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Dr. 小宮山の健康相談室

股関節形成不全について
(01年5月「股関節形成不全について」Vol.102掲載 2001/11/27 第1回改訂)

股関節形成不全の特徴と症状を知ろう
ゴールデンレトリーバーなどに多い病気
大型犬は骨が急成長するので注意が必要
歩き方がおかしいと思ったら疑ってみよう
早ければ6カ月ごろから痛みが表れることも

治療と飼い主が注意すること
はっきりした診断はX線検査で行う
痛みを抑える薬で生活の質を高める
比較的軽量の犬に適した手術法
犬に合った治療法を選択しよう
余分なカルシウムを与えないように
肥満は症状を悪化させる
肥満している場合は理想体重に戻そう
運動は痛がる前にやめよう
交配させないことが1番の予防
ゴールデンレトリーバーなどに多い病気
ゴールデンレトリーバーやラブラドールレトリーバーは、代表的な人気犬種ですね。これらの犬種の人気の理由はちゃんとあります。体はあんなに大きくても、一般的に性格が穏やかなので、お年寄りから子どもまで、誰とでも仲良くできることです。

また、学習能力が高く、しつけをするときも、教えたことを比較的簡単に覚えます(ただし、これらは平均的な特徴ですから、これに当てはまらない犬もいることを覚えておきましょう)。見た目の魅力もあるでしょう。ふさふさした金色の毛をなびかせて歩くゴールデンRの姿は、なかなか優美です。

ところで、これらのゴールデンRやラブラドールRに多い病気として、みなさんは「股関節形成不全」という病名を聞いたことがあると思います。人気犬種であるだけに残念ですが、確かにこれらの犬種には、この病気が多く見られます。
大型犬は骨が急成長するので注意が必要
「股関節形成不全」は大型犬種がかかりやすい病気で、ゴールデンRやラブラドールRのほかに、ジャーマンシェパードやセントバーナードなどにもよく見られます。

小型犬種はこの病気を持っていても、ほとんど症状が出ないので、あまり問題とならないのです。体重で言えば、12kg以下の犬にはほとんど症状が出ないと言っていいでしょう。病気自体はあるのですが、日常生活の範囲内ではほとんど支障がないということです。

では、なぜ大型犬に多いのでしょうか。その理由として、1つのことが言われています。大型犬(たとえば、ゴールデンR)と小型犬(たとえば、チワワ)の成犬の体重を比べてみると、前者のゴールデンRはだいたい30kg前後、後者のチワワはだいたい2kg前後です。つまり、ゴールデンR1頭の体重は、チワワ15頭分の体重に匹敵することになります。これに対して、生まれたばかりの子犬の体重を考えてください。ゴールデンRはチワワのせいぜい3-4倍程度です。成犬時の15倍と比べれば、体重差は小さいですね。つまり、小型犬は生まれてから成犬になるまでに、体の大きさがあまり大きく変化しないのに対して、大型犬は大きく変化するということです。

大型犬はだいたい1年半から2年くらいで、成犬の体格に達しますが、この間に骨も急激に成長しなければなりません。このような成長の過程で何らかの無理が生じ、股関節形成不全を起こしやすい下地がつくられるのではないかと推測されています。実際に、一般的な骨の病気は、小型犬に比較して、大型犬に非常に多く見られます。
歩き方がおかしいと思ったら疑ってみよう
股関節は、骨盤と太ももの骨(「大腿骨」と呼ばれます)をつなぐ役割をもつ関節です。わかりやすく言えば、胴体と足をつなぐ関節です。

「股関節形成不全」は、この病名からも察することができるように、股関節が正常に発達しない病気です。股関節の役割を考えるなら、この関節に異常があれば、歩行に問題が発生する可能性があることはすぐに想像できるでしょう。

確かに、この病気のもっとも一般的な症状は、後ろ脚の歩き方や座り方の異常として現れます。また、関節がうまくはまらないため、炎症(「骨関節炎」と言います)が起こることもあります。その場合、痛みがあるので、犬は歩くことをいやがります
早ければ6カ月ごろから痛みが表れることも
股関節形成不全は、遺伝性の病気です。ある報告によると、両親が股関節形成不全をもっている場合、その病気をもたないで生まれる仔犬の確率は7-15%に過ぎないとのことです。

また、この病気を持っていないことが判定された両親から生まれた子犬も、25%は病気を持って生まれます。理由は、両親の親たちが病気を持っているからです。ちょうど、白い文鳥と白い文鳥を交配させても、白い色以外の子どもが生まれるのと同じだと考えてください。このことも重要ですから、ぜひ覚えておきましょう。

したがって、親から遺伝を受け継いだ犬が、この病気にかかる確率は非常に高いのですが、ほかに運動のさせ方や、生活環境の影響もあると考えられます。たとえば、生活環境としては、犬が歩くスペースの床が滑りやすいと、病気が早く現れたり、悪化が早くなるようです。

この病気が現れる時期には、大きな特徴があります。病気にかかる犬は、だいたい2歳までに症状が現れることです。言い換えれば、2歳までに症状が現れなければ、股関節形成不全ではない確率が高くなるということです。

この理由は次のように説明できます。この病気は、股関節の形成がうまくいかないめに起こります。大型犬の骨格が形成され終わるのは、だいたい2歳です。したがって、2歳までに症状が現れないのは、股関節が正常に形成されたことを意味するからです。

症状は、早い場合、生後5-8カ月で現れますが、通常は6-12カ月ごろに現れるケースと15カ月以上に現れるケースの2つのグループに分かれます。また、約90%が両方の股関節が冒されます

はっきりした診断はX線検査で行う
症状が現れた場合、獣医師が股関節の内側の筋肉の部分を手で触れば(「触診」と言います)、「股関節形成不全」であるかどうか、おおよその判断ができます。

この病気であることをはっきり診断する(「確定診断」と言います)ためには、通常犬が2歳を過ぎてから、X線検査を行うことが一般的です。なぜ、2歳以降に検査するのかは、先ほどの説明でわかるように、まだ股関節の形成の終わっていない時期では、たとえそのとき異常が見つからなくても、その後に異常が現れる可能性が残されているからです

しかし、症状の激しい犬は、1歳以下でも診断できます。つまり、2歳以前に診断できることもあるし、2歳以前にはっきりと診断できなかった場合も、2歳以後に診断されることがあるということです。

アメリカには、「股関節形成不全」を診断する「動物整形外科財団」(OFA)という団体があり、この病気があるかどうかの判定を行っています。最近、「ペン-ヒップ」という別の団体が、2歳以下でも診断できる方法があることを発表しました。
痛みを抑える薬で生活の質を高める
治療としては、まず痛みを取り除く必要があります。多くの場合、この病気にかかっている犬は、慢性的に痛みを訴えるのではなく、痛がるときと痛がらないときがあるようです。動物病院では通常、痛みが現れたときは、痛み止めの薬を与え、一時的に痛みを抑えます

近年、いろいろな種類の薬が痛みを抑えるために使われるようになりました。また最近、日本で発売された新しい痛み止めの薬(米国では数年前から使用されています)は、かなりの効果があり、これで日本の犬もだいぶん痛みから解放されるはずです。そのようなわけで、治療法がかなり進歩してきました。

クォリティーオブライフ(生活の質)という言葉をご存じの人も多いと思います。主として医療や福祉に関係して使われ、お年寄りや病気の人がケアを受けるとき、人間としての尊厳を守り、心豊かに日々を送れるようにすることを、「生活の質を高める」と言っているようです。最近は、犬の場合も、「生活の質」ということが少しずつ考えられるようになってきました。

医療の現場では、実際に痛みを抑え、穏やかに過ごせる時間を少しでも多くすることが、生活の質を高めることになります。この意味で、犬にも痛みを抑えるすぐれた薬が使われるようになったことは、生活の質を高めるのに役立っていると言えます。
比較的軽量の犬に適した手術法
アメリカの報告によると、いろいろな薬を使って治療することにより、70%近くの飼い主が満足する結果を得られたとのことです。しかし、薬を使うだけでうまく行かない場合は、手術が必要になります。手術は、犬の年齢や病気の状態によって、方法が違ってきます。

現在、もっとも普及しているのは「大腿骨頭切除術」と呼ばれる手術法です。「大腿骨頭」とは「大腿骨」の先端のことです。股関節形成不全では、その部分がうまく発育せず、関節がずれて痛みの原因になることがあります。そこで、骨頭を切り取ることにより、痛みを和らげようとするのがこの手術法です

ただし、この手術法は、体重20kg以下の犬に行うのが理想的です。30kg以上では、一般にあまりよい結果が得られませんが、行わないよりずっと効果はあるでしょう。
犬に合った治療法を選択しよう
股関節形成不全の手術で、一般的に最高の手術法は「大腿骨頭全置換術」と呼ばれる方法です。これは「人工骨頭」を使用する方法で、適切に選べば非常にすぐれており、徐々に普及しつつありますが、非常に高価な手術法です。

このように、股関節形成不全の治療方法として、薬を使う方法や手術による方法が進歩しています。特に手術は、うまく成功すれば、痛みをはじめとしたこの病気の症状をほとんど取り除くことができ、犬の生活の質の改善に大いに役立ちます。犬の年齢や病気の状態に応じて、どのような治療法が可能かを主治医とよく相談し、犬の生活の質ということも考慮して、1番ふさわしいと思う方法を選んでください。

股関節形成不全は、自然に治ることはありません。放置しておけば進行する一方で、犬を苦しめることになります。飼い主の方が、この病気の性質を理解し、早めに対応することが非常に大切です。
余分なカルシウムを与えないように
股関節形成不全に限らず、骨の病気について、かなりの飼い主の方が誤解していることがあります。これまでも何度かお話ししてきましたが、カルシウムを与えすぎることです。確かに、カルシウムは大切な骨の成分です。ですから、「骨が病気になるのはカルシウムが足りないから…たっぷり与えなければ…」と思って、余分にカルシウムを与えたくなるのでしょう。

しかし、次の2つのことを知っておいてください。その1つは、カルシウムの与えすぎは有害だということです。もう1つは、現在のフードには十分なカルシウムが含まれており、それを正しい量だけ食べていれば、カルシウム不足になる心配はないということです。カルシウムに限らず、ほとんどの栄養素は、もちろん不足してはいけませんが、過剰であってもいけません。大切なのはバランスなのです。
肥満は症状を悪化させる
股関節形成不全の犬のケアで、飼い主が気をつけるべきことがいくつかあります。まず、犬を肥満させないことです。肥満させると、股関節に負担がかかり、悪化に拍車がかかるでしょう。

ですから、体重のコントロールが非常に大切になります。その際、愛犬の理想体重を知っておくことが必要です。純血種の場合は、犬種による標準体重が出されていますから、1つの目安になるでしょう。しかし、同じ犬種でも、体格差がありますから、愛犬が平均より大柄か小柄かということも考え、標準体重の数字にあまりしばられないようにしましょう。

犬の体にさわって、肥満かどうかを判定する方法もあります。胸に両手でさわってみて、肋骨の感触がまったく伝わってこないときは肥り過ぎです。逆に、ゴツゴツと肋骨にさわれるのはやせ過ぎです。皮下脂肪の弾力を感じながら、肋骨にさわれるのが理想的です。
肥満している場合は理想体重に戻そう
愛犬が肥満している場合、理想体重に戻しましょう。

まず、愛犬の現在の体重ではなく、理想体重に対する必要カロリーを調べ、そのカロリーの60-70%に当たる食事を与えます。食事は1度にまとめて与えず、数回に分けて与えるほうが望ましいでしょう。このような食事の与え方を続けながら、2週間ごとに体重を測ります。効果を見ながら、理想体重に達するまで続けてください。理想体重に達したら、その体重を守るのに必要なカロリーを与えます。

現在は症状が現れていなくても、親や兄弟に股関節形成不全の犬がいる場合、この病気にかかる確率が非常に高いので、予防のためにも、肥満させないことが非常に大切です。
運動は痛がる前にやめよう
どの程度、どのように運動させるかも、大切な問題です。運動量は、痛みが現れるようでは、多すぎると考えてください。運動量の目安としては、「トライ&エラー」と呼ばれる方法を基準にするとよいでしょう。これは、運動させてみて(トライ)、痛みが出れば(エラー)、運動をやめて休ませるということを、繰り返して行う方法です。

また、痛みは季節によっても影響されます。暖かい環境のほうが、痛みを感じることが少ないようです。したがって、寒い冬の季節には、柔らかくて厚手のものを寝床にするなどの配慮も大切です。
交配させないことが1番の予防
先に述べたように、股関節形成不全は遺伝病です。それも、非常に高い確率で親から子に遺伝します。したがって、この病気にかかっている犬はもちろん、その犬自身は発病していなくても、親や兄弟にこの病気の犬がいる場合、交配をさせないことが大切です。

犬を苦しめる病気をなくしていくには、犬と一緒に生活している飼い主の方の自覚がなくてはなりません。ぜひこの病気について理解し、あなたの愛犬だけではなく、これから生まれてくる仔犬たちのことも考えてあげてください。

薬だけではうまく行かない場合、手術が必要になります。もっとも普及している手術法は「大腿骨頭切除術」ですが、これは20kg以下の犬で成功率が高くなっています。現在、最もすぐれているのは「大腿骨頭全置換術」と呼ばれ、「人工骨頭」を使用する方法ですが、料金は高価になります。

手術が成功すれば、痛みをはじめとしたこの病気の症状をほとんど取り除くことができ、犬の生活の質の改善に大いに役立ちます。しかし、手術を受けた犬は治せても、その遺伝的素質は変わりませんから、その犬を交配させるのは避けるべきです。股関節形成不全は自然に治りませんから、犬に合った治療法を選んであげましょう。