http://www.pet-hospital.org/

all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

日常の健康管理法―身体検査をしよう
(2001/5/25 第1回改訂)

日常の手入れと定期的な身体検査を習慣づけ、病気のサインに早く気づくことが愛犬の健康を守ることになります。

犬は病気のサインが出るのが遅い
頭から足先まで身体検査
口の粘膜はピンク色が正常
尿が臭いときは細菌感染が疑われる
体重チェックで肥満に注意
食欲減退はどこかに異常が
皮膚は内臓の健康状態も映す
元気で活発に動くか
イビキをかく犬は心不全の危険
犬の正常体温は38.5度
食べ物を詰まらせたときは応急処置を

犬は病気のサインが出るのが遅い
よく「予防にまさる治療はない」といわれますが、これは人間にも動物にも当てはまることでしょう。予防とは日常の健康管理に他なりません。ことあるごとに言っているのですが、言葉をしゃべることができない動物の健康管理は飼い主の責任です。

もうひとつ知っておくべきことがあります。犬は人間に比べ病気のサインが遅く出る傾向があることです。その理由のひとつとして、代謝率が人間に比べて非常に高いので(人間の5-10倍)、病気に耐えてしまうのではないかと考えられています。このことはとりもなおさず、サインに気づいたときには病気がかなり進行している可能性があることを意味します。

こうした事情を考えても、飼い主は動物の健康管理の重要性を再確認する必要があるでしょう。
頭から足先まで身体検査
いうまでもなく狂犬病の予防注射を打つことは義務づけられています。また、感染症の予防ワクチンを必ず定期的に接種し、フィラリアの予防薬も飲ませなければなりません。しかしこれらの予防措置をした上でいろいろな病気に注意することが大切です。

ほとんどの病気にはサインがあります。それを発見するにはちょっとしたコツが必要です。そのコツを知っておくと、愛犬の日常の健康管理に役立ちます。

まず基本は身体検査、すなわち
犬の全身を調べることです。この場合、調べる場所の順番を決めておくと見落とすこともなく安心です。 身体検査は通常頭部から始め、だんだん下がっていき、尻尾や足先まで調べます。以下に、どういう点に注意して調べるかを説明します。
口の粘膜はピンク色が正常
まず目を調べましょう。目は輝いていますか?動物はどこかに異常があると目がトロンとして生気を失うことがあります。また分泌液が出ていないか調べます。頭全体をさわり、出来物やデコボコしたところがないか、また痛がることはないか調べます。

次に鼻を調べます。鼻汁が出ていないかチェックしてください。口には大切なチェックポイントがいくつかあります。まず口を開けて、口臭がないかどうか調べます。口臭のほとんどは歯石が原因ですから、動物病院で歯石を取り除いてもらうとよいでしょう。歯の付け根の部分が、赤くなっていないかどうかもチェックします。

約90%は深刻な病気ではありません。しかし残りの10-20%は病気の可能性があります。その場合早期にサインを発見し、速やかに原因を突き止め治療する必要があります。

下痢の状態が通常と違っていたり、症状が続くようなら、便の状態や回数を観察して獣医師に相談しましょう。

また、食事の量や質によっても便の状態はかなり違ってきます。例えば、ご飯などの炭水化物を食べていれば便の量は多くなります。飼い主は、愛犬が何を食べたらどういう便をするか観察しておくとよいでしょう。
尿が臭いときは細菌感染が疑われる
尿のチェックも重要です。尿の色・ニオイ・血が混じってないかどうかなどを観察します。

尿の色は飲む水の量と関係があり、当然水をたくさん飲めば薄くなり、少ししか飲まなければ濃くなります。しかし、尿の色が非常に濃い場合は、脱水症状を引き起こしている可能性があります。逆に薄い場合は腎臓病の可能性があります。いずれも獣医師に診断してもらいましょう。

尿のニオイが普段より臭い場合は重症の細菌感染が疑われます。やはり獣医師に診断してもらう必要があります。

血尿が出た場合は腎臓病や膀胱炎などが疑われます。動物病院へ連れていきましょう。
体重チェックで肥満に注意
体重の増減にも気を付けましょう。体重が減少した場合、何らかの病気にかかっている可能性が高いといえます。

体重をチェックするために定期的な体重測定を実行しましょう。少なくとも1カ月に1度行ってください。犬種別に標準体重があるのでそれも目安になるでしょう。

高齢犬は肥満してくる傾向があります。肥満のほとんどの原因は食べ過ぎです。食事は適正量を与えるようにしましょう。また、
高齢犬には高齢犬用のフードを与えることが非常に大切です。
食欲減退はどこかに異常が
犬にとって食事は最大の関心事です。ですから、食欲がなくなったらどこかに異常があることが疑われます。

もちろんおやつなどを食べ過ぎたり、ちょっとお腹の具合が悪くなって一時的に食事を食べなかったり、食欲が減退することもあります。食事の内容・好き嫌い・運動量・暑さ寒さなどによっても食欲は左右されます。そのような条件も考えあわせ、愛犬の食欲の状態を観察しましょう。

また、食事の食べ方も健康状態を判定する上で役に立ちます。その判定法を表に示しますので参考にしてください。

健康状態 食べ方
良好-普通 食事の準備をすると落ち着かずアッという間に食べてしまう。食べ終わると皿をペロペロなめる。
普通-不良 すぐに食べ出すが、食べ終わったらすぐその場から離れる。また飼い主の顔を見ながら食べる。
不良 好きなものだけ少量食べるか、気の向いたときだけ少しずつ何回かに分けて食べる。
皮膚は内臓の健康状態も映す
皮膚は「内臓の鏡」と言われ、内臓の健康状態を映します。毎日ブラッシングを行い、被毛の艶や皮膚の状態をチェックしましょう。

もちろん皮膚病のチェックも欠かせません。皮膚病は慢性化すると非常にやっかいな病気で完治が難しくなります。しかしブラッシングやシャンプーなどの日常の手入れを行うことで、かなり有効に予防することができます。

アトピー性皮膚炎や食事アレルギーなど、アレルギー性の皮膚病も増えていますので注意しましょう。
元気で活発に動くか
動作がきびきびして活動に動き回っているかどうかも、健康のバロメーターとなります。元気がなく活動性が低下している場合はどこかに異常がある可能性があります。

元気であるかどうかは目にも現れます。目が輝いていて、首の動きも活発で、飼い主の動く方向に顔を動かす犬は元気です。

特に高齢犬では、散歩の後2-3日元気がなくなることがあります。このような場合、変性性関節炎にかかっていることが考えられます。運動すると関節が痛むので動かなくなるのですが、関節を休めることで痛みが消え、また動けるようになるのが特徴です。
イビキをかく犬は心不全の危険
軽い運動をしただけで咳が出たり、特に夜中や明け方に咳き込む場合、心臓病の疑いがあります。小型犬の咳の原因の多くは気管か心臓の病気です。

イビキにも注意しましょう。シーズー・チン・パグなどの短頭種以外でイビキをかく犬は異常があると考えていいでしょう。
特に高齢犬でイビキをかく場合、心不全を起こすことがあります。そのような場合、温度と換気に十分気を付ける必要があります。夏の暑い時期にはクーラーをかけたり、換気をよくして、環境の空気をきれいにしておくことが大切です。
犬の正常体温は38.5度
体温測定も重要な健康の判定法です。犬の正常体温は38.5度です。人間より約2度高いと覚えておきましょう。人間は脇の下で体温を測りますが、犬は直腸で測るのが最も正確なようです。

通常、重篤な病気にかかっていれば体温が上昇します。病気と闘うために体温が高くなるのです。しかし、病気に負けてくると体温が低くなります。
急激に体温が下がった場合は、危険な状態です

病気でなくても、ストレスや運動によって体温が上昇することがあります。この場合、興奮がさめれば体温も正常に戻るのが普通です。
食べ物を詰まらせたときは応急処置を
散歩中の事故にも注意しましょう。散歩のときは必ずリードをつけてください。犬が何か誘惑物を見つけて追いかけ、交通事故に遭うことがあります。悲惨な事故から犬を守るためには、犬をきちんとしつけることが大切です。交差点では、飼い主の指示に従ってオスワリをして待てるようにしましょう。

心臓や循環器系の病気をもつ犬・高齢の小型犬・幼犬が、
食べ物を喉に詰まらせ、窒息状態になることがあります。特にパン類のような軟らかくてかさのある食べ物を、続けて何口も食べると簡単に喉に詰まることがあります。幼犬の場合は肉類も詰まらせることがあります。食べ物を喉に詰まらせたとき飼い主がその場ですぐに処置をしないと、病院へ運ぶ途中でほとんどが死亡してしまいます。飼い主は必ず応急処置の方法を覚えていてください。食べ物が喉に詰まった場合は、引っぱり出そうとしても喉の奥に詰まっているのでまず取れません。

食べ物が胃の中に収まってしまえば安全なので、押し込むといいのです。先の尖っていない棒状のもので、詰まっている食べ物を喉の奥に押し込むと良いでしょう。例えばボールペンの頭の部分で押し込むことができます。その処置をした後、意識がなければ心臓マッサージをします。犬を左側(心臓側)を上にして横たわらせ、心臓の部分に手を当ててマッサージをします。マッサージの仕方は動物病院で教えてもらっておきましょう。