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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA
神経病
■てんかんは脳神経の異常によって起こる ■診断には病歴の聞き取りが大切 ■神経病に特徴的な異常行動を知っておこう ■痙攣発作にはさまざまな原因がある ■てんかん発作と心臓発作の違いを見分けよう ■薬でコントロールできないこともある ■てんかんは早期治療が大切 ■薬の種類、投与の量や回数が重要なポイント ■頭部が震えるのは小脳の異常 ■円周運動は脳神経の異常 ■椎間板ヘルニアは脊髄神経の病気 ■犬種により特徴的な脊髄の病気がある |
■てんかんは脳神経の異常によって起こる |
神経病と聞くと、何かとても複雑な病気で、なかなか治りにくい慢性病という感じがするかもしれません。しかし、すべての神経病が慢性病というわけではありません
。 神経の病気として、名前がよく知られているものには、てんかんがあります。これは脳神経の異常によって起きる病気で、周期的にけいれん発作を起こすのが特徴です 。 その他、神経病の主な症状としては、歩行障害などの「運動失調 」、いろいろな部位のマヒなどがあります。首を曲げる「斜頸」と呼ばれる症状も、神経病に特徴的に見られます。急に元気がなくなる状態、いわゆる「虚脱」状態になることもあります。また、腰が抜けたり、立たなくなるような状態も、神経病が原因で起こることがあります。 |
■診断には病歴の聞き取りが大切 |
神経病が疑われる場合、われわれ獣医師は、動物にどのような症状が現れているか、問題のある部位はどこか、また程度はどのくらいかを注意深く観察します。そしてまず最初に、その病気が果たして本当に神経の障害によるものかどうかを、判定しなければなりません。それには、これまでの病歴を注意深く調査することが必要です。神経病の診断のためには、犬種、年齢、性別、病歴などを細かく飼い主から聞き出し、病気の原因を判定します。 神経病の治療に際しては、果たしてその病気が急性か慢性か、現在病気は進行しているのかどうか、どこに異常があるのか、どんなタイプの異常か、異常の原因は何かということが特に重要です。 |
■神経病に特徴的な異常行動を知っておこう |
病歴の調査のあと、獣医師は、動物の精神状態、通常の姿勢、運動時の姿勢などに重点をおいて、神経学的な検査を行います。この場合の精神状態とは、「はっきり目覚めている」「沈うつ」「混迷」「昏睡」のうちのいずれかということです。 神経の病気によって、犬が異常行動を起こすこともあります。たとえば、「急に攻撃的になる」「恐怖を感じる」「異常に興奮する」などの異常行動があれば、神経病が疑われます。 診断に役立つ項目を表@にまとめましたので、参考にしてください。もし、あなたの犬に神経病の疑いがある場合には、これらの項目を事前にチェックして動物病院にく行くと、より早く、より正確な診断ができると思います。 |
■痙攣発作にはさまざまな原因がある |
神経病は、@脳神経の病気、A脊髄神経の病気、B末梢神経
の病気の3つに大きく分けられます。てんかんは脳神経の病気の代表的な例で、最も一般的に見られるものです。脳神経に異常があるため、てんかん発作と呼ばれるけいれん発作を起こすのが特徴です。しかし、動物がけいれん発作を起こした場合、すべてがてんかん発作とは断定できません。 不整脈とか低血圧などの心臓の病気が原因で、けいれん発作が起こる場合もあります。また、毒物などによる中毒でも、けいれん発作が起きます。中毒の場合には、ほとんどが原因となる何らかの毒物を摂取したあとに起こるので、比較的にわかりやすいことが多いのですが、少量ずつ長期間にわたって摂取した場合は、わかりにくいこともあります。 また、肝臓の病気(門脈 シャント)のために、けいれんが起こることもあります。この場合には、頭を壁などの押しつける動作がよく見られます。特に高齢犬で心臓病のある犬は、心臓病による発作なのか、てんかんによる発作なのか、判別しにくいことがあります。 |
■てんかん発作と心臓発作の違いを見分けよう |
てんかん発作と心臓発作を見分けるには、以下のようなポイントがあります。注意していれば飼い主の方にもわかりますので、参考にしてください。 心臓病を原因とする場合は、前兆がなく突然、発作が起きます。発作が起きやすいのは、少し運動したあととか、興奮したあとです。次に、心臓発作の続く時間は、10〜20秒程度で、長くても1〜2分で終わります。 そして、これが最もはっきりした特徴なのですが、心臓発作は発作のすぐあとに、正常な状態に戻ります。 これに対して、てんかん発作は、ほとんどの場合、何か前兆があります。たとえば、ちょうど目の前のハエを追うように、目をきょろきょろさせ、不安そうな表情になり、そのあとで発作が起こります。また、てんかん発作は通常、心臓病による発作より持続時間が長いのが特徴です。短い場合は1〜2分で終わることもありますが、通常は5〜10分くらい続き、ひどい場合には、1〜2時間も発作がおさまらないこともあります。また、てんかん発作は治まったかなと思うと、少したってから、また発作が起こることがあります。つまり、発作が1度で終わらず、連続することがあります。 最後のポイントは、てんかん発作は、発作が終わったあとでも、なかなか元の状態に戻らないことです。てんかん発作のあと、ふつうの状態に戻るには、30分〜1時間くらいかかります。 これらのポイントを知っておけば、あなたの犬が発作を起こした場合、てんかんの発作か心臓病の発作かが、おおよそ判定できます。 |
■薬でコントロールできないこともある |
てんかん発作には、脳のどこに異常があるかなどによって、程度に違いがあります。治療を受ける前に、飼い主の方が知っておかなければいけないのは、てんかん発作の場合、薬でうまくコントロールできるのは、全体の3分の1程度だということです。 その他の3分の1は、薬でかなりコントロールできますが、残りの3分の1は薬でのコントロールはなかなか困難です。薬でうまくコントロールできない場合は、発作を抑える薬の量を少しずつ増やしていくことが必要になります。そして最後には、いろいろな薬を組み合わせて与えても、なかなか発作が止まらない状態になります。さらに、薬を多く与えれば、ほとんど寝たきりの状態になってしまいます。 てんかんに対しては、このように治療に限界があります。動物のてんかん発作のすべてが、薬で抑えられるものではないということを、飼い主の方は知っておいてください。 |
■てんかんは早期治療が大切 |
てんかん発作で重要なことは、発作が起きたら、できるだけ早く、すぐに治療する
ということです。そうしないと、発作の起こる間隔が短くなっていきます。たとえば、2、3カ月に1回くらい起きていた発作が1カ月に1回になり、1週間に1回になっていきます。さらにその後は、2、3日に1回と頻繁に起こるようになり、最終的には数時間おきに発作が起きる状態になります。 このように発作の起きる間隔が短くなればなるほど、てんかんは重症となります。ですから、てんかんの発作はできるだけ早く治療することが原則です。このことは、ぜひ強調しておきたいと思います。 |
■薬の種類、投与の量や回数が重要なポイント |
てんかん発作は通常、バルビタール系の薬で抑えます。これらの薬には、いろいろな副作用があります。多飲多尿(水をたくさん飲み、オシッコをたくさんする)、肝臓障害などが、代表的な副作用です。最近では、獣医療の領域で、新しい薬が使われるようになりました。人間の医療には使われないのですが、臭化カリウムという薬で、動物のてんかん発作では、有効なことがわかりつつあります。 通常、この臭化カリウムは、バルビタールと組み合わせて使用されます。バルビタール系の薬の副作用が強いときは、組み合わせて使用してみるとよいでしょう。てんかん発作を抑える薬を飲んでいる場合は、たとえば半年に1回くらいの割合で、定期的に検査を受ける必要があります。特に肝臓に障害が出る場合が多いので、血液検査などを行うことが重要です。 |
■頭部が震えるのは小脳の異常 |
「運動失調」とは、正常に運動できなくなる状態をいいます。通常、運動失調は、小脳の病気や、前庭(「内耳」と呼ばれる耳の奧の脳に近い部位の一部)の障害によって起こります。首を曲げる「斜頸」と、目がきょろきょろと左右に動く「眼震」は、前庭の疾患によく見られる症状です。 小脳の病気の場合は、歩幅が広くなるとか、細かく震える症状がよく見られます。特に頭部の運動失調は、小脳の病気の特徴です。頭部が細かく震える症状は、食事を食べようとしたり、水を飲もうとしたときによく起こります。ですから、小脳の病気は、犬が食べたり飲んだりするときの状態から、よく発見されます。たとえば、水を飲もうとしたときに、うまく飲めず、顔を水のなかに入れてしまったりします。 |
■円周運動は脳神経の異常 |
運動失調が急に起きた場合、外傷性以外では、脊椎や神経や血管に原因があります。慢性的に少しずつ症状が進行する場合は、腫瘍性、変性性
、炎症性の原因が多いようです。その他、中毒、代謝障害、栄養性疾患が原因になることも、まれにあるようです。
斜頸はほとんど、前庭の疾患によって起こります。しかし、まれには、腫瘍、薬物、外傷、先天的な異常が原因になることもあります。 脳の病気が原因で起きる歩行障害に、円周運動があります。犬が、同じ方向に円を描いてぐるぐる回ることです。円の大きさは、小さい場合も大きい場合もあります。この円周運動が見られれば、通常、脳神経の異常が疑われます。 |
■椎間板ヘルニアは脊髄神経の病気 |
椎間板の疾患は脊髄神経の病気です。代表的な病気には、人間にも見られる椎間板ヘルニアがあります。この病気の症状は、突然、腰が立たなくなって、下半身がマヒするものです。犬種では、ダックスフンド、プードル、コッカー・スパニエル、チンなどによく見られます。これらの犬種は、軟骨の構造が少し他の犬と違っているので、椎間板ヘルニアが起こりやすいのです。 椎間板の病気は、できるだけ早く診断し、できれば手術をして治し、なおかつ内科 診療も併用するのがよい治療法です。しかし、すべての病院で手術ができるわけではありません。それなりの専門的な設備と知識をもった病院でないと、手術は難しいでしょう。 近くに手術のできる病院がなければ、内科療法のみで治療を行うことになります。そのような場合、最近は獣医学にも針や灸などの東洋医学の治療法が普及しつつありますので、それらを利用するのもひとつの方法でしょう。治療によって、すべての下半身のマヒが治るというわけではありません。しかし、たとえ下半身のマヒが治らなくても、最終的に膀胱のマヒがなければ、車椅子などで生活できる場合もあります。 |
■犬種により特徴的な脊髄の病気がある |
脊髄の腫瘍によって、マヒが起こる場合もまれにあります。犬種では、ボストン・テリアやボクサーに見られ、高齢の犬に特に多いようです。通常、腫瘍そのものの痛みはありません。しかし、腫瘍は手術で除去できない場合、決定的な治療法がないため、予後は一般的によくありません。 ほかに、脊髄の病気には、椎間板髄膜炎といわれ、椎間板と隣接する脊髄が炎症を起こすものがあります。通常は、細菌感染を原因とすることが多く、抗生物質で治療します。 その他、いろいろな犬種で、特徴的な椎間板の神経的な病気があります。つまり、犬種によって、発症する病気がかなり特定されるということです。したがって、あなたの愛犬がどのような神経病にかかりやすいかは、あらかじめ知っておくとよいでしょう。 |