■はじめに |
近年において、心臓病の診断と治療においても、エコーカルデォグラフィー等の発達と共に、飛躍的に進歩しているが、それらの恩恵を得るためには、多くのデータを科学的に分析して得られた結果を、統計的に処置しそれを応用するのが、よりよい結果が得られるのは明白である。
最近Re-trospectire studyなるものが多く取り入れられている。これは過去のデータを調べながら、病態が病気を、統計的に推定していく方法で、その結果から逆に症状や状態があてはまるかどうかも調べることもできる。
何よりも重要なことは、価値のある、実際に応用できる情報を得ることで、問題はそれをいかに応用するかということである。それらの結果を十分に応用すると心臓病が驚くほど簡単に学びやすくなるものである。 |
■予備テスト |
まず始めに心臓病に対して興味がある・なしにかかわらず、いくつかのテストをしてみましょう。我々は馬のひづめの音が聞こえたら、馬が来たのかな?と推定します。それと同じように、いろいろのバックグランドを知ることによって心臓病を推定できます。さてあなたの推定する病名や状態はなんですか?
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1)8才のマルチーズ、呼吸困難があります。聴診すると、僧帽弁で5/6雑音があり、ラッパを吹くような音がします。状態は悪化している、チアノーゼあり。さてどんな状態が疑われるか?
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2)室内にいるシェパードの6才で、突然に急死しました。今まではまったく元気でした。疑える病名は? |
3)8才のトイプードル、肥満している。ときどきの発咳あり。僧帽弁で3/6の雑音、EKGで肺性P、X線で気管支の陰影の増加及び右心の拡大あり、さて病名は? |
4)9才のミニチュア・シュナイザーの雌、失神と衰弱のため来院。さて失神の原因は? |
5)ドーベルマン、8才、雄、呼吸困難と運動不耐性。EKGで心房細動あり。腹部の腫大を認める。 |
6)ジャーマン・シェパード、6才、雄、発熱、関節痛、心雑音あり。食欲、元気なし。 |
7)6才の猫、呼吸困難、EKGで高いR波、急に状態が悪くなった。 |
8)8才のシェルティー、腹部軽度の腫大、触診で心臓が判りにくい。聴診もしにくい。脈があまりよく触れない。頚静脈拍動あり。 |
9)12才のシーズー、雄、僧帽弁で5/6の雑音、時々発咳をする。 |
10)6ヵ月のブルテリア、僧帽弁で4/6の雑音、運動すると咳をする。 |
11)8ヵ月のネコ、右心に強い拍動、チアノーゼあり、左心底部に4/6の雑音。 |
12)雑種、6才、15kg、室外犬、咳と削痩、右心の拍動があり、16kg、頚静脈拍動あり。 |
13)シェルティー、1才、疲れやすい、雑音はなし、両後肢が少し腫張してきた。右心の拍動が強い。 |
14)チワワ、2才、右心に強い拍動、左心底部にて第2音の分裂を認める。EKGでSl-2-3波を認める。 |
15)ポメラニアン、4ヵ月、左心底部で4/6の雑音、EKGでR波が高い。脈ははずむように強いのを感じる。 |
16)MRのあるコッカー・スパニエル、10才、雄、急に状態の悪化、心音が弱く、股脈動も奇脈がある。 |
17)ポメラニアン、雄、8才、僧帽弁で3/6の雑音、肥満、のどに骨をつまらせたような発咳をよくする。EKGで肺性Pを認める。 |
18)ドーベルマン・ビンシェル、年令は不明、元気だったものが突然に死亡。 |
19)ジャーマン・シェパード、発育がやや不良、5週目頃より、未消化の食物を吐く。最近呼吸も苦しそうになっている。 |
20)3ヵ月のネコ、疲れやすい、死にかけている、左心尖部に4/6の収縮期性の雑音。左で心拍動が強い。EKGでP-Rの増大。 |
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4〜5個の正解で普通?ぐらい、6〜8個で良好?、9〜12個でかなり良好?で13〜16個でかなり優秀、17個以上専門医クラスかな?正解は最後にあります。 |
■病歴について |
病歴(55%)と身体検査(25%)で心臓病の約80%は、診断は可能と言われる程に重要である。できれば予診用紙を用いて行うとよい。十分に時間をかけて行うこと。
飼い主によって(高齢者)は苦痛となることがあるので、休みながら、やさしく説明しながら行うこと。
シグナルメント(動物の特徴については、病歴に含む)
1)年令…先天性(若年)・変性(高齢)・腫瘍(高齢)、後天性(中年〜高齢)、心臓病による併発症(高齢)
2)品種…犬種、猫種の特発性(犬種別等の起こりやすい病気について知ること)。
過去10年間のJKCの登録No.10犬種(1983年〜1992年)について
1. |
シェットランドシープドッグ |
動脈管開存、弁膜疾患(MR) |
2. |
マルチーズ |
動脈管開存、弁膜疾患(MR) |
3. |
シーズー |
弁膜疾患(MR) |
4. |
ポメラニアン |
動脈管開存、弁膜疾患(MR) |
5. |
ヨークシャーテリア |
弁膜疾患(MR)、動脈管開存 |
6. |
シベリアン・ハスキー |
本態性高血圧、拡張期性心筋症、フィラリア |
7. |
プードル |
動脈管開存、弁膜疾患(MR)(心筋症以外なんでも起こる) |
8. |
ビーグル |
肺動脈弁狭窄、フィラリア |
9. |
ダックス・フンド |
弁膜疾患(MRとTR)、左心房断裂 |
10. |
柴犬 |
弁膜疾患(MR)、フィラリア |
参考. |
ゴールデン・レトリバー |
大動脈弁狭窄、拡張期性心筋症(TR) |
|
3)性別…拡張期性心筋症は雄に多い。 弁膜疾患は雄(1.5:1)に多い? 動脈管開存症は雌(2:1)に多い 洞疾患症候群は雌のミニチュア・シュナウザーに多い。 細菌性心内膜炎は雄(3:1)に多い。 猫の先天的心疾患は雄(2:1)に多い。 外傷性の網内心膜炎は雌に多い。 左心房破裂は雄に多い。 |
■予診用紙について |
稟告(りんこく)の用紙(下記参照)で、これを書いてもらうことによって多くのメリットがあります。その他の重要項目としては、主訴は飼主の言う言葉で記録すること、異常がどのくらい前から起こったか?どのくらいの回数で?現在悪くなりつつあるか?過去の外傷歴は?食事についても重要で、常に以下の3点を中心に聞くこと。どのくらいの量を食べるか?1日に何回か?何を食べているか?
その他としては、好物は?拾い食いをよくするか?ゴミ箱などをあさるか?何でもよく食べるか?最も重要なことは「飼主が一番よく症状のことを知っている」ことを、獣医師は自覚することである。そしてYes、Noのみでなく、疑問の点は十分に時間をかけて聞きだすことが重要。全診察時間の55%ぐらいは、これらを聞くためにさくことが必要です。 |
■身体検査について |
毎回同じように、順序正しく行うようにする。できるだけ科学的な論拠にもとづいて行うこと。人間の五感は最高の芸術であることを自覚すること。何回もくり返し行って、早く自分のものにすることが重要・臨床家としての成功のカギはこの身体検査をいかに行うかによって決定される。 |
■循環器病・呼吸器病の予診用紙 |
言葉の話せない動物に対して確かな診断をするために飼い主の方のご協力が必要です。
次の質問に対してできるだけ詳しくお答え下さい。
循環器・呼吸器病の問診表 |
お名前( )様 ( )ちゃん |
●主な症状は? |
□元気がない |
□運動を嫌う |
□呼吸が苦しそう |
□突然倒れる |
□咳をする |
□その他( ) |
●いつもいる場所は? |
□屋外 |
□屋内 |
□屋外と屋内両方(比 : ) |
●最近体重が変化しましたか? |
□いいえ |
□はい(□増えた □減った) |
●よろめいたり突然倒れたりすることがありますか? |
□いいえ |
□はい(□よろめく □ふらつく □バタッと倒れる) |
●フィラリアの予防をしたことがある、または治療経験がありますか? |
□いいえ |
□はい(□成虫駆除 □その他の治療 □経験なし) |
●歯ぐき・舌の色が変化しましたか? |
□いいえ |
□はい(色は? ) |
●食欲が変化しましたか? |
□いいえ |
□はい(□増えた □減った) |
●水をよく飲むようになりましたか? |
□いいえ |
□はい |
●嘔吐しますか? |
□いいえ |
□はい(内容物の色は? ) |
●便の色・硬さが変化しましたか? |
□いいえ |
□はい |
上の質問で「はい」を選択された方⇒どのような便ですか? |
□硬い |
□軟らかい |
□液状(色は? ) |
□多い |
□少ない |
□量は普通 |
いつから?( 月 日 時頃) |
●尿の色が変化しましたか? |
□いいえ |
□はい(色は? ) |
●おなかが膨れてきたと思いますか? |
□いいえ |
□はい |
●運動すると呼吸が苦しそうになりますか? |
□いいえ |
□はい |
●夜間呼吸が苦しそうになりますか? |
□いいえ |
□はい |
●安静時に呼吸が速いことがありますか? |
□いいえ |
□はい |
●運動すると咳をすることがありますか? |
□いいえ |
□はい |
●夜間咳をすることがありますか? |
□いいえ |
□はい |
●安静時に咳をすることがありますか? |
□いいえ |
□はい |
●鼻水が出ていますか? |
□いいえ |
□はい(□右鼻 □左鼻 □両鼻) |
●食べ物を飲み込むのがつらそうですか? |
□いいえ |
□はい |
●よだれが出ていますか? |
□いいえ |
□はい(□常に □時々) |
●口を開けたまま呼吸していますか? |
□いいえ |
□はい |
●血を吐いたことがありますか? |
□いいえ |
□はい |
●血縁関係に循環器・呼吸器病がありましたか? |
□いいえ |
□はい(□両親 □兄弟 □子供) |
□わからない |
●同時期に生まれた子供と比べて発育はどうですか? |
□良い |
□普通 |
□悪い |
□わからない |
●脚が腫れたことはありますか? |
□いいえ |
□はい |
●出血に気がついたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(□すぐ止まる □止まりにくい) |
●脚を引きずることがありますか? |
□いいえ |
□はい |
□過去あった( 頃) |
●震えることがありますか? |
□いいえ |
□はい |
●現在投薬をしていますか? |
□いいえ |
□はい(何のお薬ですか? ) |
●何か病気をしたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(病名 ) |
●外科手術を受けたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(□去勢 □避妊 □その他( ) |
●交通事故・大きな怪我をしたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(具体的に
) |
●食餌・薬でアレルギーを起こしたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(何で
) |
●心電図検査を受けたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(どこで ) |
●胸部レントゲン検査を受けたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(どこで
) |
●血液検査を受けたことがありますか? |
□いいえ |
□はい(どこで ) |
御協力ありがとうございました。 |
■心臓病・血管系の身体検査のポイント |
1)まず歩かせてみる⇒歩き方は? 精神状態は?
キョロキョロする→不整脈は?
ネコは特に後肢に注目→大動脈閉鎖症? |
2)体重を測定する⇒減少? 正常? 増加?
重要なこととして重症の心不全のイヌは痩せていると覚えること。
・減少…削痩しているイヌを見たら心不全、癌、膵機能不全、重症寄生虫感染、飢餓状態の5つを疑う。
・増加…胸水、腹水によるものでないかを確かめる。 |
3)脱水を判定すること⇒皮膚の弾力性、太ったり痩せたりしている場合には注意。
もし脱水があれば、利尿剤との関係を調べること。
脱水があれば直ちに、CRT・粘膜の色・心拍数・脈拍の状態との関係を調べ考えること。 |
4)CRT⇒心臓の拍出量を示します。正常は1.5秒以内で2秒を越えない。
心拍出量とは「1回の拍出量×心拍数」で示される。
・1秒以内…全身の敗血症を疑う
・1〜1.5秒…正常な心臓の拍出量があり
・2秒以上…不足している拍出量と推定 |
5)口腔粘膜の色⇒黒色素の場合は、可視粘膜で見ること
蒼白 |
貧血
心拍出量の減少:ショック、心不全 |
紫色 |
チアノーゼ:中枢性(肺水腫、胸水、R-Lシャント)
末梢性(動脈閉塞、寒冷、ショック、心筋症) |
黄色 |
黄疸、肝臓病、溶血性貧血 |
充血 |
R-Lシャント(PCVの上昇)、敗血症性のショック |
|
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6)頚静脈の拍動⇒心臓病の判定、輸液量の判定、治療薬の効果の判定にすぐれている。 両側を見る。肩関節より上の拍動が異常、胸腔入口の拍動は正常、重症なものは毛刈りをするとよい。立体で行う。
もし拍動があれば、以下の4つを疑う。
右心不全 ・心嚢炎 ・縦隔洞の腫瘍 ・肺性心
但し、利尿剤の投与中はあまり起こらないので、これを治療効果の判定にも応用できる。特に胸水、皮下浮腫、腹水が認められる場合には必ず行う。
慣れると中心静脈圧をも推定できる。立体にして肝臓を下から圧迫(10〜15秒)して頚静脈を見るとより一層明白となる。これを肝頚静脈反射と言う。この時に聴診を行うと、さらによい。拍動がよく見えない場合は、触診する。犬種(例えばボクサー、ブルドック等)によってむずかしい場合がある。 |
7)心臓の触診について⇒聴診の前に必ず行うこと。 どこで一番心尖拍動を感じるか調べる。拍動を感じる時は、収縮期の始めである。
スリル(バイブレイション)とヒーブを区別すること。 拍動によって心臓の大きさを判定すること。 もし大きい場合は、肥大が拡張かを区別すること。 第T音、第U音はもちろん、ギャロップもわかる場合あり。 必ず股動脈と同時に触診して、脈の欠損を調べること。 微妙な振動すなわち、MRにおける、心臓が前方、側方に揺れるような感じ等を見逃さないようにする。 胸部(肺部)の触診もして、呼吸様式を調べるとさらによい。
ポイント
@手のひらを心臓が押す力があるか?
A手のひらを心臓が押す力は?
B手のひらを心臓が押す時間は?
C左・右の押す力のバランスは?
D右・左の最強点は?
E股動脈と同時に調べる。
F肺部の触診もして呼吸を調べる。 |
8)股動脈の触診⇒ポイント
@脈拍数は?
A脈の欠損は?
Bリズムは?
C脈の強さは?
脈拍の強さで血圧は推定できないが、脈を感じれば、通常は60mmHgあると思ってよい。脈拍の強さは、収縮期圧と拡張期圧の差で感じとれるものである。心不全以外でも脈拍数は早くなる。発熱、疼痛、恐怖などがそうである。正常の脈拍数は以下の通り。
成犬:70〜160、超大型犬:60〜140、成猫:90〜240、超小型犬:70〜180、幼犬:70〜220 脈が弱く、180以上であればジキタリスの使用を考えてみる。
脈の欠損は、不整脈すなわち早期拍動等を発見するために行う。リズムについても不整があるか調べる。呼吸によって変化するかも、よく調べる必要がある。
脈の強さは大きく2分すると
Hyper Kinetic(多動) |
強い脈のことで、興奮や発熱を除くとPDAや大動脈閉鎖不全や血管拡張剤の投与後に起こる。左心室の拍出量の増大を示す。B-Bショットとか水槌音(ウォーターハンマー)バウンド脈とも呼ばれる。 |
Hypo Kinetic(減動) |
弱い脈のことで、ショック低血流量、心不全、不整脈、低血圧や大動脈狭窄症などの心臓の拍出量の減少時に起こる。 |
Pulsvs Paradoxus(奇脈)…吸気に弱くなり、呼気に強くなります。これは心室の充満の変化によって起こり、心嚢内の液体貯留や心タンポナーゼで見られます。交互脈とも呼ばれます。 |
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9)聴診について⇒ポイント:最も重要な検査法
@心雑音はあるか?
A異常な心音はあるか?
B不整脈はあるか?
Cギャロップはあるか?
心雑音で重要なことは、雑音のない心臓病があることと、雑音の大きさで心臓病の程度を示さないと言うことです。他の検査とあわせて行うこと。できるだけ静かな場所で行うこと。
最初に僧帽弁から聴診するが、触診で左側の心尖拍動の一番強い所を僧帽弁とする。(別に肋骨を数える必要はない)次に肋骨一つ分前にずらして少し上方にして大動脈弁、また前方にずらして、下げると肺動脈弁となる。右の最強点が三尖弁となる。
膜式は高音のS1、S2をベルは低音S3S4を聞き出す。頻脈の場合は頚動脈を圧迫すると聞きやすくなる。これは上室性頻脈と心室性頻脈との区別もできる。この方法はEKGの頻脈の際にも応用できる。 聴診の際、肝臓を圧迫すると、より聞きやすくなり、S3S4もわかる場合もある。もちろん股動脈と同時に聴診もする。 |
10)雑音について
心雑音 |
・無害性
・病 的:連続性、PPA
拡張期性、細菌性心内膜炎のAI
収縮期性:右側:2〜4th、AS、VSD 3〜5th、AI
左側:2〜4th、AS、PS、ASD、TOF 3〜5th、MR |
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収縮期性雑音は駆出性か? 全収縮期性か? を区別します。
駆出性はAS、PSを始めとして貧血、ASD、TOF
全収縮期性雑音はS1からS2まで、とぎれることなく続く、MR、TR、VSDに見られる。
拡張期性雑音はS2〜S1の間に生じる雑音で、まず細菌性心内膜炎を疑う。
グレードに分類して記録する。
1/6:やっと数分後に聴ける。ごく弱い雑音。
2/6:非常に弱いが直後に聴ける。
3/6:低〜中等度の雑音。
4/6:中等度の雑音。スリルはない。
5/6:大きい雑音。スリルあり。
6/6:非常に大きい雑音。聴診器なしでも聴こえる。 |
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全収縮期性雑音(逆流性)…プラトー→VSD
駆出性雑音…漸減型、漸増型、ダイヤモンド型→PS、AS、ASD、TOF、生理的
機械的雑音…連続性、ダイヤモンド型→PDA |
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PDA(動脈管開存症)、ASD(心房中隔欠損症)、PS(肺動脈弁狭窄症)、AS(大動脈弁狭窄症)、VSD(心室中隔欠損症)、TOF(ファロー四徴症)、MR(僧帽弁閉鎖不全症)、TR(三尖弁閉鎖不全症)、AI(大動脈弁閉鎖不全症) 以上の10大ポイントを解説したが、5大ポイントとしては以下の通りである。
@身体的特徴(姿勢、粘膜、体重等)
A静脈の拍動(頚静脈)
B動脈の拍動(股動脈)
C胸部の触診(心尖拍動)
D聴診
その他、体温(細菌性心内膜炎を疑う)とか胸部以外の触診も重要となる。また呼吸音について言うと、これは最近は肺音と言われることがある。肺音は人間の医学では約20種類に分類されているが、獣医学では、検査のために息を大きく吸ってくれない、肺野が人に比べて小さい、換気量が少ない、被毛がある、形が不定である等の原因によって、現在は3〜5種類に分類され整理されつつある。
握雪音(クラクルズ)…水にストローを入れて吹くと、ブクブクする音。以前は湿性、水泡性ラ音と呼ばれた。非連続性でもある。
喘鳴音(ウィージング)…喘息時に聴こえるようなゼーゼー音で連続性である。気道の狭窄でよく聴く。
喘音(ストライダー)…短頭種によく聴かれる。大きな振動による騒々しい吸気時の喘鳴音、喉頭や気管の狭窄部でよく聴かれる。連続性である。その他としては、連続性である水泡音(ロンカス)と胸膜の摩擦音の2つがよく加えられる。 |
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■心臓病の診断について |
病歴(55%)、身体検査(25%)、X線検査(10%)、心電図検査(5%) 4つの検査のみで95%診断が可能であると言われているのを常に思い出すこと。5%のみに特殊な検査が必要、これに臨床検査を加えたいものである。CBC以外も、必要に応じて行うとよい。
-X線検査-
DV(背腹像)、RL(右側面像)が必要だが、できればLLも取る。吸気時に撮影する。できれば非選択的血管造影のテクニックを覚えておくと有用である。
例えば咳をしているイヌにおいて、心臓が非常に大きければこの咳の原因はまず心臓病と考えるが、左心房が拡大しているからと言ってすぐMRによる咳と考えないようにする。心臓以外、気管、気管支、肺胞等をよく調べることが必要である。
-心電図検査-
できれば右側面で取るが、状態によって、無理をせず自然な姿勢で取る。あまり心電図に頼りすぎないようにする。刺激伝導系システムを調べることを、まず頭に置く。心拍数とリズムが重要である。ゆえに心電図は、薬剤の使用や、モニターのために使用する。心臓の大きさの判定にはあまりすぐれていない。保定のための鎮静には、ケタミンかジアゼパムを用いる。心臓病が疑われて、心電図がまったく正常な場合は(約10%あり?)、負荷テスト(5〜10分間運動させる)した後に取ってみるとよい。 |
■イヌの心臓病の7大特徴と他の病気との鑑別法 |
1)咳⇒呼吸器……特に心臓が拡大していない場合、気管、気管支、肺胞を中心にX線で調べる。最も簡単な基準は、肥満のイヌは呼吸器が原因で、痩せているイヌは心臓が原因。
2)失神⇒てんかん…起こる前にイヌがわかる。発作は比較的長い。終わってもすぐになおらない。 心臓の失神…前ぶれなく突然起こる。発作は10〜30秒ぐらいで短い。終わると、すぐ元通りになる。
3)運動不耐性⇒骨関節病……慢性病の場合は注意、整形外科の問題。
呼吸器病……X線等で異常。
神経病……神経テストで異常。
4)腹部腫大⇒消化器病……肝臓や胃の拡大に注意。腹水がポイント。
泌尿器病……妊娠、膀胱等の拡大の異常あり。
癌……肝臓等の癌に注意。
5)削痩⇒癌……CBC、X線等。
消化器病……膵機能不全のテスト。
重症寄生虫…糞便テスト。
飢餓状態……食事は投与されていたか?
6)呼吸困難⇒呼吸器病……咳の項目とほとんど同様。
7)チアノーゼ⇒ショック……ロ腔粘膜の項目を参照。 |
■ネコの心臓病の2大特徴 |
・呼吸困難…ネコの心臓病の始めのサイン。多くは胸水と肺水腫。
・後肢の麻痺…心筋症を疑う。 |
■心不全の解剖学的な分類 |
・心膜炎⇒右心不全:突然性(若年)→出血
高齢(腫瘍)→出血
細菌性(非常にまれ)
・心筋⇒心筋炎
・弁膜⇒例えばMR:先天的
変性性
細菌性(感染性)→通常、左側のみ
その他は:シャント
血管性(フィラリア)→肺性心
不整脈 |
■心不全の3つの分類 |
1)右心不全について
@静脈のうっ血→頚静脈拍動、静脈の拡大
A肝と脾臓の拡大→圧痛あり?
B腹水→胸水、心膜炎、まれに皮下浮腫
C心臓性悪液質→TNF因子の放出のため
2)左心不全について
@発咳→左気管支の圧迫や肺水腫のため
A発作性呼吸困難→夜間によく起こる
B静脈のうっ血がない→左心不全では見られない
C労作性呼吸困難一強い疲労、運動時に発生、失神が起きることあり
D肺水腫→呼吸困難のため起座呼吸となる
Eチアノーゼ→肺静脈圧が上昇するため、ガス交換の悪化が起こる
3)両質不全について
@左心不全の症状からの消失→両質になると左心の症状はあまり見られない
A腹水、胸水が現われやすくなる→最終的に後肢に浮腫がくる
B尿量が減少する→間質に水分が貯まるため
C不整脈→より発症しやすい
D静脈のうっ血→静脈圧の上昇
E呼吸困難→強い疲労、食欲の低下 |
■イヌの心臓病の7大原因について |
1)慢性弁膜疾患(CVD)
心内膜病などと呼ばれ、代表的なものがMR(またはM1)である。もしイヌを片手で持ち上げることができれば(すなわち小型犬)、心臓病としては、まずこの病気を疑う。
Dr.ブキャナンの報告によると、CVDの230例中、MV(僧帽弁)のみの侵されたイヌが143例(約55%)、MV+TV(三尖弁)が75例(約30%)、MV+AO(大動脈弁)が6例、MV+TV+AOが3例、TVのみが3例であったと言う。前記したように、先天性と変性と細菌性とに分類できる。
2)フィラリア症
我が国でも地域によっては、まだ大きな問題である。いかにオカルト・フィラリアを発見するかと急性症を処置するかが問題である。
3)慢性肺性心疾患(肺性心)
原発性肺疾患に続発して肺の血圧が上昇、そして炎症を起こし、肺動脈圧が増大し、肺性高血圧症となり、右心の拡大の原因となる。
フィラリア症や腫瘍、肺気腫、肺線維症、慢性気管支炎、気管支肺炎、肺高血圧を作り出す先天性心疾患などが原因となる。
4)心筋症
もしイヌを両手でなければ持ち上げることができなければ(すなわち大型犬)、フィラリアを除くと、まず先にこの病気を疑う。特に、ボクサー、ドーベルマンが有名。超大型犬に起こるが、例外としてコッカースパニエルでも起こる。ほとんどの症状はMRと似ているが、大型犬で心房細動や心室性早期収縮があれば、まず、この病気をより強く疑うことができる。ほとんどが拡張期性心筋症である。
5)気管虚脱
トイ犬種が多い。しばしば診断はむずかしいことがある。一般に6才以上。 咳は興奮や飲水によって悪化する。心電図で肺性P。X線検査が重要。頚部と胸部の2つのタイプがある。
6)心膜炎と心膜滲出
心音の減弱、脈が奇脈、心尖拍動が弱い。心電図で低いR波か高さの違うR波。X線検査で心臓が球形となる。
7)先天的心臓病
200〜300頭に1頭で発生?すると言われる。
@PDA(約30%)
APS(約20%)
BAS(約15%)
CPRAA(右大動脈弓遺残症)(約8%)
DVSD(約7%) @〜Dで約80%の病気を占める。
その他としては、8)左心房破裂 9)腱牽の断裂 10)原発性肺疾患 11)横隔膜と心臓の同時収縮 12)心腫瘍 13)ドーベルマンとシェパードの突然死等がある。 |
■ネコの心臓病の7大原因について |
1)心筋症
ほとんどが肥大性のもの、最も多いもの。ネコの心臓病と言うとこの病気を疑うぐらい、一番多い。多くのネコの心臓病がなんらかの形で、この心筋症に関係しているかもしれないと思われている。
2)大動脈塞栓症
左心室の肥大、後肢は冷たい。股動脈のプルスがない。後肢が麻痺をする。
3)腎不全に伴う心臓病
腎臓の障害によって高血圧となり、左心室が肥大する。
4)腹膜心膜横隔膜ヘルニア
イヌの心膜炎と心膜滲出と同じ症状のこともあるが、よく嘔吐を伴う。発育上の奇形の1つである。
5)先天的心臓病
300〜400頭に1頭で発症?すると言われる。イヌより少し少ない。
@房室中隔欠損(約24%)
A房室弁形成異常(約17%)
B心内膜線維弾性症(約12%)
CPDA(約10%)
DAS(約6%)
ETOF(約6%) @〜Eで約75%の病気を占める。
6)フィラリア症
イヌのフィラリアが200頭いれば、1頭の猫のフィラリアがいると言われる。 ネコの心臓病で唯一、咳をするのはフィラリアのみと言われる。
肺と脳の障害のものは、いかにテスト・キットを使用するかである。
7)慢性貧血に伴う心臓病
PCVl8%以下になると、心拍数が増加し、心拍出量の増加が起こる。 これが心臓の肥大の原因となる。
その他としては、
8)心膜炎と心膜滲出 9)心臓腫瘍 10)甲状腺機能亢進症 11)左心室調節帯過剰 |
■予備テストの答え |
1)腱牽の断裂、肺水腫は0.5点
2)肥大性の心筋症、または房室結節とヒス束の変性を疑う。拡張期心筋症は0.5点
3)肺性心気管虚脱は0.5点
4)洞(房)結節症候群(SSS)
5)拡張期性心筋症
6)細菌性心内膜炎
7)肥大性心筋症
8)心膜炎または心膜滲出
9)変性性MR、単にMRは0.5点
10)先天的MR、先天的心疾患は0.25点
11)TOF、単に先天的心疾患は0.25点
12)フィラリア症
13)リバースPDA、単に先天的心疾患は0.25点
14)PS、単に先天的心疾患は0.25点
15)PDA、単に先天的心疾患は0.25点
16)左心房破裂、単に肺水腫は0.5点
17)気管虚脱、肺性心は0.5点
18)2)の答えとまったく同じ
19)PRAA、単に先天的心疾患は0.25点
20)房室中隔欠損、単に先天的心疾患は0.25点 |