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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

股関節形成不全について


          ■大型犬は注意が必要
          ■幼齢犬では突然発症する
          ■歩行状態、座り方をチェック!
          ■多様な内科療法について
          ■手術法についての最新情報
          ■股関節形成不全と食事との関係
          ■内科療法の3大重要点について
■大型犬は注意が必要
股関節形成不全(股異形成と呼ばれることもあるが、あまり一般的ではない)は最近の大型犬のブームに伴い、かなり発症頻度の高い病気となっています。特にゴールデン・レトリバーとラブラドール・レトリバーに最近最も多く認められています。

これは股関節の発育または成長に異常が見られる疾患で、通常は両側性に発症しますが、まれに片側性(片方だけ)に発症する例もあります。この病気が発症すると、関節が不安定となり、骨関節症などが引き起こされます。まず、最も多く見られる症状は股関節の炎症です。大型犬に発症しやすく、体重12キロ以下の犬ではほとんど発症しません。まれに小型犬でも見られますが、ほとんどは症状が軽く、大型犬に見られるような骨の変成を起こしません。

この病気は遺伝的素因の関与が大きいと考えられます。そのような遺伝的素因に環境因子が重なって、股関節形成不全が起こります。環境因子、すなわち先天的素因以外の因子としては、栄養、運動などの環境が関係しています。

異常な遺伝子は、骨格よりも軟骨とか支持している結合組織、股関節の周辺の筋肉に影響を与える場合が多いのが特徴です。普通、出生時には股関節は正常です。この病気を予防したり、あるいは発症した場合でも進行を遅らせるために最も心がけることは、動物を肥満をさせないことです。肥満した動物では体重を減少させることが重要です。
■幼齢犬では突然発症する
股関節形成不全の症状は年齢に伴って変化します。最も早期には5〜8カ月齢の幼齢犬に発生しますが、普通は6カ月〜1歳半頃から痛みを訴えはじめます。1歳以上の場合は、慢性疾患に伴う成犬の股関節形成不全です。若い犬では関節がゆるいために痛みが伴い、歩きにくくなることがあります。高齢犬で慢性化している犬は、骨関節炎のために痛み、歩きにくくなることがあります。

幼齢犬は多くは片側性で、ときどき両側性の発症も見られ、突然の発症をするのが特徴です。後肢が非常に痛そうで、歩くときに腰がフラフラしたり、歩行や階段の昇降を嫌がり、動かなくなってすぐに座ってしまうという症状の訴えが多いようです。また、後肢をそろえて跳ぶような動作をしたり、座るときの姿勢がおかしいなどの訴えもあるようです。この時期で症状が表れるケースでは、ほとんど触診によって病気が推定できます。確定的な診断は2歳齢以降のX線検査によってできますが、臨床症状のある場合はそれ以前にも十分に推定することは可能だといわれています。

通常、診断は犬に麻酔をかけ、注意深く位置決めをした上でX線検査によって下されます。アメリカには股関節形成不全の診断のための整形外科財団が存在し、病気が存在するかどうかの判定を行なっています。
■歩行状態、座り方をチェック!
軽度な股関節形成不全では、ほとんど症状が表れないこともあります。一般的な症状としては、後肢の跛行、よろめき、ふらつき、走ったりジャンプを嫌がる、座り方がおかしいなどがあります。跛行の原因には外傷、骨の異常、神経系統の病気などいろいろあります。また、運を嫌がってすぐに座る場合も、心臓疾患をはじめさまざまな原因が考えられますが、心臓病の方は座り方が正常なのに対して、この病気は正常な座り方をせず、後肢を伸ばして座るようなだらしのない座り方をするのが特徴です。

大型犬で股関節形成不全を起こしやすい犬種では、歩行に異常が見られたり、歩きたがらないという場合、この病気を疑ってみる必要があります。特に跛行が進行する場合は、要注意です。若い犬の場合、生長に従って自然に改善される場合もあります。若い犬の治療の目標は、痛みを抑えて、軟骨の早めの破壊を予防することです。したがって、動物病院での診察を受けることが大切です。

■多様な内科療法について
多くの犬は股関節形成不全があっても、慢性的な痛みの症状を示さず、間欠的に症状を示すことが多いようです。痛みが表れた場合は、痛み止めの投与などによる保存的な方法によって一時的には処置できます。しかし、よりひどい症例の場合、痛み止めの投与や運動の制限のみでは、あまり効果はありません。

最近では、いろいろな鎮静剤とか抗炎症剤が多く適用され、内科療法も以前と比べ、かなり進歩してきています。一般的な薬としては以前よりアスピリンやサルチル酸などが使われていますが、最近ではその他にも効果のある薬が分かり、使用されつつあります。これらの薬は犬の痛みによく作用し、生活の質を高めるのに大いに役立つことがあります。

アスピリンを使用する場合は、できれば緩衝アスピリンという胃に障害を与えない種類のものか、その他の薬を組み合わせたものを使用するのがよいでしょう。また、アスピリンで注意しなければならないのは、フィラリア症をもっている動物に与えないか、十分に注意して少量を投与する必要があります。

非ステロイド系の消炎酵素剤も最近使われていますが、効果がある反面、副作用などにも注意して使う必要があります。以前はこれらの薬は犬にはほとんど使用できなかったのですが、研究が進んでよい薬が出始め、使用が可能となってきました。

ステロイド剤自体は一時的には効果的ですが、慢性的に長く使用する場合は、少量与えるか、12日ごとに与えるなどの配慮が必要となります。ただし、急性の症例にはかなり有効です。最近のアメリカの報告によると、いろいろな薬で治療したところ、67%は内科療法により飼い主が満足する結果が得られたとのことです。

■手術法についての最新情報
内科療法がうまくいかない場合は、当然外科手術療法を適用することになります。4〜8カ月齢の若い犬であまり症状がひどくない場合は、恥骨筋切除術なども有効なことがあります。これは若い犬の初期の症例にのみ適用されることがありますが、一般的にその後の経過が思わしくない場合もありますので、最近ではほとんど行なわれていないようです。

若い犬で症状が軽度から中度の場合は、最近では骨盤の3カ所を切る骨盤骨切り術と呼ばれる方法が少しずつ普及しつつあります。しかし、手術がうまくいかない場合も、一部にはあるようです。 現在、股関節形成不全の手術で最も広く行なわれているのは大腿骨頭切除術です。これは大腿骨の骨頭を切除し、痛みを和らげる方法です。特に体重が20キロ以下の犬に対しては、かなりよい結果が期待できるでしょう。しかし、脚を満足に使用できるようになるには、2〜3カ月かかります。また、あまり体重の重い犬には、効果は大きくありません。

しかし、最近では人工骨頭を使用する「大腿骨頭全置換術」と呼ばれる方法が、日本でも一部の獣医師の間で行われつつあります。現在、日本全国での実際の症例数はわかりませんが、おそらく30〜50頭くらいの犬がこの手術を受けたと思われます。

これは理論的に最もすぐれた手術法で、欧米の専門医たちが日本の獣医師に盛んに広めているところです。今後少しずつ普及してくる可能性はあります。ただし、現在のところ手術費用の高価なのと、5〜10年後の予後について多少の不安があることなどが難点といえるでしょう。

このように内科療法または外科療法によって、症状を抑えたり治療することがかなり可能となってきています。しかし、この病気の唯一の完全な予防法は、X線学的または臨床的に正常と保証されている犬を選択的に交配することです。

過去の医学雑誌の発表によると、両親が股関節形成不全の場合、その病気をもたないで生まれる子どもの確率は7%に過ぎないという報告があります。股関節形成不全の犬、または両親や兄弟犬にこの病気が発症している犬は、絶対に交配させないようにすることが最も重要です。まさに、予防にまさる治療はないということです。
■股関節形成不全と食事との関係
以前は、特に大型犬の場合、体が急に大きくなるのだから、栄養価の高い高カロリ食をどんどん食べさせ、なおかつカルシウム不足にならないように、薬品の形でカルシウムを添加するということが行なわれていたこともあるようです。

大型犬だからといって、カルシウムを与えすぎると、かえって骨の成長によくありません。現在のフードには、十分にカルシウムが含まれていると思ってください。

カロリーを与えすぎるのもいけません。動物が肥満していると、股関節形成不全が発症しやすくなったり、悪化が早まります。栄養をたくさんつけることが予防になると思うかもしれませんが、かえって逆効果なのです。また、何らかの薬や食物によって、股関節形成不全を予防できるという報告は現在のところありません。

ある研究によると、原因の30%くらいは栄養と運動に関係しているとの報告もあります。また、別の研究によると、同じ親から生まれても、生後8週間目より食事制限をした仔犬は、自由に食べさせた仔犬より、その発生がずっと低く抑えられたとの報告もあります。現代の栄養の問題は、不足よりも過剰の方がずっと多くの問題を引き起こしているようです。
■内科療法の3大重要点について
体重、運動、薬物投与をいかにうまく組み合わせて行なうかが問題となります。

まず、理想体重を決め、カロリーを考えます。理想体重とは目標体重のことです。純血種であれば、理想体重表を用いてもよいのでしょう。その他の信頼できる方法として、肋骨に容易に触ることができ、腸骨翼の前(骨盤の前方)に良好な凹みがあれば、理想体重と判定できます。

理想体重が決まったら(分からない場合は動物病院で判定してもらってください)、それに対する必要カロリー量の60〜70%を与えます。与え方も、1度に与えるのではなく、数回に分ける方が望ましいのです。そして、2週間ごとに体重を測定します。

この方法は犬が理想体重に達するまで行ないます。理想体重に到達したら、カロリーはその体重を維持するのに必要なだけ与えます。体重のコントロールが犬の寿命を延ばす効果があることを知ることが重要です。

運動量は症状(痛み)が表れるようでは、多すぎると考えてください。理想的には、運動量は痛みが出る直前で止める程度がよいのです。この方法は「トライ&エラー・プロセス」と呼ばれ、運動させてみて(トライ)、痛みが出れば止めて休ませること(エラー)を、繰り返し行なう(プロセス)方法です。

初めは、短時間の運動をゆっくりと少しずつ行ない、運動量を徐々に増やしていきます。また、犬を暖かい環境におくと、痛みをいくらか軽減させるのに役立つことを知っておくと便利でしょう。ゆえに、湿気のある寒い冬の時期には、症状が悪くなる傾向があります。したがって、寝床は柔らかい厚手のものを利用するとよいのです。