■検査はなぜ必要か? |
言葉を話すことができない動物の場合、症状(下痢・嘔吐等の証拠)で病気を判断し、症候(人のようにどれくらい痛いかを示す)では判定できません。この状況はまだ話すことができない新生児の診療に似ています。それだけに母親(飼い主)による状態の説明が重要となります。検査が必要な理由は多くありますが主な4つは以下の通りです。
1)推定した病気が正しいかどうかを確かめる
2)その病気の程度や進行度を調べる
3)その他の合併症が併発していないか調べる
4)現状を記録し今後と比較する
以上の理由から、より科学的な裏付けを取るために、症状や身体検査による+αの検査も行うとより正しい診療となります。当院では検査結果を報告書として飼い主の方へお渡しする制度を採用しております。 |
■X線・X線テレビ検査 |
当院では500mAの大型レントゲン装置を用いてX線撮影に役立てています。獣医科領域においてX線学検査は非常に重要です。X線検査によって50-80%の異常を発見することができます。
X線は、単に骨の異常(骨折・脱臼・骨の発育異常障害・腫瘍・関節灸等)を調ぺるのみでなく、胸部(心臓・血管・肺野・気管・食道・縦隔洞等)や腹部(肝蔵・腎臓・脾臓・胆嚢・胃腸・膵臓・膀胱・前立線等)についての異常を推定でき、動物の死亡率や病気にかかる率を減少させることができます。また病気の早期発見にも役立ちます。
当院では検査されたX線結果について説明をいたします。また、これからの病気の予後・治療方法・再検査の時期についてもその時期にお話ししますのでぜひ説明をお開きください。 |
■単純X線検査 |
単純X線検査は、動物に造影剤等を使用せず、そのままの状態でX線撮影をする検査です。必ず2方向にわたって撮影することが重要です。またいろいろな体位で撮影し、異常を発見しやすくする場合もあります。 |
■特殊X線検査 |
単純X線検査の他に、病気をより詳しく調べるために行われる特殊なX線検査は、主に以下の通りです。
検査法 |
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疾患部位 |
バリウム造影 | ⇒ | 消化器系 |
血管造影 | ⇒ | 泌尿器系 |
心臓血管造影 | ⇒ | 循環器系 |
脊椎造影 | ⇒ | 神経系 |
関節造影 | ⇒ | 関節系 |
気腹造影 | ⇒ | 腹部系 |
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■X線テレビ検査 |
X線テレビ検査では、透視をすることで動物の各臓器の動きが観察できます。従来の単純X線検査では確認できにくい疾患に応用します。特に消化管疾患(食事とバリウムを混ぜて与え、胃腸の運動性を観察)・循環器系疾患(心臓・血管の動きを観察)・骨格系疾患(骨・関節の動きを観察)・神経系疾患(脊髄造影をする際の位置決定)などに応用することができます。 |
■血液生化学的検査 |
今どのような状態にあるのか血液一般検査より詳細に調べるために行なわれます。この検査は病気の予後や治療の選択のために非常に重要です。血液生化学的検査は、各臓器の働き方を調べてどんな異常が起きているのか?どのようなタイプの疾患か?そして予後はどうなるのか?等より詳細に推定でき、診断の能力が飛躍的に向上します。近年の獣医学の発達はこれらの検査に負うことが多いと言えるでしょう。
主な検査項目 |
調べられる機能 |
猫の基準値 |
犬の基準値 |
総ビリルビン(mg/dl) |
肝臓・胆汁・溶血 |
0.1-0.3 |
0.1-0.3 |
アルプミン(g/dl) |
特に肝臓の合成能 |
2.0-3.0 |
2.8-3.8 |
AL-P(mU/ml) |
肝臓・骨格筋・腫瘍 |
25-93 |
20-158 |
SGPT(ALP) (mU/ml) |
特に肝臓に特異的 |
0-80 |
0-80 |
SGOT(ALT) (mU/ml) |
肝臓・心臓・骨格筋 |
30-80 |
22-88 |
LDH(U) |
肝臓・筋肉・癌 |
63-273 |
45-233 |
クレアチニン(mg/dl) |
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ナトリウム(mEq/l) |
腎臓・代謝・電解質 |
147-156 |
141-152 |
カリウム(mEq/l) |
腎臓・代謝・電解質 |
3.8-4.5 |
4.0-5.7 |
リン(mEq/l) |
腎臓・上皮小体 |
4.2-6.4 |
3.5-5.5 |
カルシウム(mEq/l) |
腎臓・代謝・骨 |
4.0-5.2 |
4.3-5.6 |
タンパク分画(g/dl) |
肝臓・免疫・感染 |
波形で示す |
波形で示す |
CPK(mU/ml) |
筋肉・骨格 |
30-300 |
10-400 |
総脂質(mg/dl) |
肝臓・脂質・代謝 |
145-607 |
47-725 |
中性脂肪(mg/dl) |
肝臓・脂質・代謝 |
6-58 |
10-42 |
尿酸(mg/dl) |
肝臓・脂質・代謝 |
0.1-0.7 |
0.2-0.8 |
アミラーゼ(U) |
肝臓・脂質・代謝 |
330-900 |
330-900 |
リパーゼ(U/l) |
肝臓・脂質・代謝 |
0-83 |
13-200 |
A/G比 |
特に肝臓の合成能 |
0.6-0.7 |
1.5-2.3 |
直接ビリルビン(mg/dl) |
肝臓 |
0.05-0.15 |
0.06-0.12 |
間接ビリルビン(mg/dl) |
肝臓 |
0.01-0.48 |
0.01-0.49 |
コレステロールエステル比(%) |
肝臓 |
60-80 |
60-80 |
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■心電図 |
心電図は心臓の電気的活動を記録したものです。動物の心臓を調べるための心電図は、人間の医療で心臓を評価するものと全く同じです。あなたの動物が心電図検査を受けることで、より科学的に心臓の状態が評価されます。そして今どんな処置が必要なのか?どんな治療法が最も適しているか?等を評価できることが多くなります。これらの検査を行なうことで、従来聴診器のみで調べていた病気が、より正確に診断されることになるのです。このことはあなたの動物の寿命を伸ばすことにつながります。
心電図を検査する必要があると考えられる症状は?
1)聴診によって心臓のリズムが異常であると確認される
2)急に発症した呼吸困難
3)ショックが認められる
4)失神や痙攣発作が確認される
5)手術中・手術後の心臓のモニターとして利用する
6)聴診によって心雑音が聴取される
7)心肥大が胸部X線写真で認められる |
■心音図 |
心音(弁の動きにより直接起こるとされているものと、弁や心臓の急激な動きによって生ずる近くの血液の振動によるもの)の電気的活動を記録したものです。どんな種類の心音(心雑音)か判定する重要な検査です。例えば、この心雑音は先天酌なものなのか?後天的なものなのか?等を判定するのにとても役立ちます。またどのような病気が原因の心雑音かも推定することができます。
これら心電図や心音図の検査を利用することで、人間の医学と同じように動物も高度な医療の恩恵を受けられるようになってきました。 |
■心電図・心音図で推定できる主な病名 |
僧帽弁閉鎖不全症、特発性心筋症、心膜炎、心嚢炎、高カリウム血症、動脈管開存症、気管虚脱、肺動脈弁狭窄症、心房・心室中隔欠損症、フイラリア症、肺性心、ファロー四徴症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、ジキタリス中毒、低酸素症等 |
■生検の種類 |
生検は、皮膚やその他の臓器等から、その組織の一部分を取り出して調べることです。そして、その病気が進行性のものなのか?治る見込みがあるのか?部分的病気なのか?を判定する良い指針となります。また、得られた材料から特定の診断を下すのに十分ではないにしても、その特定の診断をする上での理論的な手掛かりとなります。つまり、生検の結果が特定の診断を下し、治療法を決定する、または予後を判定するのに重要であるからです。主な生検の種類は以下の通りです。
針吸引採取法 |
注射筒に生じた陰圧により針で生体から細胞や小片を採取する方法 |
パンチ生検法 |
生検の器具を用いて生検から組織芯または組織栓を除去する方法 |
経皮的パンチ法 |
生検の器具を用いて皮膚の一部を除去する方法 |
外科的生検法 |
切開によって病変または組織の一部を外科的に除去する方法 |
骨髄生検法 |
骨髄生検針によって骨髄内の組織を採取する方法 |
生検材料を採取する部位
腫瘍であれば全体を採取しますが、病変のある所では局所的に治療をされていない部位・傷を負っていない部位・病巣が最盛期を過ぎていない部位・硬結や過度の色素沈着がない部位が選ばれて採取されます。
どんな皮膚病に生検が役立つか?
皮膚腫瘍、自己免疫性皮膚疾患、アレルギー反応、脱毛症、真菌感染症、異常角化、膿皮症、猫好酸球性肉芽腫、猫粟粒性皮膚炎、皮膚結石、甲状腺機能減退症等
結果が得られるまでの日数
通常結果の報告書(診断書)が得られるまでには、7-14日間かかります。これは材料を採取し、固定液に入れて検査センターに送り、そこで標本を作ったり染色したりしてから診断されるからです。結果が得られましたらできるだけ早く書面をもって結果をお知らせします。
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■超音波診断(検査) |
超音波(ultrasound)は、最近獣医学の分野でも言葉を話すことができない動物にとって強力な診断技術となっています。何よりも優れている点は、無害で動物を傷つけることがない、つまり「切らないで中を見る」非浸襲的検査が可能であることです。私達の病院では、小動物用セクター走査超音波診断装置(SSD-118アロカ)を使用して診断に役立てています。欠点は、通常動物に剪毛(毛を切ること)が必要で、時に軽度の鎮静処置も必要となることです。
超音波診断の利点
1)動物への影響はなく被爆もなく安心で無害である
2)繰り返し検査でき、しかも重症動物にも適用できる
3)軟部組織の抽出にすぐれ、組織的な評価ができる
4)超音波の投射でも苦痛を与えない
5)液体と軟部組織の識別が簡単にできる
6)心臓内部の解剖学的構造を示す能力がある
7)結果がすぐわかり、記録(ビデオまたは写真)できる
8)弁・血管・心室および胎子の心拍動等の動きを直接目で見ることができる
9)バイオプシー(生検)が適用できる
10)妊娠診断に対しても安全に胎子の生死・数・位置を確認できる
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■心エコー(心臓超音波映像法)で推定できる主な異常所見 |
心臓調律の評価、心臓の位置、心臓の測診(心室の拡張または肥大・心房拡大等)、僧帽・三尖弁・大動脈弁、左心壁および腔、心室中隔、肺動脈、大動脈、心膜等の評価 |
■腹部超音波映像法で推定できる主な異常所見 |
肝臓、脾臓、胆嚢、総胆管領域、主門脈、肝静脈、後大静脈、大動脈、び慢性実質性異常、横隔膜エコーレベルの増加と減少、限局性実質性異常、無エコー病変、低エコーまたは高エコー病変、混合性の病変、肝臓、腎結石、水腎症、腎実質疾患、嚢胞性腎疾患、腎腫瘍、前立腺、膀胱、腸管、妊娠等の検査 |