■跛行とは? |
犬が正常に歩けず、脚を引きずることがあります。その状態を医学的には「跛行」といいます。
通常、犬が跛行するのは、どこかが痛いからです。跛行の原因は非常に多く、外傷などは外からわかることもありますが、脚の中の異常はいろいろな検査をして原因を見つける必要があります。
たしかに跛行の原因は非常に多いのですが、年齢や犬種によって、特に起こりやすい病気がいくつかあります。
まず、1歳未満の小型犬の場合、膝蓋骨脱臼が強く疑われます。また、さほど多くありませんが、大腿骨頭壊死(レッグ・カルベ・ペルセス症)も考えられます。1歳未満の大型犬の場合、股関節形成不全が、高齢の大型犬では変性性関節炎が強く疑われます。また、骨肉腫も高齢の大型犬に起こりやすい病気です。
このように、跛行の原因となる病気で、多発するものは覚えておくとよいでしょう。 |
■原因 |
跛行の原因として最もわかりやすいのは外傷かもしれません。しかし、外傷といっても、皮膚だけに留まるのではなく、筋肉、神経、骨などあらゆる場所に及びます。また、細菌が侵入することによって起こる感染も、あらゆる場所で起こります。
そこで、外傷と感染以外に、跛行の原因となる異常をそれぞれの場所に分けてあげてみましょう。 |
皮膚 |
トゲなどの異物が刺さる、出来物(腫瘍など) |
筋肉 |
筋炎、断裂、出来物(腫瘍など)、石灰化、硬くなる |
血管 |
血行障害 |
神経 |
断裂、腫瘍、炎症 |
腱 |
断裂、伸張、腫瘍、石灰化 |
靱帯 |
断裂、伸張、石灰化 |
骨 |
骨折、(亜)脱臼、腫瘍、炎症、異形成、栄養不良 |
関節 |
腫瘍、炎症、形成不全 |
ところで、跛行に関連して、最近、問題化していることがあります。今は人と動物の結びつきがますます緊密になり、人と犬が一緒に楽しむスポーツやゲームが普及してきました。たとえば、アジリティーやフライングディスクなどが盛んに行われるようになっています。
このような競技を楽しむのは良いことです。ただ問題なのは、それらの競技で筋肉や関節を使いすぎることにより、障害が起こることです。
この障害については、現在のところ、我が国の動物病院では診断が非常に難しく、適切な対応ができないのといわざるを得ません。 欧米などのドッグレースが行われている国では、専門のドクターがいますが、日本ではまだ、一部の獣医師がこの新しい病気にようやく注目しはじめたという段階に過ぎません。
もし、あなたの愛犬がそれらの競技をよく行っていて、脚やその他の場所に異常が出た場合、獣医師に「うちの犬は、アジリティーをよくやります」と伝えてください。ほかに原因が見つからず、運動のしすぎしか考えられない場合、「たぶん運動のしすぎだと思われるが、自分には適切な診断・治療ができない」とはっきり言ってくれる人はよい獣医師だと言えます。
できれば、これらの新しい病気に関心をもち、積極的に勉強している獣医師を探すとよいでしょう。 |
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■検査 |
まず、注意深い病歴の聴取を行います。 犬が跛行する場合、必ずしも脚の中の異常とは限りませんから、脚の表面をよく調べます。どこかに出来物ができていないか、パッドにトゲが刺さっていないかなどを調べます。
跛行の程度を調べます。この検査では、「ゆっくり歩かせる」「少し速く歩かせる」「階段を上り下りさせてみる」などを行います。
筋肉や骨の異常を調べるため、触診も必要です。左右の脚を比べると、片方に出っ張った部分がないかなど調べます。
また、それぞれの骨や関節を動かしてみて、異常な音がしないか、痛がらないか、動く範囲(可動域)に異常がないかなどを調べます。
通常、これらの検査は、跛行していない正常な脚から始め、一番疑わしい場所は最後に調べます。なぜなら、最初に異常がありそうな場所に触り、犬が痛がると、検査をスムーズに行うことが難しくなるからです。
必要があれば、レントゲン検査を行います。これにより、骨の病気か、骨以外の病気かの鑑別ができます。
脚のどこかが腫れている場合、針を刺して吸引し、細胞成分を調べることもあります。 |
■病院での処置 |
跛行の原因の診断はなかなか難しいことがあります。そのため、定期的に観察し、脚の筋肉が落ちないうちに治療を開始することが重要です。脚の筋肉が落ちてしまったら、治療は難しくなります。
最近はすぐれた鎮痛剤がありますので、痛みがひどい場合、病院では鎮痛剤を処方します。
また、鍼灸やレーザーなどによる東洋医学系の治療を含め、犬のリハビリテーションも普及してきました。それらのリハビリテーションを積極的に勧める獣医師もいるでしょう。 |
■家庭での処置 |
原則として、跛行している犬は動かさず、安静を保つことが大切です。跛行の程度が軽く、歩くことができる場合も、ゆっくり歩かせて、決して無理をさせてはいけません。
もし犬が肥満している場合は、体重を落とさなければなりません。肥満していると、骨や関節に負担がかかり、跛行がなかなか治らなかったり、悪化することもあります。
生活環境は、暑すぎず、寒すぎず、適温を保つ必要があります。 また、床が滑ると、よけいに不安定となるので、絨毯やカーペットを敷くなど安定した状態にしましょう 。
外傷で傷口がある場合は、イソジンなどの消毒液をつけたり、出血していれば、包帯を巻くのもよいでしょう。
犬が外傷で出血したり、骨折したりしたとき、適切な応急処置ができれば、悪化を防いだり、順調な回復の助けになることもあります。それには、まず応急処置用品を備えておく必要があります。備品の中には人間と共用できるものもありますが、できれば犬専用の救急箱をつくり、家族の誰もがわかる場所に置いておくとよいでしょう。
また、リハビリテーションによって治療効果が上がることがありますので、いろいろな方法を知っておくとよいでしょう。 小型犬であれば、お風呂のお湯の中で泳がせると、痛みがとれたり、筋肉、腱、神経などの機能が早く回復することもあります。前述のように、鍼灸やレーザーなどを利用するのもよいでしょう。
また、人間用の健康食品も犬に応用できます。たとえば、関節炎に効果があるとされる「グルコサミン」や「コンドロイチン」を配合した薬は、比較的安全で、犬にも効果が期待できます。与える量については、動物病院で相談してください。 |
跛行している犬との生活で気をつけること
あまり動かさず安静を保つ。
(歩ける場合は、無理をせず、ゆっくり歩かせる) |
生活環境を整える。適温の環境を心がけ、滑らないようにじゅうたんやカーペットを敷いて安定させる。 |
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犬が肥満している場合は、必ず獣医師と相談の上、体重を落とすようにする |
いざというときのために、愛犬用の応急処置用品を常備しておく。 |
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■日常生活での注意点 |
外傷を除けば、跛行の原因となる病気は、犬種や年齢によってある程度決まっています。 たとえば、若い小型犬は膝蓋骨脱臼や大腿骨頭壊死が起こりやすく、大型犬は若いときは股関節形成不全、高齢になってからは変性性関節炎が多く起こります。
1歳以下の小型犬が、立ち上がろうとするときに、後ろ脚を伸ばす動作をするようなら、膝蓋骨脱臼が強く疑われます。つまり、膝蓋骨が脱臼しているので、後ろ脚を伸ばすことによって、元の位置に戻しているわけです。
子犬を最初に動物病院へ連れて行ったとき、その犬種に起こりやすい病気は何か、いつ頃起こりやすいか、特徴的な症状は何かなど、獣医師によく聞いておくとよいでしょう。 |
■骨肉腫について |
大型犬の前肢の肘の近く、あるいは後肢の膝の近くが腫れてきたら、骨肉腫が疑われます。まれに若い犬にも見られますが、多くは高齢犬に怒ります。恐い病気ですから早期発見が重要です。 |
■大腿骨頭壊死について |
大腿骨頭壊死(レッグ・カルベ・ペルセス症)は、小型犬、超小型犬の若い犬にときどき見られる病気です。後ろ脚の付け根、すなわち大腿骨の先端が壊死を起こすもので、原因はわかっていません。
トイプードル、ミニチュア・ピンシャー、ウエスティー、ケアンテリアなどが好発犬種で、3〜13カ月齢で起こりますが、多くは5〜8カ月齢で発症します。だいたい2〜3カ月で跛行が徐々に進行します。また、一方の脚に起こると、約30%の確率でもう一方の脚にも起こります。壊死した部分を外科手術で切除すると治りますが、発見が遅れると、後ろ脚の筋肉が落ちてしまい、障害が一生残ることがあります。
筋肉が落ちてしまうと、治療は非常に困難になります。跛行に気づいたら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。 小型犬にはこの病気と膝蓋骨脱臼が多いことを知っておいてください。 |
■変性性関節炎について |
高齢の大型犬が跛行する場合、まず変性性関節炎が疑われます。大型犬は体が重いので、年齢とともに、関節に負担がかかり、この病気にかかるのです。人間でも高齢者に多く見られます。
変性性関節炎の特徴は、関節を使いすぎると痛くなり、しばらく休めると痛みがとれることです。ですから、今日は快適に散歩をしても、翌日は痛くて動けなくなり、2、3日関節を休めるとまた歩けるようになります。
最近は、非ステロイド系のよい鎮痛剤がありますので、これらの利用することにより、痛みを軽くすることもできるようになりました。
高齢で肥っている犬は、体重を減らし、関節の負担を軽くすることが大切です。
もちろん、高齢犬を肥らせないことも大切ですが、若いときから適度な運動をさせ、規則正しい生活を送り、体重をコントロールする習慣をつけておきましょう。 |