■一般情報 |
「うちの犬、どこか具合が悪いんじゃないかしら?」と飼い主が思うのは、食欲がないときと元気がないときが一番多いのではないでしょうか。食事を楽しみにしていて、出すとすぐにパクパク食べていた犬が、食事を見ても興味を示さず、食べようとしないとしたら、確かに心配になります。
食欲不振は、一般に多くの病気の初期に現れる症状ですが、食欲不振があるからといって、もちろん原因となる病気を特定できるものではありません。
また、食欲の問題でひとつ知っておくべきことがあります。動物が食事をたくさん食べているから、すなわち旺盛な食欲を示しているから、健康だとは限らないということです。
食欲が異常に高まり、食べても食べても食べたがる病気もあります。
たとえば、「副腎皮質機能亢進症」と呼ばれる病気では、副腎皮質からホルモンが過剰に分泌されるため、さまざまな異常が引き起こされます。この病気の特徴的な症状のひとつに過食、すなわち食べても食べても食べたがることがあります。
糖尿病でも、ある時期には過食の症状が現れます。このように、食欲が旺盛に見えても、決して健康ではなく、病気のせいでたくさん食べるというケースもあるので、注意が必要です。
話を食欲不振に戻すと、多くの場合、食欲不振は何らかの病気の表れですが、特に病気はなくても、動物が食欲を示さないこともあります。人間にも食の細い人がいますが、犬にも食の細い犬がいます。もし、あなたの犬があまり食欲を示さない場合でも、体重の減少がなく、排尿排便が正常で、元気もあるようなら、定期的な検診(たとえば半年に1度)を受けていればよいでしょう。食欲がなく、ほかにも異常がある(たとえば元気がない)場合は、動物病院で徹底的に調べてもらいましょう。
また、おいしいものを与えていると、普通の食事を食べないこともあります。 |
こんなときは、動物病院へ
あなたの愛犬はどんな状態ですか?
□食欲不振+元気がない
□食欲不振+体重が減少している
□食欲不振+下痢をしている
どれかに当てはまれば、要注意。すぐに動物病院で診てもらいましょう! |
|
|
|
■原因 |
先述のように、食欲不振はさまざまな病気の症状のひとつですから、原因を特定することはできません。重要なのは、食欲不振のほかに、何か症状があるかどうかです。ほかに症状がある場合は、それをよく観察し、獣医師に相談してください。 ここでは、病気ではないのに、犬が食事をあまり食べないケースについてお話ししましょう。
室内飼いの小型犬に特に多いのですが、飼い主がときどきおいしいものを与えていると、そのおいしいものがほしいので、通常の食事を食べなくなることがあります。飼い主のほうは、犬が食事を食べないと心配なので、つい犬が欲しがるおいしいものを与えてしまいます。おいしいものを与えれば、犬はちゃんと食べるのですから、このようなケースは食欲不振ではありません。
この問題を解決するのは、医学ではなく、しつけの問題です。おいしいものは何かのご褒美として与える程度にとどめ、通常の食事の代わりに与えるべきではありません。普段から犬においしいものを与えているケースは、われわれ獣医師にとっても、困った問題を引き起こすことになります。獣医師は、病気の犬に食欲がない場合、体力を増強するために、おいしいもの、その犬の好物としているものを与えることがあります。つまり、治療の一環としておいしいものを利用するのです。もし、犬が普段からおいしいものに食べ慣れていると、この方法を効果的に使うことができません。飼い主の方はぜひ、このような治療する側の事情も知っておいてください。
また、生活の単調さのために、犬があまり食欲を示さないこともあります。人間でも、単調な生活を送っていると、食べることに対する関心が薄れることがあります。生活にメリハリをつけることが大切です。犬の場合、散歩などの運動を日課にしたり、飼い主と思いきり遊ぶ時間を取り入れたりすると、体を動かすのでお腹が空き、食欲不振を解消できるでしょう。
最もいけないのは、食事を出しっぱなしにしておくことです。いつでも食べられる状態であれば、特に食欲は刺激されないので、食欲不振のような状態になると言えます。食事を出しっぱなしにしておけば、飼い主は楽かもしれませんが、絶対にやめましょう。食事は1日に1度か2度、決まった時間に決まった場所で適量を与えてください。これはしつけの問題でもあります。食事を楽しみにして待つ犬に育てることが大切です。また、食事をいつも出しておくと、食べる回数が多くなるわけですから、歯石がたまりやすくなります。犬の口の中の病気の大半は、歯石を原因としているのですから、食事の出しっぱなしは絶対に避けましょう。病気ではない食欲不振は、飼い主が解決できる問題なのです。
病気ではない食欲不振の原因と解決法
|
病気ではない食欲不振の場合、下記の原因であれば解決法を参考にして、愛犬との生活を見直してみてください。 |
原因:食が細い
解決法:できれば、その原因を調べる。体重の減少がなく、元気があり、ほかに異常がなければ、無理に食べさせなくてもよい。 |
原因:生活が単調
解決法:散歩や運動などを日課にし、お腹が空くようにする。 |
原因:おいしいものを食べ慣れている
解決法:おいしいものを要求して通常の食事を食べないのであれば、特別のとき以外は、おいしいものを与えないしつけをする。 |
原因:食事が出しっぱなしで、いつでも食べられる。
解決法:食事は1日に1〜2回に決めて適量を与え、食べ終えたようなら器を片付ける。 |
|
■検査 |
通常は、病歴の聴取、身体検査、尿検査、便検査、血液検査などを行います。
もし、食欲不振のほかにも症状がある場合は、それぞれの状態に応じて、レントゲン、血圧測定、心電図、超音波、内視鏡などにより、徹底的に原因を調べる必要があります。
一般に、症状がひとつだけの場合は、軽い検査ですみますが、二つ以上重なる場合、原因を突き止めないと、命に関わることもあります。 |
■病院での治療 |
食欲不振の程度と状態によって、治療方針が決められます。程度が軽い場合、栄養剤を注射し、あとは自然治癒力による回復を期待する方法が行われることがありますが、これらの治療を繰り返すのはよい治療とは言えません。これは対症療法(支持療法、緩和療法)と呼ばれ、表れている症状を抑えるだけの治療法です。
しかし、症状が二つ以上重なっている場合、対症療法だけを行っていては危険です。原因療法、すなわち原因を徹底的に調べ、その原因を治療する方法を選ばなければなりません。これは病院の選び方にも関わってくる問題ですが、複数の症状が現れているのに、対症療法しか行わない病院は適切な治療を行っているとは言えません。必ず原因療法を行う病院を選んでください。 |
■家庭での処置 |
食欲不振の原因がさほど心配するものではなく、通常に食事を与えていい場合、まず普通の固形食を与え、それを食べないようなら缶詰食を、それも食べなければ流動食を与えます。そして、徐々に体力をつけ、食欲を刺激し、普段の食事に戻していきます。食べても好きなものしか食べず、食べたり食べなかったりの状態が続く場合、ほかに異常な点がないかどうか観察してください。 最低限、元気はあるか、体重の減少はないか、正常な便が規則的に出ているか(下痢をしていないか)どうか調べてください。
もし、通常の食事を食べず、おいしいものしか食べなくなったら、その時点で動物病院で調べてもらうことをお勧めします。進行性の病気の初期である可能性もあります。
1度の検査で特に異常は見つからなくても、状態が続く限り、3カ月〜6カ月おきに病院に行って、いろいろな問題点がないかどうか調べてもらう必要があります。このような状態が2、3年続き、重大な病気が発見されることもあるからです。
最近のペットフードは、動物の嗜好性についても研究されているので、通常はよく食べるはずです。食べない場合は、何か問題があると考えるべきでしょう。
重大な病気にかかっているときは、どんなにおいしいものでも食べません。その段階で病院へ連れて行けば、すでに手遅れになっている恐れもあります。
特に、水も飲まなくなった場合、家庭で処置はできません。すぐに動物病院へ連れて行きましょう。 |
■日常生活の注意点 |
前述のように、食欲不振は多くの病気の気づきやすい初期症状のひとつです。基本的な注意点として、動物が食欲不振を示していることがすぐにわかるように、普段から規則正しい生活をさせることが大切です。
なにかにつけて好きなものを与え、犬が通常の食事をあまり食べなくなると、いろいろ困った問題が伴います。
先ほどもお話ししましたが、何かの病気にかかり、食欲不振になったとき、食欲を刺激する食べ物を与え、体力を回復しなければならないことがあります。そのときおいしいものを与えると効果があるのですが、普段からおいしいものを食べている動物には、効果をあげることが難しくなります。
また、人間と同じように、好きなものばかり与えていれば、栄養的なバランスが崩れ、結果的に健康を損ねて、いろいろな病気にかかりやすくなります。
欲しがるものをすぐに与えるというのは、しつけとしてもよくありません。犬の関心が食べ物に集中していると、つい欲しがるものを与えてしまいがちです。散歩などの運動もさせ、できるだけ一緒に遊ぶ時間もつくり、お腹が空いて食事を楽しみに待つ犬にしましょう。 |
■食欲旺盛なら健康か? |
犬が食事を食べなくなれば、どこか悪いのではないかと考えるのは普通ですが、たくさん食べているのに何かの病気ではないかと思う人は少ないかもしれません。
しかし、実際には、食べても食べても食べたがる病気もあります。
糖尿病がそのひとつです。この病気は、すい臓でつくられる「インスリン」というホルモンがうまく働かず、いろいろな異常が表れるものです。 糖尿病にかかると、一般に犬は肥満し、多飲・多尿・多食(たくさん水を飲み、したがってたくさんのオシッコをし、たくさん食べる)の症状を示します。しかし、病気が進行すると、逆に食欲不振となります。
この病気で恐ろしいのは、進行に伴ってさまざまな合併症が表れることです。たとえば、糖尿病性の白内障はよく知られた合併症です。
年齢的には7〜10歳ころに発病することが多く、いろいろな犬種の犬がこの病気にかかりますが、特にダックスフンドやプードルがかかりやすいようです。
遺伝的要因が関係する病気ですが、肥満していたり、極端に運動が不足していると、発病が促される可能性があります。重要なのは、多飲・多尿・多食の症状を見逃さないことです。 |