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Dr. 小宮山の健康相談室

心臓病について考えよう
(01年9月「心臓病について考えよう」Vol.106掲載 2001/11/27 第1回改訂)

心臓の働きと病気の症状を知ろう
心臓は全身に血液を送る大切な臓器
老齢犬は心臓病にかかることが多い
元気のない仔犬は先天性疾患が疑われる
愛犬が咳をし始めたら心臓病のサイン
中型犬以上の咳は心臓病の疑いがある
運動をいやがるのも心臓病のサイン
心臓病による失神を見極めよう
苦しそうに呼吸したりやせてくることも

心臓病の治療方法について
まず安静療法をしっかりと守ろう
心臓病の食事療法はちょっとした工夫が大切
愛犬を特別食に慣れされる方法
薬物療法は日々進歩している
薬の副作用を知っておこう
心臓は全身に血液を送る大切な臓器
心臓がきわめて大切な臓器であることは、改めて言うまでもありません。「心臓が止まる」ことは、死を意味します。

簡単に言えば、心臓は縮んだり膨らんだりしながら(収縮と拡張を繰り返しながら)、全身に血液を送り出しています。その動きが鼓動であり、鼓動が止まれば、血液は体を循環しなくなります。血液は体中の組織に栄養と酸素を届けていますから、血液が循環しなくなれば、組織は栄養と酸素を絶たれ、生命を保つことができなくなります。

犬の心臓は1日に約18万回(1時間に7500回)鼓動し、約2リットルの血液を送り出します。お酒の一升瓶が1.8リットルですから、それより少し多めということになりますね。
老齢犬は心臓病にかかることが多い
犬と心臓病の関係で最も大切なことは、高齢になると多くの犬が心臓病にかかることです。健康な犬であっても、高齢になればさまざまな機能が衰え、必然的に心臓の機能も衰えて、病気に結びつきやすくなります。

心臓病の特徴は、治すのが難しいことです。したがって、治療の主要な目的は進行を遅らせることになります。

犬も長生きすれば、心臓病にかかることが多くなります。このこと自体は致し方のないことでしょう。大切なのは、高齢になると心臓病のリスクが高くなることを知っておき、早く症状に気づくことです。そして、適切な治療を行えば、犬をより長生きさせることができるでしょう。
元気のない仔犬は先天性疾患が疑われる
仔犬が先天的な心臓疾患をもっている場合があります。これは、だいたい150-200頭に1頭くらいの割合で見られます。

心臓疾患があるかどうかは、聴診器で鼓動(心音)を聞くことでだいたいわかります。疾患があれば、通常は雑音(「心雑音」と言います)が聞こえるからです。重症であれば、手でさわってみるだけでわかることもあります。したがって、生後2-3カ月頃の最初の検診(通常は予防接種を受けるとき)で発見されることがあります。

ゆえに、最初の検診では、特に「体重測定」と「便の検査」と「聴診」が重要となります。「成長盛りなのに、ほかの犬に比べて大きくならない」「やんちゃ盛りなのに元気がない」という場合、この先天性疾患が疑われます。最初の検診で、心臓の診察をしてもらうことが重要ですね。
愛犬が咳をし始めたら心臓病のサイン
心臓病が末期になると心不全となり、悪化する一方となります。この状態に到る前に治療を行い、進行を遅らせることが大切です。心臓病の症状を知っておきましょう。「咳が出る」「運動をいやがる」「失神」が最もよく見られる症状で、「心臓病の3大症状」と言われます。

まず、咳が出始めたら注意してください。咳の仕方にも特徴があります。心臓病の場合、喉に魚の骨でも刺さったように、その骨を喉の奥から吐き出そうとするような感じの咳をします。そのため、本当に喉に何かが詰まったのだと勘違いする飼い主もいます。また、夜や明け方の時間帯に咳をするのも、心臓病の特徴です。
中型犬以上の咳は心臓病の疑いがある
咳については、特に中型犬以上の犬の場合、心臓病の疑いが強くなります。

小型犬が咳をする場合、気管の病気が原因であることも多いと言えます。しかし、小型犬でも高齢になれば心臓病にかかりやすくなりますので、咳が出た場合、心臓病も疑う必要があります。

いずれにしても、ある程度続けて咳が出れば、どこかに異常があることが考えられます。犬が咳をしている場合、どういう咳の仕方をするか、いつから咳が出始めたか、どういう時間帯に多く咳をするかなどを観察し、病院で診察してもらいましょう。
運動をいやがるのも心臓病のサイン
散歩や運動をいやがる場合も、要注意です。散歩中に歩かなくなり、座り込んでしまうときは、心臓病にかかっている可能性が高いと言えます。また、運動すると咳が出て、運動をやめると咳が出なくなるというのも、心臓病の特徴です(ほかに肺や気管の病気も考えられます)。

もちろん、運動をいやがる原因は、心臓病以外にもあります。たとえば、呼吸器系の病気や、脚や関節や脊椎の骨などが悪いときも、運動をしたがらないことがあります。一般に健康な犬でも、高齢になれば運動量が少なくなります。そのため、運動をあまりしたがらなくなったのは、高齢になったせいだと思う飼い主もいるでしょう。

しかし、心臓病をはじめ、深刻な病気が隠れていることもありますので、「老犬になったのだから、動かないのは当然」と安易に高齢のせいにせず、ほかにも普段と違う点がないかどうか観察しながら、異常を見逃さないようにしましょう。
心臓病による失神を見極めよう
心臓病が原因で失神することがあります。心臓から脳へ送られる血液の量が少なくなり、脳に供給される酸素の量が不足することが原因です。犬が失神を起こして突然倒れると、飼い主はびっくりするでしょう。しかし、決してあわててはいけません。心臓病による失神の場合、初回は犬が倒れて急死することはまずありません。倒れてから数秒後に元の状態に戻りますが、これが心臓病を原因とする失神の特徴です。

失神の原因はほかにもあります。たとえば、テンカンの発作がよく知られています。心臓病を原因とする発作とテンカンによる発作では、発作の前後の状態にはっきりした違いが見られます。テンカンによる発作の場合、心臓病の場合と違って、発作から回復するまでかなりの時間がかかります(数分から1-2時間くらい)。また、テンカンの場合は、発作が起きる前に、よく観察すると、犬が周囲を見渡すなど不安そうな状態を示します。さらに、発作が治まったと思っても、また続けて繰り返すこともあります。

このように両者にははっきりした違いがありますので、犬が発作を起こして失神したときは、その前後の状態を観察し、獣医師に報告できるようにしておくと、診断の役に立ちます。
苦しそうに呼吸したりやせてくることも
前述の「3大症状」のほかにも、「呼吸困難」(苦しそうに呼吸をする)・「腹部膨大」(お腹が腫れてくる)・「やせてくる」・「チアノーゼ」(酸素が不足して、口の中の粘膜が紫色になる)などが、心臓病の症状としてあげられます。

特に「心不全」の状態になると、ドーベルマンを除いて、ほとんどの動物がやせてきます。一般に動物がかなり短い間にやせてきた場合、どこかに異常があることが考えられます。「食欲がなくなる」「元気がなくなる」などの状態とともに、「やせてくる」ことも何らかの異常のわかりやすいサインだと言えるでしょう。動物がやせてきた場合、心不全・ガン・すい臓の機能不全・重症の寄生虫感染がまず疑われます。

まず安静療法をしっかりと守ろう
心臓病の治療法には、3本柱と呼ばれるべきものがあります。「安静療法」「食事療法」「薬物療法」です。病気の程度や種類に応じて、これら3つの療法を組み合わせて治療するのが一般的です。心臓病の治療には、「安静療法」が第1ということを肝に銘じておきましょう。特に「うっ血性心不全」による呼吸困難が見られる場合は、絶対安静が必要です。

犬が心臓病と診断されたのに、運動させている飼い主が少なくありません。健康なときには運動は必要なものですし、多くの犬は運動が好きですから、「運動=良いもの」という公式がなかなか頭から離れないのかもしれませんね。しかし、心臓病にかかったら、その程度に応じて「安静が第1」というふうに考えを切り換えてください。どの程度「安静」にするかについては、獣医師に相談してください。
心臓病の食事療法はちょっとした工夫が大切
心臓病には「食事療法」も非常に大切です。ポイントは、塩気のある食事を与えないこと(「ナトリウム」の摂取量を減らすこと)です。心臓病の動物のための特別食は、動物病院で販売されていますから、それらを利用することをお勧めします。

いつもおいしい食事、すなわち好きな食事のみを食べていると、このようなときに心臓病の特別食を食べようとしない犬も少なくないようです。特に、仔犬にその傾向が強いと思われます。そのような場合は、塩分以外の調味料で味付けして与える方法もあります。それらの調味料としては、蜂蜜・ジャム・ゴマ・サラダ油などが利用されます。
愛犬を特別食に慣れされる方法
犬が特別食をまったく食べない場合、次の方法で食事を与えてください。まず1日間絶食させ、翌日からそれまで犬が食べていた食事を3分の2、特別食を3分の1の割合で混ぜ、それを3日間与えます。次の3日間は、普通食と特別食の割合を半分ずつにして与え、さらに次の3日間は普通食3分の1、特別食3分の2の割合で与えてください。この期間の後、特別食に塩分以外の調味料を加えて与えます。

このように徐々に特別食に慣らしていく方法をとると、70-80%の犬は特別食を食べるようになります。しかし、この方法でもまだ特別食を食べない犬もいます。その場合は、市販の高齢犬用の食事を与えてみてください。高齢食は特別食より効果は劣りますが、普通食よりはすぐれています。また、市販のフードの場合、缶詰よりもドライフードが心臓には良いことも知っておいてください。

安静療法と食事療法を組み合わせることによって、多くの場合、すばらしい効果が現れます。犬が特別食を食べようとしなくても、食事療法の重要さを理解し、すぐにあきらめないで、いろいろ工夫してみてください。
薬物療法は日々進歩している
薬物療法も、一般に心臓病の治療には欠かせません。最近は、非常にすぐれた薬が開発され、薬物療法も大きく進歩してきました。しかし、「薬を飲ませればそれでいい」という考え方は慎むべきです。あくまでも、「安静療法」と「食事療法」を実行することが優先されなければなりません。それら2つの療法を行うことによって、薬物療法の高い効果が期待できることを忘れてはなりません。

心臓病の薬としては、水分や塩分を対外に出す効果のあるものが利用されますが、中でも「ジキタリス」がよく知られています。この薬には、心臓の拍動をゆっくりさせ、収縮率を強めることによって、障害のある心臓の働きを助ける作用があります。ほかにも「ACE阻害剤」などのすぐれた薬があり、一般に獣医師は個々の犬の状態に従って、いろいろな薬を組み合わせて処方します。特に「うっ血性心不全」の場合、生涯にわたって薬品を与えつづける必要があります。途中で薬をやめると、それまでの治療が無駄になるだけではなく、命に関わることもあります。飼い主は薬物療法の重要性をよく理解してください。
薬の副作用を知っておこう
薬物療法を行うと、薬の副作用が現れることがあります。どのような副作用の症状があるかを知っておくと良いでしょう。

心臓病の薬には水分を体外に出す効果のあるものがありますが、つまり尿をたくさん出すということになります。尿をたくさん出す効果のある薬は「利尿剤」と呼ばれます。この利尿剤を飲むと、犬は当然尿をたくさんし、多くの場合、喉の渇きを覚え、たくさん水を飲みます。この状態の度が過ぎると、脱水状態を起こすことがあります。このような場合は、利尿剤の量を減らす必要があります。また、ジキタリスを飲むと、「食欲不振」「嘔吐」「下痢」などの症状が現れることもあります。このような症状が現れたら、獣医師に報告してください。

心臓病の治療薬による副作用は、一般に飲み始めてから1-2週間以内に現れます。獣医師からあらかじめどういう副作用が出る可能性があるかを聞いておき、最初の1-2週間は特に犬の状態に気をつけることが大切です。