これには滑車溝を単に削るのみの方法で簡単であるが、関節軟骨が消失して、骨髄(海綿骨)のみになるので、膝蓋骨が磨耗(関節軟骨がないから)されることがある。しかし最後には多くは繊維軟骨化されると思われ、小型犬でのみ許容できる手術であろうが、できれば膝の機能を考えれば、関節軟骨は残したいものである。

滑車軟骨形成術 ……
(Trochlea chondropasty)

これは最高でも10ヶ月までの子犬、通常は4~6ヶ月に適応するが実地はまれと言われる。軟骨プラップ法である。軟骨は成長すると薄くなり、その下に付着するので、フラップ自体を剥がすことが難しくなる。10ヶ月までなら、軟骨を剥がせ、その下を削りまたかぶせることができる。

くさび型
陥没形成術……
(Trochlear wedge recession)

特に小型成犬に多く使用されるテクニックで、滑車溝を三角形に切り取る術式で滑車溝を深くする方法である。
そして三角の軟骨を下の部分を削って戻す。

犬の膝蓋骨脱臼

ブロック型
陥没形成術……
(Trochlear block recession)

特に中型犬以上によく使用されるテクニックで、滑車溝を四角に切り取り、骨髄を削り取る術式で滑車溝を深くする方法ある。ブロック状に切る場合に重要なことは、切る幅より小さい骨切りのみを使用するここと、切り始めたら途中で角度を変えないこと(途中で切れる)が必要である。そして深く削り四角な軟骨を戻す。概して、くさび型より膝蓋骨は収まり易いものである。

脛骨粗面転位術……
(TTT)
Tibial tuberosity transposition.

脛骨の粗面を移動する、脛骨粗面転位術。
脛骨粗面を外側(大腿骨と脛骨の整列を調べなから)に転位して固定する。その際に脛骨粗面の遠位端は切り離さない。この手術の目的は大腿四頭筋群の整列を正しくするための手術である。どの位移動するかは、整列を考えて決める(脚を曲げ伸ばしして、膝蓋骨が外れない部位)。まれに膝蓋骨が高位置にある場合(Patella alta パテラアルタ)には外側と遠位(下方)に移動して固定する。しかしこの場合は過剰な張力になるために断裂が起ることがあることを知らせておくこと。そのために2-3週間の副子固定が必要である。この移動の固定が手術がうまくいかない原因のひとつである。

関節包の解離
(支帯解放術)…… 
(Retinacular desmotomy)

内方脱臼の場合は、内側の関節包を切って解除するが、それでも不足の場合は、縫工筋をも切って解除するが、それでも不十分な場合は、内側広筋をも切開して解除する。あまり過度にすると外側脱臼を起こすので、一定の幅を保つように縫合糸をかけると良い。外方脱臼の場合は外側広筋と二頭筋の解離をする。

内方脱臼の関節包の
外側筋膜の縫縮術…… 
(Retinacular imbrication)

大腿二頭筋を2-8mm切除して、長時間作用型の吸収糸にて筋膜を並置縫合する。特に中央部をしっかり縫合する。近位部と遠位部は軽く縫合かそのままにする。縫合の強さの決め方は、膝蓋骨が滑車溝を押す力と軟部組織の張力を同じにすることが最終目的である。外方脱臼の場合は外側支帯の縫縮術。

 


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5.難易度の高い手術

最も重度なグレードⅣの膝蓋骨脱臼の中には、大腿骨と脛骨が湾曲、捻転、内転が認められる場合や、膝蓋骨の高位置(ラブラドールレトリバー、秋田犬、シャーペイ等)の場合がありますが、これらは更に難易度が高くなります。これらは手術を行うにしても、若い時に行う程良く、成犬になると骨格が完成してしまい手術はより難しくなります。弱令時(2ヶ月過ぎた頃)の第一回目の手術は、骨や関節は触らずに軟部組織の解放術、縫縮術等に留めますが、手術後のリハビリテーションが重要になります。成犬になって再度の手術が必要となるでしょう。

難易度の高い膝蓋骨脱臼の手術は、数回の手術が必要になる場合もあります。大型犬成犬の内方脱臼は、滑車溝の処置が問題となります。慢性例には、進行性の変形性関節症を認めることがありますが、あまり臨床的な意義はないようです。

◆ 難易度が高いタイプのグレードⅣの膝蓋骨脱臼について

このタイプの手術における成功率は、85-94%前後である. 膝蓋骨が高い位置にある膝蓋高位症(パテラアルタ)は時に両側に脱臼する。このタイプは、ラブラドール・レトリバーに多く認められる。単に滑車溝形成術(膝蓋骨の位置する溝を深くする手術)のみではなかなか解決しない。この解決には脛骨粗面転位術の際に、横及び下によりずら して固定する必要がある。犬では膝蓋骨が低い位置にある膝蓋低位症(パテラバッハ)は殆ど存在しないようである。

 

◆ 膝蓋高位症(パテラアルタ)について

膝蓋骨が高い位置にある場合にX線検査による測定式が存在する。       

膝蓋骨の長さ(PL)

 

 

膝蓋靭帯の長さ(PLL)

 

 

PLL/PL比の計算をする、PLL/PL>1.97

犬 (小型犬)

正常

1.7(平均)

 

MPL

1.87 (平均)

 

Alta

>1.97

参考程度:中・大型犬では2.06以上は内方脱臼のリスクが増加

犬の膝蓋骨脱臼

高齢の膝蓋骨脱臼では前十字靭帯断裂も併発している場合もあります。その際には嚢外固定(外側固定)やTPLO、CBLO等を同時に行う必要があります。

難治例には、上記の4つの手術の他に、

・大腿骨の矯正骨切り術(Femoral osteotomy)
・膝蓋骨支持縫合(Patella sling suture)
・脛骨の矯正骨切り術(Tibial osteotomy)比較的まれ
・嚢外固定(前十字靭帯断裂と同じ術式)
・種子骨と膝蓋骨の縫合術(Rudy法)
・大腿直筋転位術
・膝関節固定術、

等の術式をも組み合わせることになります。

 

 

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6.まれにある問題「手術後は経過良かったが再発(再脱臼)した 」

まれにおきる問題として再脱臼(グレードⅣの15%?)の問題があります。これは、手術後は何とか歩行できるようになるが、その数ヶ月後にまた手術前と同じように跛行する。この問題はまれに起きます。これは回旋の問題とされています。内反(や外反)の修正(骨の角度を変える骨切り術)問題ではなく、要するに肢の向きが真ん中(やや外向きだが)に来ずに内旋する(椅子にのった足先が内向きになることと理解する)ために起こります。

このためによく行われる方法は、Derotational suture(減捻縫合)で対応する方法です。すなわちAntirotational suture(反回旋縫合)である嚢外固定(外側固定)が行われてきました。前十字靭帯断裂の縫合と同じです。いずれの時期に固定が外れますが、その間に固定できれば解決するという論議です。もちろん再度再脱臼する恐れもほんの少しはあるがほとんどは解決します。しかし、この方法は、肢を使用しない時には安定するが、使用した時にはあまり安定しないと言うのが弱点のようです。

この再脱臼の解決のため、最近では膝蓋骨を固定する手技、膝蓋骨支持縫合(Patella sling suture)がより良い方法であろうという推定のもとに、行われ始めつつあります。そして現在の所は良い結果を生んでいるようです。これは大腿骨遠位、尾側(膝蓋骨の尾側)にアンカーを打ち込み、膝蓋骨を前後挟むように縫合糸にてマットレス縫合のように包み、アンカーの穴に通して縫合して固定する方法です。これもあくまでは一時的な固定の目的で行います。またこの方法は、両側に行えば両側性の膝蓋骨脱臼にも適応されます。振り子のように前後には膝蓋骨が動きますが、左右には動きません。この原理は何か種子骨と膝蓋骨の縫合術(Rudy法)と似ているようですが、アンカーを使用する点で違いがあります。

 

犬の膝蓋骨脱臼
▲膝蓋骨支持縫合(Patella sling suture)

犬の膝蓋骨脱臼


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7.手術、術後に重要なこと

膝蓋骨脱臼の手術の最終目的は、大腿四頭筋群の整復(内側脱臼では大腿四頭筋群が内側に変位すると同時に大腿骨の遠位が外側に変位して曲がる、この結果脛骨の変形が起こる)です。このことによって膝蓋骨を滑車溝内に留めおくことを目指します。このことを理解するには、膝蓋骨の動くメカニズムを理解することです。

すなわち大腿四頭筋群(大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋から成る)、膝蓋骨、滑車溝、膝蓋靭帯、脛骨粗面の5つの各々の働きです。また大腿四頭筋群については、股関節形成不全の際に、大腿骨の骨頸(骨頭)切除術を行う場合があります。術後に肢が少し短くなるため、大腿四頭筋群が少し弛緩して、膝蓋骨脱臼が一時的に起こりやすくなりますが、通常は時間と共に修正されます。

また、この大腿四頭筋群の整列の不整合は、慢性的になると前十字靭帯に負荷がかかり、最終的には断裂となることもあります。特に小型犬はそうです。要するに手術で重要なことは、大腿四頭筋群、膝蓋骨、滑車溝、膝蓋靭帯、脛骨粗面の5つが一つのラインとして整列することです。これらの正常の配列が正常な機能を保つためには必要となります。

一方、関節の軟骨に関する考え方は、骨端における成長板の考え方と同じで、圧の増加は成長を阻害し、圧の減少は成長を促進します。ゆえに正常な圧がかからない滑車溝は正常な深さを保つことができないで、異常な発達をします。このことから判ることは、軽度な膝蓋骨脱臼では、膝蓋骨が正常な位置にある時が長いため、滑車溝の深さはあまり浅くないということです。

手術中は常に脚を屈曲させながら、どこの位置で外れるか、膝蓋骨の動きを観察し、外れないような処置(溝の深さ、固定位置、筋の開放、筋の縫縮等)をすることが重要です。そのためには通常、動物の横に立つのではなく後ろの位置で手術を行います。膝蓋骨脱臼は通常、膝関節の伸展時又は伸展から屈曲へ移行するときに起こります。

手術後は圧迫包帯を3-5日間は使用しますが、活動的な犬はもう少し長くなります。 術後管理は、原則として6週間は自宅にて安静にします。
6週間後は、短めの引き綱歩行から始めて、1週間毎に少しずつ長めにします。特に小型犬はなかなか脚を使用したがらない場合があるので注意が必要です。
リハビリテーション(理学療法)としては、もし肢に痛みがなければ、肢を毎日20~30回寝かせた姿勢で曲げ伸ばしを4回行うとよいでしょう。もし手術した肢を使用しない場合は、肢に錘(おもり)を付けて(血圧測定時に巻くマンシェットに鉛や砂を入れて少し重たくする)使用すると効果的なことがあります。機会があれば、泳がすとさらに良いのですが、担当の獣医師又は理学療法士に相談しましょう。引き綱をつけて、ゆっくり歩き始めます。あらゆる機会を通じて脚を使わせる、ボール遊び、散歩等犬と一緒に遊ぶことです。

膝蓋骨脱臼の診断のためのX線検査においてはそのポジショニングも重要です。そのまま寝かせての位置ですと、どうしても膝の部分が浮いてしまいます。これらを避けるためには、上半身を起こして撮影します。またはVD(腰、後肢をうつ伏せの位置)でも有効です。

 

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8.手術計画の一例

犬の膝蓋骨脱臼

最後に上記の犬の膝蓋骨内側の脱臼(グレードⅣ)の手術計画の行程表の1例を示します。(Dr. Brian Beale.の指導による行程表)

①内側の関節包の解離(支帯解放術)
②滑車形成術
③大腿骨脛骨の矯正骨切り術
④膝蓋骨の溝を評価して、脛骨粗面転位術
 又は、脛骨の矯正骨切り術又は、何もしない
⑤膝蓋骨支持縫合又は外側支帯
⑥関節包の外側筋膜の縫縮術

 

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<参考文献>

  • Brian S Beale.How to Succeed in Repairing Medial Patellar Luxation in Dogs and Cats 63rd CVMA Convention 2011 Scientific presentation july6-9.
  • Brinker, Piermattei and Flo's Handbook of Small Animal Orthopedics and Fracture Repair Donald L.Permattei (Author),Gretchen Flo (Author), Charles DeCamp (Author)
  • Clinical results of surgical correction of medial luxation of the patella in dogs. CC Willauer, PB Vasseur - Veterinary Surgery, 1987 Wiley Online Library .J Am Vet Med Assoc 1985; 186:365-9
  • Comparison of trochlear block recession and trochlear wedge recession for canine patellar luxation using a cadaver model AL Johnson, CW Probst, CE Decamp Veterinary 2001 - Wiley Online Library 21: 5–9, 1992
  • Patellar luxation in 70 large breed dogs SE Gibbons, C Macias, MA Tonzing Journal of small 2006 Wiley Online Library In: Canine Surgery. Veterinary Medicine 89, 48-56:
  • Patellar luxation: Pathogenesis and surgical correction G Harasen The Canadian Veterinary Journal, 2006 -ncbi.nlm.nih.gov1993]; Trochlear recession for correction of luxating patella in the dog. J Am Vet Med Assoc. 1993

文責:武蔵野動物・外科センター 菊池里奈 小宮山典寛

 


 



日本動物病院福祉協会認定 日本ベェツグループ 小宮山典寛 2014.1.27
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