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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

  やせてきたのが心配  dog2ani.gif 31x25 1.63KB

やせ方いろいろ
原因
必要な検査
家庭での処置
病院での治療
日常生活での注意点

■やせ方いろいろ
 犬がやせてきたら、通常は何かの病気が疑われます。ほかの症状についても同様ですが、動物がやせるという症状も、早く対処しないと生命に危険が及ぶケースから、原因が比較的容易に分かり、早めに改善できるケースまでいろいろあります。

 愛犬が「やせたみたい」と気づいたら、注意して観察すべき点がいくつかあります。
あなたの犬は急にやせてきたのか、あるいは徐々にやせてきたのか、どちらでしょうか。急にやせてきた場合は、緊急に処置の必要な病気にかかっていることが考えられます。徐々にやせてきた場合も、慢性の病気が進行している可能性があります。

 また、体全体がやせる場合と、体の一部がやせる場合があります。たとえば、脚だけがやせてくることがありますが、この場合は、脚の機能が衰えてあまり歩けないようになり、筋肉が落ちたせいでしょう。この状態を放置しておくと、機能の衰えが進行し、本当に歩けなくなります。動物病院で診察してもらい、機能を回復する処置をする必要があります。
体全体がやせる場合は、後述するようないろいろな原因が考えられます。

 高齢犬がやせてきた場合、高齢になるとかかりやすくなるいくつかの病気が疑われます。「年をとって食欲も衰えてきたのだから、やせるのは当然」と、軽く考えないで、病院へ連れて行きましょう。 やせてきたことのほかに、何か症状がありますか。たとえば、下痢をしている犬がやせてきたときは、下痢が原因と考えられますから、多くは下痢の治療をすれば元に戻るでしょう。

 やせてきたことと食欲の関係も大切です。食事をあまり食べなければ、通常はやせてきますが、この場合、食欲がない原因を見つけることが必要です。食欲があり、いくら食べてもやせてくる病気もありますので、「食欲があるから大丈夫」と安心せず、診察してもらいましょう。

やせてきたときには、次の点をチェックしよう!
□急にやせたのか、徐々にやせたのか?
□体全体がやせてきたのか、体の一部がやせてきたのか?

□元気はあるか?
□食欲はあるか?
□やせたことのほかに、何らかの症状が見られるか?


■原因
 犬がやせてきたとき、最初に疑われる病気は心臓病です。 先天的な心臓病を含め、心臓病の犬は通常やせてきます。特に、高齢になると多くの犬が心臓病にかかります。獣医師は10歳以上の犬がやせてきた場合、まず心臓病を考えます。
心臓病になるとやせる理由については、心臓の機能が衰えて、末梢まで血液が行き渡らず、栄養が不足するためと言われます。 犬がやせてきて、なおかつ特に夜中や明け方に咳をしたり、散歩など運動を嫌がる(運動不耐性)場合は、心臓病が強く疑われます。

 二番目に考えられるのはガンです。ガン細胞が栄養を奪って増殖するので、やせてくるのです。 体の表面のガンは比較的見つけやすいですが、体の中のガンはなかなか発見できないケースが少なくありません。特に、すい臓のガンなどは非常に診断の難しい病気です。 やせてくることは、ガンの大きな特徴ですので、見逃さないようにしましょう。
獣医師仲間では「不明な病気があれば、ガンを疑え」と言われるくらいで、動物がやせてきて心臓病の疑いがない場合、次に疑うのはガンです。

 三番目に多い原因は寄生虫でしょう。最近は獣医学の進歩と環境整備により、寄生虫は減ってきましたが、まだ存在します。 たとえば、回虫はよく知られた寄生虫ですが、回虫のいない犬を作り出すことはできないと言われます。子犬は生まれるとき、すでに母親から感染するからです。 理論的には、犬を無菌状態で三代にわたって飼育すれば、寄生虫のいない犬を作れると言われますが、現実にはそのようなことはできません。 
 通常、検便をして寄生虫が見つかれば、駆虫薬で駆除できますから、定期的な検便が大切です。

 その他、すい臓や肝臓の病気のためにやせることもあります。これらの病気は、かなり専門的な病院でないと診断できないかもしれません。 犬がやせてきたけれども、心臓病もガンも寄生虫も疑えない場合、すい臓や肝臓の病気の可能性を考え、専門的な病院で診てもらうと良いでしょう。

 病気ではありませんが、飢餓状態に置かれれば、当然やせます。 たとえば、逃亡し、満足に食事ができない状態で何カ月も過ごした場合、発見されたときはやせているのが普通です。このような場合、食事をきちんととれば、元に戻ります。

 とにかく、やせてきたら、どこかに異常があるサインだと考えてください。
 そして、まず飼い主さん自身が原因を考えてみましょう。何かいつもと違う点に気づいたら、それもやせてきたことと関係しているかもしれません。また、ほかに症状がないかどうかを観察してください。動物病院で「犬がやせてきましたが、元気がなく散歩もしたがりません」というような報告ができれば、獣医師の診断に役立ちます。

−−−− やせてきた原因を食事からチェック −−−−
急にやせてきて動物病院へ連れて行くときには、
下記のことをチェックしておくとよいでしょう!

右の項目のどれかが該当すれば、
食欲不振でやせてきたと考えられる
食欲が旺盛なのに、
やせてきた








@食事の量をチェック
□いつもと同じ量を与えているのに食事を残す
□好きなものしか食べない

A食べ方をチェック
□食事を楽しみに待っているように見えない
□何となく食べている
□休み休み食べている
ほかに症状がないかどうかも確認しよう! 糖尿病が疑われる

■必要な検査
 心臓病は聴診器で心臓の鼓動を聞くこと(聴診)により、通常は判定できます。より詳しく病気の状態を調べるために、心エコー検査やカラードプラー検査(雑音がある場合)を行うこともあります。

 ガンは全体的な検査を行わないと、容易に見つからないこともあります。特に、すい臓や肝臓のガンは発見が難しく、さまざまな検査が必要となるでしょう。 ガンは生検、すなわち組織の一部を取り出して病理検査を行うことが、診断や治療方針の決定に非常に役立ちます。 また、CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)による検査が必要になることもあります。

 寄生虫が疑われるときは、検便を行い、寄生虫の有無を調べます。
 前述のように、すい臓や肝臓の病気は診断がなかなか難しいので、より専門的な病院を選ぶことが大切でしょう。
検査を受けるには、当然費用がかかります。あなたの愛犬の場合、どのような検査があるか、どの検査が必要か、それらの検査によって何が分かるか(検査の目的)などについて獣医師によく質問し、できるだけ愛犬のために良い検査方法を選ぶことをお勧めします。
■家庭での処置
 犬がやせてきたとき、まず食事との関係を考えてください。 いつもと同じ量を与えているのに、食事を残すことがあるなら、食欲が落ちているからでしょう。好きなものしか食べない場合も、食欲が減退していることが考えられます。

 食事の食べ方も観察します。食事を楽しみに待っていて、与えるとすぐに勢いよくきれいに食べるのなら、食欲は落ちていません。これに対して、食事を出されたから何となく食べていたり、休み休み食べているような場合、食欲が正常でないと考えられます。
ただし、食事をいくらでも食べ、一見食欲が旺盛であるように思われるのに、動物がやせてくることもあります。たとえば、糖尿病にかかると、そのような状態が見られます。食べているのにやせている場合、糖尿病を疑い、動物病院へ連れて行きましょう。

 また、先述のように、ほかの症状がないかどうか観察することが大切です。やせてきた動物が咳をしたり、運動をしたがらない場合、心臓病が疑われます。
 心臓病は治る病気ではありません。進行の速度を遅らせることが、治療の基本です。「安静療法」「食事療法」「薬物療法」が治療の3本柱です。重要度もこの順番で、安静療法と食事療法をきちんと守ってはじめて、薬物療法が効果を発揮します。心臓病の薬を飲ませながら、せっせと犬を散歩させている飼い主もまれに見られるようですが、心臓病の犬は運動を控えなければなりません。

 体重を元に戻すために食事から栄養をとる必要がある場合、犬が一回で適正量を食べられないときは、二回に分けて胃の負担を少なくしましょう。そうすることにより、栄養を吸収しやすくなります。
■病院での治療
 前述のように、心臓病は、「安静療法」「食事療法」「薬物療法」が治療の三本柱です。「安静療法」「食事療法」を行った上で、病状に合わせて薬を与えます。
 ガンは「外科療法」(手術)と「内科療法」(抗ガン剤等、薬による治療)が二大治療法です。 ガンは、たえず増殖を続けようとするガン細胞と闘わなければならない厳しい病気です。治療法は、特に注意深く選ばなければなりません。

 獣医師はその立場から治療方針について説明するでしょうが、それを聞いた上で、ほかにどのような治療方法があるか、それそれの治療法の長所と短所、それらの治療法を受けたときの予後などについて、納得できるまで質問しましょう。
 最終的に治療法を選択するのは、飼い主であるあなたです。愛犬のためにベストと思われる治療法を選ぶことが大切でしょう。

 寄生虫がいることが分かったら、駆虫薬を与えます。それらの薬によって駆虫できますが、生活環境が同じであれば、また感染するかもしれません。定期的に検便を行い、寄生虫が有無を調べることが大切です。

心臓病治療の三本柱
安静療法 無理に運動をさせない
食事療法 処方食など
薬物療法 病状に合わせた薬剤の投与

■日常生活での注意点
 心臓病、ガン、すい臓、肝臓の病気は高齢になると多く見られる病気です。
8歳以上になったら、定期的に健康診断を受けることが、それらの病気の予防や早期発見のために重要となります。 できれば年2回、少なくとも年1回の定期検診を受けることをお勧めします。

 犬がやせてきたことに、外見からはなかなか気づかない飼い主の方が多いようです。短毛種の場合は体型がわかりやすいので、比較的気づきやすいかもしれませんが、長毛種の場合、長い毛が体型を隠すので、容易に気づかないことも多いようです。

 やせてきたことを見逃さないために、定期的に体重測定を行いましょう。少なくとも月に1回、できれば週に1回、体重を測り、記録しておきます。そうすれば、肉眼では気づかなくても、体重が減ったことで、どこかに異常があるのではないかと推測できます。

 犬用の体重計がなければ、人間用の体重計を利用することができます。知っている人も多いと思いますが、抱くことのできる大きさの犬の場合、まず人が犬を抱いて体重計にのり、人+犬の体重を測ります。次に人だけが体重を測り、人+犬の体重から人の体重を引けば、その答えが犬の体重となります。

 抱くことのできない大型犬の場合、ちょっと工夫が必要です。現在よく使われている家庭用の体重計はかなりコンパクトに作られており、せいぜい40センチ四方程度しかありません。ここに4本脚の大型犬がのるのはまず難しいでしょう。そこで、前脚2本を体重計にのせます。一般に、この前半身の重さは体全体の重さの70%を占めます。計算すれば、おおよその全身の体重を出せます。