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Dr. 小宮山の健康相談室

皮膚病について考えよう
(01年8月「皮膚病について考えよう」Vol.105掲載 2001/11/27 第1回改訂)

皮膚病の種類について考えよう
皮膚病の原因はいろいろある
若い犬に多いニキビダニの寄生
慢性化しやすいアトピー性皮膚炎
新しく開発された食事アレルギーの治療薬
ホルモン異常による特徴的な脱毛
お腹が張って毛が薄くなることも
メス犬特有の脱毛症もある
ダックスフンドに多い遺伝性の脱毛症

早期発見と予防が大切
皮膚は健康のバロメーターにもなる
かゆみの症状に早く気づくこと
「乾燥」がかゆみを悪化させることになる
夏は生活環境を涼しくしてあげる
皮膚病予防の第1歩は「清潔さ」
皮膚病の原因はいろいろある
犬の皮膚病で困っている飼い主の方は、決して少なくないでしょう。皮膚病はいろいろな意味で厄介な病気です。

まず、原因がたくさんあります。ノミやダニをはじめとする寄生虫・細菌・カビなどを原因とする皮膚病は従来、広く見られました。しかし、ノミに関しては最近すばらしい予防薬が開発され、高い効果をあげています。ホルモン異常やアレルギー(アトピー・食物アレルギー)による皮膚病も一般に多く見られます。

恐い病気では皮膚腫瘍があり、犬は人間に比べ、皮膚腫瘍の発生率が高い動物です。また、皮膚病は慢性化しやすく、なかなか治りにくいのが特徴であり、この点でも厄介な病気です。
若い犬に多いニキビダニの寄生
従来、寄生虫によるアレルギー性の皮膚病では、ノミアレルギーが最も多く見られました。しかし、前述したように、すぐれた予防薬が現れたため、それらを利用すれば、現在ではノミアレルギーはほぼ解決されたと言えるでしょう。予防薬はいろいろのタイプのものがありますので、動物病院で診察してから処方してもらうと良いでしょう。

ダニによるしつこい皮膚病もいろいろあります。「疥癬」という皮膚病を聞いたことがあると思います。これは「ヒゼンダニ」と呼ばれるダニが、皮膚にもぐり込んで寄生するために起こります。このダニが寄生すると犬は異常にかゆがります(特に暖かい季節)。しかし、これも最近になっていろいろ良い治療薬が開発されたため、かなり早く治療できるようになりました。また、ニキビダニ(毛包虫とも言われます)は、犬の毛の根っこが入っている部分(毛包)に寄生します。このダニは一般に1歳以下の若い犬に寄生しますが、なかなか治らないようです。中年以降にこのダニによる皮膚病にかかった場合は、いっそう治すことがむずかしくなります。
慢性化しやすいアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎はアレルギーの1種で、だいたい1-3歳くらいから現れ、慢性化することが多く、なかなか治りません。最初は夏にかゆがることが多いのですが、年齢が高くなるに従って、季節に関係なくかゆがるようになります。時間帯では夜にかゆがることが多いので、飼い主が気づかないこともあります。また、アトピーにかかった犬の多くは外耳炎を起こすことが特徴です。

アトピーの治療には、人間と同じように、「ステロイド剤」がよく使われます。ほかにもいろいろな薬を組み合わせ、それぞれの犬の症状を見ながらコントロールします。また、アトピーを引き起こす原因物質(アレルゲン)を取り除くことが大切です。ハウスダスト(家の中のちりやほこり)・カビ・ダニの死骸や糞がアレルゲンになりやすいので、犬の生活環境を清潔に保ちましょう。
新しく開発された食事アレルギーの治療薬
食事が原因で起こるアレルギー、すなわち食事アレルギーのために犬がかゆがることもあります。このアレルギーは食べ物に含まれるタンパク質が原因とされ、犬種・年齢・性別に関係なく起こります。また、特に暑い時期に多いアトピーと違い、食事アレルギーはどんな季節でも起こります。アレルギーの原因となりやすい食べ物としては、牛肉・牛乳・大豆・小麦・卵・鶏肉・馬肉・豚肉・トウモロコシなどが知られています。

従来、食事アレルギーに関しては、犬がこれまで食べたことのない食事(アレルギーの原因とならない食事)を与えることによる治療が一般的でしたが、ごく最近になってこの分野の治療も大きく進歩しました。前述のようにアレルギーを引き起こすのは食品中のタンパク質ですが、主な原因となるタンパク質を「加水分解」してつくった食事が開発されたのです。人間の赤ちゃんがアレルギーを持っている場合には、普通のミルクではなく、加水分解されたミルク(非アレルギー性のミルク)を与えますが、犬の治療食もそれと同じ原理でつくられたものです。

この方法は従来の方法よりすぐれています。なぜなら、これまで食べたことのない食品と言っても、似通った食品であれば、アレルギーの原因になるかもしれないからです。たとえば、鶏肉と七面鳥の肉は違う鳥の肉ですが、鳥の肉であることでは共通点があるのです。治療食については獣医師の指示に従い、根気よく治療することが大切です。
ホルモン異常による特徴的な脱毛
皮膚病の2大症状は「かゆみ」と「脱毛」ですが、ホルモン異常が原因で脱毛が起こることがあります。この場合、体の左右対称の場所に脱毛が起こるのが普通です(「両側性の脱毛」と言います)。

ホルモンをつくる器官は「内分泌腺」と呼ばれ、「甲状腺」もその1つです。「甲状腺機能低下症」とは、甲状腺の働きが衰えてホルモンの異常が起こる病気です。これは高齢犬によく見られる病気で、背中に左右対象の脱毛が起こるのが特徴です。また、この病気にかかると、毛の光沢がなくなり、何だかみすぼらしくなります。ときどき、尻尾の毛がすべて抜けた犬を見かけることがありませんか。その状態もこの病気の特徴で、ネズミの尻尾みたいに見えることから「ラットテール」と呼ばれています。

犬種ではドーベルマンに多く見られ、4歳以上のドーベルマンの約50%はこの病気にかかっているとされます。
お腹が張って毛が薄くなることも
「副腎」も内分泌腺のひとつですが、「副腎皮質機能亢進症」という病気になると、頭と四肢の毛を残し、お腹が出っ張ってきて、毛が薄くなり、ひどくなると左右対称に脱毛します。しかし、これらの症状は高齢犬にもある程度見られますので、特に犬が高齢の場合、原因を間違うこともあるようです。

また、皮膚自体が薄くなり、弾力も失われ、最終的には皮膚が黒ずんできます。この病気になった犬には、「多食」(異常に食べたがったり、たくさん食べる)や「多飲多尿」(たくさん水を飲み、たくさん尿をする)の症状もよく見られます。(「多飲多尿」の症状自体は、ほかにもいろいろな病気で見られます)。

この病気にかかりやすい犬種としては、プードル・ブルドック・ポメラニアンなどが挙げられます。
メス犬特有の脱毛症もある
特に女性は「エストロゲン」という名前のホルモンを知っている人も多いでしょう。中年女性の「更年期障害」のひとつの原因は、その「エストロゲン」の分泌が少なくなり、ホルモンバランスが崩れるためとされています。メス犬もエストロゲンが分泌されますが、その量が多すぎると、左右対称の脱毛が起こることがあります。ホルモンにしろ何にしろ、多くても少なくても良くないのですね。

この場合、脱毛のほかに、「皮膚が黒ずんでくる」「乳房が大きくなる」「外陰部が肥大する」などの症状も見られます。これらの症状はホルモン・バランスの異常によって引き起こされるのですから、避妊手術によって治すことができます。
ダックスフンドに多い遺伝性の脱毛症
遺伝的素因のために、脱毛することもあります。

たとえば、ダックスフンドのオスに特に起こりやすい耳の脱毛症は遺伝性の病気です。通常、1歳になる前から脱毛が始まり、徐々に進行して、8-9歳頃にはすっかり抜けてしまいます。この脱毛症は遺伝性ですから、治すことはできません。ミニチュアプードルの耳の毛が、束になって抜けることがあります。しかし、この場合は一時的なもので、3-4カ月たてば通常は再び生えてきますから、あまり心配する必要はありません。

耳の脱毛は、虫やヒゼンダニが原因で起こることもあります。この場合は遺伝とは関係ありませんから、原因を取り除けば治すことができます。

皮膚は健康のバロメーターにもなる
皮膚病は慢性化すると、治療がむずかしくなります。しかし、原因がいろいろありますから、皮膚病にかかる犬はたくさんいます。「皮膚は最大の臓器」と言われるように、皮膚は体の表面積の全体です。しかも、外部と直接に接していますから、寄生虫の攻撃を受けたり、暑さ寒さなど環境の変化にさらされています。つまり、皮膚は体の中の臓器や組織を守る役割も果たしているわけですから、この点からも皮膚の健康を保つことは非常に重要だと言えます。
かゆみの症状に早く気づくこと
皮膚病にかかってしまったら、原因を突き止めて、できるだけ早く治療に取りかかり、慢性化を防ぐことが大切ですね。まず、飼い主が早く症状に気づくことが必要です。

皮膚病の2大症状のひとつが「かゆみ」で、皮膚病の犬の約50%はかゆみを伴うと言われています。犬はかゆいとき、一般に「なめる」「咬む」「吸う」「引っかく」という4つの動作をします。動物病院で診断を受けるとき、飼い主はたとえば「脚をなめていた」や「耳を引っかいていた」など、「体のどこをどうしていた」(「なめていた」「咬んでいた」「吸っていた」「引っかいていた」)という説明の仕方をしましょう。これだけでも、獣医師にとってはかなり診断の助けになります。
「乾燥」がかゆみを悪化させることになる
慢性化や悪化を防ぐには、犬がかゆがっているとき、かゆみを軽くしてあげることも重要です。犬はかゆいとき、前述のように咬んだり引っかいたりします。すると、皮膚に傷ができ、そこから細菌が侵入すると、いわゆる二次感染が起こり、皮膚病が悪化する恐れがあります。

かゆみを軽くするために、飼い主の方にできる方法がいくつかあります。まず、かゆみを悪化させる主要な原因を知っておきましょう。ひとつは、犬の体が乾燥していることです。もうひとつは、犬の生活環境が高温で乾燥していることです。したがって、犬の体の乾燥を防ぐことと、環境の温度と湿度の管理が、かゆみを軽くするためのポイントとなります。
夏は生活環境を涼しくしてあげる
犬の体の乾燥を防ぐには、ベビーオイルを塗る方法があります。量が多いとベトベトしますので、少量にしましょう。週に2-3回、軽く塗るか、または1日に1度、水で溶かして霧吹きで軽く吹きかけます。

生活環境の温度管理については、室内飼いの場合、暑い時期にはクーラーをかける必要があるでしょう。外で飼っている場合は、涼しい日陰の風通しの良い場所に置きましょう。湿度管理については、室内が乾燥している場合は、加湿器を利用する方法もあります。犬が外にいる場合は、周辺に水をまき、乾燥を防ぎます。
皮膚病予防の第1歩は「清潔さ」
皮膚病の原因はさまざまですが、寄生虫やハウスダスト(アトピーの主要な原因とされる)などを原因とする皮膚病は、飼い主のケアによってかなり予防することができます。

まず、ノミの活躍する季節には、すぐれた予防薬があるのですから、それを利用してノミの害を防ぎましょう。とにかく、犬の体と生活環境を清潔に保つことが予防の第1歩と心得ましょう。毎日のブラッシングを習慣にすることが大切です。それにより、犬の体を清潔にできます。さらに、被毛の手入れをすることにより、皮膚の出来物など、異常を早く発見できます。犬は皮膚腫瘍の多い動物ですから、このことは特に重要です。

多くの皮膚病は自然に治ることはなく、放置しておけば悪化する一方で、ついには慢性化します。かゆいことは苦痛であり、体をかいてばかりいると、精神的にも不安定になります。日頃のケアを怠らず、不快な皮膚病から犬を守ってあげましょう。