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Dr. 小宮山の健康相談室

ドッグスポーツで健康になろう
(01年11月「ドッグスポーツで健康になろう」Vol.108掲載 2001/11/27 第1回改訂)

安全に楽しむために
ドッグスポーツの前には健康診断を
スポーツ前の準備で安全管理を
十分な量の水を用意しよう
犬種・体型の特徴に応じた注意点
短頭種は呼吸器の病気が多い
動物は極限状態まで我慢するもの
運動後のチェックポイント

ドッグスポーツの利点
スポーツは理想的なしつけを兼ねる
心臓病などの早期発見につながる
呼吸が元に戻るまでの時間を測定しよう
神経系の病気の予知もできる
ドッグスポーツの前には健康診断を
ドッグスポーツをさせる場合、もちろん犬が健康であることが前提です。みなさんも、犬がどこにも悪いところはなく、健康そうに見えることを確認して、ドッグスポーツを行うと思います。

しかし、できればもう少し念を押して、ドッグスポーツを行う前に、動物病院で健康診断を受けるのが望ましいでしょう。そのとき、「ドッグスポーツをさせたいので」と、健康診断の目的を獣医師に告げることが必要です。なぜなら、犬種の違いや体型の特徴などによって、比較的適するスポーツと適さないスポーツがあり、注意点も違ってくるからです。たとえば、頭・歯の形・脚や胴の長さ等によっても、無理をすると病気にかかりやすい場合があります。獣医師はおのおのの犬の種類や体型を考慮しながら、総合的に見て、ドッグスポーツを行う場合の最低限の注意や助言を与えてくれるでしょう。

もちろん、特にドッグスポーツの競技会のように多数の犬が集まる場所に出る場合は、予防注射・年2-4回の糞便検査・フィラリアやノミの処置等を含めた最低限の予防処置も必要となるでしょう。
スポーツ前の準備で安全管理を
通常、ドッグスポーツをする場合は、どこかに移動すると思いますが、だいたいは車を使うでしょう。その際には、食事の問題に注意しなければなりません。

車に乗せる前には、完全な絶食はしなくても、軽めの食事をお勧めします。食事後あまり時間がたたないうちに車に乗せると、動物は吐きやすくなるからです。特に自動車の移動に弱い犬の場合は、なるべく軽めにしたほうが良いでしょう。もちろん、何回か自動車に乗ることによって慣れてくれば、吐かなくなることがあります。しかし、車にまだ慣れていなかったり、車酔いをしやすいためのどうしても吐く場合は、動物病院で吐き気止めの薬をもらい、乗せる前に飲ませると良いでしょう。
十分な量の水を用意しよう
出発前には必ずお水を用意してください。移動中や、特にスポーツをした後に水を与える必要があります。ペットボトルに3-4本は必要でしょう。冷たい新鮮な水であれば、もっといいですね。別に「○○の銘水」というような水を買う必要はありません。水道の水をペットボトルに詰めて、冷やして持っていけばいいのです。

車内は換気をよくし、暑い時期は特に熱中症に注意しなければなりません。停車中の車に犬を閉じ込めると、車内が蒸し風呂状態になり、悲惨な事故につながります。そういうことは、絶対にやめなければなりません。

また、移動中は急発進や急停車をしないように気をつけましょう。もちろん安全運転はいつでも大切ですが、動物を乗せている場合は特に配慮が必要です。特に車酔いをする犬や、車に慣れていない犬の場合、急発進や急発進の衝撃に驚くと、その後ますます車を嫌いになる可能性もあります。また、思わぬケガの原因にもなりますから、十分に注意しましょう。
犬種・体型の特徴に応じた注意点
大型犬も小型犬も、それぞれ一般的に注意するべき点があります。大型犬は、股関節形成不全等の病気があるかどうかチェックしておく必要があります。当然、重症の場合には、あまり運動は勧められません。

小型犬の場合、たとえばダックスフンド・コッカースパニエル・バセットハウンドなどの犬種は、軟骨の状態が他の犬種と違うため、急激な運動を行うと椎間板ヘルニア等が起こることがあります。椎間板ヘルニアは、外見的に胴の長い体型の犬に起こりやすい病気です。より具体的に言えば、これらの犬種は立つ姿勢を長時間続けさせたり、無理にジャンプさせると危険な場合があります。もちろん、これらの犬種の犬には絶対にジャンプをさせてはいけないというのではありません。そうではなく、過度なジャンプや腰に負担がかかる運動をさせると、体型や軟骨の状態のために、病気になる危険があるということです。
短頭種は呼吸器の病気が多い
短頭種(ブルドッグやボストンテリア等)には、呼吸器の病気が多く見られます。通常、これらの犬は寝ているときにイビキをかきます。イビキをかくこと自体が異常というわけではありませんが、イビキの大きさが普段より大きくなれば、それに比例して喉の状態が悪くなってきたと考えられます。したがって、普段のイビキの程度を覚えておきましょう。特に運動した日の晩は、イビキが大きくなるでしょう。運動後のイビキがあまりにも大きかったり、何か気がかりなことがあった場合は、獣医師に相談するのが良いでしょう。

いずれにしても、せっかくスポーツをさせるのですから、安心して心ゆくまで楽しみたいですね。それには、それぞれの犬種の欠点を含めた特性をよく理解し、決して無理のかからないようにするのがコツと言えるでしょう。
動物は極限状態まで我慢するもの
もし、犬が運動中に苦しそうであれば、無理をせず、一時中断することが必要です。特に暑い時期は、熱中症に十分気をつけなければなりません。熱中症には、飼い主であるあなたも気をつけてください。また暑いときは、犬に冷たい水を飲ませたり、体にかけてやりましょう。そのためにも、十分な量の水を持参することが必要です。

持病がある場合は、動物病院であらかじめそれらの持病の症状を聞いておき、それらの症状が現れたら、無理をしてはなりません。

スポーツを始める直前に、時計を見ておきましょう。適量を超えて運動をさせすぎないように、時間を測ることが大切です。人間は運動量が過ぎると、呼吸が速くなったり、胸が苦しくなることがわかるので、自分の判断で休むことができます。しかし、健康な犬は限界まで頑張り、限界に達すると突然パタッと倒れるのが普通です。したがって、運動の適量を人間が管理することが必要なのです。
運動後のチェックポイント
スポーツが終わった後は、犬を清潔に保つことが大切です。全身をブラッシングして、何か皮膚に異常がないか、異物がついていないか、外傷がないかどうかを確かめます。

また、足の裏を1本1本見てください。トゲなどが刺さっていないか、傷がないかどうかをチェックします。同じように、目や耳の中も見てください。目に異物があれば、水で洗い流すか、犬用の目薬で処置しましょう。そのため、犬用の目薬くらいは持っておきたいですね。目薬は動物病院で購入できます。点眼の仕方も覚えておくと良いですね。耳の中に虫や草が入っていないかどうか調べます。両耳とも調べてください。フリスビーをした場合は、できれば口の中もチェックしましょう。歯が欠けていないか、歯の間に何かはさまっていないかを調べます。

また、運動後は休ませて十分に水を与えてください。ただし、すぐに食事を多く与えるのは避けましょう。暑い季節には、日陰の涼しい場所で休ませることが大切です。後でも述べますが、いつも運動の量と時間を考えながら、運動後、何分くらいでハアハアいう荒い息づかいが治まるか、その時間を測定すると良いでしょう。

スポーツは理想的なしつけを兼ねる
ドッグスポーツの良い点はたくさんあります。まず、運動することによって、動物が健康になります。特に太りすぎの防止には、大きな効果があります。また、犬と飼い主が一体となってスポーツに取り組むことにより、お互いのきずなが深まり、スポーツの楽しみも倍加することは、ドッグスポーツの最もすばらしい長所と言えるでしょう。

さらに、スポーツをすることで犬との一体感が増すことにより、しつけの効果があがることも忘れてはなりません。現代のしつけは、昔のような強制訓練の方法をとらず、犬の好きなことをしながら、自然にしつけが身に着くという方法が主流になっています。ドッグスポーツはスポーツのやり方やルールに従って、飼い主が犬に指示を出し、それを犬が守ることによって成り立ちます。そこには、しつけの基本があります。しかも、大好きなスポーツの中でそれが行われるのですから、ドッグスポーツはまさしく理想的なしつけを兼ねていると言えます。
心臓病などの早期発見につながる
特に私たち獣医師から見ると、ドッグスポーツにはもう1つ大変ありがたい利点があります。それは、スポーツをすることが病気の早期発見につながるということです。たとえば、心臓病等を発見できることがあります。ほとんどの犬は高齢になると心臓病にかかりますので、異常に早く気づくために、ドッグスポーツを利用することをお勧めします。

異常を発見する1つの方法は、呼吸の仕方を観察・測定することです。運動しているときと運動後は当然、呼吸が速くなります。動物は呼吸することによって酸素を肺に取り込み、その酸素は肺から心臓に送られ、さらに心臓から血管を通して全身に送られます。運動をすると、全身の組織は酸素を要求しますから、それに応えるために、呼吸の回数が多くなる、すなわち呼吸が速くなるわけです。運動中や運動後しばらくの間、呼吸が速くなるのは自然で正常な反応です。しかし、運動をやめてかなり時間がたっても、まだ呼吸が元の状態に戻らないようなら、心臓の機能が衰えている、あるいはどこかに異常があることが考えられます。
呼吸が元に戻るまでの時間を測定しよう
そこで、ドッグスポーツを始めたなら、犬が運動を終えた直後から、呼吸の速さが元に戻るまでの時間を測る習慣をつけることをお勧めします。毎回、運動を行うときにその時間を測り、記録しておきます。また、運動の程度も記録すると良いでしょう。すなわち、日記を付けるのです。そして、運動をやめてから、何分で元の状態に戻るか、時間を測ります。

もし、これが以前と比較して長くなれば、心臓に負担がかかっている可能性がありますから、獣医師に相談しましょう。その結果、もし早期の心臓病が発見されれば、すぐに適切な治療を始めることができます。早期から治療をすれば、たとえ心臓病はあっても、犬をより長生きさせることが可能になります。
神経系の病気の予知もできる
アジリティーに「スラローム」という種目があります。直線上に一定の間隔で棒を何本も立て、犬が棒の間をジグザグ状に走り抜ける競技です。この競技は反射神経のトレーニングに役立ちますが、逆に考えれば、神経系の病気の発見にも利用できます。神経系の軽い病気が出始めると、スラロームがうまくできなくなります。それまではスラロームが上手にできていたのに、棒にぶつかったり、ジグザグにスムーズに動くことができないようなことがあったら、神経系の病気を疑い、動物病院で診察してもらいましょう。

ドッグスポーツは犬と人間が一体となり、ともに楽しめるすばらしいスポーツです。そのすばらしさを最大限に享受するには、あなたの犬の体型や犬種の特徴を理解し、ふさわしい種目を選んで楽しむことが大切です。犬に合わない種目や体型に負担のかかる種目をさせると、せっかくのドッグスポーツの利点が台無しになるばかりか、かえって逆効果になることを忘れないようにしましょう。

特によく競技をする犬が跛行(脚を引きずる)した場合、原因を突き止め、正しい診断を下すことが難しいケースがあります。たとえば、脚の先のほうの靱帯の(部分的な)断裂等は、なかなか診断が難しいことがあります。

このようにケガや病気の種類によっては、それらを見つけるためにかなり専門的な知識が必要となりますので、その方面に詳しい動物病院に行かないと、治療までたどり着かないことになります。競技をよくする犬は、通常ではあまり見られないケガをすることがありますので、飼い主は心に留めておきましょう。