■肥満犬の数はかなり多い |
散歩している犬を見ると、お腹の部分がせり出していたり、垂れ下がって地面にふれそうになっている犬がときどきいます。また、あまりにもでっぷり肥っているので、よく見ないと犬種がわからない犬もたまに見かけます。そこまで極端でなくても、少しコロコロしすぎではないかなと思われる犬はかなり多いようですね。実際に、日本では全体の30-40%の犬が肥満していると言えます。
人間の世界では、特に若い女性たちに「痩身願望」が多く見られ、実際には医学的に見ればまったく肥満していないのに、ひたすら外見的に美しく見せたいという理由から、無理なダイエットに走る傾向もあるようです。この場合は、不必要なまでにやせようとすることが、健康を害することにつながります。
一方で、中年にさしかかる頃から、いわゆる「中年太り」をする人が増えてきます。代謝能力が低下したり、ホルモンのバランスが変化することと関係がある現象で、ある程度の許容範囲はあるでしょうが、度を越えた肥満は健康に有害です。ですから、健康を保つためには、ダイエットを含めた肥満防止に努めることが大切になります。 |
■日頃から注意して肥満に気づこう |
犬が外見を気にして、自分からダイエットをすることはありません。もし食欲がなくなったり、目立ってやせてくるようなら、どこかに病気がある証拠と考えられますから、動物病院で診察してもらう必要があります。
健康で食欲が旺盛であれば、通常、犬は食欲に任せて与えられるものを食べます。「これ以上食べると、太りすぎて体に悪いから、このくらいでやめよう」と思うことはありません。「食欲があるかないか」「やせてこなかったか」「肥り過ぎではないか」などについては、普段から飼い主がしっかり観察し、コントロールしなければならないのです。
前述のように、30-40%の犬は肥満しているのですが、だいたい3分の1の飼い主が愛犬の肥満に気づいていないのが実状です。おそらく「やせてきた」ことにはかなり敏感に気がづいても、肥満は比較的徐々に進むということもあり、気づきにくいのかもしれませんね。しかし、人間と同じように肥満は「健康の敵」であることは、もはや常識です。毎日の生活の仕方によってコントロールできることですから、飼い主の責任として愛犬を肥満から守りましょう。 |
■肥満は心臓・骨・関節に負担 |
肥満はいろいろな病気の引き金になります。特に犬の場合は、心臓・呼吸器系・骨や関節の病気にかかりやすくなるのが特徴です。
心臓は全身に血液を送り、酸素や栄養素を組織に運んでいます。もし、体が肥満していれば、それだけ余分に働かなければなりませんから、疲れやすくなります。また、酸素の必要量も多くなり、呼吸の回数が増えるため、呼吸器系の病気にもかかりやすくなります。肥満していて体が重ければ、当然、骨や関節に負担がかかります。動作も鈍くなるため、いろいろな事故に遭うリスクも高くなります。
その他、犬の成人病、すなわち成犬病の1つである糖尿病にもかかりやすくなります。ほかに、皮膚病、感染症、便秘、消化器系の病気も起こりやすくなります。また、肥満していると、何事においても耐久力が低下し、特に暑い時期には抵抗力も弱くなります。さらに、麻酔をかけるときの危険度が増し、手術もやりにくくなります。 |
■食べ過ぎが肥満の最大の原因 |
肥満の原因としては、食べ過ぎ・運動不足・甲状腺異常などの病気が考えられます。しかし、肥満の95%以上は、必要量を超えたエネルギーを摂取していること、すなわち食べ過ぎです。肥満の最大の原因、食べ過ぎがなぜ起こるのかを考えてみましょう。
犬には3つの欲望があります。食欲・ホルモンに関係する欲望(性欲)・行動欲(運動欲)です。このうち性欲については、子供をつくらない場合、メスは避妊手術を、オスは去勢手術をすることによって解決されます。また、行動欲については、きちんと散歩に連れていくなど、規則的に運動させていればかなり満たされるでしょう。しかし、最後に残った食欲については、犬が生きている限りなくなることはありません。もし食欲が衰えれば、どこかに病気があるのです。
ですから、飼い主は犬が旺盛な食欲を示していれば安心し、「食欲があること」イコール「よいこと」という考えから、犬がほしがればいくらでも食事を与えてしまう傾向があります。こうして犬は食べ過ぎてしまうのです。 |
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■肥満予防は幼犬のときから |
犬を肥満にさせないためには、幼犬のときから管理することが重要です。すなわち、幼犬のときから余分な食事を与えず、太らせないことです。
人間と同じように、小さいときに食べ過ぎる、すなわちカロリーを大量に摂取すると、脂肪細胞が大きくなります。この細胞は一定以上大きくなると、なかなか元に戻すことができません。成犬になってから特別に食べ過ぎをしなくても、1度大きくなった脂肪細胞は小さくならないのです。ですから、幼犬のときに脂肪細胞を大きくしないことが大切なのです。
成長期を過ぎた犬が食べ過ぎのために一時的に太っても、きちんと食事制限をすれば、比較的簡単に体重を元に戻すことはできます。しかし、成長期の犬が食べ過ぎて肥満になると、成犬になってから減量させるのは非常にむずかしくなるのです。 |
■食べ過ぎをさせないしつけが重要 |
犬に食べ過ぎをさせないためには、しつけが大切です。
「アルファシンドローム」(「アルファ」は群れのボスの意味)という言葉の意味はずいぶん知られるようになりました。これは犬が飼い主の命令に従おうとせず、自分をリーダーと思い込み、リーダーとして振る舞ってしまうことを言います。犬はもともと群れをつくり、群れのリーダーに従って行動する動物です。逆に言えば、犬はリーダーを必要としているのです。野生の時代には群れのなかの1頭がリーダーになりましたが、家庭犬にとっては家族が群れであり、野生時代と同じようにやはりリーダーを必要とします。大切なのは、家族という群れのリーダーになるのは飼い主でなければならないということです。
もし飼い主がリーダーにならない場合は、犬がリーダーになってしまいます。家族の中で犬がリーダーになると、いろいろな問題が起こり、これを「アルファシンドローム」と言うのですが、犬にとっては迷惑な話です。なぜなら、繰り返しますが、犬にはリーダーが必要なのであり、群れ(家族)にリーダーがいなければ、犬は自分がリーダーになるよりないからです。 |
■飼い主であるあなたがリーダーに |
犬をリーダーにしないためには、たとえば、散歩から帰ってきたときでも、犬を先に家のなかに入れるのではなく、最初に飼い主が入り、犬は1番最後に入れるようにします。そのようにして、リーダーが誰であるかを教えるのです。
食事についても、飼い主が主導権を握るべきです。ところが、犬が飼い主の食べているものをほしがったり、決まった時間以外に食べ物をほしがると、つい与えてしまう飼い主が少なくありません。そのように犬がほしがる食べ物を何でも与えれば、犬は肥満しますし、飼い主をリーダーとは認めなくなります。そういうことにならないためには、飼い主がリーダーの役目をしっかり果たさなければなりません。飼い主がリーダーとして、食事や散歩などのときにしつけをきちんとすることが大切なのです。 |
■定期的に体重測定をしよう |
肥満を防ぐには体重管理、すなわち定期的な体重測定が大事です。少なくとも1カ月に1度は、愛犬の体重を測定しましょう。
肉眼で見ているだけでは、太ったことに気づかないことがあります。小型犬では0.5キログラム、大型犬では1キログラムくらい太っても、全然気づかないことが多いでしょう。飼い主が気づかないうちに、愛犬を肥満犬にしないようにしましょう。
肥満の程度が少ないほど、減量は容易なのですから、早めに気づくことが大切です。したがって定期的に体重測定をし、標準体重よりオーバーしていれば、食事の量を調節して、体重を元に戻すようにする必要があります。 |
■肥満治療は食事の量を決めて |
動物病院で肥満を治療する場合は、まず飼い主からいろいろな話しを聞いたり、身体検査をして、肥満の原因を探り出します。
もし原因が食べ過ぎであることがわかったら、理想体重を設定します。雑種以外では、それぞれの犬種のオスとメスの理想体重が決まっています。理想体重が設定されていない場合は、その犬の1歳のときの正常な体重を理想体重とするのが一般的です。そして、その理想体重をだいたい15-20%超えた場合が肥満症と呼ばれます。
理想体重を設定したら、体重1キロ当たりの必要カロリー量を決めます。動物病院には肥満動物用の特別なダイエット食があり、与える量や回数には細かいルールがあります。そのルールはドクターが指示しますから、それを守ればよいわけです。 |
■満腹感を与えるには工夫が必要 |
肥満の治療には、なかなか難しい問題もあります。動物は胃が一杯になってはじめて満腹を感じます。ですから、体重1キロあたりの必要カロリー量を決めても、量が少なくて満腹を感じなければ、動物はもっと食事を欲しがります。このようなとき、愛犬に満腹するまで食べさせてあげたいという気持ちから、飼い主がつい食事を与えてしまうことがあります。しかし、それでは減量させることはできません。
この場合、動物をある程度満足させ、しかもカロリーオーバーにならない方法を考える必要があります。それには、量が多くてカロリーの少ない食べ物を与えると良いでしょう。この条件に当てはまる食べ物は野菜です。野菜をたくさん入れた食事を与えれば、犬は胃が一杯になりますから満足し、しかもカロリーは増えません。
犬はビタミンCを体内でつくることができるので、本来野菜を与える必要はありませんが、この場合は食事の量を増加させる目的で与えます。ただし、ネギ・タマネギ類は与えないでください。野菜などを入れた食事を作る暇のない人は、動物病院で処方する「肥満用の特別療法食」を利用するとよいでしょう。 |
■肥満治療のプログラムをつくる |
犬の減量を成功させるために重要なのは、家族全員が減量の意味を理解して、協力することです。1人でも協力しない人がいると、減量のプログラムは成功しません。愛犬が肥満してしまったとき、まず家族全員で会議を開き、肥満を解消するための減量プログラムについて話し合いましょう。このプログラムでは、まず理想体重を設定します。
もし愛犬の理想体重が15キロで、実際の体重が20キロだったとします。この場合、与える食事の量を次のように計算します。理想体重15キロの約50-60%の体重、すなわち7-8キロの体重に相当するカロリーの食事を与えるのです。市販のフードには、体重当たりの食事量が目安として示されていますので、それを基準に計算します。この場合も、犬が量的に満足しないようなら、野菜を加えてください。そして、毎日あるいは2-3日おきに体重を測定し、グラフに記録します。通常は、理想体重の約半分のカロリーを与えた場合、8-10週間で理想体重になるはずです。
人間の減量プログラムも、多くは食事と運動を組み合わせています。実際には、減量を目的とした運動は、目に見えた効果がなかなか上がらず、むずかしいものです。しかし、運動をすればカロリーが消費されるのは事実ですから、運動の機会を増やすように心がけることは大事です。 |
■減量作戦には家族全員が協力しよう |
犬の減量を成功させるために、家族が協力することはいろいろあります。
まず、家族の食事をつくるときや、食事をしているとき、犬を部屋の外に出すことです。食べ物を見れば犬は欲しがり、犬におねだりされると家族もつい与えてしまいます。けれども、家族全員で決めた食事以外は、絶対に与えないことが大切です。肥満で苦しめるよりも、食事を我慢させるほうが結局は犬のためなのです。複数の犬を飼っている場合は、肥満している犬はほかの犬と離して食事を与えるとよいでしょう。
どうしても家庭で減量できない場合は、動物病院への入院をお勧めします。動物病院では、獣医師が綿密な計画を立て、動物の減量に取り組みます。しかし、長期の入院が必要となるでしょう。また、動物病院での減量に成功しても、家に帰ってから再び太ることがあります。やはり、愛犬を減量させるには、最終的に家族の協力が不可欠であることを忘れないでください。
特に肥満しやすい犬種がいます。ダックスフンド・コッカースパニエル・バセットハウンド・チワワ・ポメラニアン・イングリッシュブルドッグなどは、遺伝的に肥満しやすい素因を持っています。これらの犬種の飼い主は特に愛犬の食べ過ぎに注意し、健康管理を怠らないようにしましょう。 |
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