http://www.pet-hospital.org/
all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

心臓病の原因と早期発見法

                 ■高齢犬は心臓病にかかりやすい
                 ■仔犬の心臓病は先天性疾患が多い
                 ■咳は心臓病のサイン
                 ■運動を嫌がることも心臓病の危険信号
                 ■脳の酸素不足で失神が起こる
                 ■その他の心臓病の症状

                 ■心臓病には安静療法が一番大切
                 ■食事療法では味付けに工夫を
                 ■すぐれた薬物が開発されている
                 ■薬の副作用を知っておこう


■高齢犬は心臓病にかかりやすい
高齢になると、心臓病にかかる犬が増えます。また、心臓病には先天性患もあり、この場合は仔犬のときに多く発見されます。心臓病は発症したら治すことは難しく、通常は進行を遅らせる処置をとるしか方法がありません。

しかし、少しでも早く症状に気づき、適切な処置をとれば、それだけ健康な状態を保ち、長生きさせることができます。心臓の機能は全身に血液を循環させることです。血液には酸素と栄養素が含まれており、全身をめぐりながらそれらを組織に渡しています。

したがって、心臓に戻ってきたときの血液は、酸素をほとんど失っています。この血液は肺静脈系を通して肺に送られ、そこで酸素を供給されて心臓に戻され、再び全身に送られます犬の心臓は1日に約18万回鼓動し、約2リットルの血液を送り出します。また、血液が体を一循する時間は約8〜30秒と言われています。
■仔犬の心臓病は先天性疾患が多い
先天性心疾患は、500頭に1〜2頭くらいの割合で見られ、生後2〜3カ月頃に最初の予防接種を受けるとき、動物病院で発見されることがよくあります。聴診をすると、雑音が聞こえるからです。

成長盛りなのにほかの犬に比べて大きくならない、元気がないという場合、この先天性心疾患を含めた先天性の奇形が疑われます。また、非常にかわいい顔をしている仔犬も、この病気をもっている可能性があります。幼犬で心臓に雑音がある場合、先天性の心疾患の可能性が濃厚です。心臓の鼓動に異常があるかどうかは、ある程度慣れれば、外から心臓に触るだけで分かります。

心疾患は放置しておくと悪化して死亡することの多い病気です。異常に気づいたら速やかに動物病院に連れていきましょう。
■咳は心臓病のサイン
心臓の機能が低下してくると、いろいろな症状が現れ、それを放置しておくと心不全に移行してしまいます。心不全は心臓病の末期の症状で、どういう犬でも目に見えて症状が悪化してきます。この状態に到る前に、少しでも早く発見するには、心臓病の症状を見逃さないようにしなければなりません。

心臓病には特徴的な3大症状があります。咳が出る、運動をしたがらない、失神です。咳は心臓病の重要なサインで、特に中型犬以上の犬が咳をしている場合は、心臓病にかかっているケースが非常に多く見られます。小型犬の咳はどちらかと言えば、気管の障害が原因である場合が多いのですが、それでも高齢になれば、同時に心臓病を疑う必要があります。

心臓病の咳には特徴があります。喉に魚の骨でも刺さったように、喉の奥からその骨を吐き出すような咳をします(これを喉詰まりと間違える飼い主さんがよくいます)。咳が出る時間帯は夜間や明け方に多いのが特徴です。愛犬がこのような咳をしたら、心臓病が疑われますから、動物病院で診察してもらってください。
■運動を嫌がることも心臓病の危険信号
散歩や運動を嫌がったり、体を動かすとすぐに疲れるという状態も、心臓病のサインです。散歩の途中で座って休んでしまう場合、心臓病の疑いが濃厚です。ほんど動かなくなる場合はかなり末期の症状です。ただし、心臓病以外でも、動物が運動を嫌がることはあります。たとえば、呼吸器系の病気にかかっているときや、脚や関節が悪くなっているときにも、運動不耐性の症状が見られることがあります。

咳との関係でいえば、心臓病の場合、動くと咳が出て、休むと出なくなるのが特徴です。また、高齢になれば運動量が少なくなります。しかし、犬があまり運動をしたがらなくなると、高齢だから当然と思ってすませるのは危険です。心臓病をはじめ、重大な病気が隠されていることもありますから、十分に注意してください。
■脳の酸素不足で失神が起こる
失神も心臓病の重大なサインです。心臓から脳へ送り出される血液量が減少し、脳に供給される酸素が不足することが原因で失神します。失神を起こすと犬は突然倒れます。しかし、犬が倒れるのは失神を起こした場合だけではなく、テンカンの発作を起こした場合も倒れます。この両者を見分ける簡単な方法がありますので、覚えておくとよいでしょう。

心臓病による失神の場合、倒れた1〜2分後には元の状態に戻ります。倒れても、回復が非常に早いわけです。これに対して、テンカンの発作の場合は、発作が治まっても正常な状態に戻るにはかなりの時間がかかります(1〜2時間くらい)。また、発作の起こる前から、動物は空を見上げるなど不安そうな状態を示します。発作が起こることが犬自身に分かるようです。さらに、発作が止まったと思うと、また繰り返すこともあります。したがって、テンカンの発作は、普段から愛犬をよく観察してれば予測できます。

テンカン発作と心臓病を原因とする失神では、治療法がまったく違います。ですから、動物病院へ連れていく場合も、倒れる前と後の状態をよく観察しておき(発作中の状態はだいたい似ています)、獣医師に報告できるようにしておきましょう。
■その他の心臓病の症状
以上の3大特徴のほかにも、心臓病の特徴を示す症状があります。呼吸困難(苦しそうに呼吸する)、腹部膨大(お腹が脹れてくる)も心臓病の特徴的症状であり、3大特徴に加えて、5大特徴と呼ばれます。

また、やせてくる、チアノーゼ(酸素が不足し、口のなかの粘膜が紫色になる)の症状が加わると、7大特徴となります。特に、ドーベルマンを除いて、心不全状態の動物はほとんど例外なくやせてきます 。動物が極度にやせてきた場合、心不全、ガン、膵臓の機能不全、重症の寄生虫感染のいずれかがまず疑われます。
心臓病には安静療法が一番大切
心臓病の治療は病気の程度や種類によって違いますが、基本的には、安静療法、食事療法、薬物療法の3つの治療法を組み合わせて行います。心臓病の治療で最も大切なのは、安静を保つことです。特にうっ血性心不全による呼吸困難に陥ったときは、絶対安静が必要です。犬が心臓病にかかっているのに、運動させている飼い主が少なくありません。心臓病と診断されたら、飼い主は安静療法の重要さを理解し、必ず愛犬の安静を保つよう にしてください。また、環境の換気をよくし、気温の上昇を防ぐことが重要です。
食事療法では味付けに工夫を
安静療法の次に大切といわれているのが、食事療法です。心臓病の食事療法のポイントは、塩分(ナトリウム)の摂取量を減らすこと、つまり、塩気のある食事を与えないことです。動物病院で心臓病用の特別食を販売していますから、利用するとよいでしょう。

しかし、特別食は塩分が少ないので、かなりの犬が食べることを好まないようです。そのような場合は、調味料(蜂蜜、ジャム、ゴマ、サラダ油など)を加えて与える方法もあります。

特別食をまったく食べないときは、次のような方法で食事を与えてください。まず1日間絶食し、翌日からそれまで愛犬が食べていた食事を3分の2、特別食( 低ナトリウム食)を3分の1の割合で混ぜ、3日間与えます。次の3日間はその割合を2分の1ずつにし、その次の3日間は従来の食事を3分の1、特別食を3分の2にして与えます。そして、10日目から特別食に調味料を加えて調理したものを与えます。このようにすれば、だいたい70〜80%の犬は特別食を食べるようになります。

しかし、この方法でも、特別食を食べない犬に対しては、市販の高齢食(6歳以上)を試してみてください。高齢食は、心臓病特別食より効果は劣りますが、普通食よりはすぐれています。ホームメードの心臓病の食事の作り方も、イラストで紹介しますので、参考にしてください。心臓病の犬に、与えてよい食品と与えてはいけない食品があります。食事そのものが重要な治療法なのですから、注意して食品を選びましょう。

安静療法を守り、食事療法を行うと、多くの場合、すぐれた効果が現れます。愛犬が特別食を食べない場合、簡単に諦めてしまわず、いろいろ工夫をして、少しでも治療効果の上がる食事を与えるようにしてください。
■すぐれた薬物が開発されている
心臓病の治療法として、3番目にあげられるのが薬物療法です。最近では、以前に比べると非常にすぐれた薬が開発され、そのために薬物療法もず いぶん進歩してきました。しかし、心臓病にかかったら、薬を飲ませさえすればいいという考え方は、安易す ぎます。あくまでも、安静療法を守り、食事療法を実施して、その上で薬物療法があると考えてください。

心臓病の薬は、水分や塩分の排出を高める効果があります。この効果をもつ薬はいろいろありますが、古くから使用されているジキタリスは非常にすぐれています。ジキタリスには、心臓の拍動をゆっくりさせ、収縮率を強めることによって、障害のある心臓の働きを助ける作用があります。また、最近使われるようになったACE阻害薬も非常にすぐれた効果を発揮します。 ほかにも、さまざまな薬を組み合わせて、獣医師は処方します。

それぞれの薬の適正な処方量は犬によって個体差があります。また、常に同じ量を投与すればいいというものではありません。したがって、獣医師は、臨床症状を調べ、身体検査、心電図、レントゲン検査、また必要な場合は血圧測定、超音波検査などを行い、その結果に基づいて処方量を決定します。特に、うっ血性心不全の場合は、薬品の投与を生涯にわたって続ける必要があります。途中で投与をやめると、それまでの薬物療法ば無駄になるだけではなく、不幸な結果を招くこともありますので、注意しなければなりません。
■薬の副作用を知っておこう
薬物療法は、副作用を伴うこともありますので、どんな症状が出るかを知っておくとよいでしょう。たとえば、利尿剤を飲むと、ほとんどの犬は喉の渇きを覚え、大量に水を飲み、たくさんオシッコをします(多飲多尿)。もし、この症状が強く現れ、犬がたくさん水を飲んでは何回もトイレに行くような場合、脱水状態に陥ることもあります。このようなときは、利尿剤の投与量を少し減らす必要があります。

また、ジキタリスを服用すると、ときどき食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が現れことはまれにしかありません。愛犬が服用している薬にはどんな副作用があり、その症状はどのようなものか、どんな状態のとき薬の服用を中止するべきかなどについて、獣医師にあらかじめ聞いておきましょう。