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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA


犬の飼い方と病気

下痢の原因と治療

           ■はじめに
           ■下痢の原因は小腸と大腸に判別
           ■便の状態を調べよう
           ■拾い食いに気をつけよう
           ■寄生虫やアレルギーも原因になる
           ■怖い伝染病による下痢
           ■画期的な内視鏡治療
           ■絶食の目的は胃腸を休めること
           ■動物の状態をよく観察しよう
■はじめに
消化器は、口から入れた食べ物を消化し、便として排泄するまでの働きをする器官で、食道、胃、小腸、大腸に大きく分けられます。消化器病の主要な症状は嘔吐と下痢で、この2つを消化器病の2大症状と呼んでいいでしょう。

 嘔吐も下痢も、飼い主の方が簡単に気づくことのできる症状です。これらについて基本的な知識があれば、原因を推測できることもあり、また動物病院に連れていった場合も、診察に役立つ情報を提供できるでしょう。この2大症状の特徴については、ぜひ知っておいてください。
■下痢の原因は小腸と大腸に判別
動物が下痢を起こした場合、主要な原因は2つ考えられます。すなわち、小腸に異常がある場合と、大腸に異常がある場合です。この鑑別は重要ですが、症状の特徴をいくつかを知っていれば、比較的簡単です。まず、体重の変化によって、原因部位を見分けることができます。動物が下痢を起こし、体重が減少してきたときは、下痢の原因は小腸にあります。なぜなら、小腸では食べ物の栄養が吸収されますが、そこに異常があると、栄養が十分に吸収されず、体重の減少が引き起こされるからです。

 これに対して、大腸の主要な働きは水分を吸収することです。大腸の何らかの異常のために、水分が吸収されず、下痢が起こっても、栄養はすでに吸収されていますから、体重の減少はあまり見られません。
■便の状態を調べよう
便の状態を調べることも、下痢の原因部位の判定に役立ちます。便にゼラチン状の粘膜や鮮血が混じっているときは、原因は大腸にあります。また、便の回数が多いときは、大腸性の下痢である可能性が高いといえます。便をこらえることができず、すぐに出てしまう場合も、多くは大腸性です。小腸性の下痢の場合は、口臭があったり、腸にガスがたまってお腹がふくらみ、押さえるとゴロゴロ音がしたり、おならが出たりします。

 また、水もよく飲む場合も、多くは小腸に原因があります。嘔吐を伴う場合は、小腸性であることが多いのですが、大腸の病気でも約30%は嘔吐を伴います。
■拾い食いに気をつけよう
食べ過ぎも、下痢の原因になります。また、腐敗したものを食べたために、下痢を起こすこともあります。家では悪い食べ物を食べる心配はなくても、散歩中に拾い食いをすることもありますので、注意しましょう。環境の変化がストレスとなり、下痢の原因になることもあります。しかし、原因がすぐに明らかにならない場合、何でもストレスのせいにするのは危険です。安易にストレスのせいにすると、重大な病気の発見が遅れることもあります
■寄生虫やアレルギーも原因となる
寄生虫がいるために、下痢を起こすこともあります。寄生虫は定期的に検便を受け、見つかった時点で駆除しましょう。検便を行う間隔は、室内犬は年に2回、室外犬および散歩をする犬は年に4回が目安です。食物アレルギーが下痢の原因になることもあります。食物アレルギーは、アレルギーの原因となる食べ物を除去することによって治療します。アレルギーの特別食については、獣医師の指導に従ってください。
■怖い伝染病による下痢
パルボウイルス腸炎などの伝染病は、激しい下痢を引き起こし、死亡率の高い恐ろしい病気です。
しかし、この病気は予防接種によって予防できます。1年以内に予防接種を受けていれば、心配はありません。ほかにも予防の可能な伝染病があり、これらの混合ワクチンが開発されています。

飼い主の方は、予防可能な伝染病については、年に1回以上のワクチン接種を行ない、必ず予防するようにしてください。
■画期的な内視鏡治療
下痢をしている動物が、元気があれば、さほど心配する必要はありません。しかし、元気がなく、食欲もない場合は、重篤な病気にかかっている可能性もありますから、速やかに動物病院で検査してもらってください。動物病院では、血液検査、尿検査、X線検査のほかに、内視鏡検査、超音波検査な どを利用して、徹底的に検査を行なうことができます。

最近では、動物の医療でも、内視鏡(胃カメラ)による検査が導入されるようになりました。内視鏡は画期的な技術であり、これを利用することによって、開腹手術をしなくても、約75%の異物は口から取り出すことができます。
■絶食の目的は胃腸を休めること
下痢の治療も、嘔吐の場合と同様、絶食が基本です。絶食の目的は、消化器を休めることによって、その機能を回復させることです。動物が比較的元気であれば、24時間絶食させます。元気がない場合は、動物病院で輸液をしながら、絶食させます。

絶食後、消化のよい食べ物(ドライフードをお湯に浸して、柔らかくして与えてもよい)を少しずつ与えます。量は健康なときの3分の1か4分の1程度とし、胃に負担をかけないように、少量ずつ何回かに分けて与えます。絶食中に水を飲みたがったら、嘔吐の場合と同じように、氷を与えてください。アレルギー性の下痢の場合は、低アレルギー食を与えます。また、結腸の病気には高繊維食が有効であるとされます。

これらのダイエット食や消化のよいフードは、多くの動物病院にありますので、利用することができます。また、症状によっては、薬物療法を行うこともあります。
■動物の状態をよく観察しよう
嘔吐や下痢は症状が目に見えます。これまで見てきたように、原因はいろいろありますが、飼い主の方は、原因に思い当たることがないかどうか考えてみましょう。動物に元気がなかったり、症状がある程度長く続く場合は、動物病院に連れていくことが重要です。その際、飼い主の方のいろいろな情報が診断の役に立ちます。ここで説明した知識をもとに、動物の状態をよく観察するように心がけてください。