ウサギには4つの主要な伝染病(感染症)があります。室内ペットではほとんど見られないウイルスによる2つの重大な病気は、粘液腫症とウイルス性出血性疾患です。これらの病気はウイルス性の病気であるため、ウサギが感染すると有効な治療法はありません。
1) 粘液腫症(myxomatosis)ミクソマトーシス
2) ウイルス性出血性疾患(viral hemorrhagic disease)
3) エンセファリトゾーン・クニクリ(Encephalitozoon cuniculi)
4) パスツエラ・マルトシータ(Pasteurella multocida)
その他のウサギの感染症としては、エンセファリトゾーン症(寄生虫エンセファリトゾーン・クニクリによる神経疾患)とパスツレラマルチシダという細菌による呼吸器感染症があります。これらは室内で飼われているペットのうさぎによく見られます。
1)粘液腫症(myxomatosis)ミクソマトーシス
兎粘液腫は、蚊、ハエ、毛皮ダニ、ノミなどに刺されることで感染します。日本では家畜伝染病予防法において届出伝染病に指定されており、ミクソーマウイルス感染を原因とするウサギの感染症です。ミクソーマウイルスはポックスウイルス科レポリポックスウイルス属に属するDNAウイルス。
このウイルスは、蚊やハエ、毛皮ダニ、ノミなどに刺されることで感染するため、野生の動物と直接接触しなくても感染する可能性があります。また、汚染されたトゲやアザミによる傷や、感染したウサギとの直接の接触によっても感染します。
潜伏期間は1?3日で、最初の症状は、膨らんだまぶたの発生、膿性(膿が出る)結膜炎、無気力などです。皮下(皮膚の下)の腫れは、目、耳、生殖器の周りに広がります。腫れは急速に進行し、皮膚の出血、呼吸困難、食欲不振、発熱、全身の皮膚腫瘍の発生などが見られます。
目、鼻、耳、肛門、生殖器周辺の粘膜と皮膚の境界部の皮下にゼラチン様腫瘤を形成することもあります。通常、感染後1〜2週間でほとんどが死亡しますが、まれに生存することもあります。良い治療法ありませんが、輸液、シリンジ給餌、抗炎症剤、鎮痛剤で治療されています。
2)ウイルス性出血性疾患(viral hemorrhagic disease)
運動失調や後弓反張の神経症状を起こすウサギの病気に、ウサギ出血病(ウサギウィルス性出血病)と言う伝染病があります。この原因はカリシウイルス科ラゴウイルス属ウサギ出血病ウイルス(RHDV)が原因で、ウイルスは1型と2型に分類されます。
2010年以降、世界的に流行し、我国でも1994年(北海道)で1995年(静岡県の観光牧場)、2019年(愛媛県、茨城県)、2020年7月(栃木県北地区)で発生が確認されました。症状があまりなく突然死する、元気、食欲なく発熱、感染後期には神経症状や鼻出血の症状が特徴です。またこの病気は伝染力が強く、致死率が高いのが特徴で、うさぎの届出伝染病でもあります。
3)エンセファリトゾーン・クニクリ(Encephalitozoon cuniculi)
以前はよく、ウサギの斜頚の原因は、E. cuniculi(エンセファリトゾーン・クニクリ)の 感染と言われることもありましたが、実際にこのE. cuniculiとの因果関係はいまだ論争 中で不明のようです。ウサギ以外でも、人間、馬、齧歯類、肉食動物等が感染する病気で、 感染すると、免疫機能低下となり、日和見感染を起こすと考えられています。
人間に対しては、HIV/AID、臓器移植、CD4+Tリンパ球の減少等で、免疫機能が低下している人にとつては、重要な日和見感染の病原体となるが、この菌類は人間より動物に多く存在するため、動物由来感染症(伝播可能な感染症-人獣共通感染症-)の可能性も指摘されています。人間から人間への感染は、臓器移植のみ可能です。
ウサギは感染して約1ヶ月たつと、尿にE. cuniculiの胞子を生涯において排泄し始めます。ウサギは、このE. cuniculiが感染しても、殆どは休眠状態(日和見感染)で、何も起こらず、健康な状態を保ちます。症状を現す時は、E. cuniculiが好む中枢神経系(部分的な麻痺や全身の麻痺が起こることがある)や腎臓(縮小する、瘢痕化、慢性間質性腎炎)や眼(白内障やブドウ膜炎等)の組織に移行した時です。
ではどうやってE. cuniculiと確定診断するのかと言うと、病変部の組織病理検査によります。ゆえに生前では原則的に出来ずこの病気の確定診断は死後となります。
ウサギのE. cuniculi、診断としては、IgG抗体を測定する機関が、我国では2つあり、外注できる富士フイルム、動物医療 検査サービスとMEGACOR Diagnostik社の診断キットがあります。しかしこの血清からのIgG抗体の測定は比較的簡単な測定法ゆえに、情報の臨床的意義の難しさが問題とされている。
これで感染なし(―)であれば、問題ありませんが、例え感染があり(陽性)であっても、現在発症しているかは別の問題です。この陽性が現在このE. cuniculiにどれだけ関係しているかは不明です。例えば健康なウサギに陽性(感染している)と出ても,それはエンセファリトゾーンが陽性であったと言うだけであり、これは日和見感染(健康なウサギに対して病原性を発揮しない病原体が、ウサギの抵抗力が弱っている時に病原性を発揮して起こります)で、多くは発症しないと言われています。ただの保菌ウサギと言うことです。
ゆえにこの病気の発症を予測するもではありません。また最近に感染してまだ免疫反応を起こしていない場合には、3-4週間後に再検査を行う必要があります。いったん感染すると、ウサギは臨床症状の発現とは無関係に生涯にわたって陽性であり続けます。
IgG抗体の測定の結果の意義は?どう解釈するか?最近の見解では、例えば同じ陽性でもより高い値でE. cuniculiの症状あるウサギは感染の確率はより高くなると指摘されています。
陰性で全くの健康状態・・・・・E. cuniculiの感染なし、4週間後に再検査?
陰性でE. cuniculiの症状ある・・E. cuniculiの感染なし、4週間後に再検査必要
陽性で全くの健康状態・・・・・E. cuniculiの感染あるが、症状出て始めて疑う。
陽性でE. cuniculiの症状ある・・E. cuniculiの感染あるので、可能性はあります。
我国ではこのウサギのE. cuniculiの感染率は、幾つかの報告で単独飼育(約20〜30%)は集団飼育(約60〜75%)より感染が低く、神経症状のあるウサギがより高率(約80%から90%)です。ペットのウサギの感染率は集計すると約30%〜75%、約42%〜62%等のようである。いずれにせよ高率の感染率です。
米国およびヨーロッパのウサギの最大80%の陽性を示すとの報告がある。米国のペットのウサギの感染率は、20〜50%、23%〜75%、37%〜68%等の報告がある。性別や年齢による有病率は認められていません。但しロップイヤーは他のウサギより感染率が高いことが知られています。
猫においては6.1%の感染率とDr, Ryusuke Tsukadaらの発表があります。エジプトの養殖ウサギにおける研究がありますが、どれもフアームでの集団感染のようです。家庭内で長期間、飼育されているウサギの感染はかなり低いと考えられています。
このE. cuniculiは、ウサギによく見られる細胞内真菌性原生生物です(最近、真菌性原生生物として再分類されました)。3種類の菌株が確認されています。I型(ウサギ)、II型(ラットやマウスなどの小型げっ歯類)、III型(イヌ)の3種類が確認されています。
E. cuniculiの胞子は、感染したウサギの尿中に排出され、尿で汚染された飼料の摂取や吸入、または胎内で感染します。
E. cuniculiの芽胞は、環境中で4週間は安定していますが、一般的な消毒剤で不活性化されます。感染の急性期(暴露後30日以内)には、肺、肝臓、腎臓で繁殖します。慢性感染(曝露後100日)では、さらに脳や心臓にも感染します。臨床症状は、これらの部位で作られ、周囲に炎症や肉芽腫が形成されることによって生じます。感染したウサギでは、臨床疾患よりも無症状の感染の方がはるかに多く見られます。
では臨床的に、この感染を疑う場合は、どんな状況でしようか?私は以下の状況で、7項目中、4項目以上当てはまれば、E. cuniculiと判断し治療を開始します。
1) IgG抗体が陽性であること。
2) IgG抗体が陽性でも、より高い値であること。
3) 集団飼育の状況であるか?又は過去にそうであったか?
4)白内障又はぶどう膜炎等の眼病変(特に若齢)が片方(多い)又は両眼に認める。
5)腎疾患の症状である、尿失禁、尿やけ、多飲・多尿が認められる場合
6)中枢神経系の斜頸であること。
7)抗生物質療法に反応しない。
この寄生虫の治療には、寄生虫に関連する炎症を抑えるためにフェンベンダゾール、Panacur(15 mg/kg を経口で1日1回、28日間投与)が使用されます。本来は20 mg/kgの投与であるが、この量の場合は骨髄抑制に注意する。急性(48時間以内)発症例で重度であれば、デキサメサゾンを0.1〜0.4mg/kgの1回のみ投与が推奨されています。慢性例ではデキサメサゾンを0.2mg/kgを1回投与して、良くなれば、もう1回のみ0.2mg/kgを1回投与します。もちろん抗生物質療法以外の、斜頸の治療は絶え間なく行います。
変法として、このフェンベンダゾール(15 mg/kg)の容量は比較的安全に使用できるので、E. cuniculiを単に疑う程度でも中枢神経系の場合に、抗生物質療法と併用して投与することも可能です。状況(初期から重度な斜頚、高額な経費を考慮して等)によってはこの方法も採用できます。
E. cuniculiの治療に抗生物質(この治療歴がE. cuniculiを疑う根拠にもなります) は無効です。極まれに別の原虫であるトキソプラズマ・ゴンディがウサギに脳炎を引き起 こし、斜頚の症状を引き起こすとの報告もあります。もしE. cuniculiと診断したら、単 独にて飼育することを助言します。
4)パスツエラ・マルトシータ(P. multocida)(顎の膿瘍、スナッフル病)
パスツレラ症はウサギの重大な病気の一つであり、世界中のウサギに蔓延している。特に集団飼育の商業的な飼育のウサギにおいては大規模な経済的損害をもたらしている。これらは、飼育密度の高さ、換気の悪さ、アンモニアや湿度の高さと関連しています。
パスツレラ症は、ウサギの鼻腔や副鼻腔の感染症、耳や目の感染症、肺炎、骨や関節、内臓の膿瘍などの原因となる細菌性の病気です。またパスツレラはしばしば他の細菌と一緒に発生し、同時に感染症を引き起こします。
パスツレラ症の感染は、直接接触又は空気を介して、あるいはケージやトイレ、食事の容器などが汚染されることによって起こります。ほとんどのウサギは出生時に母ウサギから感染します。しかし免疫システムが正常に機能している限り、多くのウサギは症状を現しません。
ほとんどの感染は鼻から始まります。多くの感染症は鼻から始まり、副鼻腔や顔の骨に広がり、耳管を通って耳へ、鼻涙管を通って目へ、気管を通って下気道へ、血流を通って関節や骨、その他の器官へと広がります。しかし感染したすべてのウサギが病気になるわけではありません。感染の結果は、免疫システムの強さと、その細菌の強さの両方に依存します。
スナッフル病(ウサギの鼻炎?)、あごの膿瘍、この呼吸器疾患は、ウサギ集団感染で流行する可能性があります。若いウサギの感染率は、年配のウサギの感染率に直接関係しています。感染は主に、感染したウサギの鼻汁に直接触れることで起こりますが、鼻炎でくしゃみをして鼻汁が飛散したときに最も感染しやすいと言われています。
臨床症状は、鼻の症状がわかりやすが、ウサギは鼻呼吸をする動物で、口からではなく鼻からしか呼吸できません。ゆえに症状が出やすくなります。ゆえに鼻腔が粘液や膿でふさがれたり、ひどく腫れたりすると、呼吸ができなくなります。
1) くしゃみ(主に鼻腔から気道に侵入する)等の呼吸器症状が主な症状となる。
2) 目や鼻からの分泌物が出るが、最初は透明でその後濃くて白いものになる。
3) 時に頭が傾いたり(耳管から内耳にまで感染)、バランスを崩したりすることがあり。
4) 食欲不振、元気消失は、重度の鼻炎や肺炎、又は肺膿瘍から起こる。
5) 涙管、目、耳、鼻に感染し、歯根、骨、皮膚、皮下組織、内臓に膿瘍を引き起こす。
細菌は湿った分泌物や水の中で数日間生存することができます。P. multocidaは、主に鼻腔から気道に侵入し、主には呼吸器症状であるが、いったん感染が成立すると、副鼻腔(鼻炎)、結膜炎、膿瘍、中耳炎、となり涙管、胸部臓器、生殖器などにも感染することがあります。
時には、鼻炎の兆候がないにもかかわらず、中耳や肺などの内部組織や器官に慢性的な感染を持ち、鼻腔培養でP. multocidaが陰性となるウサギもいる。P.multocidaには多くの菌株があり、病気の重症度も様々です。
また血液検査では、血清の総タンパク質、アルブミン、グロブリン、免疫グロブリン(IgGおよびIgM)レベルの有意な低下が見られた。血清の炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-6),アラニンアミノトランスフェラーゼ,アルカリホスファターゼ,乳酸脱水素酵素,血清ビリルビンの有意な上昇が認められた。
標準的な治療では、抗生物質の投与が行われますが、なかなか治りにくく、収まったと思うと、すぐに再発します。治療は、数ヶ月以上に及ぶこともあります。時にしつこい膿瘍は、外科手術で除去しますが、それでもあるていど収まるだけで、完治はなかなか難しいと言われています。
ある種の経口抗生物質、特に経口ペニシリンや類似の薬剤は、ウサギにとって致命的です。これらの抗生物質は正常な消化管内の細菌を狂わせ、毒素を産生する細菌の過剰増殖、下痢、脱水、死亡につながるため、ウサギには絶対に使用してはいけません。
一般的に使用されている安全で効果的な経口抗生物質の例としては、エンロフロキサシン、サープロフロキサシン、マーボフロキサシン、トリメトプリム・サルファ、クロラムフェニコール、アジスロマイシンなどがあります。
抗炎症剤メロキシカムやカルプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)は、特に痛みを伴うウサギに使用されることがあります。
少しでも呼吸困難があれば、入院して酸素吸入をする必要があるかもしれません。ウサギは鼻でのみ呼吸をする動物ですから、酸素が入りにくいのです。その際には鼻孔をできる限り清潔に保つことが重要です。
この病気はウサギの間で感染しやすいので、新しいウサギは最初の1ヶ月間は既存のペットから離して飼育する必要があります。新しいペットの導入、新しい食事、過密状態などのストレス状況は、再発の原因となります。
目や鼻の組織を刺激する可能性のある尿中のアンモニアの蓄積を防ぐために、トイレを定期的に交換する必要があります。うさぎの眼や鼻から分泌物が出ていたり、呼吸の音が聞こえる、呼吸が速い、口を開けている。などの症状がある場合は、まずはこの病気を疑います。
全てのウサギはパスツレラ菌を保有していますが、病気を発症するのは一部のウサギだけです(免疫システムが一般的に菌を抑制しています)。栄養不足、食生活の変化、新しいペットや人の導入、過密飼育、環境ストレス、免疫抑制、あるいは他の病気の存在などのストレスが、臨床症状の引き金となることがあります。
多くのウサギは慢性的に感染しています。この病気は、感染したウサギの鼻や眼球の分泌物に直接触れたり、膿瘍からの膿に触れたり、寝具や餌・水入れなどの汚染されたものを介して、ウサギの間で容易に感染します。
新しいウサギは、既存のペットに引き合わせる前に隔離する必要があります(約1ヶ月間)。内科的または外科的治療が成功しても、ウサギがストレスの多い状況にさらされると、再発することがあります。パストゥレラ症の問題を最小限にするために、ウサギをできるだけ健康な状態に保つために、毎年必ずウサギに詳しい獣医師の診断を受けるようにしましょう。
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