■予防医学の発達で寿命が延びている |
動物の医療形態も時代の進歩とともに大きく変わってきています。大きな特徴は予防医学の発達にともない動物の寿命が長くなってきたことです。犬の場合予防的な健康処置を受けていれば、小型犬で15-18歳くらいまで、大型犬でも12-14歳くらいまで寿命が延びてきました。
ここまで寿命が延びたことには、予防接種やフィラリア予防の普及・良質なドッグフードの出現・外科手術や輸血の技術の発達・抗生物質を始めとした薬剤効用の拡大・新しい診断技術・より安全な麻酔薬の開発等が大きく影響しています。
また、人間の医療のために開発された新しい治療法や技術が動物に応用され、動物の医療もかなり進歩してきています。
もちろんそれらの進歩した獣医療を行うためには、行う側の動物病院の人員・設備・技量の問題や、受け入れる側、つまり飼い主の費用の負担が大きくなる等の問題があります。ですから両者が良く話し合い理解した上で、最も良いと思われる方法を選択すると良いでしょう。 |
■ガンに対する獣医師の知識も進んできた |
犬のガンについて抗ガン療法を行える獣医師がかなり増えてきました。
以前は、犬に何か大きな出来物があると見ただけで「ガンです」と言って飼い主に治療をあきらめさせるなど、すべての出来物をガンと片づけていた傾向が一部でありました。出来物が腫瘍の場合悪性と良性があり、良性の腫瘍はガンではありません。悪性の腫瘍をガンと言いますが、腫瘍の細胞を調べガン細胞が見つかって初めてガンと言えるのです。
現在さすがにそのような獣医師は少なくなりました。積極的にガンと立ち向かう状況が整ってきたといえます。 |
■ガンに負けるな抗ガン療法 |
現在ではあらゆるガンに対してさまざまな治療法が用意されています。外科療法・化学療法だけではなく、一部では放射線療法も可能になりつつあります。
手術の技術面でも、体の中のあらゆるガン部分を切り取る技術のみならず、断脚・上顎や下顎の切除など、以前では考えられなかった部分の手術も可能となりました。さらに外科手術に加え、抗ガン剤の使用によってかなり積極的な治療を行うことができるようになっています。
もちろんすべてのガンについて治療がうまくいくわけではなく、かなり難しいケースもあります。しかし以前と比べてガンに立ち向かっていく価値は数段高まってきたのです。 |
■ガンの治療は飼い主・主治医・専門医が協力して |
医療の進歩を考え、ガンと診断されてもすぐにあきらめないで積極的にガンに立ち向かうことをお勧めします。
もちろん先述のように治せるガンと治すのが難しいガンがあります。たとえば、大型犬に発症することがある骨肉腫などはかなり悪性で、その侵された脚を切断しても平均の生存期間は4カ月です。抗ガン剤を投与しても最高で1-2年前後の生存期間です。リンパ腫等の場合、かなり積極的に治療すれば通常1-2年以上は抑えられることが多いようです。
このように、ガンの種類に応じてどのような治療すればどれくらい生きられるかについてはだいたい判定できるので、これらの判定を参考にし、どのように対処するかを飼い主自身で決めると良いでしょう。
また、ガンは1人の獣医師で診断がつくものではありません。まずそのガンの細胞をとり、病理学専門医の診断結果からわれわれ臨床診断医が治療を進めていくわけです。ですからガンの診断についてはそのプロセスが非常に重要となります。
ガンの治療はやはり十分にその説明を聞くことが重要です。費用はいくらかかるのか、どんな副作用があるのか、予後はどうかということを必ずよく聞いてから治療を受けてください。 |
■ペインクリニック(痛みの治療)は獣医師の倫理 |
過去の獣医学では「多少痛いくらいのことは犬に我慢させよ」という暴論に近い論理もありましたが、最近では人間の医学の発達とともに動物の医学でも痛みに対しての認識が非常に高まり、「痛いことは悪いこと」「痛みを我慢するのは良くないこと」という考え方が支持されつつあります。
痛みはあらゆる病気の原因となります。手術後の痛みであっても、通常の痛みであっても、たとえその病気を治すことができなくても、われわれ臨床獣医師の立場として最低限その痛みを取ることが倫理となっています。 |
■痛みを早く取り除くことが進んだ医療 |
たとえば何かの手術をした後で、痛がっている動物を「1-2日我慢すれば痛みがなくなる」といって我慢させるのは、もはや古い獣医学といっていいでしょう。
現在では、痛みを我慢をすればそれだけ予後は悪くなる、すなわち合併症が多く引き起こされ、最悪の場合は死亡するというケースもあることが知られるようになりました。このことは以前の獣医学ではあまり知られていなかったのです。
痛みについては、獣医師とともに飼い主の認識も重要です。ただ、動物医療では獣医師も飼い主もできるだけ費用を抑えようと考えます。もし一部の獣医師が痛みに対して治療をしなければ、当然料金は発生しません。しかし動物に痛みの我慢を強いることになります。
獣医師から痛みについての説明がなければ、「うちの犬の病気に痛みは伴いますか」や「治療の結果犬は痛みを感じますか」などと、飼い主は積極的に質問するとよいかもしれません。
いずれにしても、現在動物医療の最前線では「痛みは一刻も早く止めるもの」「痛みを感じる動物には痛み止めを行うこと」という認識がありますので、飼い主もそのことを知っておきましょう。 |
■歯の病気を治せば動物も長生きする |
動物の医療では、歯の病気というと見過ごされる部分もあったのかもしれません。しかし、最近は「歯ぐらい悪いのは何だ」とか「高齢の動物の歯が悪いのは自然のなりゆき」などと言う乱暴な論理はまかり通らなくなりました。
欧米の動物病院の評価本には、小型犬の場合歯磨きの方法を指導してくれる病院が良い動物病院だと書かれています。我が国でも同じことが言えるでしょう。
以前オーストラリアに行ったとき、ある獣医師がコアラの寿命と歯の関係について面白い話をしてくれました。次のような話です。「野生のコアラは寿命が短いけれど、動物園のコアラは非常に寿命が長くなっています。その際1番問題になるのは歯の病気です。野生のコアラは歯が悪くなる頃かその前に寿命が尽きて死にます。ところが、動物園のコアラは野生よりも長く生きますから歯の病気にかかってしまうのです。そこで、一定の年齢に達したコアラは、歯の治療をすると寿命が延びるのです」。
犬でも同様のことがいえます。最近では、麻酔をして歯石を除去したり、悪い歯を抜歯したり、歯のレントゲン写真を撮り歯の中を1本ずつ治療するという「歯内療法」ができる獣医師が増えつつあります。歯の治療に詳しい獣医師に十分相談して、いろいろな治療の恩恵を受けて下さい。 |
■歯石の予防と除去が犬の歯を守る |
歯の病気では、何といっても歯石が問題になります。特に小型犬には多いです。愛犬があなたをなめようとしたとき、すごく臭いニオイがしませんか?歯を調べてみてください。きっと黄色くなっていると思います。それが歯石です。
歯石は毒物と考えてください。歯の臭い犬は、毎日毒物を少しずつ飲み込んでいることになります。ですから、例えば心臓に回れば心臓病、肝臓に回れば肝臓病、腎臓に回れば腎臓病と、体のあらゆるところに毒が回り、体をむしばみます。
仔犬のときから歯磨きを行い、歯石の予防に努めることが大切です。歯石のついた動物は、動物病院で除去してもらうことができます。最近では、麻酔をかけるなどして、積極的に歯石を除去する方法が普及しています。しかし高齢の小型犬への麻酔に慣れていない獣医師は、この方法を勧めたがりません(自分ができないから)。そのような場合はできる獣医師の所へ行く必要があります。
最近の獣医学は高度化していますので、いろいろな方法をすべて、1人の獣医師、1つの動物病院でできるわけではありません。 |
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■動物のCT検査・MRI検査について |
CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(核磁器共鳴映像法)という言葉を聞いたことがあると思います。いずれも医療最前線で活躍すべき最新の医療技術で、これらにより診断方法の飛躍的な進歩が期待されます。
CTは、X線により体の断層面をさまざまな角度から撮影し、コンピューターによって画像化する方法です。CT機器の性能面は、第1世代、第2世代、と世代が大きくなるに従って、優秀な機器が出現してきています現在は第4世代まで実用化されています。動物の医療においてもCTの有用性は疑いのないものです。最近では動物医療においてもCTにて診断する機会が多くなっています。特にCTは骨の疾患に対してたいへん有効な場合があります。またCTは原理はX線と同じ原理ですので、MRIのように検査に当っていろいろな制約(動物の体に金属が埋め込まれていても検査に支障はありません)はあまりありません。
MRIは原子核の「核磁気共鳴」と呼ばれる作用を利用し、動物の細胞の持つ磁気を調べ、やはりコンピューターによって画像化する診断法です。特にMRIは頭部の疾患(例えば脳腫瘍等)など、ほとんどの神経学的異常を、CT検査よりきれいな画像で描き出し威力を発揮します。しかしMRIは動物の体に金属があると磁気の関係で検査の妨げとなります。しかし同じCTやMRIにしてもその性能は各々の機器の程度によってかなり違ってきます。またMRIはX線を用いないので放射線被曝がありません。脳以外でも、脊髄,内臓,筋肉、関節,血管などを非常に明瞭に映像化することが出来ます。
CTやMRIは、動物の頭の中のみならず全身を調べることができる最先端の画像診断方法です。しかし動物の場合、比較的長時間(1時間前後)の麻酔が必要になることが多いようです。そのためリスクもそれなりにありますが、今までのどの診断法よりもこれらの医療機器による方法は数段優れており、特にMRIは現段階で最も優れているといえます。ただし、もちろんこれらですべてが診断できるわけではありません。また診断がついてもすべてに治療(例えば脳腫瘍は判っても手術ができない部位にある等)ができるわけではありません。これは他の検査でも同じことは言えますが、動物のCTやMRIの検査においては特に言えるかもしれません。
MRI機器はCTよりかなり値段も高くなりますが、一部の大学病院(
・ 日本大学
・ 東京大学
・ 山口大学
・ 麻布大学
・ 日本獣医畜産大学
・ 酪農学園大学等)には0.5T(ステラ)以上(できれば1.5ステラ)の高磁場装置が望ましい)のMRIが導入されています。 |
■眼に見えない獣医学から眼に見える獣医学へ―画像診断 |
医学の特徴として「医学は眼に見えない」という欠点がありました。つまり、体の中に病気があっても、その状態を我々の眼で直接見ることができません。そのため医学は誤解されやすい点があり、眼に見えない医学を目に見えるようにすることが重要です。それを可能にした代表的なものが画像診断です。
CTやMRIはもちろんですが、X線撮影・内視鏡(胃カメラ)・超音波等といわれるものです。これらの診断用具を使用すると、以前では考えられなかったほど簡単に診断できることもあります。
しかし、これらの用具を使用する場合は、当然費用もそれなりに高額になります。これらの医療機器を使用することに疑問があるなら、その医療機器の利用によって何が分かり何が分からないかを、担当獣医師からよく説明してもらってください。 |
■血液の動きをカラーで見る心臓の断層撮影 |
心臓病については最前線の診断方法として、超音波を利用して心臓の断層撮影をするという方法があります。最近では「カラードプラー」という機器が出現し、視覚的な効果が高められました。カラードプラーを利用すれば、心臓の形や動きのみならず、心臓の中の血流、すなわち動脈血・静脈血の動きをカラーで見ることができます。
特に心臓に雑音がある場合は、この方法が有効な手段となり、小型犬に多い弁膜障害について、また大型犬の拡張性心筋症について、絶大な効果を発揮します。
このような最先端機器の出現により、動物の心臓病でも適切な薬物の効果やその薬剤の効果の判定ができるなど、診断能力および治療能力が大いに高められています。現在では、それらの超音波診断装置のある病院で、心臓病をより専門的に診断治療することも可能となりつつあります。 |
■神経の病気に絶大な効果を示すレーザー |
従来わが国では、欧米に比べ東洋医学により親しんできました。レーザーは東洋医学の発想をより効果的に示したものですが、その使用については最近西洋医学にお株を奪われているようです。
レーザーは、半導体レーザーと炭酸ガスレーザーの大きく2つに分かれますが、ほかにもいろいろなものがあります。医療用では、治療用に使うレーザーと手術用に使うものに分かれます。最近では、一部の動物病院で、それらの最先端のレーザー治療及びレーザーによる手術がすでに可能となっています。特に神経の病気の治療において絶大な効果を示すことがあります。
これまで西洋医学では、神経の病気の治療には、神経の炎症を抑えるためステロイド剤等を投与することが中心でしたが、レーザーを利用すればさらにその効果が増すことが期待できます。ステロイド剤を少しでも減らして治療することが可能になります。
もちろんすべての病気にレーザーが有効というわけではありません。しかし代表的なものとしては、ダックスフンドによく見られる椎間板ヘルニア等について、外科療法に加えてレーザー療法を行うことが、現在最良の治療法となりつつあります。 |