■飼う前に決めておこう |
現在、仔犬を飼う目的は、家族の一員として一緒に暮らすためというケースがほとんどでしょう。飼う前に、家族のみなさんで話し合っておくべきことがいくつかあります。まず、飼う場所を決めておく必要があります。すなわち、家の中で飼うか、外で飼うかということです。最近は、小型犬か中・大型犬かにかかわらず、家の中で飼うケースが多くなっています。
家の中で飼うと、犬とのいろいろなコミュニケーションの機会が増えるし、何か異常なところがあれば、早く見つけられるなど、メリットがたくさんあります。
しかし、気をつけなければならないこともあります。たとえば、いつも人間の近くにいるので、ほしがるとつい人間の食べ物を与えてしまうこともあるでしょう。そういうことは、しつけの上からもよいことではありませんし、食べ過ぎて肥満すると健康にも害があります。
犬のためにならないことはしないように、家族のみなさんで話し合っておきましょう。また、犬の性格やかかりやすい病気は犬種によって特徴がありますので、あらかじめそれらの勉強をし、活発で、何にでも好奇心を示す仔犬を選ぶとよいでしょう。
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■仔犬には幼犬用の食事を与える |
仔犬を育てるときの最も重要なポイントは、食事です。1歳以下の仔犬には、幼犬用の食事を与えてください。
一般にフードは、幼犬用、成犬用、高齢犬用に分けられます。仔犬の時期にはタンパク質の必要量が高いので、タンパク質を多く含む幼犬用のフードを与えることが重要です。3カ月齢までの仔犬には、成犬の2倍のタンパク質が必要とされています。
超小型犬のチワワから超大型犬のセントバーナードまで、どんな大きさの仔犬でも、短期間で大きくなるので、多量のタンパク質が必要になるのです。 |
■食べ過ぎで太らせてはいけない |
タンパク質は多量に必要ですが、何でもたくさん食べさせればいいということではありません。そのようなことをすれば、カロリーを取りすぎて肥満してしまいます。
人間と同様、肥満はいろいろな病気の原因になります。特に、大型犬の股関節に異常が現れる「股関節形成不全」や、小型犬の膝が脱臼する「膝蓋骨脱臼」など、関節の病気にかかりやすい犬は肥満させると悪い影響があります。
タンパク質を豊富に含んだ幼犬用のフードを、必要量だけ与えてください。飲み物は、新鮮な水を与えてください。牛乳を水代わりに与えるのは、よくありません。ときどき、少量だけ与えるのはかまいませんが、下痢を起こしているときや、与えると下痢を起こしやすい犬には、与えないようにしましょう。
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■定期的に体重測定をしよう |
仔犬の体重は、生後10日で約2倍になります。1カ月で成犬の約十分の一、2カ月で約五分の一となります。目安よりも体重が多すぎる場合は、食べ過ぎが考えられますから、食事の量を調節しましょう。
もし、体重が増えない場合は、先天性の病気を含め、どこかに異常がある可能性がありますので、すぐに動物病院へ連れていって、相談してください。体重は健康のバロメーターです。特に仔犬の時期は、定期的に、できれば毎日、あるいは週に1回、最低でも月に1回は体重測定をして、記録しておくことが重要です。 |
■食事を与える環境も大切 |
食事は、同じ場所で、同じ時間帯に与えてください。回数も同じにし、危険のない落ち着いた場所で、食事をできるようにしましょう。食事を与える環境が変わると、仔犬はときどき食事をしなくなることがあります。
健康な仔犬は食欲が旺盛ですから、もし食事を食べなかったり、食べる量が少ないとき、あるいは食べても大きくならないとき(特に同胎犬と比べて)は、どこかに異常があることが考えられます。そのような場合は、動物病院で調べてもらいましょう 。
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■仔犬のときから全身にさわろう |
仔犬を育てるに当たって、非常に重要なことがあります。仔犬の全身に十分さわることです。これはスキンシップになりますから、愛情を込めてやさしくさわってあげましょう。
仔犬のときに十分にさわって育てるかどうかで、将来の性格に大きな違いが現れることが証明されています。体のどこにさわっても怒らない犬に育てることは、ほかの面でも重要です。動物病院で診察を受けるときも、どこにでもさわらせる犬であれば、大いに獣医さんの診断の助けになります。
逆に、さわろうとすると咬みつく犬は、診断を妨げることもあり、病気の発見が遅れる可能性があります。また、トリミング等が必要な場合も、同じことがいえます。
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■排便のしつけは焦らずに |
仔犬が来たら、すぐに排便のしつけを始めましょう。仔犬は食事の後すぐに便をすることが多いので、食事を終えたら、トイレの場所を教えてあげるとよいでしょう。
起きた後や遊んだ後も、トイレタイムです。最初のうちは、飼い主さんは排泄の時間帯に注意し、違う場所でしそうになったら、正しい場所へ連れていってください。
また、すぐにトイレを覚える犬と、なかなか覚えない犬がいます。しかし、あなたの愛犬がトイレをなかなか覚えなくても、神経質になったり、焦ったりしてはいけません。きちんと教えれば必ず覚えますから、長い目で見てあげましょう。
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■しつけをして飼い主がリーダーに |
トイレ以外にも、犬にはしつけが必要です。野生の犬は群れで生活しており、必ずリーダーがいました。犬にはリーダーが必要です。家庭で犬を飼う場合、飼い主であるあなたがリーダーにならなければなりません。そうでないと、犬がリーダーになってしまいます。人間の家庭で一緒に暮らすとき、犬をリーダーにしてはいけません。
犬は誰かに従うという習性をもっていますので、リーダーが正しいリーダーシップを発揮できないと、人間に従わない犬になってしまいます。そういう犬にしないために、してよいこととしてはいけないことをよく教えなければなりません。
自分でしつけができない場合は、犬の家庭教師、すなわち訓練士などの専門家に頼むこともできます。
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■安全のためにもしつけが必要 |
しつけで大切なことは、まず飼い主に注目させることです。飼い主が話しかけると、犬は飼い主のほうを見ます。こうして、飼い主と犬の目が合うことを「アイコンタクト」といいます。
飼い主に注目させることを教えれば、いろいろな指示を与える際に役に立ちます。言葉によって、犬の行動を制限できるようになるわけです。行動を制限することは、犬の安全のためにもたいへん重要です。
たとえば、犬が危険なものに向かっていこうとしたとき、「止まれ」や「やめ」の言葉に従うことができれば、危険を未然に防ぐことができます。また、家族の一員として、人間やほかの犬に迷惑をかけない犬に育てるためにも、しつけは不可欠です。 |
■伝染病から愛犬を守ろう |
健康の問題も、非常に重要です。まず、生後91日以上の犬には、狂犬病の予防注射を受けさせることが、飼い主に法的に義務づけられています。日本では、長く狂犬病が発生していませんが、人間をはじめとした哺乳動物全般に伝染する恐ろしい病気ですから、年に1回は必要です。
ほかにも、犬にはいろいろな伝染病がありますが、予防接種によって予防できるものとできないものがあります。予防接種で予防できるものについては、必ず予防接種を受けて、恐ろしい伝染病から、愛犬を守りましょう。
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■必ず予防接種を受けよう |
ジステンパー、パラインフルエンザ、アデノウイルス、犬伝染性肝炎、パルボウイルス感染症、レストスピラなどの伝染病は予防ワクチンがあり、混合ワクチンとして受けることができます。
いずれも死亡率の高い伝染病ですから、必ず予防してあげてください。仔犬が最初に予防接種を受ける時期は、だいたい生後2カ月くらいのときで、その1カ月後にもう1度受けます。
仔犬は生まれてすぐ、母犬のお乳を飲みます。これを初乳といいます。仔犬はこの初乳を飲むことによって、母親から免疫をもらい、いろいろな病気に対する抵抗力を付けます。
人間も他の動物も、病原菌や細菌のいっぱいいる環境の中で生活しています。それなのに、病気にならず、健康に生活していけるのは、体の中に免疫という防衛システムをもっているからです。
人間も犬も、最初は母親から免疫を譲り受けるのですが、その免疫の効果は生涯にわたって持続するわけではありません。ごく短期間で失われてしまうのです。
仔犬にとって一番危ないのは、母親から譲り受けた免疫の効果がなくなって、体が防衛手段を失ってしまうときです。通常、この時期は生後2カ月ですから、タイミングよく予防接種を受けることが大切です。
なお、人間の場合と違い、この予防接種はその後、毎年受ける必要があります。この年1回(仔犬のときは年に2回)の予防接種の際に、その他のいろいろな病気が発見されることもあり、早期発見できたおかげで命が助かった例も多くあります
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■寄生虫検査の重要性を知ろう |
予防接種に際して、接種前に糞便検査をしてもらうとよいでしょう。寄生虫の検査自体も大事ですが、もし寄生虫がいた場合、予防接種をしてもあまり効果が出ないことがあるからです。
特に散歩に出るようになると、寄生虫に感染することがあります。便の検査は、できれば年に4回行いましょう。外に出ない犬の場合も、年に2回は検便をしましょう。
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■フィラリア予防を怠ってはいけない |
予防ワクチンのない病気で、よく知られているのはフィラリア症です。これは心臓に糸状虫と呼ばれる虫が寄生する病気で、蚊によって媒介されます。
ワクチンはありませんが、予防薬はあります。現在では、月に1度飲むことによって予防できる薬が開発されています。蚊の発生する時期には、予防薬を飲ませて、愛犬をフィラリア症から守ってください。
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■どんな基準で動物病院を選んだらよいか |
仔犬を飼ったら、予防接種を受ける必要もありますし、定期的に健康診断を行うことも大切です。長く暮らしていく過程では、病気にもかかるでしょう。
そのため、主治医となる動物病院を選んでおくとよいでしょう。病院を選ぶポイントは、なかなか難しいものですが、以下にあげる三つの基準を参考にしてください。
まず一つめは、何といっても、獣医師の人格と態度が信頼できるかどうかです。医療が正しく行われているかどうかを判断するのは、一般的には難しいため、獣医師の人物を見て判定しようとする考え方です。あなたのこれまでの人生経験をフルに生かして、判断してください。
二つめは、獣医師に十分な専門知識があるかどうかです。これについては、後ほど料金にところで説明します。
三つめは、診断と治療に必要な機器や設備が整っているかどうかです。たとえば、道具のない素人が家を建てるのは大変です。どんな職業でも、それなりの道具をそろえることが必要です。
まず、できれば初回は犬を連れないで、直接に動物病院に行き、「犬を飼いはじめたのだけれど、初めはいつ連れてくればよいか」「予約は必要か」「診療時間は?」「料金はいくらくらいか」など、一般的な質問をし、反応を見るのです。最低でも2〜3軒、できれば5〜6軒、訪れるとよいでしょう。何しろあなたの愛犬の命にかかわることですから、勇気を出しましょう。訪れる勇気のない人は、電話で同じことを聞きます。
その中で、最も役に立ち、納得のできるアドバイスを与えてくれた病院を選ぶことをお勧めします。また、動物を飼っている先輩飼い主に、評判を聞くのもいいでしょう。ただし、ひとりだけではなく、できるだけたくさんの人に聞きましょう。 |
■動物病院の料金について |
動物病院の料金は一定ではありませんが、料金が高いからよい治療をしているとか、安いから悪い治療をしているとは必ずしもいえません。料金だけで動物病院を選ぶのは危険です。
重要なのは医療の質です。一般的に、料金の差は医療のレベルに比例します。たとえば質の高い高度の医療を10とすれば、1や2の低レベルの医療も存在するのです。
どんな医療レベルを選ぶかは、飼い主であるあなたに決定権があります。獣医師は自分に可能な医療情報を提供し、どのような検査をすれば何が判明するかを説明し、よりよい医療を行うにはどうしたらよいかを飼い主に伝えるべきなのです。すなわち、本来は飼い主であるあなたが望む医療のレベルによって、その料金が決定されるべきなのです。
残念ながら現在のところ、そのような選択のできる病院はあまり多くはありません。飼い主が、料金を決定するのは自分だという心構えで臨むことをお勧めします。 |