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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

歯の健康を守ろう

          ■歯の病気が最も多い
          ■乳歯遺残は危険
          ■歯石は恐い
          ■歯肉炎を見逃してはいけない
          ■歯周病を防ごう
          ■歯の病気は予防できる
          ■歯磨きをしよう
          ■こんなときは動物病院へ行こう
■歯の病気が最も多い
歯周病をはじめとした、歯の病気にかかる犬は非常に多いものです。2歳齢ですでに80〜90%が歯の病気に冒されているといわれ、犬の病気のなかでは最も多いものです。たしかに犬の場合、人間と比較すると、食物を歯で噛むことはさほど重要ではありません。食物が飲み込める大きさであれば、飲み込んでしまえばいいからです。です から、歯がまったくなくても、十分に飲み込める大きさの食べ物を与えれば、それで生きていけます。

しかし、歯が抜ける原因となる病気があると、完全に抜け落ちるまでに、いろいろな障害が引き起こされます。また、歯はないよりあった方がいいのは当然ですから、犬の歯の管理は非常に大切です。犬の歯の数は、乳歯が28本、永久歯が42本あります。乳歯のうち、切歯と犬歯は生後約3〜4週齢目から、前臼歯は4週齢目から生えはじめ、12週齢目までには、28本が全部生えそろいます。

そして、永久歯の生えはじめる少し前の生後約3カ月目頃から、乳歯が抜けはじめます。永久歯は、3カ月目頃から7カ月目頃までに生えそろうのが理想的です。
■乳歯遺残は危険
乳歯と永久歯がうまく生え替わることが大切です。乳歯と永久歯は、同時に口の中に存在してはいけないものです。 永久歯が生えてきた時点で、まだ乳歯が残っていると(乳歯遺残)、永久歯の不正咬合の原因になります。特に、小型犬は乳歯が残りやすく、また短頭種は不正咬合を起こしやすいので、それが原因で歯周病を引き起こすことになります。すなわち、乳歯遺残は歯周病の原因になりますから、十分な注意が必要です。

仔犬の歯の検査は、最初のワクチンを接種する生後2〜3カ月目に行なうことをお勧めします。そして、永久歯が生えてきたのに、乳歯がまだ残っているようなら、動物病院で乳歯を抜いてもらうのがよいでしょう。そうしないと、永久歯の成長に悪影響が及ぼされます。

動物病院で「もう少し様子を見ましょう」とか「そのうちに抜けるでしょう」などといわれたら、その先生は歯科学の方はあまり得意ではないといえるわけです。乳歯の抜ける時期には、性別や生まれた季節によって多少差があります。一般には、オスよりメスの方が早く抜けます。生まれた季節では、夏に生まれた仔犬が一番早く抜けます。
■歯石は恐い
歯の病気の最大の原因は歯石です。歯石は食物のカスなどが石灰化したもので、体にとってたいへん有害な物質です。通常、歯石は歯の外側から形成され、徐々に歯の内側や歯間にも広がっていきます。初めは柔らかいのですが、だんだん固くなり、歯肉を圧迫するようになります。

歯石が歯肉を圧迫すると歯肉炎を起こし、さらにひどくなると、歯の周囲の組織や歯を支える骨が冒され、歯肉がなくなって歯が露出してしまいます。このような状態になると、口臭がひどくなってヨダレを垂らします。また、食欲がなくなって、体重減少を引き起こすこともあります。

歯石の悪影響を受けるのは、口の中だけではありません。体に回ると、いろいろな臓器を冒します。たとえば、心臓に入る細菌性心内膜炎、肝臓には入ると肝炎、腎臓に入ると間質性腎炎、骨に入ると骨髄炎、関節に入ると関節炎など、いろいろな恐い病気を引き起こす可能性もあります。
■歯肉炎を見逃してはいけない
歯石が原因で起こる代表的な病気に、前述の歯肉炎があります。歯と歯の間に歯石がたまり、それが歯肉を圧迫して、歯ぐきが炎症を起こす病気です。初期の段階では、歯ぐきの周りが少し赤くなる程度なので、飼い主の方も気づかないことが多いようです。進行すると、歯ぐきが腫れ、口臭がひどくなって、潰瘍を引き起こすこともあります。放置しておくと歯が抜けてしまうことがありますから、ひどくならないうちに歯石を除去する必要があります。

なお、歯石以外の原因でも、前述のような乳歯遺残のための不正咬合が起こっていると、歯肉炎にかかることがあります。食物のカスが歯の間にたまったり、細菌やウイルスによる感染が原因になると考えられます。したがって、歯石がなくても、口臭がひどい場合は、歯肉炎を疑ってみる必要があります。
■歯周病を防ごう
歯周病は、歯石のために歯ぐきが傷められ、そこから細菌が侵入し、歯を支えている組織が冒されてしまう病気です。進行すると、歯がぐらつき、最終的には抜けてしまいます。 さらに、歯の周囲が化膿し、皮膚を破って、顔から膿が出るような状態になることもあります。

歯周病にかかると、歯の表面に褐色の物質(細菌が石化した歯石)が付着したり、歯ぐきから出血したりします。このような症状に気づいたら、すぐに獣医師に相談してください。

しかし、歯周病は、日頃から歯石ができないようにケアを怠らなければ、予防できる病気ですから、予防第一を心がけてください。歯石が付着してしまったら、動物病院で除去してもらうとよいでしょう。最近では、超音波のみならず、人間の歯科医さんなみの30万回の高速ハイタービンなど、歯の内部のいろいろな治療ができる設備をもった動物病院も少しずつ増えつつあります。
■歯の病気は予防できる
歯の病気の最大の原因は、何といっても歯石です。したがって、歯石を除去すれば 、歯の病気の大半は予防できます。 統計によると、歯磨きを毎日行なえば、歯石の95%、週1回でも76%を除去できるという事実が報告されています。愛犬の歯を磨くには、抵抗なく口を開けさせることができなくてはいけません。注意しなければならないのは、けっして犬に恐怖感を与えないことです。すぐに口を開けようとしなくても、叱りつけてはいけません。最初は口を閉じたまま、歯磨きという行為に慣れさせることから始めます。そして、ゆっくりと時間をかけ、上手にでき た時は、必ず褒めてあげてください。さらにいえば、仔犬の時から飼い主が体のいろいろなところに触り、触られても警 戒しないようにしつけておくことが大切です。
■歯磨きをしよう
まず、ガーゼとごく薄い食塩水を使う歯磨き方法を説明しましょう。人差指の周りに清潔なガーゼを巻きつけ、反対側の手でいぬの上唇をやさしく持ち上げて、歯を露出させます(あるいは、下唇を下げて歯を露出させます)。そして、ガーゼを巻いた指を薄い食塩水に浸して、歯ぐきと歯をやさしくこすってあげます。特に、歯と歯ぐきの結合部分をよく磨くことが重要です。 また、もし入手できれば、食塩水の代わりに、0.2%のクロヘキジン溶液(動物病院にて入手可能)を使うのがベストです。

磨く順序は、まず切歯と犬歯の表側から始めます。切歯と犬歯は口の前方にありますから、磨きやすいわけです。切歯と犬歯を磨くのに慣れたら、前臼歯と後臼歯(後ろの方の歯)も磨きます。通常、犬は歯の裏側は自分の舌できれいにしますので、磨くのは歯の表側だけでも構いません。

しかし、できれば歯の裏側も磨くとさらによいでしょう。そのためには、口を大きく開けさせる必要がありますが、そのよい方法があります。両方の上顎の犬歯の後方に親指と人差指を当て、後ろにそっと反らすと自然に口が 、開きます。その状態で歯の裏側を磨いてください。

ガーゼの代わりに、歯ブラシを使う方法があり、これが最もよい方法です。犬用の歯ブラシは、ペットショップや動物病院で販売されています。あるいは、小児用の毛の柔らかいブラシでも構いません。ただし、人間用の歯磨き剤は使わないようにしてください。唾液の過剰分泌の原因になりますし、飲み込むと胃腸障害を引き起こすことがあります。

最近では、歯にスプレーするだけの犬用の水歯磨きもあり、動物病院で入手可能です。どうしても歯磨きができない場合は、それを使用するのもよい方法です。大切なことは、毎日決まった場所で決まった時間には磨きを行なうことです。

歯磨きを行ない、歯石が付着することを直接防ぐこと以外にも、日常生活で気をつ けるべきことがあります。その1つが、食事をいつでも食べられるように、出しっ放しにしておかないことです。いつでも食事を食べられる状態にしておけば、当然、歯石のつく機会が多くなります。また、肥満の原因にもなるし、しつけの点からもよくありません。食事は決まった時間に決まった場所で、決まった量を与えてください。

■こんなときは動物病院へ行こう
歯の病気というと、まず虫歯を考えるかもしれませんが、犬の場合、虫歯はあまりありません。歯の病気のうち、虫歯が占めるのは6〜7%程度です。 何といっても、歯石を原因とする歯周病が圧倒的に多い病気なのです。

また、大型犬より小型犬の方が歯の病気にかかりやすいのですが、それは小型犬は歯が過密状態で生えているため、食べ物のカスが歯の間に詰まりやすいからです。さらに、歯を支えている骨の膜が薄い点でも、小型犬は歯の病気を発症しやすいわけです。

歯の病気も予防が一番大切ですが、何か症状が現れたら、早めに歯科学を学んだ獣医師のいる動物病院へ連れていくことが大切です。動物の歯の医学は、最近、急速に進歩してきました。人間の歯医者さんと同じように、歯内療法といって歯の中の治療もできる病院も増えています。

予防の次に大切なことは、早期に異常に気づき、ひどくならない前に、治療することです。特に下のような症状がある場合は、治療が必要ですので、動物病院に連れていってください。 犬は歯がなくても人間ほど困らないとはいえ、やはりできるだけ長く健康な歯を保ってあげたいものです。歯の病気は予防できますから、しっかり管理してあげてください。

 ・歯がぐらついている
 ・歯ぐきから血が出ている
 ・歯が黒ずんで茶色になっている(歯石が形成されている)
 ・口臭がひどい
 ・食事を食べようとしない、あるいは噛みにくそうにしている
 ・食べ物をうまく噛めない
 ・足を口に当てがって不快そうにしている