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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

大型犬の特徴と病気
(2001/5/25 第1回改訂)

きちんとコントロールできるように
大型犬の胴輪は非常に危険
散歩も安易な気持ちではいけない
骨が急成長する大型犬
代表的な骨の病気―股関節形成不全
カルシウムを余分に与えると危険
汎骨炎(はんこつえん)は時期が来れば治る
2-3歳までは骨の病気が多い
怖い骨の病気―骨肉腫
呼吸器病の犬は夏が危険
高イビキをかく犬は要注意
暑い場所に犬を置かない
心臓の病気の代表は心筋症

きちんとコントロールできるように
まず大型犬の特徴について考えてみましょう。大型犬を飼うには、飼い主の心構えを含め大型犬を受け入れるだけの環境を整える必要があります。

しつけについても大型犬ではより重要となります(小型犬ももちろん重要です)。
大型犬は体が大きく力も強いので、人間がうまく制御できないと、事故に結びつく危険性が高いからです。例えば、同じ咬まれる場合でも、秋田犬とポメラニアンでは程度が非常に違ってきます。ですから、大型犬を飼うときは仔犬のときからきちんとしつける必要があることを心得ていなければなりません。
大型犬の胴輪は非常に危険
散歩時にも注意事項があります。小型犬については、首輪と引き綱をつければそれなりにコントロールはできます。また小型犬の特徴と病気でお話したように、小型犬では気管虚脱など喉の病気が多く、首輪をして散歩をすると喉が圧迫されてゲーゲーすることがあります。そのような場合胴輪をすることがありますが、小型犬であれば胴輪をつけても飼い主はコントロールできるでしょう。

しかし大型犬の場合はよほど訓練されていない限り、
胴輪をつけてコントロールすることは困難で、非常に危険を伴います。たいへん不幸な話ですが、大型犬を散歩させているとき、その犬が電車の踏切を越えてどんどん線路の中へ入っていき、飼い主がいくら引っ張っても犬を抑えられず、飼い主と犬が一緒に命を失ったという事故例もあります。ですから、力の強い男性であっても胴輪をつけた大型犬が行きたい方向へ動いた場合、まずコントロールできないと思ってください。
散歩も安易な気持ちではいけない
どんどん引っ張って前へ進もうとする犬をコントロールするために、内側にスパイク状の金具のついた首輪があます。その首輪をつけていれば、犬は痛いので引っ張るのをやめるという仕組みになっています。良い悪いは別にしても、その使用はあくまで訓練の途中に限定すべきでしょう。

いずれにしても、そのような犬具があるということは、それだけ大型犬の飼育には危険が伴っていることを証明しているといえます。あまり体力のない女性や子供たちはもちろん、男性であっても、大型犬がよほど訓練されていない限り
散歩には危険が伴うことを認識してください。
骨が急成長する大型犬
大型犬の代表的な病気の1つは骨の病気です。小型犬と骨の成長過程が違うからです。

例えば、チワワは成犬になっても体重が2kg程度にしかなりません。これに対して大型犬では成犬の体重が60kgを越えるものもいます。このように、成犬になると小型犬と大型犬では何10倍もの体重差がつきますが、生まれたばかりの赤ちゃんのとき、両者の体重差はそんなに大きくないのです。

つまり、小型犬の体の大きさは赤ちゃんから成犬になるまでさほど変化しないのですが、大型犬の場合は何10倍も大きくなるということです。当然
骨も急激に成長することになります。このことが原因で大型犬には骨の病気が多いといえます。
代表的な骨の病気―股関節形成不全
大型犬の骨の病気で最も代表的なものは股関節形成不全です。これはシェパード・ゴールデンレトリーバー・ラブラドールレトリーバーなど、多くの大型犬に見られます。

大型犬でもグレーハウンドにはこの病気はないはずです。体型的に見ればグレーハウンドに股関節形成不全が起こってしかるべきなのです。それなのにこの病気が見られないのはなぜでしょうか?その理由を理解することが股関節形成不全の予防法を知ることにつながります。

一部の国では、グレーハウンドという犬種は主にレース犬として飼われています。つまり速く走るための犬なのです。そのような犬に股関節形成不全があれば、通常の歩行もおぼつかなくまして速く走れるはずがありません。そのためグレーハウンドをレース犬にしている国では、その病気を持つ犬は繁殖の過程で淘汰され、現在ではいないと言われています。ただしわが国のグレーハウンドの場合は、股関節形成不全がまったくないとは言えないかもしれません。


肥満は骨の病気を悪化させる
股関節形成不全は遺伝性の疾患です。グレーハウンドの例でわかるように、この病気をもつ犬は不妊手術をするなどして繁殖させず、
病気の系統をもたない犬のみを繁殖すべきなのです。これがこの病気の最善の予防法です。そのためには、まず飼い主の皆さんがこの病気について知識をもつことが必要です。

股関節形成不全は1-3歳くらいの犬に発症し、後肢の両脚が貧弱で腰がフラフラしたり、ジャンプできなかったり、痛がって歩きづらいという状態になります。

骨の病気は体重が増加すると発症しやすくなったり悪化したりしますので、必要以上に太らせないことが大切です。他にも心臓病など肥満はさまざまな病気に悪影響を与えますからくれぐれも注意しましょう。
カルシウムを余分に与えると危険
以前、大型犬は骨を早く成長させることが必要だからという理由で、飼い主または一部の獣医師が、余分にカルシウム剤を与えていたことがあります。最近はそのような例はないと思いますが、カルシウムを過剰に与えるとまったく逆効果になりますので注意してください。

現在販売されているほとんどすべてのドッグフードは、カルシウムの必要量を十分に満たしており、通常必要量の2-3倍多く含んでいます。それなのに大型犬だからといってカルシウムをさらに加えるとかえって骨の病気が多く発生します。例えば、股関節形成不全の素因をもった犬にカルシウムを過剰に投与すると、より早く重度の股関節形成不全になることが医学的にも証明されているのです。
汎骨炎(はんこつえん)は時期が来れば治る
汎骨炎は1-3歳くらいまでの犬に発症し、特にシェパードに多く見られるようです。この病気にかかると犬は脚を痛がり、跛行(はこう=片足を引きずって歩くこと)を伴うこともあります。4本の脚すべてを痛がりますが、同時にすべての脚が痛くなるわけではありません。前脚の右を痛がっていたかと思えば、次は後脚の左、その次は右というように、痛がる場所が「飛び火」状態で移動します。

汎骨炎は典型的な発育性の骨の病気で、大体
2-3歳以上になるとほとんど自然に治ってしまうのが特徴です。

診断はレントゲン検査で行います。あまり痛がっていれば鎮痛剤を使うこともありますが、通常は治療してもしなくても一定の年齢になれば治るという不思議な病気です。
2-3歳までは骨の病気が多い
大型犬には他にも関節の病気など骨の発育過程で異常が見られる特殊な病気があります。特に発症例の少ない病気については、その方面に詳しいより専門的な獣医師でないと診断が難しいかもしれません。

しかし先述のように、大型犬は一定期間に骨が急速に成長するため、2-3歳まではいろいろな骨の病気が多発するということを覚えておきましょう。
怖い骨の病気―骨肉腫
骨の病気で怖いのは骨肉腫です。これは骨の腫瘍ですから最も不幸な病気といえます。好発犬種としては、ゴールデンレトリーバーやシェパードがあげられます。

骨肉腫は早く発見して腫瘍のできた脚を断脚し、抗ガン剤で治療するのが最良の方法です。しかし骨肉腫にかかった犬は平均的に寿命がかなり短く、1年以上の生存は比較的難しいといえます。
呼吸器病の犬は夏が危険
チャウチャウ・ボクサー・セントバーナード・オールドイングリッシュシープドッグ・ピレニアンマウンテンドッグなどの大型犬が、ゼイゼイと呼吸しているのを見たことがあると思います。特に比較的頭の短い犬や、本来は寒い地域の飼育に適した犬は、呼吸器の病気にかかりやすいといえます。このような事情から、大型犬における呼吸器の病気のほとんどは、その犬が苦手とする夏の暑い時期に起こります

例えばチャウチャウの死亡率は夏の暑い時期に高く、これは統計的にも明らかです。真夏に突然チャウチャウが死んでしまったという話も聞きます。しかし後述する予防法を実行すれば、動物を危険から守ることがかなりできますから、必要以上に怖れることはありません。

チャウチャウに限らず、暑い日の車中に犬を閉じ込めておくと、熱中症(熱射病のようなもの)になり、呼吸不全を起こして亡くなります。もちろん、日の当たる場所では真夏でなくても車の中は暑くなりますから犬を閉じ込めておくのは禁物です。
高イビキをかく犬は要注意
大型犬が寝ているときに高イビキをかく場合、それなりの呼吸障害をもっていることが考えられます。最近の獣医学では、このような呼吸障害を手術などの積極的な医療によって治すことができます。ただし、呼吸障害のある犬は麻酔をかけるときに危険が伴います。そのため、動物病院では通常これらの犬に麻酔をかけるとき、気管チューブというものを入れて気管を確保します。しかし気管チューブを入れている間はいいとしても、麻酔から覚めて気管チューブを抜く時期が難しいのです。気管チューブを抜いた後、動物の呼吸がすぐ止まってしまうこともあり得るからです。

あなたの
大型犬のイビキがより高くなった場合、それなりに専門的な病院で相談なさったほうがいいでしょう。また、水を飲んだ後にゲーゲーと苦しそうにすることが多くなった場合、呼吸器あるいは心臓の病気の前兆と考えてください。
暑い場所に犬を置かない
呼吸器の病気を予防するにはまず太らせないことが大切です。

暑い環境に置かないことも非常に重要です。室内で飼っているのであれば、夏は犬のいる場所にクーラーをかける必要もあるでしょう。外で飼っている場合は、風通しのよいところに犬を置いたり、日陰をつくったり、周りの温度を上げないために水をまいたりします。

また、
いつでも新鮮な水が飲めるようにしておくことも大事です。動物は喉に何らかの異常を感じれば、すぐに水を飲んで呼吸をしやすくしようとするからです。
心臓の病気の代表は心筋症

小型犬の代表的な心臓病といえば心臓弁膜症ですが、大型犬の場合は拡張期性心筋症です

私がアメリカで犬の心臓病について学んだとき、心臓病の徴候がある犬の場合、「その犬を片手で持つことができれば弁膜の障害、両手でしか持つことができなければ心筋症」と教わりました。わが国ではそれほど多くはないのですが、ボクサーやドーベルマンはかなりこの病気にかかる傾向があります。

心筋症は心臓の筋肉の病気です。症状としては、呼吸が苦しくなり、咳をしたりやせてきたりします。この病気の診断と治療は、それなりに専門的な病院でないとかなり難しいでしょう。


突然死の原因となる心筋症
大型犬が前触れもなく突然に死亡したという話を聞くことがあります。前述のように呼吸不全で亡くなることもありますが、心筋症が原因の場合もあります。

突然死の原因となる心筋症は、拡張期性心筋症より
肥大性心筋症のほうが多いようです。これは珍しいタイプの心筋症でやはり遺伝性の疾患です。

このように、大型犬に特徴的な病気はいろいろありますが、病気は何といっても予防と早期発見が1番です。大型犬は小型犬より寿命が短く、13歳を越えれば長生きしたといえるでしょう。飼い主の皆さんが病気について知識をもち、愛犬の健康な生活を守ってあげてください。

※大型犬の飼い主の方、こちらも是非お読みください!

犬の胃捻転・拡張症候群(特に大型犬)について
―Canine Gastric Ditation Vuluvs (GDV)―

この病気は大型犬の死亡原因の第2位を占めている恐ろしい病気ですが、あらかじめ知っておくことで、多少なりともその発見を早めたり、発症を抑えることが可能な場合があります。ですから大型犬の飼い主の方には、是非知っておいていただきたいのです。