http://www.pet-hospital.org/
all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

予防接種について

                 ■犬の予防接種は定期的に
                 ■混合ワクチンによって予防
                 ■ワクチン接種の時期
                 ■初乳を飲んでいない仔犬は早めに
                 ■接種は身体検査を行ってから
                 ■接種後に気をつけること


■犬の予防接種は定期的に
人間はいろいろな伝染病にかからないように、予防接種を受けますが、同様に犬にも予防接種があります。ただ人間の場合、予防接種を初回に受ければ、ほとんど終生その病気に対する免疫ができますが、犬は定期的に予防接種を受けなければ、効果がなくなることが知られています。

病気の種類によっても違いますが、予防接種の効果が持続する期間はだいたい1年間とされます。したがって、愛犬を恐い伝染病から守るには、年に1度、少なくとも2〜3年に1度は、定期的に予防接種を受ける必要があります。
■混合ワクチンによって予防
現在、伝染病の予防は、狂犬病を除いて、混合ワクチンを接種することによって行うことが多いようです。混合ワクチンの種類にはいろいろあり、2種混合ワクチン(犬ジステンパー、犬伝染性肝炎)から3種、5種、7種まであります。
もちろん、ワクチンの種類の多い方が多くの伝染病を予防できますが、通常は当然、多い方が値段も高くなります。 以下に、ワクチンで予防可能な7つの伝染病についてお話しします。

犬ジステンパー■
古くから知られている伝染病ですが、現在でもほぼ2〜3年ごとに周期的に発生し、最近では1、2年前に関東方面で大流行しました。 以前ほど発生件数は多くありませんが、まだまだ存在する代表的なウイルスの病気で、仔犬に多く発症し、感染率、死亡率がともに高いのが特徴です。

症状としては、まず高熱が出て、目やにや鼻水が出ます。その後、一時的に症状が治まることが多いのですが、1〜2週間後に腰が立たなくなるなどの運動障害が現れたり、神経系や脳が冒されることもあります。

より専門的に言えば、「外胚葉性」の症状が現れる病気であり、体の外側が主に冒されます。具体的には、鼻がカチカチに硬くなったり、眼が冒されます。

20〜30年前では、眼球が摘出されている犬を見ると、過去にジステンパーにかかったことが推定できたくらいです。最近では、予防接種が普及したこともあり、ジステンパーが原因で眼球を摘出した犬はあまり見かけません。現在は、緑内障による眼球摘出が多く見られます。

また、慢性のジステンパーの場合、やはり体の外側の足のパットが冒されます。以前は、犬が診察室に入ってきた時、カチカチと靴を履いているような音がすれば、過去にジステンパーにかかった犬だということが分かりました。

最近は、そのような例も少なくなったとは言え、死亡率の高い恐い病気であることに変わりはありませんので、必ずワクチンを打つようにしましょう。

■犬伝染性肝炎■
特に幼齢期に発症し、突然死の原因となる恐い病気です。症状としては、発熱、腹痛、下痢、嘔吐、扁桃腺の腫れ、眼球の白濁などが起こります。

以前は、この病気の予防接種を打つと、軽度に病気に感染し、眼が白く濁ることがありました。しかし、最近の予防接種は種類が違いますので、そのような症状が現れることはありません。

■犬パルボウイルス感染症■
ジステンパーと並んで、伝染力の強いこわい病気です。激しい嘔吐と下痢を起こし、症状が急激に進行して死亡するケースが多いので、以前は「犬のコロリ病」と言われていたこともあります。

ウイルスの抵抗力が非常に強いので、通常の消毒液では効果があまり現れません。やはり仔犬が犠牲になりやすい伝染病なので、ワクチンの接種を怠らないようにしましょう。

■犬伝染性咽頭気管支炎■
この病気単独では、それほど死亡率は高くありません。通常は、他のウイルスとの合併症を起こすことによって症状が重くなり、死亡率も高くなる呼吸器系の伝染病です。

感染すると、咳、くしゃみ、鼻水、気管支炎症状が見られ、最終的には肺炎を引き起こします。

■犬パラインフルエンザ感染症■
これも単独ではあまり死亡することはありませんが、他の病原体との混合感染によって、症状が重くなる病気です。「ケンネルコフ」と呼ばれるのはこの病気を指し、特に仔犬に起こる代表的な呼吸器系の病気です。

仔犬が集団で飼われている場合に、他のいろいろな病原体と混合して起こることが多く、非常に強い感染力を示します。 咳や鼻水などの症状が現れ、運動後によく起こります。慢性の経過をたどることが多く、症状が治まったように見えても、また現れるのが特徴です。寒い時期に多いので、注意しましょう。

■レプトスピラ病■
この伝染病には2つのタイプがあります。1つは出血黄疸型で、黄疸、嘔吐、発熱、歯茎からの出血などの症状が現れます。もう1つはカニコーラ型で、下痢、嘔吐、発熱、脱水症状などが起こります。

どちらのタイプも、症状が進むと最終的には尿毒症となり、数日で死亡することがあります。これはネズミが媒介する病気ですから、ネズミがいるところではこの病気が発症する可能性があります。

現在では、九州地方に比較的多く見られるようですが、関東以北ではあまり発症例はないようです。しかし、いつ発症するか分からない病気ですから、やはりワクチンを接種し、予防しておくことが大切です。

また、この病気は人畜共通伝染病、すなわち動物から人間に伝染する病気の1つです。しかし、少なくともこの数年間、犬から人間に伝染した症例はないようです。とは言っても、伝染の可能性はありますので、愛犬がレプトスピラ病と診断されたら、食器等の消毒をしたり、糞便に直接触らないように手袋を着用して処理するなどの注意が必要です。

■狂犬病■
発症すると必ず死亡する恐ろしい伝染病で、人間にも伝染する代表的な人畜共通伝染病です。わが国では1957年以降、狂犬病の発症例は報告されていませんが、海外では依然として発生が続いています。

すべての温血動物に感染し、諸外国ではキツネ、コウモリ、リスなどの野生動物も狂犬病の発症に関与している例があるそうです。ウイルスが原因となる病気で、脳の神経が冒されるため、咬みつくなどの凶暴性を 発揮します。以前は、発症した犬は水を恐がると言われ、「恐水病」とも呼ばれてい ました。

ご存じのように狂犬病には予防ワクチンがあり、わが国では3カ月齢以上の犬は、年に一回予防注射を打つことが法律で義務づけられています。

免疫学上は、狂犬病の免疫がない犬が70%以上いれば、何らかの形で海外から狂犬病が輸入された場合、この恐い病気を防ぐことはできないと言われます。したがって、日本では40年以上発症していなくても、年1回の予防接種は非常に重要です。

また、海外ではまだ発症が続いていることを考えれば、外国でむやみに犬に触ったりしないように気をつけることが大切です。
■ワクチン接種の時期
予防ワクチンの接種は、生後6〜8週間ごろに1回目を行います。その3〜4週間後に2回目を接種します。その後は、年1回、少なくとも2〜3年に1回は、定期的に接種します。

このように、生後1年目は最低限で年2回、それ以後は定期的に、予防ワクチンを接種する必要があります。しかし、接種回数が多くても、別に問題はありませんから、より安全を期するために、回数をもっと増やすこともできます。

たとえば、生後18〜20週齢(4カ月半〜5カ月)までは、1カ月ごとに接種する方がよい場合もあります。また、1年目以降も、半年に1回接種すればより安全です。

伝染病が流行している場合や、高価な繁殖犬では、接種回数を多くすることがあります。
■初乳を飲んでいない仔犬は早めに
生まれたばかりの仔犬は初乳(生後2〜3日以内の母乳)を飲むことによって、免疫の約97%を母親から獲得します。約2〜3%は胎盤から得ますが、ほとんどの免疫は初乳を飲むことによって、母親からもらいます。この免疫が持続する期間は通常、6〜8週間です。第1回目のワクチンを生後6〜8週間ごろに接種するのは、その時期に母親からもらった免疫の効果がなくなるからです。

したがって、もし仔犬が初乳を飲んでいない場合、母親からほとんど免疫をもらっていませんから、より早い時期に、すなわち生後2〜3週間ごろに1回目を接種する必要があります。 また、より強い仔犬を望む場合は、母親が妊娠する前にワクチン接種を行っておくとよいでしょう。
■接種は身体検査を行ってから
接種の前に、体重や体温の測定など、基本的な身体検査を行う病院がよい動物病院です。また、糞便検査をして、寄生虫の有無を調べることが大切です。寄生虫がいると、予防ワクチンが寄生虫に取られてしまい、十分に効果が発揮されないことがあります。

原則としては、健康状態のよい時にワクチンを接種します。しかし、もし地域に伝 染病が流行しているような場合は、その病気から犬を守るために、健康状態があまりよくなくても、予防ワクチンを打つ方がよい場合もあります。

また、妊娠中の犬にはワクチンを打たないのが現在の医学の常識ですが、実際には、妊娠中にワクチンを接種しても、胎内の仔犬に悪影響が及ぶということは証明されていません。妊娠中でも、安全だということです。したがって、妊娠に気づかずにワクチンを接種しても、心配する必要はありません。
■接種後に気をつけること
ワクチンを接種してから免疫効果が発揮されるまでには、1〜2週間かかります。したがって、接種後1〜2週間は、知らない犬(予防ワクチンを接種していない犬)と接触することを避けるなどの注意が必要です。そして、十分な栄養を与え、ストレスの少ない環境で生活できるようにしましょう。

また、接種した当日はお風呂に入れるのを控えてください。2〜3日後には、お風呂に入れても大丈夫です。人間でも動物でも、病気は治療よりも予防が大切です。予防できる病気はワクチンを接種し、愛犬の健康を守ってあげましょう。