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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の伴侶動物へのやさしい(優しい)獣医学
最も実践的な獣医療のために

犬猫の疼痛管理の実際とその臨床応用のマニュアル

― 痛くない手術こんにちは、痛い手術はさようなら ―



from May 08, 2009


はじめに
犬猫の疼痛管理の理論と実際
手術周術期の麻酔管理の理論と実際
非ステロイド系抗炎症剤の犬と猫の使用法
猫猫の疼痛管理について
すべての手術に応用できる、局所麻酔の使用の伝達、浸潤麻酔について
おわりに
■はじめに

近年小動物臨床においては、疼痛の管理の重要性がより再確認されている。今回はそのむずかしそうな疼痛の管理を出来るだけ優しく(易しく)解りやすく解説を試みました。小動物臨床においては、70年代は疼痛管理の記載は皆無で、80年代から少しずつ体系づけられ、90年代において応用されはじめ、2000年代においては、疼痛管理はほぼ常識化されて来たようです。

それゆえに現在、動物病院にて診察をしている獣医師にとって、疼痛管理は避けられない事項である。今後は動物に少しでも苦痛を強いないようにすれば、動物の遺伝子はそれを覚えていて、代々生まれ変わるごとに、より人間と共生できる動物になりうると私は信じています。

また動物病院のマネージメントの観点から言えば、今後は飼い主が鎮痛剤を使用しているのがわかるように、計算書の項目の、注射を一括にするのはなく、麻酔薬のように、別に鎮痛剤・鎮静剤の項目をあらたに付け加えると良いであろう。

今回の解説は、論理や原理については、殆ど省いてありますので、いろいろな成書を参考にしてください。今回は小動物臨床を行う臨床家が忙しいなかで、一目でわかる犬猫の疼痛管理のその易しい臨床応用をいかに行うかに重点を置いて解説しまいます。最近において塩酸ケタミンが麻薬指定となることが論議を呼んでいますが、論議はさておき今回はケタミンを含めた犬猫の疼痛管理について、勉強する良い機会として捉え自身の動物病院にての疼痛管理をより一歩進めて、より良い小動物臨床を提供できる環境を整えることが先決と思われる。

ある意味において、疼痛管理は麻薬の許可を得ていないと、できにくいものである。ケタミンを麻酔薬としてのみ使用するのではなく、塩酸モルヒネ等の使用のために動物の疼痛管理には麻薬が必要となるので、許可は臨床獣医師にとってより良い診療のためには不可欠と考えて良いであろう。

私達の臨床獣医師は最終的な治療目的は、動物の痛みを取り除く事である。たとえその病気が治療できなくても、痛みだけは動物から除くことを心がける必要があろう。多くの飼い主は自身の動物の痛みには敏感であり、最低限、痛みだけは取り除いて欲しいと望むものである。獣医師はそのために理論武装して、実際に行う必要がある。

痛みは死そのものより恐ろしいと言われ、我々獣医師は動物の痛みを克服すべき使命を課されているものと考えるべきである。私達の動物病院では、待合室に「疼痛拒否宣言」を提示しています


■犬猫の疼痛管理の理論と実際
以前の獣医学においては、動物は人間より、痛みを感じない?手術後は多少痛みがあるほうが休息と回復に役に立つ、動物は人間より痛みに対して耐えうる、飼い主には余計な出費になる、疼痛なしは動物に自己損傷の原因となる、使いすぎれば薬物の乱用となる等、とか言われあまり痛みに対して関心を払うことは少なかった状況は多少ともあったようであるが、現在の獣医学において、それらは否定されています。大脳皮質がある限り痛みは感じます。また例えば鎮静剤や鎮痛剤の使用説明の解説も、強い疼痛時の場合のみ使用とかの表現が使用されたりしていて、このことが鎮痛剤を使用することの制限となっている場合もあるようである。


ではその鎮痛剤の効用であるが、心肺機能の抑制を抑え、治癒率、生存率の向上のために使用されている。最近では癌の転移を遅らせる働きがあることも判明している。このことは痛みがあると、治癒が遅い、合併症が起りやすい、免疫が低下する、転移が速まると言える。また例えば最近の癌の治療の獣医学書において、昔は疼痛管理のページはあまり記載がなかったが、明らかに記載が目に見えて増加していることが如実に示している。また疼痛管理は動物と飼い主及び動物病院で働く職員のストレスの軽減に大いに役に立っていることも忘れてはならない。


まずは鎮静についてであるが、鎮静と麻酔との境界線はなく、不明瞭であるが、主に鎮静とは外部からの刺激に対しての反応の低下と理解されている。動物と医療従事者にとっても鎮静は共に安全のため重要である。特に動物がおとなしい性格でない場合は特に重要となる。恐怖や極度のストレスは交感神経の活性を高め、事故が起る要因となりうる。これらの鎮静剤は動物に精神面の安定に作用するが、鎮痛剤の作用を増強して、鎮痛剤の補助的な働きをするが、強い鎮静剤は、動物の行動を制限することがあり、日帰りの手術等では問題となる。そんな場合は軽くするか作用時間の短いものを選ぶべきである。例えば手術後の鎮痛剤の使用は通常は最低でも3日間は必要である。

現在考えられていることは、疼痛管理によって得られる利益は、鎮静剤や鎮痛剤の使用による不利益を上回るものである。ゆえに手術後の疼痛が予測される場合は、動物の痛みによる外見的な行動にかかわらず、鎮静剤や鎮痛剤を投与すべきである。

例えば去勢や避妊手術においても鎮静剤や鎮痛剤の使用は現代の獣医学では常識となりつつある。まれに飼い主はこれらの手術においても、可愛そうだからと言って手術を避ける、嫌がる飼い主がいるが、そんな場合はその理由を聞くと過去に手術を受けたときに動物が痛がり、数日間元気なくあまり動かなかったとか、夜眠れていないで一晩中付き添いやっと少しは寝られたとか、いろいろな理由を言うものである。手術を受けたのだから、多少のことは動物も飼い主も我慢して当たり前?と考える獣医師がいたとすれば、時代遅れであり、考え直す必要が大いにあろう。

そんな場合には、麻酔前の精神状態、麻酔中及び麻酔後の疼痛管理を具体的に、いろいろと説明し、いかに鎮静剤や鎮痛剤の使用で動物の状態が変わるか、例えばその鎮痛剤使用による5大行動変化(動作、食事、飲水、排便、睡眠)のことを説明すると良いであろう。鎮痛剤を使用すると、動物はより早く動け、より早く食欲がでて、より早く水を飲み、より早く排便し(このことは稀に手術後に起る麻痺性イレウスの予防にもなる?)、より早く良い睡眠ができるようになる。鎮痛剤を使用していると、翌日から入院動物が手術前と同じように動き(ゆえに何時手術をしたのか覚えてないと判断つきません)、パクパクと食事する姿を見て、何か嬉しくなるのは、獣医師冥利につきます。飼い主に面会させれば、考えていた事との差に驚くことであろう。痛くない手術こんにちは!痛い手術さようなら!である。

た特に飼い主に説明したいことは動物や飼い主における精神面の問題である。動物によっては、いろいろな刺激に対しても大きく反応をする動物もいる、それらの動物を飼育する飼い主の多くは、そのことを知っており、それらの動物に対しての手術(麻酔)前の精神状態の安定には鎮静剤、鎮痛剤の使用はより重要となる。

人間の医学では、過去に手術を受け痛いと感じた子供が、予防接種の際に過剰に反応(痛みを感じる)すると言うことが判っており、おそらくこのことは動物も同じことと考えられる。

動物が動物病院に来たらすぐに身体検査後、鎮静剤を投与することを飼い主に約束すれば、かなりその反応は違ってくる。しかし動物の痛みには、急性の痛み、慢性の痛み、手術後の痛みを始めとして、癌の痛み、外傷等の疾病の痛み、内臓痛、骨や関節の痛み等いろいろあります。

この痛みの問題は、最近まで人間の医学でも癌の痛み(がん患者の8割が痛みに苦しみ、3割が診断初期から痛みを訴える)にモルヒネを使用すると中毒になる、との誤解から、苦しみ抜いた末の死を迎える結果となり、これが社会問題化され、遅ればせながら2007年4月より「がん対策基本法」が施行され、ホスピス(緩和ケア病棟)への取り組みが強化されました。人間の緩和ケアの専門家は「がんの痛みは治療できる症状、それを取り除くのは医師の義務」と言っています。ちなみに日本は、モルヒネの使用量はカナダの14%でそれだけ緩和ケアがされていないと言うことです。

疼痛管理でいつも問題になるのは、動物が疼痛を感じているかの論理である。最近「動物のいたみ研究会」が発表した5段階での評価によると、以下の通りのようである。

レベル1 →「ケージから出ようとしない、尾の振り方が弱い」、
レベル2 →「食欲低下、痛いところをかばう」、
レベル3 →「体が震えている、背中を丸めている」、
レベル4 →「持続的に鳴く、眠れない」


動物の疼痛の有無を調べるのに最も有益な方法は、触診による判定と思われる。しかしながら、触診に対する反応は、動物種や術前のその動物の正常な動作、その手術の内容、使用した薬剤等と関連づけて評価をする必要がある。特に恐怖やその攻撃性からの嫌がる動作は、その麻酔前の同じ行動と比べないと、不確かになる可能性がある。ゆえに術前にあらかじめ調べておくことがきわめて重要である。

<触診による痛みの評価です>

 レベル0→触診をしているのも気づかない。
 レベル1→触られているのをちょっと見る。でも、触られているのを嫌がらない。
 レベル2→触られている方を見て、舐めるか、ちょっと嫌がる素振りを見せる。
 レベル3→逃げようとする、嫌がる、ちょっと鳴くか、その部分を過剰に舐めたり、気にする。
 レベル4→最高のスケールで触診を嫌がる。噛んだり舐めたり擦ったり、その部分を保護する。


■手術周術期の麻酔管理の理論と実際

痛みはアライドン酸がシクロオキシナーゼ(COX)によって代謝されることによって発生します。主な鎮痛剤の作用はCOXを阻害することによって鎮痛効果を表します。最近はこの痛みに対して、先制(先取り)鎮痛(Preemptive Analgesia)といわれる用語が使用されているが、これはまだ確定的なものではないが、広く受け入れられているものである。麻酔管理の疼痛管理は、麻酔前と麻酔中と麻酔後に分けて考えるべきである。術前は手術開始時に先制鎮痛が効果を発揮している時期と用量で投与するべきである。

また鎮痛剤や鎮静剤の使用は、作用機序のことなるいくつかの薬剤を組み合わせて使用すると各々の投与量を少なくし、より少ない副作用で使用できるものである。これをマルチモーダル鎮痛(Multimodel Analgesia)と呼んでいる。これは違うクラスの鎮痛薬を使用するという事で、一つの鎮痛薬の用量を下げてやる事ができるのです。例えばオピオイドのみ使用は規程量は使用しないとあまり効きませんが、そこに術中から局所麻酔を使用とか、NSAIDを使用とかで、かなりの用量は減量できるからです。

疼痛管理で重要なことは1つの薬剤で疼痛管理ができないことである。例えば効果のある、オピオイドこれ単独では疼痛は70-80%は痛みを取ることはできるであろうが、20-30%は残る。これにNSAIDsを加えれば例えば残りの15%ぐらいの痛みは取れ、また局所麻酔を加えれば・・・と言うように使用するのが疼痛管理の常道です。ようするに相乗、相価作用を利用するわけです。また各々に不足する作用を補うことが可能で、例えば筋弛緩作用と鎮痛作用を同時に得られることです。


麻薬の受容体(オピオイドレセプター)を分類すると以下のように分類される。
MORミューオピオイド受容体→呼吸抑制、用量依存性の疼痛作用あり、疼痛の抑制は強い、縮瞳、消化管運動抑制 
KORカパオピオイド受容体→不快感あり、天井効果(薬用量を上げても一定以上の作用を示さない)あり、疼痛の抑制は中程度
DORデルタオピオイド受容体→MOPを操作する作用あり、疼痛の抑制は不明


MOR部分作動のブトルファノールとKOR作動のブプレノルフィンの同時使用は通常しない。しかし各々の作用が消失すれば使用できる。もちろん塩酸モルヒネとの併用は可能である。麻薬を使用する際には、使用の有無に関わらずその拮抗剤(ナロキサン 0.04mg/kg IVにて投与する)を用意しておくべきである。ベンゾジアゼピン(ミタゾラム、ジアゼパム)にも、フルマゼニル(アネキセート)と言う、ベンゾジアゼピンの受容体拮抗剤がある。その投与量は投与したベンゾグアゼピンと同量である。

フェノチアジン系の薬剤として、我が国にプロプオニルプロマジン(コンベレン)が以前はあったが現在では発売されていない。麻酔中は努めて3種類以上の異なる方法でモニターをするのが望ましい。できればその中に血圧も含める、例えばNSAIDsを使用している動物に、麻酔中に血圧の低下があれば、輸液をして対応をするが、その後はNSAIDsを使用しない、麻酔後に腎疾患が起る恐れがあるからである。また覚醒後に心拍数が30%以上低下していれば、抗コリン作動薬(アトロピン0.02-0.04mg/kg,グライコパイオレート0.005-0.01mg/kg、これらの量はIM,SCの量で、IV投与の際は、1/3-1/4の投与量となることに注意が必要です)を使用する。また呼吸数が30%以上増加していれば、その原因を考えるのと同時に鎮静剤、鎮痛剤の使用も考慮する。

真の意味での疼痛管理は、麻薬がどうしても必要となる。これは許可だけの問題なので、ぜひ臨床獣医師は許可を申請することをお勧めする。麻薬を使用できないと、軽度の疼痛管理のみとなる。 最大限うまく行っても軽度から中等度までが限度である。特に中程度から重度の規模の手術(不妊手術等で手術の約80%以上がこれに該当)を行う獣医師は、麻薬による疼痛管理をすることが望ましい。

ある意味では臨床獣医師は、麻薬を使用できる、できないで二つに分類される。許可の問題は獣医学に対する思い入れの問題でもある。許可を得て、鎮痛剤を使用すれば獣医師の社会的な地位の向上にも繋がる可能性もある。最近は飼い主もインターネット等で病気の診断や治療に関して知識を入手しているので、例えば骨折の手術等に関して、「先生の病院でも、麻薬による疼痛管理をやっていますよね?」と尋ねられる日も近いと思われる。

手術を代表にいろいろな状態の疼痛管理を考えると、軽度、軽度から中程度、中程度、中程度から重度、重度となる。参考までに各種のどんな手術及び疾患がどの程度に属するかも以下に簡単に記載します。  外国薬には※の印記載があります。

軽度の疼痛管理には、以下の組み合わせを考えて使用する。各々の薬用量は特に、高齢やその健康状態によっては、できるだけ記載の最小用量にて使用するのが原則である。同一の薬剤を術後にも使用する場合は特にそうである。軽度の疼痛管理のみ麻薬の許可の要らない薬剤で使用できる。

また疼痛管理は手術の種類のみならず、動物の状態、年齢はもちろん、その動物の性格をも十分に考慮して行う必要がある。また動物が少しでも不安にならぬようにと、普段の用具等を飼い主に持参してもらうと良い。動物のその扱いも重要で、易しく接すること(視覚的、触覚的接触)によって、生理的状態の疼痛への反応に変化が生じる可能性があると推察されているからである。

ここで、「麻酔と疼痛(鎮痛)と不動化」について考えてみたい。普段当たり前に?麻酔を行っている我々だが、その麻酔薬には殆ど鎮痛作用はない事を再確認(また逆に鎮痛剤には麻酔作用がない)しておきたい。麻酔すれば不動化はできるので、手術もできる、と思うことは間違いである。麻酔中の動物は痛みを感じないが、覚醒後には、手術中に受けた痛みの刺激が脳や脊髄に伝達していて、覚醒後にはそのままだと痛みの反応が増強される。これらは手術の侵襲で組織障害が起こるための生急性な疼痛であり、手術の種類や部位によってかなり違うが、動物は手術後その痛みは約4時間後で頂点となる(人間は約8時間後)ようである。また動物の性格によって術後の痛みの程度が多少違う(猫や訓練された大型犬はじっと耐えることあり)こともあるので、観察の上、追加の鎮痛剤の量を決定する。

麻酔はその深度(深さ)によって、その生体機能を抑制するが、麻酔中にその痛みの刺激が強いと(手術の種類と部位による)動物は生体機能の反応として、血圧、呼吸数、心拍数等が上昇し、最後には体動(振るえ)が起る、そこで手術ができない(動くから)から、麻酔を深くする、すると生体機能は低下するので、反応は起きなくなるが、 しかしこのことは麻酔がさらに深くなることである。麻酔が深くなると覚めが悪くなる、と言うことは、麻酔事故にも繋がる可能性がある。

麻酔をして動物が動くので麻酔を少し深くした、そのために覚醒しなかった。しかし動けば手術ができなかったので、やむを得ない麻酔であったと、考えるのは再考の余地があったと気づくであろう。これらのことは鎮静・鎮痛剤を使用していない場合に起りうる事である。このとこからわかるように麻酔即、手術、手術即、鎮痛である。

■ 犬の軽度から中程度の手術周術期の麻酔管理

  • 麻酔前(主にNSAIDs、α2作動薬?)の例として
    • NSAIDs(例えばPOも可能)+ジアゼパム(0.1-0.2mg/kg) IM, SC
    • NSAIDs(PO.SC)+ミタゾラム(0.1-0.2mg/kg) IM, SC
    • NSAIDs(PO,SC)+メデトミジン(10-20μg/kg) IM, SC
    • NSAIDs(PO,SC)+アセプロマジン※(0.025-0.05mg/kg) IM, .SC
    • メロキシカム(0.2mg/kg SC q24h)
    • カルプロフェン(4mg/kg SC又はPO q24h)
    • メデトミジン(10μg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg)+アトロピン(0.04mg/kg) SC
    • ブプレノルフィン(0.005-0.02mg/kg)+メデトミジン(10-20μg/kg) SC
    • ブプレノルフィン(0.005-0.02mg/kg) +ミタゾラム(0.1-0.2mg/kg) SC
    • ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) +メデトミジン(10-20μg/kg) SC
    • ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) SC
    • ジアゼパム(0.2-0.4mg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) SC
    • アセプロマジン※(0.025-0.05mg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) IM,SC

  • 麻酔後の投与の例として
    • 局所麻酔による神経ブロック(術野を含めてのブビバカインの使用を参照)
    • ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg)+ジアゼパム(0.2-0.4mg/kg) まれに興奮する?時あり。
    • ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg)+ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg)
    • アセプロマジン※ (0.025-0.05 mg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg)
    • アセプロマジン※(0.025-0.05mg/kg) +ブプレノルフィン(0.2-0.4mg/kg)
    • リドカインの注射薬のCRF(30μg/kg/Min)
    • メデトミジン(1-2μg/kg)のSC. IM. IV 
    • 術前に使用しなかった場合のNSAIDs、

例えば、カルプロフェン(4mg/kg SC又はPO q24h)、メロキシカム(0.15-0.2mg/kg SQ q24h)等
原則最小用量から使用、なるべく麻酔前とは別の薬剤を使用するが、最小用量の場合は 再使用も可能である。
参考:軽度から中程度の疼痛管理が必要な手術及び疾患
若齢の卵巣子宮摘出術、猫と若齢の去勢、外耳道の洗浄、猫の噛み傷による外傷、表在性の小さな 腫瘍の摘出、胸腔内ドレインの設置、抜歯を除く歯の処置、比較的簡単な眼科の手術、裂傷による
傷の処置、内視鏡検査(生検)、膀胱炎等。


■ 猫の麻酔中の疼痛管理

以下に犬の中等度及び中等度から重度の疼痛管理としての、組み合わせ方法を参照します。
通常の不妊手術を始めとして、殆どの手術がこの分類に属します。

  • 麻酔前投与(中等度から重度及び重度の疼痛管理として)
    アセプロマジン※(0.01-0.03mg/kg ) +モルヒネ(0.2-0.3mg/kg) +アトロピン(0.04mg/kg)
    → 混注もOK、麻酔の20分前、IM,SQ,除脈に注意すること。
    メデトミジン(10μg/kg) +モルヒネ(0.5mg/kg)+アトロピン(0.04mg/kg)
    →混注もOK、麻酔の20分前、IM,SQ、比較的元気な犬。
    ドロペリドール(0.1-0.5 mg/kg) + ミタゾラム(0.1-0.2mg/kg)  IM,SC 
    塩酸モルヒネの硬膜外投与(0.1mg/kg、20-60分で作用し、16-24時間作用する)
    ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) +モルヒネ(0.5mg/kg) +アトロピン(0.04mg/kg) IM,SC 比較的元気な犬。 
    フェンタニール・パッチを手術前の少なくても12時間前から使用
    ケタミン(5mg/kg) + ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg)+グライコパイオレート※ (0.011mg/kg) IM,SC 
    ケタミン(5mg/kg) + アセプロマジン※(0.01-0.03mg/kg ) IM,SC
    ケタミン(5mg/kg) + ドロペリドール(0.1-0.5 mg/kg) IM,SC
    ケタミン(5mg/kg) + ジアゼパム(0.2-0.4mg/kg) IM,SC

     
  • 麻酔中投与(中等度から重度及び重度の疼痛管理として)
    局所麻酔による神経ブロック(術野等にブビバカインの使用)
    フェンタニール注射薬のCRF(3-7μg/kg/Min)
    フェンタニール注射薬の0.04-0.01mg/kgの急速IVにて20分間の鎮痛作用あり。
    ケタミンのCRF (0.002-0.005mg=2-5μg /kg/Min) 5%ブドウ糖液に混注。
    ケタミンの1-5mg/kgのIM,IVにて20-30分の鎮痛作用ある。


  • 麻酔後の投与(手術時間を考えながら)の例として
    局所麻酔による神経ブロック(術野等にブビバカインの使用)
    アセプロマジン※ (0.025-0.1mg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) IM,SC
    アセプロマジン※(0.025-0.1mg/kg) +ブプレノルフィン(0.005-0.02mg/kg) IM,SC
    リドカインの注射薬のCRF(30μg/kg/Min)
    塩酸モルヒネをCRFにて投与 (0.12mg/kg/Hr)
    フェンタニールをCRFにて投与 (1-2μg/kg/Hr)
    フェンタニール・パッチを手術前の少なくても12時間前から使用
    ブプレノルフィン・パッチ 作用時間は7日間と長く使用できるのが特徴である。
    メデトミジン(1-2μg/kg)のSC. IM. IV  麻酔中、血圧の低下がなかった場合のみ使用
    術前に使用しなかった場合のNSAIDs、例えば、カルプロフェン(4mg/kg SC又は
    PO q24h)、
    メロキシカム(0.15-0.2mg/kg SQ q24h)等

参考:中程度から重度の疼痛管理が必要な手術及び疾患(通常の多くの手術がこれに相当)
通常の開腹術、福神去勢、卵巣子宮摘出術、子宮蓄膿症、鼠径等のヘルニア、断脚、爪切除術、 横隔膜ヘルニア、前十字靭帯断裂、関節内への手術、総耳道摘出術、通常の腹膜炎、開胸術、 乳腺炎、出産、緑内障、葡萄膜炎、汎骨炎、凍傷、変形性関節炎、尿道閉塞、通常の癌の 疼痛等。

参考:重度の疼痛管理が必要な手術及び疾患
大腿骨等の各種の骨折、多発性の骨折、椎間板ヘルニア、猫の心筋症、骨肉腫、骨髄炎、 骨の生検、壊死性の膵炎や胆嚢炎、広範囲な腹膜炎や組織の損傷、肺への転移した癌等。


■ 私達の動物病院でのお勧めの犬の手術時の疼痛管理
    軽度から中等度の手術
    麻酔前/小型犬 NSAIDs(PO.SC)+ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) IM,SC
    中型犬から大型犬 NSAIDs(PO,SC)+アセプロマジン※(0.025-0.05mg/kg) IM,SC
    ブプレノルフィン(0.005-0.02mg/kg) +ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) IM,SC
    ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) +ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) SC
    麻酔中/状態によって ケタミンの1-2mg/kgのIM,IVにて
    麻酔後 局所麻酔による神経ブロック(術野等にブビバカインの使用)
    使用していない場合はNSAIDsを使用(PO,SC)
    中等度から重度の手術
    麻酔前 フェンタニール・パッチを手術前の少なくても12時間前から使用
    ブプレノルフィン・パッチを手術前の24時間前から使用。
    塩酸モルヒネの硬膜外投与(0.1mg/kg、20-60分で作用し、16-24時間作用する)
    アセプロマジン※(0.01-0.03mg/kg ) +モルヒネ(0.2-0.3mg/kg) +アトロピン(0.04mg/kg)
    → 混注もOK、麻酔の20分前、IM,SQ,除脈に注意すること。
    ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) +モルヒネ(0.3-0.5mg/kg) +アトロピン(0.04mg/kg) IM,SC 
    ドロペリドール(0.1-0.5 mg/kg) + ミタゾラム(0.2-0.4 mg/kg)  IM,SC 比較的衰弱犬
    ※導入はプロポフォールにて維持はイソフルレンにて
    麻酔中 フェンタニール注射薬のCRF(3-7μg/kg/Min)
    フェンタニールを0.04-0.01mg/kgの急速IVにて20分間の鎮痛作用
    ケタミンの1-5mg/kgのIVにて30分の鎮痛作用あり 
    局所麻酔による神経ブロック(術野等にブビバカインの使用) 
    麻酔後 局所麻酔による神経ブロック(術野等にブビバカインの使用)                
    フェンタニール・パッチを手術後に使用開始(12Hは他の鎮痛剤使用)
    初めて又は再度のモルヒネ(0.2-0.3mg/kg)
    ブプレノルフィン(0.005-0.02mg/kg)をIM, IV, SCにて
    フェンタニール注射薬のCRF(3-7μg/kg/Min)
    ブプレノルフィン・パッチ 作用時間は7日間と長いのが特徴である。
    ※原則最小用量から使用、なるべく麻酔前とは別の薬剤を使用するが、最小用量の場合は再使用も可能である。


■非ステロイド系抗炎症剤の犬と猫の使用法

非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs-エヌセッド又はナサイドと呼ぶ)は通常は動物病院で最も使用される頻度の高い鎮痛剤である。NSAIDsはCOX(シクロオキシナーゼ)酵素を阻害することによって抗炎症作用を発揮するが、すべての製剤が同じではない。持続時間は約24時間(1日1回)、作用発現時間は約1時間である。しかしその使用においてはオピオイドと違い、いろいろな程度の禁忌があることである。

人間の医学ではより汎用されている薬剤であるが、犬猫は人よりもこの薬剤に対して、感受性が高いようで、人間で使用できても犬猫には、そうはいかないようである。投与の際は、多少胃の中に食事があつた方が、胃の粘膜は保護されるようで、食事と共に投与すると良いであろう。またこの薬剤の多くは下熱作用もある。

副作用として知られているのは、胃腸障害、腎障害、肝臓障害、血液障害である。ゆえにあらかじめこれらの疾患を持つ動物には投与しない。また脱水状態や出血性疾患の動物も使用しない。もちろんステロイドとの併用は禁忌である。副腎皮質機能亢進症はもちろんであるが、以外と気づきにくいのは、ステロイド様疾患(これも体内からステロイドの放出あり)の動物である。それらの状態にあると判定された場合は注意を要する。使用初めて特に2-3日後に下痢(特に黒色便)や嘔吐起った場合は使用を中止し強力な胃潰瘍の治療を開始する。これらの消化器症状の前には食欲不振が起ることが多いので、この時点で疑うこともできる。ゆえに始めは1日1回を、2回の分割投与する方法も考慮する。

NSAIDsを使用する際に重要なことは、過剰に投与(誤食等を含む)した場合や、反応した場合に備えての治療薬(潰瘍治療薬)をあらかじめ備えておくことである。前記したように食欲不振の後に嘔吐や下痢となることが多いので、食欲不振時に投薬するのが良いであろう。ますはスクラルファートを推奨したい。胃の粘膜の欠損部に結合するため、胃酸の浸入を防ぐ。潰瘍の予防(効果)には推奨されていないが、高齢とか手術後や外傷後のストレス状態にある動物(たぶん胃に潰瘍の前の段階である、糜爛が出来ている?)にNSAIDsを使用する場合には併用をお勧めする。

スクラルファートは、投与の前の1時間と投与後の2時間は、他の薬剤を経口投与で与えない方が良いであろう。胃の粘膜が保護されていて、吸収が悪くなるからである。このことは食事も同様で投与前の1時間の空腹時に与える。スクラルファートの投与量は、犬で20kg以下は500mg、20kg以上は1-2g/頭で6-8時間有効である。猫の場合は、250mg/頭を与えるが8-12時間有効である。錠剤より懸濁液を使用するが、錠剤の場合は砕いて溶かして与えると良い。

明らかより糜爛や潰瘍を疑う場合は、ミソプロストール(サイトテック)もスクラルファートと併用できるので投与すべきである。この薬剤は人間では癲癇の発作を誘発するようで、動物もその可能性があるので癲癇の病歴のある動物は、その有効性を考えた上で判断する。妊娠動物(流産の原因)にも使用しない。犬には2-7.5μg/kg、6-8時間有効で、猫は5μg/kgで8時間有効すべて経口投与である。副作用としては、下痢と嘔吐と腹部の痙攣(これが流産の原因)がある。

血便のように潰瘍が確実と思われた場合は、潰瘍の本格的な治療を開始する。これはスクラルファートとラニチジン(ザンタック)又はオメプラゾールを使用する。オメプラゾールはプロトンポンプの阻害薬であり、酸の産生と刺激の分泌の両方を抑制する。胃と十二指腸と食道下部に働く。犬は0.5-1.5mg/kgを24時間毎に最高連続投与は8週間まで、猫は0.75-1mg/kgの経口で24時間毎である。できれば経口薬と注射薬を用意して置く。経口投与が出来ない場合は注射薬が使用される。犬は経口投与は1-2mg/kg、猫は3.5mg/kgで12時間毎である。注射の場合は、犬は0.5-1mg/kg、猫は2.5mg/kgにてIV、IM, SCされる。

慢性の関節炎等にてNSAIDsを長期に使用する予定の場合は、他の鎮痛剤や、理学療法、サプリメント、減量のための食餌療法、関節内注射等の併用を考えて使用する。また飼い主にあらかじめ副作用のことを告知しておくと良い。できれば口頭のみならず、書面にてその効果の判定表と共に、副作用を知らせておくと良いであろう。通常は2週間毎に、その使用を再検討しながら評価する。長期の使用の際にはできるだけ有効(気分の良い状態)の最小量を見つけ出すことが肝心で毒性の可能性が少しでも減少する。

手術の前に使用する場合は、2時間前に使用する。もし以前に非ステロイド系抗炎症剤が投与されていて、また新たに違う非ステロイド系抗炎症剤を使用する場合は、少なくとも5-7日間は間隔を空ける。過去にステロイドにての治療経歴があれば2週間(短期型のステロイドの場合にて)は間隔を空けるのが望ましい。妊娠中及び授乳中の犬、何週齢未満で使用できるかは製品に違いがあるので各々の製品の注意書きを参照する。繁殖犬の安全性は今まだ不明のようである。

カルプロフェン(リマダイル) 犬: 4.4 mg/kg q24h、チュアブルのタイプも発売されている。
リマダイル錠25 本剤1錠(182.5mg)中 カルプロフェン25.0mg
リマダイル錠75 本剤1錠(547.5mg)中 カルプロフェン75.0mg
リマダイル錠100 本剤1錠(730.0mg)中 カルプロフェン100.0mg
リマダイル注射20mgバイアル、1ml中50mg含有(0.088ml/kgにてカルプロフェン4.4mg/kg)
犬の体重1Kgあたりカルプロフェン4.4mgを1日量として1日1回あるいは2回に分けて分割して経口投与します。錠剤は8週齢以下、注射は4週齢以下の使用はデータがあまりないようで、使用を進めてないようです。妊娠中及び授乳中、繁殖の犬には投与しない。


最近になって連続投与の回数の制限がなくなったが2週間毎に注意して評価すること。最近なってリマダイルには使用回数の制限がなくなったので、観察をしながらの長期使用も可能である。また国内では猫への使用の承認はないが、諸外国では、他のカルプロフェンにて4mg/kgのSC,IVにて1回のみ使用されているようだが、1-2mg/kgにても同じように有効との説もある。

ケトプロフェン(ケトフェン)について
ケトフェンには注射剤と錠剤があり、単独で用いたり、それらの組み合わせによる治療が可能です。
注射剤(皮下1mL/5kg)は特に、術後痛または急性疼痛や炎症症状の緩和に適する。
錠剤(3製剤:5mg、10mgおよび20mg錠、1mg/kg/日)は割りやすいように割線がある。錠剤単独で(5日間まで)、又は痛みが急性の場合はまず始めに、注射剤を最初に1回投与し、翌日から錠剤を用いることもできます。(初回注射剤投与後、錠剤を用いる場合は、錠剤は4日間まで) すべて1日1回投与です。最近は犬において、0.25mg/kgにて14日間の連続投与の承認が日本で得られたようだす。6ヶ月齢以下はあまりデータがないので、使用しないように勧めているようである。猫においては
以上が日本における犬猫の承認された使用法ですが、猫に対しては、以下の方法をお勧めします。猫にはケトプロフェン(ケトフェン)、の錠剤の場合は1mg/kgを1日1回にて最大5日間までの連続経口投与は同じですが、SCにては同量(1mg/kg)を1日1回にて最大3日間の連続投与とする。

メロキシカム(メタカム)について
犬用 非ステロイド性鎮痛消炎剤のメロキシカム(メタカム)はCOX-2を選択的に阻害し、COX-1の保持作用を有する。6週齢未満の犬、高齢、衰弱犬には使用しない。「メタカム0.15%経口懸濁液」メロキシカム(メタカム)1mL中、メロキシカム 1.5mgを含有。初回は0.2mg/kg(製品ボトルで4滴/kg)にて、2日目より0.1mg/kg(製品ボトルで2滴/kg)にて最大42日間連続投与できる。経口剤は使用前にはよく振ること。


犬猫用「メタカム0.5%注射液」メロキシカム(メタカム)1mL中、メロキシカム 5.0mgを含有。
体重1kg当たりメロキシカムとして1日1回にて皮下投与する。
犬用: メロキシカム0.2 mg/kg (0.04ml) q24h SC
猫用: メロキシカム0.2-0.3 mg/kg (0.04-0.06ml) q24h SC一回投与のみ
以上は国内の承認だが、諸外国の処方では猫にメロキシカムを経口投与にて、初日に0.1mg/頭、その後は0.05mg/頭を3日間連続投与し、次に0.025mg/kg(猫1頭あたり最大量は0.1mgまで)を5日間連続投与し、以降は隔日投与にする。すべては1日1回投与である。または猫、0.2mg/kgをSCまたは経口投与、次に0.1mg/kgを3-4日間連続の経口投与、次に0.025mg/kg(猫1頭あたり最大量は0.1mgまで)を1週間に2-3回経口投与する。

テポキサリン(ズブリン)ズブリン50、ズブリン100 及びズブリン200は、1錠中にテポキサリンをそれぞれ、50mg、100mg 及び200mg 含有する白色の錠剤(口内崩壊錠)である。
この製剤は炎症反応に深く関わるアラキドン酸代謝において、COXだけでなく、リポキシゲナーゼ(LOX)も阻害することによりCOX/LOX 阻害作用の、強い鎮痛と抗炎症作用を示す。またロイコトリエンの産生も阻害するようである。用量は、体重 1kg 当たりテポキサリンとして 10mg を1日1回、経口投与する。6ヶ月以下の投与の安全性はないようである。日本国内の承認は7日間の連続使用であるが、ヨーロッパでは4週間(28日間)また米国では連続使用の制限はない。猫においては諸外国でも使用の報告はないようである。

 

■猫の疼痛管理について

猫の疼痛管理は犬に比べて、文献的に少ないこともあるが、最近ではその研究も以前に比べて格段に進歩しているようである。疼痛管理に関しても、猫の小さい犬ではないので、薬剤の活性のその違いを理解して疼痛管理を行うことが重要である。痛みの現れ方にしても猫はただじっとして、痛みに耐えていても、ただ単に、おとなしい猫と間違われることもあるかもしれないからです。猫は痛ければ泣き叫ぶ?と思っていたら間違いを侵します。概して猫は効果の発現が少し遅いようで、その効果も少し長く聞くようである。

■ 猫の麻酔前の疼痛管理

  • ケトプロフェン(ケトフェン)の経口と注射
    SCの場合は1日1回にて、1mg/kgを最大3日間まで、経口投与も1日1回にて同量にて、最大5日間まで。ゆえに比較的健康な猫の不妊手術等には、手術の前2時間(作用発現時間は約1時間)に当日SC投与し、その後手術後の2日間に渡って投与することができる。


  • ブトルファノールの筋肉内注射
    0.1-0.4mg/kgを1ー2時間毎に筋注する。しかし猫では鎮痛作用はあまりない?ただし良好な鎮静作用はある、作用時間は短いが、容量依存性はない。米国やオーストラリアでは麻薬指定、日本では指定はないので比較的使用しやすい薬剤である。


  • ブトルファノールの経口内投与
    米国では錠剤があるが、我が国ではないので、この薬剤を直接経口投与する。0.2-1.0mg/kgを6時間毎に経口投与するが、ある研究では経口の方が有益とあるが、しかしそのままだと、猫が飲むのを嫌がるので、何か単シロップ等に混ぜるが、それでも嫌がる猫がいることである。


  • 非ステロイド系抗炎症剤(カルプロフェン)
    カルプロフェンは、1-2mg/kgの用量にて、皮下 筋注にて、1回投与のみであれば、健康な猫では比較的安全に使用できる。


  • 塩酸モルヒネ(麻薬扱い)とアセプロマジンとアトロピンの皮下投与
    アセプロマジン※(0.01-0.03mg/kg ) +モルヒネ(0.05-0.2mg/kg) +アトロピン(0.04mg/kg)
    モルヒネは猫の場合、活性型への転換が苦手のようで、感受性が高い、猫のモルヒネの用量は犬の約半量で0.05-0.2mg(最大限でも0.5mg)/kgを 筋肉又は皮下注射する。モルヒネは犬や人では有効であるが猫は犬や人程ではない。猫は効果の発現が遅く1時間後となる。作用は3-4時間の持続時間がある。喘息の猫には使用しない。猫にモルヒネを投与して高熱となれば、その猫にとっては量が多すぎたと判断する。このことは猫によってかなり違いがある。また10mg/kg以上だとモルヒネマニアの状態となることが知られている。猫は必ず単独の投与はぜず、アセプロマジン等と組み合わせで使用するが、アトロピンも使用する。多剤併用のため、麻酔の深さに注意する。

  • フェンタニール・パッチ 麻薬扱い
    経皮的麻薬作用剤であるこの薬剤は小さい猫には工夫が必要となる。術前のすくなくても12-24時間前に応用すると長時間作用するので、価格面を考えても使用も可能であろう。フェンタニール・パッチの用量は 2-5μg/kgとなるが、3.5-5kgの猫には25μgのパッチを使用できるとあるが、私のお勧めは、3.5-4kgの猫はパッチの内側を半分剥して貼る。決してパッチを半分に切って使用してはならない、猫の場合は、すべての猫ではないが、1枚のパッチで最大6日間効果持続する場合もある。犬の作用時間を約3日間と考えると、長く作用するものである。ゆえに剥がすのは5-6日後である。


  • 塩酸ケタミン(麻薬扱い)の5-10mg/kgを経口投与,必要に応じて約30分のみ有効
    ジアゼパム(0.2-0.4mg/kg) + ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) SC
    ミタゾラム(0.2-0.4mg/kg) + ブトルファノール(0.2-0.4mg/kg) SC
    ケトプロフェン(ケトフェン1mg/kg)(PO.SC)+ジアゼパム(0.1-0.3mg/kg) .IM.SC
    ケトプロフェン(ケトフェン1mg/kg)(PO.SC)+ミタゾラム(0.1-0.3mg/kg) .IM.SC
    ケトプロフェン(ケトフェン1mg/kg)(PO,SC)+メデトミジン(10-20μg/kg) IV.IM.SC
    ケトプロフェン(ケトフェン1mg/kg)(PO,SC)+アセプロマジン※(0.025-0.05mg/kg) .IM.SC


■ 猫の麻酔中の疼痛管理
  • 局所麻酔(塩酸ブビバカイン)
    0.25%のブビバカイン(マーカイン)の用量は、手術時に初回のみ使用の場合は1mg/kgを傷の大きさに応じて最大の希釈量として5mlまでの生食に希釈して術野に使用できます。 もし再度使用する予定の場合は、初回量を0.5mg/kgとして使用し、6.14.24時間毎にて使用で、4回まで使用できます。カテーテルの場合も同じように使用します。


  • ブトルファノールの筋肉内注射(前記と同様)
    ブトルファノールの経口内投与(前記と同様)
    塩酸ケタミン(麻薬扱い)の1-4mg/kgのIVにて投与,必要に応じて約30分のみ有効
    フェンタニール(麻薬扱い)を0,004-0,01mg/kgのIVの急速投与に応じて約20分のみ有効 
    フェンタニール注射薬のCRF(3-7μg/kg/Min)


■ 猫の麻酔後疼痛管理
  • ブプレノルフィンの口腔内投与
    主に手術後覚醒の前に使用するが、用量は0.01mg/kgを投与すると約8時間は良好な鎮痛作用あり
    1回のみが理想だが2回までは通常使用できる。3回以上使用すると2-3日後に食欲不振となることがある。


  • メロキシカム(メタカム)の注射
    「メタカム0.5%注射液」体重1kg当りメロキシカムを0.2-0.3 mg/kg (0.04-0.06ml)1日1回にて皮下投与する。単独投与に限る。


  • フェンタニール・パッチ 麻薬扱い
    非ステロイド系抗炎症剤のケトプロフェン(ケトフェン)の経口と注射
    塩酸モルヒネ(麻薬扱い)とアセプロマジンとアトロピンの皮下投与
    局所麻酔(塩酸ブビバカイン)(前記と同様)
    ブトルファノールの筋肉内注射(前記と同様)
    ブトルファノールの経口内投与(前記と同様)
    塩酸ケタミン(麻薬扱い)の5-10mg/kgを経口投与,必要に応じて約30分のみ有効
    フェンタニール注射薬のCRF(3-7μg/kg/Min)
    ブプレノルフィン・パッチ5μg/h 作用時間は7日間と長く使用できるのが特徴である。


 

■すべての手術に応用できる、局所麻酔の使用の伝達、浸潤麻酔について

以前の獣医学では、特に浸潤麻酔については、これらの方法がどれだけ作用するかは、不明の点が多く、文献的にもあまりありませんでしたが、最近は少しずつ報告されつつあり、経験的にもより多く使用されはじめています。局所麻酔薬を、術野に術中又は術後に、すべての手術の症例において浸潤麻酔を使用することをお勧めします。どんな局所麻酔を使用するかですが、0.25%の塩酸ブビバカイン(マーカイン)を使用します。プロカイン等に比べて作用時間(リドカインは90分ですが、ブビバカインは200分)が長いからです。

0.25%の塩酸ブビバカイン(マーカイン)を、犬にては手術時に初回のみ使用の場合は(1日1回のみ)2mg/kg (0.4ml)を傷(切開部位)の大きさに応じて、例えば2-5mlとかの生食に希釈して術野に使用できます。だいたいは切開創の周りの筋肉(必ず引いて血液が混入しないか確かめる)に半分、残りの半分を切開創に満たします。 またあらかじめ数回使用する予定の時は、初回の使用量を、犬1mg/kgとして適当な量の生食に希釈して6.14.24時間毎使用の1日4回まで使用できます。切開部位以外にも例えば関節の手術後には全て、閉じた時に関節内に注入します。

これらの希釈濃度にすると例え静脈に入っても、すなわち静脈注射しても安全な濃度とされています。故にお勧めの濃度となります。希釈しなくても通常は使用できますが、より安全な医療を心がけるとすれば希釈すべきです。より経済的には、0.5%の塩酸ブビバカインの使用ですが、少し複雑になります。0.25%は2.5mg/mlの含有ですが、5%は5mg/mlの含有です。これは米国薬も日本薬も同じです。すなわち5%の場合は2mgが0.2mlとなり (0.25%は0.4ml) ますので、この時点で生食で2倍希釈して、0.25%と同じ濃度にして使用すれば同じこととなります。

また術後にはカテーテルで術野に投与することもできます。カテーテルの場合は、数回使用しますので、初回に犬2mg/kg(猫は1mg/kg)にします。その後の使用は、犬1mg/kg(猫は0.5mg/kg)を希釈して24時間までは使用できます。この術式の適応は、手術創が大きい場合やNSAIDのような、他の鎮痛薬が禁忌である症例が特にそうです。またできるだけ早く回復させたい場合、早くリハビリしたいと思われる例です。

例えば、大型犬の断脚をやった場合などがそうです。ポリエチレンのチューブには細かいサイドホール(小さい針にて)を開けて、この中に麻酔薬を満たします、先端は閉じます。長さは普通30cm前後です。この原理はホースに小さい孔をいっぱい開けて、庭に幅広く水をやるというシステムと同じです。(市販ものでは、イントラメディックポリエチレンチュ-ビング -ベクトンデキンソン-PE No.90  内径0.86×外経1.27mm、10フィ-ト×1巻  カタログのナンバーは427420)

投与の速度は、心室性期外収縮の治療に使うリドカインと、全く同じ方法です。ただし心臓に使う場合は、50-80μg/kg /Minですが、この場合の麻酔効果を得る時は30μg/kg/時間の速度となり遅くします。

この塩酸ブビバカインは作用の発現時間は10-15分ですが、約4-6時間作用します。 もしこれらの薬剤が静脈内に入った時は、中枢神経系や心血管系に対しての副作用が出ますが、この用量はIV投与でも、比較的に安全な用量です。また局所麻酔薬というのは、その傷の治りには阻害せず、むしろ、汚染に対して局所麻酔薬があると、細菌に抗生物質が浸透していくという浸透性がより良くなります。例えば直腸の手術したのならば、その後にチューブ状の局所麻酔を直腸に注入もできる。

疼痛管理にて、きるだけマスターしておきたい技術として硬膜外麻酔と神経ブロックがあります。また体腔内(関節内投与、、腹腔内投与、胸腔内投与等)です。前記した持続注入もそうです。硬膜外麻酔は特に犬に塩酸モルヒネを用いて使用することをお勧めします。

■ 薬用量のマニュアル ■

名前
分類
用量
経路
作用発揮
時間
作用時間
ブトルファノール
鎮静剤 0.01-0.05mg/kg SC. IM. IV
1-3H
非麻酔・鎮痛 0.1-0.4mg/kg SC. IM. IV 10-20M 1-4H

オピオイドの作動薬―μ拮抗薬で、呼吸抑制などに天井効果がある。 鎮痛、鎮静、  鎮咳作用がある。安全性の高い薬剤で、心肺機能不全の動物にも使用できます。内視鏡検査の際に十二指腸を通過させるのには最適な薬剤と思われる。組み合わせとしては、アセプロマジン、ミタゾラム、ジアゼパム、ケタミン、メデトミジン、ドロペリドール等が使用され、ブプレノルフィンは避けるのが賢明である。比較的高い容量を使用する場合はIMが最適です。モルヒネやフェンタニールによる呼吸抑制や鎮静、徐脈に対しては、部分的拮抗薬としても作用します。

            

 

ブプレノルフィン
非麻酔 0.005-0.02mg/kg SC. IM. IV 20-30M 6-8H
オピオイドの部分作動薬で、アヘンアロカロイドの1種。 もし呼吸抑制が現れたら、ナロキサンを使用するが、無効ならドキサプラムを使用する。鎮痛、鎮静作用あり、作用時間が長いのでよく術後に使用される。アセプロマジンとの併用でよく使用される。
アセプロマジン※
鎮静剤 0.01-0.05mg/kg SC. IM. IV
8-12H
副作用としては血管拡張作用による低血圧や錐体外路系の症状がある。ゆえに脱水状態にある動物、すなわち循環血液量が低下している動物には使用しない。また癲癇発作の域値を低下すると言われ癲癇の発作の病歴のあるものは使用を避けた方が良い。血小板機能の低下が予想され、凝固不全や大量の出血が予想される手術にも使用しない。まれに作用が長時間に及ぶことがある。他のトランキライザーと同じく鎮痛作用はない。IVの場合はかなりの低用量が必要で最高でも、0.02mg/kgを決して超えないように希釈してゆっくり投与するがIVはあまりお勧めしません。心疾患と肝疾患の犬猫は、量にもよるが、原則使用を避ける。
ジアゼパム
鎮静剤 0.1-0.4mg/kg IV. IM
2-4H
水に溶けにくいため、プロピレングリコールの溶媒に溶解されている。ゆえにIMやIVでも疼痛が生じることがある。このとこは他の薬剤を同じ注射器で混ぜると白濁する。通常はオピオイド等と併用して使用される薬剤である。心肺系にはほとんど影響を与えないので心疾患の犬猫にも使用できる。ジアゼパムはミタゾラムと同じベンゾグアゼピンであるが、ミタゾラムと比べると半減期は長い(特に犬より猫)長時間持続する。
ミタゾラム 鎮静剤 0.1-0.4mg/kg SC. IM. IV
1-2H
通常オピオイド等と併用して使用される薬剤である。鎮痛作用と鎮痛作用がある。ミタゾラムもジアゼパムと同じベンゾグアゼピンである。0.2mg/kg以上投与しても天井効果(効果は同じ)を示すようである。ジアゼパムと比較すると作用時間が約半分である。用量にもよるがこのミタゾラムは単独で使用すると、ジアゼパムよりも、より行動異常を示すことがある。しかしジアゼパムのようにIMでの疼痛はない。
ベンゾグアゼピン拮抗剤 フルマゼニルとかアネキセートとか呼ばれ、0,5mg/5mlにてのアンプルである。   ベンゾジアゼピンの受容体拮抗剤で、比較的高価な薬剤である。その投与量は投与したベンゾグアゼピンと同量である。作用時間は約50分間である。通常はまずはその半量をゆっくりIVして4-5分間様子をみて、必要なら1/4量をIVし繰り返す。注意すべき点はフルマゼニルはベンゾグアゼピンの作用時間のおよそ半分以下なので、1時間後にはベンゾグアゼピンの作用がぶり返すこと(特にジアゼパム)もありうることである。
ドロペリドール 鎮静剤 0.1-0.5 mg/kg SC. IM. IV
2H
この薬剤は、アセプロマジンに取って変わるものである。アセプロマジンより錐体外路系の症状が出やすいが、低血圧はより起りにくい。
モルヒネ 麻薬 犬/0.5-1.0mg/kg SC. IM 10-20M 1-4H
猫/0.1-0.5mg/kg SC. IM 60M 3-4H
関節内 総量0.1mgを0.9%の生食にて、0.5mL/kgにて希釈して注入 5-6H
オピオイドの副作用は、まずは呼吸抑制(二酸化炭素に対する感受性を低下)に注意すべきです。 またあらかじめの徐脈(迷走神経系を賦活化)、そして消化器系(運動性を阻害する働きがある)や脳圧、眼圧、食道内腹腔内圧の亢進の際の手術にはモルヒネを使用しない方が良い。また最近の研究ではモルヒネの経口投与は血中濃度の上昇があまり保てないとの報告があり、使用は考慮する必要がありそうです。このモルヒネでよく言われることは、痛みのない正常な状態で使用すると興奮作用を起すことがあることです。ゆえに単独では術後の痛みのある時等に使用されます。組み合わせではこの興奮はあまり起らないようです。他剤との併用の場合は麻酔が深くならぬように気をつける必要がある。
リン酸コデイン麻薬
犬/1.0-2.0mg/kg 経口投与 6-8H
猫/0.5-1.0mg/kg 経口、効果あるまで頻回に分けて投与 6-12H
動物では塩酸モルヒネは使用されても、なぜかこの麻薬はデータがあまりないためか、あまり使用されて来なかったが、最近になって脚光を浴びてきて、注目されている。とにかく経口投与のため、使用しやすい。主に犬に使用されるが、以前は、重度な咳止めとして重要視されてはいたが、その鎮痛剤効果にも焦点が当てられた。米国ではコデインとアセトアミノフェン(解熱鎮痛剤として有名、市販薬、犬の用量はアセトアミノフェン単独では10-15mg/kg、コデインの併用では1-2mg/kgを1日2-3回)との併用(犬のみ猫は禁忌)で知られているが、この場合は、肝疾患とハィンツ小体性貧血の犬には使用しない。しかしながらこの薬剤は経口のオピオイドなので、飼い主に渡す場合は、その環境を考慮(過去に薬剤の誤食歴がある子供さん等)する必要があるであろう。猫は犬より少し使いづらい傾向にある。
ナロキサン すべての麻酔の麻薬拮抗剤 用量は0.04mg/kg IVにて投与するが、理想的には、0.2mg/mlのアンプルから、0.2ml(0.04mg)を10mlの生食にて希釈し、1mlを1分間ぐらいのスピードで点滴投与しながら様子を観察します。症状が治まったら中止します。点滴投与ができない場合は、0.02mg/kgを5-10mlで希釈し、2-3分間かけてIVして様子を見ます。その反応によってもう一度同じ量を入れるか、その半量にするかを判定します。
ケタミン 麻酔(麻薬指定) 0.1-1.0mg/kg SC. IM. IV
ケタミンの微量持続点滴を行うには0.1%(又は0.2%)の溶液を使用する。ケタラール50(50mg/ml)を5%Gや生食等の500mlに対して、10ml混合(20mlの場合は0.2%)すると0.1%の溶液となる。点滴は多くの定量輸液セットは15滴が1ml(一部60滴が1mlのもあり)維持には、他の麻酔薬との関係や動物に状態によって、違うが大まかには、0.1~0.3mg/kg/minの速度で維持できるであろう。
鎮痛剤      1-5mg/kgのIM,IVにて20-30分の鎮痛作用          
鎮痛剤      5-10mgを経口投与にて20-30分の鎮痛作用
メデトミジン 鎮静剤 犬/5-15μg/kg SC. IM. IV
0.5-1.5H
猫/10-20μg/kg SC. IM. IV
0.5-1.5H

塩酸メデトミジンは、強力で選択性の高いα2-アドレナリン受容体作動薬で、筋弛緩作用を伴った鎮痛、鎮静作用があります。メデトミジン(ドミトール)には拮抗薬があり、覚醒させたい時には,アチパメゾール、1ml中5mg含有(イヌ:メデトミジンの使用量の4-6倍量,ネコ:2-4倍量)をIM投与すれば、5~10分後には覚醒する。比較的元気な犬猫に使用することができる。

グライコパイオレート※

前処置として、 0.011mg/kg SC IM, にて投与する。 IVの場合は、SC IMの量の1/3-1/4を投与(これはアトロピンも同様です)する。再投与の場合も3-4分間は待って(これもアトロピンと同様です)から投与する。 
アトロピンやスコポラミンと同様に、抗コリン薬作動薬である。アトロピン(60-90分)より作用時間が、2-4時間と長い。原則的には唾液分泌抑制と除脈の防止や心拍数の増加のために使用する、咽頭痙攣、迷走神経の緊張を軽減する。またアトロピンより心拍数を増加させないので、心疾患があり、心拍数を増加させたくない場合に使用する。またアトロピンより強力な抗唾液分泌作用がある。分子量が大きいので血液脳関門や胎盤を通過しにくいので、帝王切開(胎児への作用ない)、中枢神経系の疾患時の麻酔に使用される。日本にはないが、ぜひに準備しておきたい薬剤である。

フェンタニール 麻薬 0,004-0,01mg/kgのIVの急速投与に応じて約10-20分のみ有効
CRI (3-7μg/kg/Min)

2ml/0.1mgと5ml/0.25mgの製剤がある。クエン酸フェンタニールはモルヒネ50-80倍?の鎮痛効力を持つと言われるが、作用時間が短いのが特徴である。ゆえにCRIにての投与がよく使用される。健康犬に単独投与は興奮作用あり。呼吸抑制と徐脈に注意する。ナロキサンで拮抗する。また犬は鎮静と縮瞳、猫は興奮と散瞳の傾向がある。

フェンタニール・パッチ 麻酔 犬/
2.5mg   5-10kg
7.5mg   20-30kg
5.0mg   10-20kg
10mg    30kg以上  
 猫 2.5mg  3.5-10kg

経皮的麻薬作用剤である、この薬剤は特に退院時の少なくても12H前に使用するとその効果は3日間は作用するので使用しやすい(しかし病院外使用では飼い主にその管理について言及する、子供が剥して舐めれば死亡事故に繋がる恐れあり)が、比較的に高額 (2,5mgのパッチでも、ブプレノルフィンであるレベタンの0.3mg入りの1.5mlのアンプル製剤の14倍) なのが欠点であるが、3日間その効果が持続することを考えれば(8時間作用の鎮痛剤を1日3回×3回合計9回投与をすることを考えれば)使用を躊躇する理由はない。3.5-4kgの猫は内側に折り返し半分の量のパッチを貼る(パッチは切ってはならない)。 猫は1枚のパッチで最大6日間効果持続する場合もある。これらのパッチの使用法は、貼る部分の毛を刈り、通常は頚部の背側か胸部側面にしっかりと貼り(約2分保持する)、日時を記載して、その上にバンテージを巻く(ここにも日時を記載する)。貼る皮膚はきれいで乾燥状態が必要である。必要なら水で洗い(アルコール、石鹸等は皮膚に反応が起ることが、あるので使用しないこと)その後によく乾かすこと。再度使用する場合は、別の場所に貼るが同一場所には3-4週間は使用しないこと。但し剥がした後になかなかその部分の毛が生えない場合がある。特に猫より犬の場合はそうである。

最近このフェンタニール・パッチは人間の医学にて副作用の報告(過剰投与で死亡)があり、米国ではいずれは市場から消えるのではないかと危惧されている。そのためか米国では現在はよりコストの点で有利な、ブプレノルフィンのパッチを調剤薬局にて入手して使用している獣医師もいる。今後はフェンタニール・パッチからに徐々に移行しつつ状態にあろうと予想される。オーストラリアにてはNorspan (Buprenorphine transdermal patches)と言う名前で市販されていて、5μg/h、10μg/h、20μg/hの3種があると言う。

ブプレノルフィン・パッチ※(Norspan)

オーストラリアのみ人間用として発売されている。5μg/H、10μ/Hg、20μg/Hの3種類がある。犬猫の使用量はいまだ明確(人医でもその傾向があるが)ではないが、経験的に使用されている範囲では猫と小型犬は5μg、中型犬以上10μgを使用しているようである。すべては反応を観察しながら決めて行く。作用時間は約7日間、再度必要なら別の場所に貼りかえる。容量は人間で通常は年齢、体重、痛みの程度によって、まずは5μg から初め痛みの程度で、3種類を組み合わせて使用するようである。またブプレノルフィンの副作用は他のオピオイドと同じようなもので、便秘、(便が出にくいと感じたら早めに緩下剤を使用すること)嘔吐、悪心等です。また過剰投与に対してはナロキサンで拮抗できます。またオピオイドとは同時に使用できません。

オピオイドを使用する場合はパッチを剥してから24時間後に使用します。貼った部分を暖めないように注意(吸収速度が速まる)する。このとこは体温が高い場合もある程度同じことが言える。またこのパッチも半分に折って使用できる。過去にオピオイドを使用した場合は、14日間は間隔をあけて使用する。価格や作用時間の長さの点から言っておそらくは、5-6年以内には、このパッチは小動物臨床の疼痛管理の主流となりうると思われる。現在日本でもこの製剤の開発が進んでいるので、いずれは市販されると予想される。約12-24H後に作用し、最大の効果発現は3日目となる。



おわりに

国際獣医疼痛管理学会は2003年に設立されました。動物の疼痛管理の啓蒙に勤めていて、最新の疼痛管理の情報を得ることができます。一度Websiteを御覧ください。会員は獣医師、医師、歯科医師、研究者、VT等で約900人とのことですが、日本からは獣医師のみで参加者は只今3人(2006年11月末現在)のみとのことです。日本はリージョン7で会費は年$45.00です。興味ある方は参加して情報を得てはいかがですか。

CRI(持続点滴投与)については、なかなか臨床家には一見その計算方式が複雑で、躊躇しやすい傾向にあるが、昨今の小動物臨床においては、その薬物動態の特性を生かすために、CRIのその重要性はますます強調されています。今後は多くの薬剤がCRI又は併用が推奨されると予想されます。CRIのマスターは今後の獣医学の重要課題となるでしょう。ちなみに最近になって私達の動物病院では重症の心不全の治療にフロセマイドの単独投与と共にCRIにてフロセマイドを投与(作用時間は6時間につき、例えば2mg/kgとして、6×4回=24時間につき8mg/kgを24時間で投与する)した所、その治癒率の違いにびっくりしています。CRIの計算式はコンピューターにて計算が可能で、米国の獣医師は当たり前に使用しています。

その計算式の「エクセル」は、私達の動物病院のホームページの獣医師の皆様へ、卒後継続教育プログラムに記載してありますので、御自由にダウンロードして御使用ください。これは米国のDr,Tim Hackett先生の御好意(日本語訳の許可済)によるもので、各々の薬剤は日本の用量に変換(例えば米国ではケタミンは1mlが100mgだが日本では50mgとして)してありますので、そのまま使用できますが、あくまでも自己責任で御使用ください。また今回、記載※のある外国薬は、動物病院の開業獣医師であれば、すべてGuam Veterinary Supply(http://www.guam-gvs.com)にて入手可能です。

最後に蛇足ながら、御自身が、手術を受ける際には、手術を受ける前に疼痛管理のやり方を医者にいろいろ質問して、最大限の効果が得られるかを確かめましょう。痛くない手術は何度受けても平気?と言われ、元気になるためには、病気に打ち勝つには、楽しい気分になること、心が不安な時も、楽しい気分で心配事を吹きとばすためには、最低限痛くないのが条件です。これはある有名な雑誌の編集者が体験したことで、重度の痛みのためか、かなり衰弱して入院した彼は、自分が笑っている時、楽しい気分の時のみ、痛みを忘れることができる、と言うことに気づきました。そして楽しい気分になるには“笑い”が良いと発見し、“お笑い健康法”という独自の治療法を開発したのです。ジョーク集を多く読んだり、自ら冗談を言ったり、お見舞いに来る人には必ず冗談を考えてくるように頼んだり、またいつも楽しいことばかりを考え、テレビもお笑い番組選んで見てとうとう彼は病との闘いに勝ったのでした。しかし夜寝ている時は、笑えないので、やはり鎮痛剤にて痛くなくして、夜はぐっすり寝て体力をつけたとのことです。これって犬猫も同じこと言えるかな?犬猫にも楽しい気分を感じてもらい、早く病気が治るような環境づくりを心がけましょう。

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