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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

病気の早期発見法

食欲が落ちたら病気を疑おう
元気(活動性)の喪失も赤信号
定期的に元気を失うこともある
咳が出るのは心臓病のサイン
仔犬の体重減少は危険
下痢と体重の関係
直腸温が正確
便の異常の30%は要注意
尿検査で早期発見
効果的な運動テスト
全身を調べよう

食欲が落ちたら病気を疑おう
犬においても「予防にまさる治療はない」のですが、病気にかかったときは、少しでも早く発見し、最良の治療をすることが大切です。そこで、飼い主の方が愛犬を観察することによって、比較的簡単に発見できる病気の徴候についてお話しましょう。

まず、「食欲」から始めましょう。犬の最大の関心事は、食べることです。したがって、食欲がなくなったら、どこかに異常がある可能性が高いと考えられます。人間も食欲がなくなれば、何かの病気が疑われます。食欲の有無は、健康の状態を非常によく反映するものなのです。

ときには、食べ過ぎや夏バテなどが原因で一時的に食欲がなくなることもあります。また、食事の内容(その食べ物を愛犬が好きか嫌いか)、運動量、年齢、環境(暑さ寒さなど)によっても、食欲は左右されます。また、逆に食欲がありすぎるのも病気の1つです。これも覚えておいてください。特に中年以降の犬は、糖尿病や副腎の病気で食欲が異常に起こることがありますので注意が必要です。ですから、いろいろな条件も考えあわせた上で、愛犬の食欲の状態を観察しましょう。食欲の判定方法は、表を参照してください。
■元気(活動性)の喪失も赤信号
愛犬がいつものように元気かどうか(活動性の程度)も、病気の重要な判定基準になります。健康な仔犬は動作がきびきびしており、活発に動き回ります。ですから、ぐったりしているような場合、何かの病気が疑われます。当然、高齢になるに従い、活動力は低下しますが、いつもと様子が違う場合は、病気の徴候である可能性があります。高齢犬があまり動きたがらなくなったとき、「もう年をとったのだから、動かなくなるのは当たり前」と決めつけないで、どこかに異常があるのではないか疑ってみる必要があります。

活発さは眼にも反映されます。元気な犬はいきいきとしてものを見ますから、首の動きも活発で、飼い主が動けばその方向に眼を動かします。また、眼に輝きもあります。飼い主にも、周囲のものにも関心を示さず、眼の輝きが失われ、トロンとした状態になったり、眼をキョトキョト動かす場合は、病気が疑われます。
■定期的に元気を失うこともある
愛犬が周期的に元気を失ったり、また元気を回復したりすることがあります。たとえば、慢性の関節炎にかかっている高齢犬では、散歩に連れていったり、何らかの活動をさせると、その後2〜3日は元気がなくなり、じっとしていることが多くなります。そこで、どこか悪いのではないかと心配になり、病院に連れていく算段をしていると、再び元気を回復することがあります。

慢性の関節炎にかかっていると、関節を使う活動をすることで痛みを感じ、しばらく動かなくなるのですが、関節を休めることによって痛みがなくなり、再び動けるようになるわけです。また、心臓の病気や腹部に腫瘍があるとき、周期的に元気がなくなる場合もあります。

このように、元気のなくなり方によっても、ある程度は、どういうタイプの病気であるかを判定することができます。
■咳が出るのは心臓病のサイン
活動すると咳込む犬は、心臓病の疑いがあります。動くと容体が悪化するので咳が出て、活動をやめて休むと咳は少なくなります。しかし、病状が進行すると、休んでいても咳をするようになります。また、心臓病が原因の咳は、特に冬季の夜中によく出ます。ちょうど喉に刺さった 。骨を吐き出そうとでもするように、「ゲエゲエ」と苦しそうに咳をするのが特徴です 。ガチョウが鳴くような咳といえば、わかりやすいでしょう。

運動させると咳をしたり、夜中に咳が出る場合、心臓病にかかっている可能性がありますから、すぐに動物病院で診察してもらってください。なお、心臓病の犬に運動は禁物です。心臓病と診断されたら、必ず安静を保ってください。
■仔犬の体重減少は危険
犬が標準体重を保っていれば、健康と考えてよいでしょう。体重が減少した場合は、病気である可能性が高いので、体重の変化にはいつも注意が必要です。ですから、できれば1週間に1度、それが無理だとしても少なくとも1カ月に1度は体重測定をしましょう。特に新生犬の場合は、毎日体重測定をすることが大切です。新生犬の体重は生後10 日で出産時の約2倍になり、1カ月で成犬の約10分の1・2カ月で約5分の1、4カ月で約半分になります。

新生犬の体重が3日間増加しなかったり、あるいは減少した場合は、命に関わる危険性があります。ですから、新生犬の体重は毎日必ず測ってください。また、人間と同じように、犬も高齢になると肥満しがちです。肥満はいろいろな病気の引き金になりますから、注意しなければなりません。カロリーの少ない食事にするか、肥満犬用や高齢犬用の食事を与え、肥満させないようにしましょう。
■下痢と体重の関係
体重と健康状態には深い関係があります。たとえば、愛犬が数カ月にわたって断続的に下痢をしているとします。下痢の原因の1つとして、腸の病気が考えられますが、体重の変化によって、腸のどの部分の病気であるかの判定がある程度できます。もし愛犬の体重が、下痢の始まる前に比べてかなり減少したとしたら、その下痢の原因は小腸にあります。小腸は栄養を吸収するところですから、その部分に異常があると栄養を吸収できず、体重が減少するからです。

これに対して、下痢が続いていても、体重の減少が伴わない場合、下痢の原因は大腸にあることがわかります。大腸は水分を吸収するところですから、水分の調節機能が悪いために下痢をするのであり、栄養は小腸ですでに吸収されているので、体重にはあまり影響はないわけです。下痢の治療方法は、その下痢が小腸性か大腸性かによって異なりますから、体重の変化の観察は大切です。
■直腸温が正確
犬の正常体温は38.5℃です。人間より約2度Cほど高いわけです。体温の上昇が必ず病気を意味するわけではありませんが、一般には、病気であれば体温が高くなります。特に体温が低下したときは、命に関わる危険性があります。通常、病気と闘っているときは体温が高くなり、病気に負けると体温が低くなります。

犬は直腸温で測るのが最も正確であるといわれています。犬専用の体温計がありますので、利用するとよいでしょう。人間の体温計を使うこともできますが、共用する場合、犬の直腸に体温計を入ることになるので、衛生面で配慮が必要になります。犬の体温を測るときは、体温計に使い捨てのカバー(プローブカバーと呼ばれ、比較的大きな電気屋さんで求められます)をつけて測り、アルコールなどで消毒すれば安全でしょう。直腸以外では、脇の下や膝下でも体温を測ることができますが、その場合は4度℃ほど低くなりますので注意が必要です。

また、犬もストレスのために体温が上昇することがあります。ストレスが原因と考えられる場合は、興奮がさめたと思われる5〜6分後に測り直し、正常体温に戻っていれば、病気の心配はないといえるでしょう。
■便の異常の30%は要注意
便は体の一部といわれるほどで、健康状態の重要な指標になります。下痢をしている動物の便を調べると、いろいろなことがわかります。たとえば、便に粘液や新鮮血が混じっていて、排便の回数が多く、量が比較的少ない場合は、下痢の原因は大腸にあると考えてよいでしょう。また、下痢をしている動物がよくおならをしたり、お腹にさわってみて、お腹がゴロゴロし、ガスが発生しているようなら、原因は小腸にあると考えられます。

便の中に寄生虫がいれば、寄生虫感染を考えなければなりません。寄生虫にはいろいろな種類があり、同じ薬ですべての寄生虫を駆虫することはできません。ですから、寄生虫の種類を動物病院で調べてもらい、その虫にあった駆虫薬を使う必要があります。

食事の質が便に現れることもあります。食事を変えた場合、便が変化することもあるので、覚えておきましょう。一般には、便が異常であっても、70%は重篤な病気ではありませんが、残りの30%は早期に治療の必要な病気である可能性があります。その判定は獣医師にしてもらう必要がありますが、飼い主の方も愛犬の便をよく観察し、血が混じっていないかどうか、臭いはどうか、量や回数は多いか少ないかなどに注意して、獣医師に報告するようにしましょう。
■尿検査で早期発見
尿の状態もしっかり観察すれば、病気の早期発見に結びつきます。尿検査の重要性は昔からよく知られています。少し難しいかもしれませんが、飼い主の方が尿の状態を観察するとき、排尿が始まってから終わるまでをよく見ていると、とてもよい情報となります。たとえば、尿に血が混じっている場合でも、排尿のどの過程で血が混じるかによって、病気の原因になっている部位がどこであるか判定できることがあります。

尿は腎臓から尿管を通って膀胱にたまり、さらに膀胱から尿道を通って排泄されますが、この尿が通過する器官を尿路系といいます。もし、排尿の始めから終わりまでの全過程に血が混じっていれば、上部の尿路系、すなわち腎臓などが原因であると考えられます。また、尿が出終わるときに少し血が混じる場合は、下部の尿路系、すなわち膀胱からの出血が疑われます。

尿の異常を発見するには、正常時の尿の状態を知っておく必要があります。愛犬が健康な状態のときの、尿の臭い、色、量などを観察しておきましょう。尿が臭い場合は、重症の細菌感染が疑われますから、獣医師に診断してもらってください。尿の色は、飲む水の量とも関係してきます。運動後や何らかの原因で水をたくさん飲めば、尿の色は薄くなります。逆に水を飲む量が少なければ、尿の色は濃くなります。また、尿が色が濃い場合、脱水症状を起こしている可能性もあります。この場
合、水分を補わなければなりませんから、獣医師の診断が必要となります。
■効果的な運動テスト
人間の場合も、ある程度の運動を課した後、休んでいるときのいろいろな反応を調べ、病気の症状が現れるかどうかをみる方法があります。これを負荷テストと呼びます。犬にも負荷テストがあり、異常を発見する良い方法です。たとえば、運動を10〜20分間行ってから休みます。この場合、ふだんは4〜5分で元通りになるのに、10〜20分たってもまだ呼吸が荒いようなら、心臓や肺の機能が落ちていることが考えられます。

負荷テストの重要さは、このテストを行わず、通常の状態でいるならば、異常を発見できない場合があることです。実際に、犬が心臓病にかかっていても、そのうち約10%は心電図検査でまったく正常と判定されるといわれています。心電図検査が正常でも、犬を5〜10分くらい歩かせて、そのあとにもう1度心電図を測り、異常が発見されるということもあります。

毎日の散歩を、負荷テストとして利用することもできます。ふだんから、愛犬が散歩した後、どのくらいで正常な状態で調べておくとよいでしょう。特に循環器系の病気の早期発見には、この観察が非常に有効です。
■全身を調べよう
身体検査も、病気の早期発見に重要な手がかりを与えてくれます。まず、頭部から調べていきましょう。眼の輝きを見てください。眼がトロンとしていたら、何か異常があることが考えられます。また、眼ヤニや涙が出ていないかどうかも調べます。特に眼が赤くなっているときは要注意です。

次に、頭全体をさわり、何か出来物ができていないかどうか調べます。鼻は鼻汁のチェックをしてください。口の検査は特に重要です。口臭がある場合、ほとんどは歯石が原因です。動物病院で歯石を除去してもらうとよいでしょう。そして、ふだんから歯磨きの習慣をつけ,歯石の予防をすることが大切です。口の中が黄色くなっている場合は、黄疸、肝臓病、溶血性貧血の3つの病気を疑うことができます。獣医師に診断してもらいましょう。喉にさわったとき、すぐに咳が出る場合は、気管の病気の可能性があります。イビキのチェックも重要です。短頭種(パグ、チン、ボクサーなど)以外でイビキをかく場合は異常です。

4本の脚の関節をすべて曲げてみて、痛がらないかどうか調べてください。犬のお腹の部分もチェックします。犬を裏返しにして、手で少し強く押しながら、手にさわるものがないかどうか、痛がることはないかなど調べます。メスの場合は、膣から何か分泌液が出ていないかどうか、調べてください。

また、高齢になると乳腺に腫瘍ができやすくなりますので、1カ月に1度は乳ガンのチェックをしましょう。オスの場合も、ペニスの先から分泌液が出ていないかどうか調べてください。体全体を両手でさわり、出来物やゴツゴツしたところがないかチェックしてください。最後に、尻尾をもちあげて、肛門を調べます。肛門腺がたまっている場合、慣れている人なら、自分で絞ることもできるでしょう。

このように、身体検査でチェックする場所は全身に及びます。この検査を有効に行うためには、犬が飼い主にさわられるのをいやがるようではいけません。幼犬のときから、体のどこにでもさわらせるように、きちんとしつけをしておきましょう。愛犬の健康は、飼い主の手入れと管理に負うところがかなり多いといえます。そのことを、よく自覚していただきたいと思います。