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今回から数回にわたって心臓病のお話をします。犬が高齢になると、程度の差はありますがほとんどが心臓病に冒されます。そして、重症になると根治はなかなか難しく、病気の進行を遅らせる治療しか施せなくなることもありますので、特に、早期発見、早期治療が非常に重要です。 そこで、今回はまず心臓の機能から始まって、病気の早期発見法を中心にしたお話をすることにしましょう。
心臓病を知るためには、心臓の仕組みすなわち機能を知ることから始めなければなりません。 犬の心臓は犬を外から見た場合、両肘を結ぶ線上の胸のあたりにあります。 機能はポンプ作用によって全身に血液を送ることです。すなわち、酸素が少なくなった血液を静脈を通して集めて肺に送り、肺で酸素を取り込んだ血液を受け取って体のいろいろな組織に送り出しているのです。
心臓は図1に示すように四つの部屋、すなわち二つの心室と二つの心房から成り立っています。 各部屋は大動脈弁、肺動脈弁、僧帽弁、三尖弁の四つの弁で区切られており、これらの弁が開いたり閉じたりして、血液が逆流しないようになっています。
血液は左心室→大動脈→全身(肺を除く)→大静脈→右心房→右心室→肺動脈→左心房→左心室というように循環しています。
犬の心臓が収縮と拡張を繰り返すのは1日に約18万回で、血液を送り出す量は約2000リットル、血液が体を一巡するのにかかる時間は約8〜30秒といわれています。 血液は頭部に20%、腎臓と肝臓に25〜30%、その他に20%送り出されています。
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人間と同じように、犬の場合も特に高齢の犬に心臓病が多く見られます。 心臓の機能が低下してくると、当然何らかの症状が表れますが、その症状を放置しておくと心不全になってしまいます。 そして、心不全になると、もはや心臓病の末期ですから、どういう犬でも目に見えて状態が悪くなってきます。ですから心不全が起こったならば、少しでも早期に発見し、進行を遅くする処置をとらなければなりません。
心臓病の特徴となる三大症状があります。咳、運動不耐性、失神です。以下にこの三症状について説明しましょう。
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咳をしている動物がすべて心臓病だとはいえませんが、中型犬以上の犬の場合は、心臓病が原因で咳をするケースが非常に多く見られます。
小型犬の場合は、心臓病以外、たとえば気管の障害が原因で咳をすることが多いのですが、それでも高齢の小型犬が咳をすれば、やはり心臓病も疑う必要があります。
心臓が大きくなると、気管支(気管の分枝)がつぶれたり狭くなったりします。 また、心臓の血液の流れが悪くなって、肺に水が溜まることもあります。それらが原因で咳が出るといわれています。 つまり、愛犬が咳をしていて、心臓が正常より大きくなっていれば、心臓病からくる咳だと疑い、心臓の大きさが正常であれば、心臓病以外、すなわち気管、気管支、肺などの障害からくる咳だと判定できるわけです。
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心臓が大きくなっているかどうかは、慣れれば外から判足できます。
あなたの愛犬の心臓の部分を両手で軽く包み込むようにさわります。このとき、鼓動が強くなければ、心臓の大きさは正常です。 若い犬は普通は正常ですから、今から心臓の大きさを判定する練習をしておくとよいでしょう。 そのためには、ときどき心臓に触って訓練をします。
まず、安静時と運動後にそれぞれ心臓に触ってみてください。安静時の鼓動は正常で、運動後は強くなりますから、その感触を覚えておき、ときどき安静時に触ってみます。もし、鼓動が強い場合は、何か異常があることが疑われます。 犬を2匹以上飼っているときは、比駁してみてください。ただし、犬の種類によって多少の違いはあります。
次に、心臓の左右の強さを比べてみます。この場合、左側が6〜7割、右側が3〜4割の割合で鼓動の強さを感じることができれば、その犬の心臓の左右の大きさは正常だといえます。 しかし、左右1対1の感触であれば、ほとんどの場合、右心室の方が大きくなっていることが考えられますので、すぐに動物病院に行って診察をしてもらってください。
ただし、これは胸の細いタイプの普通の犬にいえることで、胸が低くて深いタイプの犬、すなわちポクサー、プルドッグなどにはあまり当てはまりません。
また、心臓病の咳の特徴は夜中から明け方に多く出ることです。 そして、喉に刺でもささったように、喉の奥から何か異物を吐き出すような咳をします。私たちはそのような咳を「深い咳」といっています。
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運動不耐性とは、簡単にいえば、運動するとすぐ疲れるとか、運動を嫌がるということです。 ただし、足や関節が悪くなっているときも、犬は動くことを嫌がることがあります。 犬が運動を嫌がるようになると、もう老齢だから仕方がないと考えて、ほかの原因を疑いもしない飼い主がいますが、重大な病気が隠されていることもありますので注意が必要です。
咳をしている犬が運動を嫌がると、その犬は二つの心臓病の特徴を示しているといえます。ですから、最近どうも運動を嫌がるようになったという場合、よく調べてみると初期の心臓病が見つかることがあります。
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失神は前の二つの特徴に比べると少ない症状ですが、心臓病の重要なサインであることに変わりはありません。 しかし、失神とテンカンの発作を間違えないようにしなければなりません。
以下に心臓病の犬が失神を起こす理由をお話します。
前述したように、われわれ獣医師は心臓の大きさを測定すること.によって心臓病であるかどうかを判定します。 つまり、心臓が大きくなっていればその犬は心臓病にかかっているわけですが、それでは心臓が大きくなると、どういう状態が引き起こされるのでしょうか。 心臓が大きくなると刺激伝導系が障害を受け、不整脈{(脈が乱れる)が引き起こされる可能性があるのです。そして、不整脈が起こると血圧が低下し、そのことが失神の原因となるのです。
それでは、失神とテンカンを臨床的にはどう区別すればよいのでしょうか。 どちらもケイレン発作という形で表れますが、簡単な見分け方があります。
まず、心臓病を原因とする失神の場合は、次のような特徴があります。
たとえぱ、外出先から帰ってきた飼い主を迎えるために、ドアの側まで駆け寄っていった犬が突然倒れます。その1〜2分後に、何事もなかったかのように元の状態に戻ります。 つまり、倒れたのは不整脈を起こしたからであり、不整脈が治まればすぐに元の状態に戻るわけです。
これに対して、テンカンの発作の場合は、発作が起こる前から動物は空を見上げたりして、不安な症状を示します。 したがって、よく観察している飼い主なら、発作を予測することができます。 また、発作が治まっても、正常に戻るまでにかなりの時間がかかるのがテンカンの特徴です。
したがって、普段から愛犬を観察していれば、区別は決して困難ではありません。 心臓病からくる失神とテンカン発作では治療法がまったく違いますので、両者を鑑別することは重要です。
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上に述べた三大特徴に、ほかの症状を加えた五大特徴、七大特徴があります。
五大特徴には、三大特徴に呼吸困難(息遣いが荒くなる)と腹部膨満(ほとんどが肝臓と脾臓の拡大が原因)が加わります。 さらに七大特徴には、痩せてくる、チアノーゼ(酸素が足りないために口腔粘膜が紫色になる)が加わります。特に、心不全状態の動物は、ドーペルマンを除いて、ほとんどが例外なく痩せてきます。 これは最近の獣医学で明らかにされたことです。獣医師は極度に痩せている動物を見ると、心不全、ガン、膵臓の機能不全、重症の寄生虫感染のいずれかを疑います。それほど 痩せることが心不全の特徴的な所見となっているのです。
繰り返しますが、心臓病はかかってしまったら完治の難しい病気です。したがって、症状を早期に発見し、早期に適切な治療を施すことが大変重要になります。 愛犬が咳をしている、運動すると苦しがる、突然倒れる、苦しそうに呼吸する、お腹が膨れてきた、食欲がない、痩せてきた、などの症状に気付いたら、すぐに動物病院で診察してもらってください。
ところで、前述したように、心臓の機能異常を放置しておくと心不全になってしまいます。
心不全の原因としては、
@高齢の小型犬に多く発症する慢性弁膜症
A慢性肺疾患
Bフィラリアが寄生することによって起こるフィラリア症
Cおもに大型犬に発症する心筋症
D心臓を取り巻く膜の病気である心臓疾患
E1000頭に1頭くらいの割合でみられる先天的心疾患
の六つがあげられます。
次回にこれらの心不全の六大原因を中心にお話します
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−出血(爪から)の処置法−
愛犬の爪を切っている時に、よく、切り過ぎて出血することがあります。そんな時に、適当な止血剤がない場合はどうしますか?
@脱脂綿で強く押さえ、3〜5分間そのままにします。
A少し上の部分(心臓に近い所)を圧迫すると、よく止血します。
B少しの間は安静にして、テープで固定してもよいでしょう。
Cあまりおすすめしませんが、線香やマッチの軸で焼いても、止まることがあります。
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