■小型犬は事故に遭いやすい |
小型犬の病気について説明する前に小型犬の特徴を考えてみましょう。
まず小型犬は体が小さく軽いので、飼い主に抱かれる機会が当然多くなります。そのために小型犬の事故の発生率が高くなることがあります。例えば、小型犬を抱いていて飼い主が不注意で落としてしまったり、抱いたまま飼い主が転んでしまうことがあります。そうすると犬がケガをしてしまいます。移動の際不安定な状態で自転車に乗せ、犬が暴れて自転車から落ちることもあります。バスケットなどに入れずに犬をそのまま自転車に乗せるのは非常に危険ですからやめるべきです。
また抱いているときに暴れたりしないようにきちんとしつける必要があります。 |
■大型犬に襲われることがある |
体が大きく力の強い大型犬に比べれば、小型犬はコントロールしやすく散歩も比較的楽にできます。けれども散歩のときなどに大型犬に襲われる心配も否定できません。
アメリカでは、ドッグパークやドッグビーチという犬専用の公園やビーチがあります。日本ではまだそのような設備がないようですが、特に犬の集まる場所では注意が必要です。自分の犬に注意していても、引き綱をつけていないよその犬に襲われることもあります。
アメリカの獣医師の間では、小型犬が大型犬に襲われていろいろ被害を受けることを「大型犬―小型犬症候群」と呼ぶこともあるくらいです。ですから散歩の際にはどの犬も必ず引き綱を付けることが重要です。 |
■後脚がマヒすることもある椎間板ヘルニア |
小型犬に多い病気については、やはりその体型に関係する病気が考えられます。
例えば、ダックスフンドのように脚が短く胴が長い犬の場合、腰の病気が多く発症します。胴が非常に長いため腰に負担がかかるのです。代表的な腰の病気は椎間板ヘルニアです。この病気にかかると後ろ脚が完全にマヒし立たなくなることがあります。シーズー・チン・ペキニーズなどにもこの病気が見られます。
大型犬については、よほどひどい骨折や脱臼をすることがない限り、そのように後肢がマヒすることはありませんが、骨が変形し後肢が弱くなることはしばしば見られます。 |
■小型犬は呼吸の回数が多い |
中型犬に比べると小型犬では呼吸器の病気がかなり多くなります。犬種にもよりますが、小型犬は比較的呼吸の回数が多いからです。
短頭種と呼ばれる頭の短い犬がいます。例えばチン・キャバリア・シーズーなどは代表的な小型犬の短頭種で、それらの犬は寝ているときある程度イビキをかくのが普通です。イビキの原因は、口の中の軟口蓋という部分が大きくなってくるからです。
しかし、例えばポメラニアンがいつもイビキをかくようであれば、やはり異常です。詳しく言うと、7-8歳くらいまでの健康な犬はほとんどイビキをかきません。8-10歳以上になると少しずつイビキをかくことがあり、呼吸器病も当然多くなります。 |
■短頭種以外のイビキは異常 |
小型犬の飼い主は自分の犬が寝ているときにイビキをかくかどうか注意してください。短頭種以外の犬がイビキをかくことは異常です。若いときはイビキをかかなかったのに高齢になってかくようになった場合、そのときから病気が発症していると考えていいでしょう。
この病気は最終的に手術で治しますが、それなりの特殊な技術が必要なので、その方面に詳しい獣医師でないと手術はできないかもしれません。 |
■軽い刺激で咳をする場合は要注意 |
小型犬に多い呼吸器の病気に気管虚脱があります。これは気管の一部が細くなってしまう病気です。生まれつき気管が小さい(未形成な)場合もまれにありますが、通常は8歳くらいから発症します。好発犬種はポメラニアン・マルチーズ・ヨーキーなどで、この気管虚脱を起こすとよく咳をします。
動物病院で診断する場合、レントゲン等いろいろな検査方法がありますが、飼い主が簡単にこの病気かどうかを調べる方法があります。それは犬の喉を少し刺激してみることです。刺激すると通常は1-2回軽い咳をするのですが、5-6回も続けて咳をする場合、この病気が疑われます。
散歩中の犬が自分の好きな方向に行こうとして飼い主を引っ張るとき、首輪で喉が締めつけられゲーゲーすることがありますがそれと同じことです。首輪で強く喉を締めつけられれば、多くの犬はゲーゲーしますが、軽い刺激で咳が連続的に出れば気管虚脱の可能性があります。
これも最終的には手術によって治すことが多いのですが、手術方法はかなり特殊で難しい場合が多いので、それなりの専門的な病院でないと難しいでしょう。 |
■まばたきの回数が少ないと眼病にかかりやすい |
眼が比較的大きい小型犬の場合、眼の病気が多くなります。例えば、短頭種の犬は眼が大きく、ペキニーズ・チン・シーズー・キャバリアなどの犬種があげられます。
眼の大きい犬が眼の病気にかかりやすいのは、大きいので傷つきやすいからでもありますが、まばたきの回数が少ないからでもあります。眼の大きい犬は他の犬に比べ、まなたきの回数が半分以下なのです。まばたきは車のワイパーと同じ働きをしています。つまりまばたきによって眼を洗っているのです。
私たち人間はパソコンに向かい合っていると眼が疲れます。紙に印刷された本を読むときに比べ、パソコンの画面を見ていると眼が非常に疲れてしまいます。人間の眼科医によると、パソコンの画面を見ているときのまばたきの回数は、通常の半分以下となるとのことです。
最近のアメリカでは、例えば不妊手術のため全身麻酔をかける際などに、一緒に眼のサイズを縮める手術を受けることを積極的に勧める獣医師もいるようです。そうすることによって眼の大きい犬種の眼の病気が非常に少なくなるといわれています。 |
■8歳を過ぎると心臓弁膜症が起こりやすい |
多くの小型犬は、大体8歳以上になると心臓病にかかる確率が高くなります。
中でも多いのは心臓の弁膜の病気です。これは、弁膜が変性して心臓の血液が逆流してしまう病気です。特に僧帽弁と三尖弁が冒されやすくなります。心臓の音を聞くと、血液が逆流している場所で「ザーッ、ザーッ」という雑音が認められます。
特に小型犬の場合、8歳を過ぎたら定期的に心臓の検査を受けることをお勧めします(半年ごとに受けるのが理想的)。
通常心臓病の最初のサインは咳、特に空咳です。喉に骨のようなものが刺さって、それを吐き出そうとでもするようにゲーゲーという苦しそうな咳です。もし動物がこのような咳をしたら動物病院で相談してください。あまり心臓病に関心をもたない病院では、そのまま様子を見るように言うかもしれません。そのような場合は別の病院で相談したほうが良いでしょう。 |
■膝蓋骨(しつがいこつ)の病気 |
小型犬に多発する膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼も小型犬の代表的な病気として真っ先にあげられるでしょう。ポメラニアン・マルチーズ・ヨーキー・シーズー・チンなどすべての小型犬に多発します。
膝蓋骨脱臼には、膝蓋骨(膝のお皿)が内側にずれる内方脱臼と、逆に外側にずれる外方脱臼があります。
従来、小型犬の膝蓋骨脱臼は内方脱臼といって膝蓋骨が内側に滑り、大型犬では外側に滑ることが多いといわれてきましたが、大型犬の内方脱臼もかなりあるようです。
この病気が重症になると犬は跛行(はこう=片足を引きずって歩くこと)します。後ろ脚をどこかにちょっとぶつけたりするとお皿が内側にずれてしまうのです。
膝蓋骨脱臼の簡単な矯正法
後ろ脚の立ち方がおかしい場合、膝蓋骨脱臼が疑われますが、生後1カ月前後で異常に気づいたときは簡単な矯正法を知っておくと便利です。この方法ですべての膝蓋骨脱臼が治るとはいえませんがかなり有効です。
犬を仰向けにし、後脚を手でもって屈伸運動をさせるのです。2-3カ月を過ぎるとあまり効果はありませんが、1カ月頃から始めれば効果があるでしょう。1日に2-3回、20-30回程度の屈伸運動を行ってみてください。
遺伝病を後世に残さない
膝蓋骨脱臼は遺伝的な病気とされています。また、性別ではオスに比べるとメスに多く発症します。この病気の犬は不妊手術をし、子供をつくるべきではありません。病気の素因をもっている小型犬を後世に残すと苦しむ犬が後を絶たないからです。
重症で跛行を呈している場合は手術で治します。程度が軽い場合、最近ではレーザー等の東洋医学的な方法で治ることもあります。
繰り返しになりますが、遺伝的な病気の最良な予防法は、病気の素因をもっている犬の子供をつくらないことです。愛犬が膝蓋骨脱臼にかかっていたら不妊手術をし、病気の素因を後世に伝えないことが大切なのです。
愛犬にはその病気が認められなくても、親犬や兄弟犬のうち1頭でも発症していれば愛犬の交配を控えるべきです。
また、健康な犬の子供をつくる場合も、交配相手にこのような遺伝病の素因がないかどうかきちんと調べなければなりません。飼い主の方は遺伝病の知識をもち、苦しむ犬を増やさないようにしましょう。 |
■大腿骨頭の壊死症 |
少し特殊ですが、股関節(後肢の付け根の骨)の部分が壊死(腐敗)を起こす病気があります。病名はレッグペルベス病といい、人間でも起こります。この病気を日本語の病名でいうと「青年期変形性大腿骨頭無菌的壊死症」となります。無菌的に(感染等ではなしに)大腿骨頭が壊死してしまう不思議な病気なのです。
左右どちらでも起こりますが、片方に起こると30%の確率でもう片方にも起こることがあります。治療は大腿骨頭を切除すれば治ります。この手術はそれほど特殊な手術ではありませんので多くの病院でできるはずです。 |
■歯の病気 |
小型犬には歯の病気も多く見られます。歯が込み合って生えているため、食べ物が歯の間に詰まってなかなかとれず歯石の原因になるからです。また、歯を支えている歯層骨という骨が薄いことも小型犬に歯の病気が多い原因になっています。
ある程度高齢の小型犬で、歯がすっかりなくなっている犬を見ることもあると思います。確かに犬は食べ物を歯で噛む必要性があまりなく、人間に比べれば歯がなくても困ることはないといえますが、やはりないよりはあったほうがいいのです。それに歯がなくなるまでの過程でいろいろな病気にかかれば、犬は苦しむことになります。
オーストラリアの話ですが、コアラの歯を治療したら寿命が延びたという報告もあります。
→動物医療最前線:歯の病気
仔犬のときから歯磨きの習慣をつけ、歯石の予防に努めましょう。歯石が付着した場合は動物病院で除去してもらうこともできます。 |
■本来小型犬は長命―15歳以上生きる |
小型犬は大型犬より長命で、栄養状態も良くなった最近では15歳以上生きる犬も少なくありません。20歳近くまで生きる犬もいます。
縁あってみなさんの家族になった犬ですから、仔犬のときからきちんとしつけをし事故や病気に留意してください。一緒に暮らしている犬が健康で元気であれば、飼い主のみなさんも幸福なのですから。 |