■多くの犬が歯の病気にかかっている |
犬の歯の病気は非常に多いものです。犬の場合、歯を支える組織の病気、すなわち歯周病が多く、逆に虫歯は非常に少ないのが特徴です。統計的には、2歳以上の犬の80-90%が歯の病気にかかっているとされますが、虫歯は歯の病気全体の6-7%程度といわれます。
歯の病気が多い理由のひとつは、私たち獣医師が日頃の歯の管理の大切さを訴えているにも関わらず、歯の病気に対する飼い主の方の関心がいまひとつ薄いことではないでしょうか。犬はもともと野生の動物だったのですから、歯など放っておいてもいいと考えている人も少なくないかもしれません。また、歯の病気は比較的ゆっくり進行し、犬が突然苦しみだしたり、急激に元気がなくなるなど、顕著な症状が現れないので、飼い主もあまり重視しないということも考えられます。
歯の病気が多いもうひとつの原因、高齢化が進んでいることでしょう。犬も高齢まで生きるので、歯が弱くなり、歯が抜けてしまったり、いろいろな病気にかかりやすくなります。実際には、歯の病気があるといろいろな障害が引き起こされるので、歯の管理は大切です。 |
■小型犬の歯は歯石がつきやすい |
歯の病気は、小型犬や短頭種の犬に特に多く見られます。歯の病気の最大の原因は歯石ですが、これらの犬の歯は歯石がつきやすい構造になっているからです。すなわち、歯が密に生えているため、食べ物のカスが歯の細いすき間にはさまったままになりやすく、そのために歯石がつきやすいのです。
また、歯の根っこを囲む骨(歯層骨)が薄いことも、歯の病気が多い原因になっています。小型犬や短頭種の飼い主の方は特に、仔犬のときから歯の管理に気を配ってあげましょう。 |
■永久歯に生え替わる時期に注意しよう |
犬の歯の勉強を少ししましょう。
犬は人間と同じように、歯が生え替わります。すなわち、ある時期になると乳歯が抜けて、永久歯が生えてきます。乳歯は28本あり、生後3-4週目頃から生え始め、通常は生後12週目頃までにすべて生えそろいます。乳歯は生えそろった頃(生後3カ月目頃)から抜け始め、その頃から永久歯が生え始めます。永久歯は42本あり、3カ月目頃から7カ月目頃までに生えそろうのが理想的です。
乳歯の抜ける時期は、性別や生まれた季節によっていくらか差があるようです。一般には、オスよりメスのほうが早く抜ける傾向にあります。また、夏に生まれた仔犬が最も早く抜け始めるようです。 |
■乳歯がなかなか抜けないこともある |
乳歯と永久歯の生え替わりがうまくいけばいいのですが、ときどき永久歯が生えそろっても、口の中にまだ乳歯が残っていることがあります。すなわち、乳歯と永久歯が同時に口の中に存在する状態で、これを「乳歯遺残」といい、超小型犬や小型犬に特に多く見られます。
抜けているべき歯が抜けていないのですから、乳歯遺残は異常な状態です。放置しておくと、永久歯の成長に悪影響が及ぼされます。また、不整咬合(歯の噛み合わせが悪い状態)の原因になります。不整咬合は歯石の付着を促し、最終的に歯周病を引き起こすことがあります。
永久歯が生えてきたのに、乳歯が残っている場合は、動物病院で抜いてもらうのが理想的でしょう。乳歯遺残を発見するためにも、最初の予防接種を受ける生後2-3カ月頃から、歯の検査を始めることをお勧めします。 |
■歯石の悪影響をよく知っておこう |
先述のように、歯の病気の最大の原因は歯石です。歯石は食べ物のカスなどが石灰化したもので、有害な物質です。歯石をはっきり「毒物」と考えましょう。歯石は歯に付着し、徐々に蓄積されていく過程で、いろいろな悪さをします。最初は歯の表面に付きますが、やがて裏側や歯の間にも広がっていきます。そして、だんだん固くなります。固くなった歯石は、歯肉を圧迫し、歯を支えている骨や組織を冒すようになります。口の中だけではなく、体の中を回り、いろいろな臓器に悪影響を与えることもあります。 |
■歯肉炎は早めの治療で治る |
歯石によって歯肉が圧迫され、炎症を起こすのが歯肉炎です。最初は歯茎の周囲が赤くなり、進行すると歯茎が腫れ、口臭がひどくなり、潰瘍を起こすことがあります。放置しておくと歯が抜け落ちてしまいます。歯茎が赤くなった段階で発見し、早期に治療することが重要です。歯肉炎は、歯石以外の原因で起こることもあります。たとえば、乳歯遺残のために不整咬合が起こっていると、食べ物のカスが歯の間にたまり、ウイルスや細菌感染が促され、歯肉炎を起こします。●口臭がひどく、歯茎が赤くなっていれば、歯肉炎が疑われます●から、早めに治療してください。 |
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■歯磨きの習慣をつけるしつけは焦らずに |
歯磨きの習慣をつけるために大切なことは、●最初から決して無理をせず、歯磨き嫌いの犬にしないことです。●歯磨きの目的は、歯石の付着を防ぐことです。歯石は1日や1週間で付着しませんから、焦る必要はありません。まず、人間の手が口にさわることに慣れさせ、次に口の中に入ることに慣れさせるというように、少しずつ徐々に進めていきましょう。最初は口を開けようとしなくても、決して叱りとばしてはいけません。恐怖心を与えると、犬は歯磨きが嫌いになります。飼い主自身がリラックスし、犬が抵抗せず歯磨きをさせたら、よくほめて、歯磨きを好きな犬にすることが大切です。 |
■歯石のつく機会をなるべくつくらないように |
歯磨き以外にも、歯石を防ぐために気をつけるべきことがあります。歯石は食べ物のカスが原因ですから、食べ物をいつでも食べられる状態にしておかないようにしてください。食事を出しっぱなしにしておくと、犬はいつでも食事を食べ、歯石がつく機会が多くなります。
また、しつけの点からも、食事を出しっぱなしにしておくのはよくありません。食事は、決まった時間に決まった場所で、決まった量を与えてください。 |
■動物病院で歯石を除去する |
歯石が付着してしまったら、動物病院で除去する方法があります。歯石は通常、歯の根元の部分や歯間や歯肉に付着します。歯が黄色くなり、口臭が強くなりますから、比較的容易に気づくことができます。
動物病院では、痛くないように麻酔をして、歯と歯肉に付着した歯石を除去し、よく洗浄して、歯の間の歯石を洗い流します。次に、軽く研磨して、歯の表面を滑らかにします。フッ素塗布の処置を行うこともあります。 |
■仔犬のときからの歯の管理が大切 |
動物の歯の治療方法も、非常に進歩してきました。前回の動物医療最前線でもお話ししましたが、歯のレントゲン写真を撮って、歯の中を1本ずつ治療する方法、いわゆる「歯内療法」のできる獣医師も増えてきました。歯の病気の症状が現れたら、歯の治療に詳しい獣医師に相談し、最新の治療法の恩恵を受けてください。
長寿犬が増えてきましたが、歯の管理も幼犬のときから始めることが大切です。仔犬が家に来たら、よくコミュニケーションをとり、体のどこにでもさわらせる犬にすることが、健康を守るためにも非常に重要です。 |